魔族の花嫁に選ばれた皇太子妃

葉柚

文字の大きさ
28 / 40

28

しおりを挟む





「……アリス嬢。こんな夜更けにいかがしたのかな?」

 夜、ロイドが自室で美しい黒猫を待っていると、ドアがノックされロイドが返事をする前にアリスによってドアが開かれた。
 アリスは目のやり場に困るような薄着をしていた。
 
「……ロイド様に急にお会いしたくなったのです。いけませんでしたか?」

 アリスは薄っすらと目に涙を浮かべながら、儚い笑みを浮かべる。
 ロイドは自分の頬が引きつるのを感じた。
 
「アリス嬢。そのような薄着では風邪を引いてしまいますよ。夜は冷えますゆえ、風を引かないうちにお帰りください。」

 ロイドは引きつりそうな口元をしっかりと引き締めてにこやかにアリスに告げる。
 アリスは「はい。」とは頷かなかった。
 
「私はロイド様にお会いしたかったのです。どうしても……。ロイド様は私のことがお嫌いですか?」

 目からつぅーと一筋の涙を零しながらアリスはロイドのことを見つめた。
 そして、少しずつロイドに近寄り、ロイドの身体にもたれかかろうとする。
 
「それに……ロイド様が温めてくだされば、私は寒くなんてありませんわ。」

 真っ白な頬をピンク色に染めて伏し目がちにアリスはそう言った。
 ロイドは思わずアリスから離れるように、後ろに一歩下がった。
 
「…‥アリス嬢。君はまだ未婚の身だろう。はしたないことはおやめなさい。」

 ロイドはアリスから距離を置く。
 
「まあ。ロイド様ったら。私はもうすぐロイド様の妃になるのですよ。そのような硬いことはおっしゃらないで。」

 アリスはロイドが距離を取った分、ロイドとの距離を詰める。

「ロイド様がセレスティーナ様のことを忘れられないことは承知しておりますわ。ですが、この婚姻は皆が望んでいるのです。民たちを安心させるためにも一日も早く私とロイド様の婚姻を……。」

「待ってくれ。アリス嬢。私は、それを望んではいない。」

「どうしてですか。私では、セレスティーナ様の代わりにはなりませんかっ。」

 目にいっぱいの涙を溜めながらアリスは必死にロイドを見つめ縋りつく。
 ロイドは困ったなぁと額に手を当てて空を仰いだ。

「にゃああ!!」

 と、そこに黒猫がやってきてロイドの窮地を救うようにロイドとアリスの間に割って入った。
 

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

お飾り王妃の死後~王の後悔~

ましゅぺちーの
恋愛
ウィルベルト王国の王レオンと王妃フランチェスカは白い結婚である。 王が愛するのは愛妾であるフレイアただ一人。 ウィルベルト王国では周知の事実だった。 しかしある日王妃フランチェスカが自ら命を絶ってしまう。 最後に王宛てに残された手紙を読み王は後悔に苛まれる。 小説家になろう様にも投稿しています。

側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、孤独な陛下を癒したら、執着されて離してくれません!

花瀬ゆらぎ
恋愛
「おまえには、国王陛下の側妃になってもらう」 婚約者と親友に裏切られ、傷心の伯爵令嬢イリア。 追い打ちをかけるように父から命じられたのは、若き国王フェイランの側妃になることだった。 しかし、王宮で待っていたのは、「世継ぎを産んだら離縁」という非情な条件。 夫となったフェイランは冷たく、侍女からは蔑まれ、王妃からは「用が済んだら去れ」と突き放される。 けれど、イリアは知ってしまう。 彼が兄の死と誤解に苦しみ、誰よりも孤独の中にいることを──。 「私は、陛下の幸せを願っております。だから……離縁してください」 フェイランを想い、身を引こうとしたイリア。 しかし、無関心だったはずの陛下が、イリアを強く抱きしめて……!? 「離縁する気か?  許さない。私の心を乱しておいて、逃げられると思うな」 凍てついた王の心を溶かしたのは、売られた側妃の純真な愛。 孤独な陛下に執着され、正妃へと昇り詰める逆転ラブロマンス! ※ 以下のタイトルにて、ベリーズカフェでも公開中。 【側妃の条件は「子を産んだら離縁」でしたが、陛下は私を離してくれません】

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

王妃を蔑ろにし、愛妾を寵愛していた王が冷遇していた王妃と入れ替わるお話。

ましゅぺちーの
恋愛
王妃を蔑ろにして、愛妾を寵愛していた王がある日突然その王妃と入れ替わってしまう。 王と王妃は体が元に戻るまで周囲に気づかれないようにそのまま過ごすことを決める。 しかし王は王妃の体に入ったことで今まで見えてこなかった愛妾の醜い部分が見え始めて・・・!? 全18話。

虚弱体質?の脇役令嬢に転生したので、食事療法を始めました

たくわん
恋愛
「跡継ぎを産めない貴女とは結婚できない」婚約者である公爵嫡男アレクシスから、冷酷に告げられた婚約破棄。その場で新しい婚約者まで紹介される屈辱。病弱な侯爵令嬢セラフィーナは、社交界の哀れみと嘲笑の的となった。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

【12月末日公開終了】これは裏切りですか?

たぬきち25番
恋愛
転生してすぐに婚約破棄をされたアリシアは、嫁ぎ先を失い、実家に戻ることになった。 だが、実家戻ると『婚約破棄をされた娘』と噂され、家族の迷惑になっているので出て行く必要がある。 そんな時、母から住み込みの仕事を紹介されたアリシアは……?

処理中です...