魔族の花嫁に選ばれた皇太子妃

葉柚

文字の大きさ
7 / 40

しおりを挟む

「ロイド様っ。お可哀想なロイド様。」

 愛するセレスティーナが闇の中に消えた。それと同時に、セレスティーナを魔族の花嫁にと神のお告げを告げた巫女が亡くなった。
 つまり、あの巫女は嘘を吐いていた、ということだ。
 つまり、セレスティーナは魔族の花嫁にならなくてもよかったということだ。

「ロイド様。セレスティーナ様はいなくなってしまわれましたが、私はずっとロイド様のお側におりますわ。だから、ご安心くださいませ。ロイド様。」

 先ほどからアリス嬢がオレの周りをうろうろとうろついている。
 目を潤ませながら、上目遣いでオレのことを見上げてくる。
 そっと、オレの右半身に身体を寄せようとしてくるので、さりげなくアリス嬢から距離を取る。
 
 セレスティーナが魔族の花嫁となる儀式をおこなっている最中、オレはこともあろうに自室で眠りこんでいた。それはもうぐっすり、と。
 誰かに薬を盛られたのではないかと思うほどだ。
 セレスティーナがオレが儀式を邪魔するのではないかと懸念してオレに薬を盛ったのか、それとも別の誰かがオレに薬を盛ったのか。後者だとは思うが、いかせん証拠が何もない。
 誰にも不審なそぶりはなかったのだ。
 いや、セレスティーナが魔族の花嫁に決まったことに動揺していたのは確かだ。誰かが、オレの隙をついたのだろう。

「ロイド様。セレスティーナ様がいなくなって寂しいのですわね。わかりますわ。そのお気持ち。私もセレスティーナ様がいなくなってとても寂しい思いをしておりますのよ。セレスティーナ様は私たち貴族のお姉様のような存在でしたもの。でも、そんなセレスティーナ様だから、魔族の花嫁としてこの国を守る存在として神様が選ばれたのでしょうね。それはとても誇らしいことでございますわ。」

「巫女が死んだと聞いたが?」

 いつにもなく僥倖なアリス嬢に眉をしかめながら、問いかける。
 巫女が死んだのだ。
 セレスティーナは神が決めた魔族の花嫁ではなかったということだ。

「……知ってます?ロイド様。巫女は死ぬ者ですの。自分よりも巫女に相応しい存在が現れたとき、巫女は死ぬんですの。あの瞬間、死んだ巫女様よりも巫女としての力が強い巫女様がお生まれになったのですわ。だから、巫女様は亡くなったのです。決して巫女様のお言葉が嘘偽りだったわけではございませんわ。」

 アリス嬢はいつもの口調よりも早口で巫女のことを告げる。
 どこかアリス嬢の視線が先ほどより上を向いているような気がする。

「……そんな話は聞いたことがないがな。巫女は神のお告げと違うことをすると死すと聞いているが?」

「まあっ。では、ロイド様は巫女様が嘘をおつきになったと言いますの?」

 アリス嬢は目を大きく見開いて驚いてみせた。
 どこかアリス嬢のその表情が白々しく見えた。

「本当はアリス嬢が魔族の花嫁であったのではないか?」

「そうですわね。未婚の者から選ばれたのは私ですわ。でも、それだとおかしいからと対象範囲を広げただけですわ。そうしたら、私ではなくセレスティーナ様の方が相応しいと神が選ばれたのです。」

 アリス嬢はすらすらと答える。まるで答えをあらかじめ用意していたようにも思えた。

「それはおかしくないか。先ほど気づいたのだが、最初の選定がおこなわれたのは、まだセレスティーナが皇太子妃となる前であったはずだ。」

 昨夜は突然のことに動転していたが、時間軸がおかしいのだ。
 アリス嬢が魔族の花嫁に選ばれたときはまだセレスティーナは皇太子妃とはなっていなかったはずだ。
 オレがそのことを告げるとアリス嬢は顔を一瞬だけ歪めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

王妃を蔑ろにし、愛妾を寵愛していた王が冷遇していた王妃と入れ替わるお話。

ましゅぺちーの
恋愛
王妃を蔑ろにして、愛妾を寵愛していた王がある日突然その王妃と入れ替わってしまう。 王と王妃は体が元に戻るまで周囲に気づかれないようにそのまま過ごすことを決める。 しかし王は王妃の体に入ったことで今まで見えてこなかった愛妾の醜い部分が見え始めて・・・!? 全18話。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

処理中です...