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第17話
しおりを挟む「アンジェリカお嬢様は誤魔化せませんね。そうです。旦那様は呪いを解呪する方法をご存知なのです。ですが、旦那様はその解呪方法に難色を示されております。そこで、しびれを切らした国王陛下がアンジェリカお嬢様を旦那様の婚約者へと指名したのでございます。」
ヒースクリフさんは、侯爵の婚約ついて話し始めた。まさか、この婚約が侯爵の呪いのせいだとは思わなかった。
でも、私が侯爵の婚約者になることと、呪いの解呪方法にどんな共通点があるのだろうか。今までのヒースクリフさんの話しぶりからすると、別に私が侯爵の婚約者じゃなくても呪いを解呪できるようなイメージを受けた。
「なぜ、私なのですか?呪いの解呪でしたら他の方でもよろしかったのではないでしょうか?」
「なりませんっ!どうしても、アンジェリカ様でなければならないのですっ!」
ヒースクリフさんが突如声を荒げた。
ヒースクリフさんでも感情的になることがあるんだ。
「私ではなければならないのは何故でしょうか?私でなければならないという呪いの解呪方法をお教えいただけますか?」
私はごくごく普通の伯爵令嬢だ。特別な力があるわけでも、特殊な体質というわけでもない。
私はできるだけ冷静にヒースクリフさんに問いかけた。
「その必要はない。」
すると、ヒースクリフさんが声を発するよりも早く、執務室の扉の向こう側から落ち着いた男性の声が聞こえてきた。先ほどと同じ声なので、きっと侯爵だろう。
「侯爵様。私、キャティエル伯爵の娘のアンジェリカと申します。」
私は侯爵に向けて挨拶をする。今まで一度も侯爵に対して挨拶をすることがなかったからだ。挨拶もせずにいきなり話しかけるなど、私にはできない。
「……そうか。呪いのことはアンジェリカ嬢が気にすることではない。」
「しかし、国王陛下は侯爵様の呪いを解くために、私との婚約を決めたのでしょう?ならば、侯爵様の呪いを解呪するのは私に与えられた国王陛下からの命令だと思っております。国王陛下の命令に誰が背けましょうか。」
実は侯爵の呪いがどんなものなのか、解呪方法がなんなのか気になって仕方がない。こんな中途半端に知らされたら知りたくなってしまうのが人情というものだ。いや、人情じゃなくって興味本位だけど。
好奇心は猫をも殺すというけど、人間好奇心がないと何もできないものだ。好奇心って大事。たぶん。きっと。
「そうか。勝手にするがいい。」
侯爵の口からは感情のこもらない声が返ってくる。
なんだか、私のことなんていてもいなくても変わらないんじゃないだろうか。
「旦那様。差し出がましいようですが、呪いを解くためにはもっとアンジェリカお嬢様とコミュニケーションを取らなければなりません。今のままですと、アンジェリカお嬢様が誤解をしてしまいます。」
ヒースクリフさんはこのままではまずいと思ったのか、侯爵と私の仲を取り持とうとする。
「ヒースクリフさん。私、別に侯爵様の呪いについて伺わなくても良いのです。それに、侯爵様は私を婚約者として扱ってはくださらなそうです。侯爵様、私はいたらないところばかりでございます。もし、お気に召さないようでしたら侯爵様から国王陛下に進言していただけませんでしょうか。」
嫌な思いをしてまで侯爵と縁続きになりたい訳ではないしね。また、婚約者のいない令嬢に戻るだけだし。大丈夫慣れているだけだから。それに、こんなに会話の成立しない侯爵と結婚するなんて無理だと思うし。
いっそのこと、素の私を見せてもっと嫌われてみようかしら。なんて思ってしまう。
でも、ちょっと呪いの内容には興味があるのよね。
「アンジェリカお嬢様っ。そのようなこと……。」
ヒースクリフさんが悲痛な声を上げる。ヒースクリフさんは想像以上に侯爵思いの人ね。でも、侯爵からは勝手にしろって言われてしまったし……ん?んん!?
勝手にしろってことは、もしかして侯爵の呪いのことを嗅ぎまわっても不問にするってことって捉えてもいいのかな!?
コミュニケーションが取れない侯爵と結婚するのは嫌だけど、呪いについては気になるから調べて見よう。それに、この調子だと呪いの解除についてはヒースクリフさんは協力してくれそうだし。
ちなみに、この日はこれ以上侯爵と話すことはできなかった。何なぜならば何を聞いても侯爵がだんまりだったからだ。
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