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第15話
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「あら、私はお留守番なのね。侯爵様にはなにか考え事でもあるのかしら?ふふっ。アンジェリカいってらっしゃい。」
「え?お母様?」
「侯爵様の言うことには従いなさい。アンジェリカ。大丈夫よ。こんなに使用人の統率がとれた家だもの。侯爵様はとても良い人だと思うわ。その侯爵様が私にはここに残るように言ったのよ。きっとなにかわけがあるのよ。だから、安心していってらっしゃい。」
お母様はそう言ってにっこりと笑った。その笑みは侯爵を信じていると言っているようにも見えた。まだ、会ったこともない侯爵を信じられるだなんて。
「さあ、アンジェリカ行こうか。侯爵様がお待ちだ。」
お父様もお母様がここで待つことには疑問をいっさい持っていないようだ。お父様もお母様と同じですっかり侯爵を信じてしまっているらしい。
「こちらへ。旦那様は執務室でお待ちです。」
「え、ええ。わかったわ。」
お父様とお母様、それにヒースクリフさんに促された私は、頷くしかなかった。
☆☆☆
「旦那様。キャティエル伯爵とアンジェリカお嬢様をお連れしました。入ってもよろしいでしょうか。」
お屋敷の二階にある執務室に案内された私たちは部屋の前で待つようにヒースクリフさんに言われた。そうして、ヒースクリフさんが執務室の中にいる侯爵におうかがいをたてている。
「…………。」
「……旦那様?」
部屋の中からは返答がない。不思議に思ったヒースクリフさんがもう一度侯爵に向かって声をかける。
「ご、ごほんっ。」
すると中から咳払いが聞こえてきた。どうやら侯爵は執務室の中にいるようだ。
「旦那様。キャティエル伯爵とアンジェリカお嬢様をつれて参りました。入ってもよろしいでしょうか。」
ヒースクリフさんは先程と同じように侯爵におうかがいをたてる。
「キャティエル伯爵だけ入るように。」
執務室の中からは無機質な声が聞こえてきた。これが、侯爵の声だろうか。どことなく甘さを含んだ低音は耳に馴染む。しかし、感情が声にこもっていないため、とこか無機質に思える。
この声で感情を乗せてささやかれたらきっと、誰でも侯爵の虜になるのに、残念。
「キャティエル伯爵。どうぞ、中にお入りください。アンジェリカお嬢様は申し訳ございませんが、しばらくここでお待ちください。」
ヒースクリフさんはそう言うとお父様を執務室の中に案内した。執務室の前に取り残された私は、手持ち無沙汰に立っているしかない。
侯爵は私も呼んだのではないの?なぜ、私はお父様と一緒に執務室の中に入ることができないのかしら。
「アンジェリカ様。こちらの椅子をお使いください。」
お父様とヒースクリフさんが執務室の中に消えると、どこからか一人のメイドが椅子を持ってやってきた。
重いだろうに私のために持ってきてくれたのだろうか。
「ありがとうございます。」
私はメイドにお礼を言って、用意してくれた椅子に腰かけた。
正直なれないヒールを履いていたためずっと座りたかったのだ。だから、メイドの気遣いにはとても助かった。
「足を気にされておりましたね。こちらは室内履きでございます。よろしければお使いください。」
そう言ってメイドはシンプルな靴を渡してきた。ヒールがないぺったんこの靴。それは、私がいつも履きなれていた靴に似ていた。
「ありがとうございます。馴れないヒールで足が痛かったの。助かったわ。」
「もったいないお言葉。恐縮にございます。」
メイドが用意してくれた靴にいそいそと履き替える。
ヒールから足を引き抜けば、足の先が真っ赤になっていた。どうやら皮が剥けかけているらしい。
「本当にありがとう。あなたみたいなメイドがいるなんて侯爵は幸せね。」
そう言ってメイドに微笑んでみたが、すでにメイドの姿は消えていた。
「あれ?どこに行ったのかしら?」
不思議に思って首を傾げる。仕事が忙しいのかしら。あとでもっとちゃんとお礼を言わなければ。ヒースクリフさんに言えばどのメイドか教えてくれるわよね?
