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第31話
しおりを挟む「アンジェリカお嬢様。大変でございますっ!」
「なぁにぃ~。まだ、6時前じゃないの。もうちょっと寝かせてちょうだい。」
午前6時と少し前、私はロザリーの慌てる声によって起こされた。
私は眠い目を擦りながら、時計を見るといつもの起床時間よりも30分は早い時間だった。
「ダメです。すぐにお着替えしていただきます。本日は侯爵家に参りますのでそれにふさわしいドレスを……。と、ありませんでしたね。そんなドレス。」
そうだった。今日は侯爵家に行く約束をしていたっけ。そういえば、馬車で迎えにくると言っていたが何時ごろくるのか聞いていなかったことを思い出した。
「そうね、うちにはよそ行きのドレスなんてないわね。」
晩餐会用のドレスをクリスから貰ってはいるが、あくまで晩餐会用のドレスだ。日中、侯爵家に訪問するようなドレスではない。
「ああっ。どうしましょう。もう、侯爵家からお迎えの馬車が来ているというのに……。奥さまからお借りしましょうか。」
「そうね。お母様のドレスを一着借りてきてくれないかしら。……え?今なんて?」
お母様なら、付き合いで他の貴族のお茶会に呼ばれることも極々まれにあるので、日中に訪問するのにふさわしいドレスを持っているかもしれない。
そう思ってロザリーの言葉を聞いていたのだが、なんだかロザリーが気になる言葉を言ったような気がする。寝起きの頭でよく理解できなかったけど。
なんだか、大切なことを言ったような気がした。
「奥さまからドレスをお借りしましょうかと申し上げました。」
「ちがうわ。その前よ。」
お母様のドレスを借りるということだったら、ここまで頭のなかでひっかかってはいない。それ以外の重要ななにかを聞いたような気がしたのだ。
「侯爵家の馬車がもう来ております。」
「そう!それよ!!って!!もう来てるの!?クリスも来ているのかしら?」
「ええ。クリス様も馬車に乗っておりました。」
「そうなの!もう来ていたのね。急いで支度をしなければ。それより、クリス。クリスはどこかしら?」
侯爵家の馬車がこのような時間にもう迎えにきたらしい。
「まだ、馬車にいらっしゃるようです。」
ロザリーはそう教えてくれた。大変だわ。クリスを待たせているだなんて。
「それは大変だわ。うちの中にいれてあげてちょうだい。私の部屋に連れてきてちょうだい。」
「え?でも、アンジェリカお嬢様はこれからお仕度をなさるのですよ。」
ロザリーが驚いたような声をあげる。いやねぇ、クリスと着替える前に遊ぶわけじゃないのに。ただ、クリスと一緒にいたいだけなのに。
「クリスがいたって着替えくらいできるわよ。クリスはとってもいいこだもの。」
「そ、そうですが……。アンジェリカお嬢様はもう少し恥じらいというものをお持ちいただきたく……。」
「あら。クリスよ?猫ですもの。恥じらいもなにもないわ。ただ、愛でていたいの。クリスがそばにいるのに、見ていられないのは辛いわ。」
クリスがすぐそばまで来ているのに、会えないなんて辛すぎる。
それに、クリスはとてもいい子だから、着替えの邪魔もしないだろうし。
「そうですか。かしこまりました。クリス様に確認してみます。」
ロザリーはそう言って部屋をでていった。そうして、しばらくしてからお母様のドレスを持ってやってきた。
だが、ロザリーはクリスを抱いている気配がない。それに、ロザリーの背後にもクリスがいる気配がない。
どうしたのかしら?
「ロザリー。クリスはどこ?」
不思議に思って問いかければ、
「ヒースクリフ様に、アンジェリカお嬢様の部屋に行くのを止められておりました。今は、応接室にお通ししております。」
「え?なぜ?」
ヒースクリフさんも一緒に来ているのか。彼はとても忙しそうだから、早く仕度を終えて出ていかなくては。
というか、なぜヒースクリフさんは私の部屋にクリスが来るのを止めたというのだろうか。
ヒースクリフさんもクリスが私の部屋にくると、私の仕度がいつまで経っても終わらないとでも思っているのかしら。
「猫とはいえ、クリス様は男性です。身支度の済んでいない女性のもとには行かせられません。ということでした。」
「あら、そう。ヒースクリフさんは真面目なのね。そんなこと気にしなくてもいいと思うのに。」
クリスを見られないのはちょっと残念だわ。
でも、ヒースクリフさんがそう言うのならば従った方がいいだろう。
無理にクリスを私の部屋に招き入れて、変な噂をたてられてもいけないし。って、ヒースクリフさんの主である侯爵の方がひどい噂なんだけどね。
あまり侯爵家の人の期限をそこねてしまったら、それこそクリスを譲ってくれなくなるかもしれないし。
「そうと決まったら早く身支度を整えて、クリスに会いにいかなくてはね。」
私は、そう頭を切り替えた。
そして、これは後にヒースクリフさんの言うことを聞いていてよかったと思える出来事になるのだが、この時の私はまだ知るよしもなかった。
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