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第55話
しおりを挟む「だ、誰っ!?」
急に抱きしめられた私は、驚き声を上げた。見知らぬ香水の匂いが微かに香ってくる。
「アンジェリカ。よかった。ここにいた。私がどんなに心配をしたことか。」
私の問いかけには答えずに、私を抱きしめた男性は私の肩口に頭を埋め、存在を確かめるかのごとくキツク抱きしめてくる。
正直、知らない人に抱きしめられているのに不思議と嫌な感じがしなかった。本来であれば、見知らぬ男性からの抱擁など撥ね退けなければならないのに。
「こ、侯爵様っ!?」
「ま、まあ。侯爵様でしたのっ!」
お父様の慌てたような声がする。続いてお母様のビックリしたような声が聞こえてきた。
……侯爵、様?
お父様の声とお母様の声から察するに、私を抱きしめているのは侯爵様なの?
私に女性としての魅力がないと散々言った侯爵様なの?
「侯爵……様、なのでしょうか?」
私は意を決して問いかけてみる。
「……ああ。」
すると、ややあってから返答が返ってきた。だが、侯爵が私を抱きしめたまま放してくれないものだから、侯爵の顔を見て確かめることもできやしない。
「アンジェリカ。どこに行ってたのだ。私はアンジェリカが屋敷に帰っていないと聞いて、身が引きちぎれるような思いだったのだ。居ても立っても居られなくて、こうして押しかけてきてしまった。怪我などしておらぬか?どこも痛くないか?困ったことはないか?大丈夫なのか?」
侯爵は矢継ぎ早に質問をしてくる。
「え、あ。はい。どこも痛くありません。困っているとしたら侯爵様に拘束されて身動きが取れないことくらいですわ。」
「す、すまないっ!?」
侯爵の腕の中に捕らわれたまま、恨みがましく告げて見れば、侯爵は慌てて私の身体を放した。
解放されたのは嬉しいのだけれども、何故か少しだけ寂しいと感じてしまった。
「ご挨拶もせず勝手に帰ってしまって申し訳ありませんでしたわ。」
「いや、私こそすまない。アンジェリカを怒らせるようなことをしてしまって。」
「別にいいのです。ローゼリア嬢やロザリーに比べて私は幼児体系のお子様ですから。女性としての魅力がないことは自分でも百も承知でした。私が侯爵様に腹を立てたこと自体が間違っていたのです。」
自分の中で決着をつけたはずなのに、侯爵を目の前にするとどうしてもムカムカとしてしまう。自分が女性としての魅力がないことなんて仕方のないことなのに。
「なにっ!!?」
「まあ!侯爵様にそのようなことを言われたの!!」
自分をなだめるように言葉を告げると、お父様とお母様が目をひん剥いて驚きの声をあげた。
「侯爵様。私どもは貴方様には多大なるご恩がございます。ですが、ですが……。この度の婚約話はなかったことにしていただけませんでしょうか。侯爵様にはアンジェリカよりも相応しい女性がいると思います。」
「はあっ!?なぜ、そうなるのだ。アンジェリカに女性としての魅力がないことはとても喜ばしいことである。なのに、なぜ婚約をなかったことになど……。」
お父様は侯爵に私との婚約破棄を申し出た。今まで、婚約を破棄するなどもってのほかだと言っていたお父様が、だ。いったいどんな心境の変化があったのだろうか。
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