「アンジェリカお嬢様。お待たせいたしました。申し訳ございませんが、旦那様はアンジェリカお嬢様にお会いしないともうしております。ですが、扉越しであれば会話をなさるそうです。」
しばらく椅子に座って待っていると、執務室の中からヒースクリフさんが現れてそう言った。
待たせておいて会えないとはどういうことだろうか。
「え?お母様?」
「侯爵様の言うことには従いなさい。アンジェリカ。大丈夫よ。こんなに使用人の統率がとれた家だもの。侯爵様はとても良い人だと思うわ。その侯爵様が私にはここに残るように言ったのよ。きっとなにかわけがあるのよ。だから、安心していってらっしゃい。」
お母様はそう言ってにっこりと笑った。その笑みは侯爵を信じていると言っているようにも見えた。まだ、会ったこともない侯爵を信じられるだなんて。
「さあ、アンジェリカ行こうか。侯爵様がお待ちだ。」
お父様もお母様がここで待つことには疑問をいっさい持っていないようだ。お父様もお母様と同じですっかり侯爵を信じてしまっているらしい。
「こちらへ。旦那様は執務室でお待ちです。」
「え、ええ。わかったわ。」
お父様とお母様、それにヒースクリフさんに促された私は、頷くしかなかった。
☆☆☆
「旦那様。キャティエル伯爵とアンジェリカお嬢様をお連れしました。入ってもよろしいでしょうか。」
お屋敷の二階にある執務室に案内された私たちは部屋の前で待つようにヒースクリフさんに言われた。そうして、ヒースクリフさんが執務室の中にいる侯爵におうかがいをたてている。
「…………。」
「……旦那様?」
部屋の中からは返答がない。不思議に思ったヒースクリフさんがもう一度侯爵に向かって声をかける。
「ご、ごほんっ。」
すると中から咳払いが聞こえてきた。どうやら侯爵は執務室の中にいるようだ。
「旦那様。キャティエル伯爵とアンジェリカお嬢様をつれて参りました。入ってもよろしいでしょうか。」
ヒースクリフさんは先程と同じように侯爵におうかがいをたてる。
「キャティエル伯爵だけ入るように。」
執務室の中からは無機質な声が聞こえてきた。これが、侯爵の声だろうか。どことなく甘さを含んだ低音は耳に馴染む。しかし、感情が声にこもっていないため、とこか無機質に思える。
この声で感情を乗せてささやかれたらきっと、誰でも侯爵の虜になるのに、残念。
「キャティエル伯爵。どうぞ、中にお入りください。アンジェリカお嬢様は申し訳ございませんが、しばらくここでお待ちください。」
ヒースクリフさんはそう言うとお父様を執務室の中に案内した。執務室の前に取り残された私は、手持ち無沙汰に立っているしかない。
侯爵は私も呼んだのではないの?なぜ、私はお父様と一緒に執務室の中に入ることができないのかしら。
「アンジェリカ様。こちらの椅子をお使いください。」
お父様とヒースクリフさんが執務室の中に消えると、どこからか一人のメイドが椅子を持ってやってきた。
重いだろうに私のために持ってきてくれたのだろうか。
「ありがとうございます。」
私はメイドにお礼を言って、用意してくれた椅子に腰かけた。
正直なれないヒールを履いていたためずっと座りたかったのだ。だから、メイドの気遣いにはとても助かった。
「足を気にされておりましたね。こちらは室内履きでございます。よろしければお使いください。」
そう言ってメイドはシンプルな靴を渡してきた。ヒールがないぺったんこの靴。それは、私がいつも履きなれていた靴に似ていた。
「ありがとうございます。馴れないヒールで足が痛かったの。助かったわ。」
「もったいないお言葉。恐縮にございます。」
メイドが用意してくれた靴にいそいそと履き替える。
ヒールから足を引き抜けば、足の先が真っ赤になっていた。どうやら皮が剥けかけているらしい。
「本当にありがとう。あなたみたいなメイドがいるなんて侯爵は幸せね。」
そう言ってメイドに微笑んでみたが、すでにメイドの姿は消えていた。
「あれ?どこに行ったのかしら?」
不思議に思って首を傾げる。仕事が忙しいのかしら。あとでもっとちゃんとお礼を言わなければ。ヒースクリフさんに言えばどのメイドか教えてくれるわよね?
「アンジェリカお嬢様。お待たせいたしました。申し訳ございませんが、旦那様はアンジェリカお嬢様にお会いしないともうしております。ですが、扉越しであれば会話をなさるそうです。」
しばらく椅子に座って待っていると、執務室の中からヒースクリフさんが現れてそう言った。
待たせておいて会えないとはどういうことだろうか。
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