断罪される前に市井で暮らそうとした悪役令嬢は幸せに酔いしれる

葉柚

文字の大きさ
49 / 76

49

しおりを挟む

「アマリア嬢……。久しぶりだな。」

 アンナライラ嬢が王城の牢に捕らえられているとユリアさんに聞いたので私は王城にやってきた。衛兵にアンナライラ嬢と面会をしにきたと告げると、衛兵は露骨に顔を歪めたあと何故だかユースフェリア殿下を連れてやってきた。

「ユースフェリア殿下。お久しぶりでございます。」

 相手は私に酷い言いがかりをつけ、学園から私を追放させようとしてきた相手だが、彼はこの国の第二王子なのだ。礼を欠くわけにはいかない。
 嫌だけど、ぐっと我慢をしてユースフェリア殿下に最敬礼をする。
 ユースフェリア殿下はばつが悪そうに「気楽にしてくれ。」と言った。今までにない心遣いだ。
 アンナライラ嬢が捕らえられたことで改心したのだろうか。

「……すまなかったな。」

 ユースフェリア殿下は小さな声だが私に謝ってきた。
 王子殿下ともあろうお人が……簡単に謝ることを許されない人が私に謝罪をしていることに驚いた。

「ユースフェリア殿下。アンナライラ嬢はどこに……?」

「……ああ。彼女は地下牢に捕らわれている。私も何度か彼女には会ったのだが……正気を失ったようにシルキー兄上の名を呼び続けている。」

 ユースフェリア殿下は視線を下に下げて低く告げる。
 彼もとても辛い思いをしているのだろう。
 よく見れば目の下には大きな隈ができているのがわかる。
 きっと、アンナライラ嬢のことが心配で寝ていないのだろう。

「……そうですか。」

「会っていくのか?正直、アマリア嬢の顔を見たら激昂するんじゃないかと心配しているんだ。」

 ユースフェリア殿下は、アンナライラ嬢のことを心配して私をアンナライラ嬢に会わせたくないようだ。どこまでもお優しいユースフェリア殿下である。

「……そうですね。私が行くとアンナライラ嬢を怒らせてしまうかもしれません。」

 私が怒ったように言ってみると、ユースフェリア殿下は珍しく慌てだした。

「違うっ!違うんだ。アンナライラ嬢のことを心配しているのではない。アマリア嬢がアンナライラ嬢に傷つけられる可能性があるから言っているんだ。アンナライラ嬢は以前のように優しい彼女ではないんだ。」

 どうやらユースフェリア殿下はアンナライラ嬢ではなく、私のことを心配してくれたらしい。珍しいことだ。
 ああ、でも、アンナライラ嬢に出会う前のユースフェリア殿下はとても心優しい少年だったことを思い出す。男の子には珍しく花や小鳥が大好きで可愛がっていた思い出がよみがえる。

「……私はアンナライラ嬢に優しくされたことはありませんが?」

「そう……だったか。ああ……そうであったな。思えばアマリア嬢の前ではいつもアンナライラ嬢は怒っているか泣いているかだった。そうか……そうであったな。すまなかった。」

 ユースフェリア殿下はどこまでも優しかった。理由がどうであれ泣いている人の方をいつもかばっていたことを思い出す。泣いている方の人の言い分しかいつも聞いていなかった。
 ユースフェリア殿下はとても反省しているように見えた。その声と表情には深い後悔がうかがい知れた。

「もう過ぎたことです。」

「そうか……本当にすまなかった。国王様にも王妃様にも言われたよ。私は未熟だと。物事の本質を見ていないと。確かにその通りだった。」

 どうやらユースフェリア殿下は、相当国王陛下と王妃殿下に搾られたようだ。

「……それよりも、アンナライラ嬢の元へ連れて行っていただけますか?」

 これ以上、ユースフェリア殿下の謝罪を聞いていても仕方が無い。私は許すことができないのだから。

「……ああ。今、私の母上がアンナライラ嬢の元に向かった。今行くと鉢合わせになるかもしれないが……。」

 そこで私はユースフェリア殿下が来たことに、納得がいった。ユースフェリア殿下の母上である側妃様がアンナライラ嬢に会いに行っているから、彼女の息子であるユースフェリア殿下がやってきたのだと。

