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「ロイド殿下。お慕い申しております。」
「ああ。私もだよ。セレスティーナ。」
私は皇太子妃のセレスティーナ。
皇太子妃であるロイド殿下の元に嫁いで早くも3ヶ月が過ぎた。
ロイド殿下はとてもお優しく、私に毎日のように愛を囁いてくれる。私もそんなロイド殿下のことをとてもお慕いしている。
政略結婚ではありはしたが、私たちはずっと前からの恋人だったように毎日を幸せに過ごしていた。
そして、これからもロイド殿下との幸せに満ちた生活は続いていくのだろうと私はこの時はまだ信じていた。
あの日までは……。
☆☆☆☆☆
「ロイド様。ご機嫌麗しゅう。」
「……アリス嬢。息災であったか。」
薄いピンクブロンドのふわふわとした髪を靡かせてアリス・バレンタイン侯爵令嬢は皇太子妃である私の目の前でロイド様に深い礼をした。
実に隙の無い所作で、見る者を虜にするようだ。
アリス嬢は誰もが気にかけてしまうような儚げな雰囲気を漂わせている。
「……はい。お気遣いありがとうございますわ。」
アリス様はふわりとした笑みを浮かべてロイド様を見る。
ロイド様は少しだけ眉を下げてアリス様を見た。
「此度のこと、話は聞いている。」
「……はい。私は、この国のために役立てることがとても幸せでございますわ。」
アリス様はそう言って少しだけ寂し気な笑みを浮かべた。
「……実に殊勝な心掛けだ。」
「私の父と母も名誉なことと喜んでおります。」
「……そうか。あのような悪しき風習がなければ、アリス嬢は幸せになれたであろうに……。」
「いいえ。そのようなことはございません。私はとても幸せでございます。国母にはなれずとも、この国のために、ロイド様のために役立つことができるのですから。」
「……そうか。すまない。」
「いいえ。ロイド様がお気に病まれることはございません。すべて私は納得しておりますの。それでは、私は皇帝陛下に呼ばれておりますので失礼いたします。」
アリス様はそう言うと一礼してロイド殿下の前から去って行った。皇太子妃である私には一瞥もせずに。
「……この国のためとは言え、アリス嬢には大変申し訳ない、な。」
「……そうでございますね。」
ロイド殿下は痛ましげな表情をしてアリス様のことを見送る。
私もアリス様の後ろ姿をみながら相槌を打つ。
アリス嬢には多少思うところはある。先ほどのようにロイド殿下だけに挨拶をして、私のことは視界にもいれないところとか。こちらから挨拶をしても構わないが、作法としては目下の者から挨拶をする決まりとなっている。ただ、それにしてもロイド殿下の隣にいた私に視線すらよこさないのであれば、私から挨拶するのもはばかれるというものだ。
「……セレスティーナ。私は君が私の妃となってくれてとても嬉しく思っているよ。」
「……はい。私もです。ロイド殿下がアリス様ではなく私のことを選んでくださったのはとても嬉しく思います。」
「セレスティーナ。私は政治的に君を選んだんじゃないんだ。ただ、ずっと君のことが……セレスティーナのことが……。」
「わかっております。ロイド殿下のお心は十分に理解しているつもりでございます。」
必死な表情を浮かべるロイド殿下に私は苦笑する。
ロイド殿下のお心は十分に理解しているつもりだ。
ロイド殿下はとても素直で正直でそして、とてもお優しくて嘘など付けないのだから。
政治的な駆け引きがなかったと言われれば嘘になる。
本来であれば、私よりも貴族たちはアリス様を皇太子妃として後押ししていたのだ。でも、ロイド殿下は私のことを選んでくださった。それだけで十分なのだ。それ以上を望むことは罰が当たってしまうだろう。
「……君には心苦しい思いをさせてしまってすまない。まだまだアリス嬢の方が皇太子妃に相応しいと推す声もあるのは事実だ。君という正式な皇太子妃が私にはいるというのに。臣下のことすら管理できない情けない私ですまない。」
「ロイド殿下が苦慮されているのは知っております。老齢で地位のあるものほど狡猾であることも。致し方のないことです。」
「それももうしばらくの辛抱だ。アリス嬢は占いの結果、魔族の花嫁に選ばれた。直にこの国から出ていくことになるだろう。」
「……承知しております。」
だから余計にアリス様は私のことを無視するのだろう。
アリス様が皇太子妃になっていれば、魔族の花嫁になることはなかったのだから。
50年に一度、この国の侯爵令嬢から魔族の花嫁が選ばれることは昔からのしきたりだ。魔族の花嫁が選ばれる年に複数の婚姻していない適齢期の侯爵令嬢がいれば、皇族お抱えの占い師が占いで魔族の花嫁を選定する。
そしてその占いでアリス様が選ばれたのだ。
私は侯爵令嬢であったが、既に皇太子妃に選ばれていたので候補からは除外されていた。
ロイド殿下と婚姻を結んでいなければ、魔族の花嫁に選ばれたのは私かもしれないのだ。
魔族の花嫁は言い方は良いが、実質的には魔族に対する貢物であり人身御供だ。魔族の花嫁になった者とは一切の連絡が取れず生きているか死しているかもわからない。
悪しき風習だ。
「セレスティーナ。アリス嬢が魔族の花嫁に選ばれたのは君の所為ではない。これは占いで決められたことなんだ。わかるね。だから、君が気にすることはないんだよ。」
「……ええ。わかっております。」
それでも、と思ってしまう。
少し運命が違えれば、魔族の花嫁になっていたのは私で、ロイド殿下の妃になっていたのはアリス様だったかもしれないのだから。
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