「私は別に構いませんが、ユフェライラ様の気にさわりますでしょうか。」

「いや。大丈夫だとは思う。母上がアンナライラ嬢の元へ行ってからもう半時が経った。もう、母上も帰るころだろう。」

「そうですか。では、案内していただいてもよろしいでしょうか?」

「ああ……。」

 私は酷く落ち込んでいるユースフェリア殿下とアンナライラ嬢がいる地下牢へと階段を降りていくのだった。
しおりを挟む
感想 49

あなたにおすすめの小説

ヒロインしか愛さないはずの公爵様が、なぜか悪女の私を手放さない

魚谷
恋愛
伯爵令嬢イザベラは多くの男性と浮名を流す悪女。 そんな彼女に公爵家当主のジークベルトとの縁談が持ち上がった。 ジークベルトと対面した瞬間、前世の記憶がよみがえり、この世界が乙女ゲームであることを自覚する。 イザベラは、主要攻略キャラのジークベルトの裏の顔を知ってしまったがために、冒頭で殺されてしまうモブキャラ。 ゲーム知識を頼りに、どうにか冒頭死を回避したイザベラは最弱魔法と言われる付与魔法と前世の知識を頼りに便利グッズを発明し、離婚にそなえて資金を確保する。 いよいよジークベルトが、乙女ゲームのヒロインと出会う。 離婚を切り出されることを待っていたイザベラだったが、ジークベルトは平然としていて。 「どうして俺がお前以外の女を愛さなければならないんだ?」 予想外の溺愛が始まってしまう! (世界の平和のためにも)ヒロインに惚れてください、公爵様!!

逆行した悪女は婚約破棄を待ち望む~他の令嬢に夢中だったはずの婚約者の距離感がおかしいのですか!?

魚谷
恋愛
目が覚めると公爵令嬢オリヴィエは学生時代に逆行していた。 彼女は婚約者である王太子カリストに近づく伯爵令嬢ミリエルを妬み、毒殺を図るも失敗。 国外追放の系に処された。 そこで老商人に拾われ、世界中を見て回り、いかにそれまで自分の世界が狭かったのかを痛感する。 新しい人生がこのまま謳歌しようと思いきや、偶然滞在していた某国の動乱に巻き込まれて命を落としてしまう。 しかし次の瞬間、まるで夢から目覚めるように、オリヴィエは5年前──ミリエルの毒殺を図った学生時代まで時を遡っていた。 夢ではないことを確信したオリヴィエはやり直しを決意する。 ミリエルはもちろん、王太子カリストとも距離を取り、静かに生きる。 そして学校を卒業したら大陸中を巡る! そう胸に誓ったのも束の間、次々と押し寄せる問題に回帰前に習得した知識で対応していたら、 鬼のように恐ろしかったはずの王妃に気に入られ、回帰前はオリヴィエを疎ましく思っていたはずのカリストが少しずつ距離をつめてきて……? 「君を愛している」 一体なにがどうなってるの!?

『悪役令嬢は、二度目の人生で無言を貫く。~処刑回避のために黙っていただけなのに、なぜか冷徹宰相様から「君こそ運命の人だ」と溺愛さています~』

放浪人
恋愛
「もう、余計なことは喋りません(処刑されたくないので!)」 王太子の婚約者エリスは、無実の罪を着せられた際、必死に弁解しようと叫び散らした結果「見苦しい」と断罪され、処刑されてしまった。 死に戻った彼女は悟る。「口は災いの元。二度目の人生は、何があっても口を閉ざして生き延びよう」と。 しかし、断罪の場で恐怖のあまり沈黙を貫いた結果、その姿は「弁解せず耐え忍ぶ高潔な令嬢」として称賛されてしまう。 さらに、人間嫌いの冷徹宰相クラウスに「私の静寂を理解する唯一の女性」と盛大な勘違いをされ、求婚されてしまい……!? 「君の沈黙は、愛の肯定だね?」(違います、怖くて固まっているだけです!) 「この国の危機を、一目で見抜くとは」(ただ臭かったから鼻を押さえただけです!) 怯えて黙っているだけの元悪役令嬢と、彼女の沈黙を「深遠な知性」と解釈して溺愛する最強宰相。 転生ヒロインの妨害も、隣国の陰謀も、全て「無言」で解決(?)していく、すれ違いロマンティック・コメディ! 最後はちゃんと言葉で愛を伝えて、最高のハッピーエンドを迎えます。

悪役令嬢ベアトリスの仁義なき恩返し~悪女の役目は終えましたのであとは好きにやらせていただきます~

糸烏 四季乃
恋愛
「ベアトリス・ガルブレイス公爵令嬢との婚約を破棄する!」 「殿下、その言葉、七年お待ちしておりました」 第二皇子の婚約者であるベアトリスは、皇子の本気の恋を邪魔する悪女として日々蔑ろにされている。しかし皇子の護衛であるナイジェルだけは、いつもベアトリスの味方をしてくれていた。 皇子との婚約が解消され自由を手に入れたベアトリスは、いつも救いの手を差し伸べてくれたナイジェルに恩返しを始める! ただ、長年悪女を演じてきたベアトリスの物事の判断基準は、一般の令嬢のそれとかなりズレている為になかなかナイジェルに恩返しを受け入れてもらえない。それでもどうしてもナイジェルに恩返しがしたい。このドッキンコドッキンコと高鳴る胸の鼓動を必死に抑え、ベアトリスは今日もナイジェルへの恩返しの為奮闘する! 規格外で少々常識外れの令嬢と、一途な騎士との溺愛ラブコメディ(!?)

宮廷外交官の天才令嬢、王子に愛想をつかれて婚約破棄されたあげく、実家まで追放されてケダモノ男爵に読み書きを教えることになりました

悠木真帆
恋愛
子爵令嬢のシャルティナ・ルーリックは宮廷外交官として日々忙しくはたらく毎日。 クールな見た目と頭の回転の速さからついたあだ名は氷の令嬢。 婚約者である王子カイル・ドルトラードを長らくほったらかしてしまうほど仕事に没頭していた。 そんなある日の夜会でシャルティナは王子から婚約破棄を宣言されてしまう。 そしてそのとなりには見知らぬ令嬢が⋯⋯ 王子の婚約者ではなくなった途端、シャルティナは宮廷外交官の立場まで失い、見かねた父の強引な勧めで冒険者あがりの男爵のところへ行くことになる。 シャルティナは宮廷外交官の実績を活かして辣腕を振るおうと張り切るが、男爵から命じられた任務は男爵に文字の読み書きを教えることだった⋯⋯

【完結】悪役令嬢の反撃の日々

ほーみ
恋愛
「ロゼリア、お茶会の準備はできていますか?」侍女のクラリスが部屋に入ってくる。 「ええ、ありがとう。今日も大勢の方々がいらっしゃるわね。」ロゼリアは微笑みながら答える。その微笑みは氷のように冷たく見えたが、心の中では別の計画を巡らせていた。 お茶会の席で、ロゼリアはいつものように優雅に振る舞い、貴族たちの陰口に耳を傾けた。その時、一人の男性が現れた。彼は王国の第一王子であり、ロゼリアの婚約者でもあるレオンハルトだった。 「ロゼリア、君の美しさは今日も輝いているね。」レオンハルトは優雅に頭を下げる。

【完結】猫を被ってる妹に悪役令嬢を押し付けられたお陰で人生180度変わりました。

本田ゆき
恋愛
「お姉様、可愛い妹のお願いです。」 そう妹のユーリに乗せられ、私はまんまと悪役令嬢として世に名前を覚えられ、終いには屋敷を追放されてしまった。 しかし、自由の身になった私に怖いものなんて何もない! もともと好きでもない男と結婚なんてしたくなかったし堅苦しい屋敷も好きでなかった私にとってそれは幸運なことだった!? ※小説家になろうとカクヨムでも掲載しています。 3月20日 HOTランキング8位!? 何だか沢山の人に見て頂いたみたいでありがとうございます!! 感想あんまり返せてないですがちゃんと読んでます! ありがとうございます! 3月21日 HOTランキング5位人気ランキング4位…… イッタイ ナニガ オコッテンダ…… ありがとうございます!!

地味令嬢は冤罪で処刑されて逆行転生したので、華麗な悪女を目指します!~目隠れ美形の天才王子に溺愛されまして~

胡蝶乃夢
恋愛
婚約者である王太子の望む通り『理想の淑女』として尽くしてきたにも関わらず、婚約破棄された挙句に冤罪で処刑されてしまった公爵令嬢ガーネット。 時間が遡り目覚めたガーネットは、二度と自分を犠牲にして尽くしたりしないと怒り、今度は自分勝手に生きる『華麗な悪女』になると決意する。 王太子の弟であるルベリウス王子にガーネットは留学をやめて傍にいて欲しいと願う。 処刑された時、留学中でいなかった彼がガーネットの傍にいることで運命は大きく変わっていく。 これは、不憫な地味令嬢が華麗な悪女へと変貌して周囲を魅了し、幼馴染の天才王子にも溺愛され、ざまぁして幸せになる物語です。

処理中です...