婚約破棄されて異世界トリップしたけど猫に囲まれてスローライフ満喫しています

葉柚

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二章

2ー97

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「行きますよぉ~。」

「えっ?えっ?」

ベアトリクスさんは、私の手をとり、急いで部屋を出ようとする。
私は焦ってしまう。
だってまだ、着替えてもいないし。こんな着古した服で女王様に会えるはずもない。

「ちょっと待って。着替えさせてください。」

慌ててベアトリクスさんの動きをとめる。ベアトリクスさんは、ビックリした顔で振り向いた。

「着替えるのぉ~。じゃあ~早くしてくださいねぇ~。」

「あ、いや、その。女王様の前に出れるような替えの服がないので今から買いに………。」

「ダメですぅ~!それじゃあ~、間に合いませんよぉ~!」

「えっ?えっ?」

ベアトリクスさんの迫力に驚いてしまう。どうして、そんなに急いでいるのだろうか。確かに女王様を待たせてしまうことは、失礼にあたるだろう。だが、間に合わないとはいったいどういうことだろうか。

「早くしないとぉ~、来ちゃいますぅ~。」

「はぁ?」

何が来ちゃうのだろうか。
ベアトリクスさんは、焦ったような表情を浮かべている。そして、私の腕を引っ張る力を強くした。
グイグイと、引っ張られる。

「だからぁ~、来ちゃうんですぅ~。」

「えっと、わかりましたから。このままの格好で行きますから。プーちゃんやマーニャたちは連れて行った方がいいんですか?」

ベアトリクスさんの鬼気迫る表情に、着替えることを諦める。だが、プーちゃんやマーニャたちは化粧水作りに関わっているので、連れて行った方がいいかもしれないと思い念のためベアトリクスさんに確認する。
すると、ベアトリクスさんはハッとした表情を浮かべた。

「プーちゃんとぉ~マーニャ様たちはぁ~必須ですぅ~。むしろぉ~、連れて行かないとぉ~怒られちゃいますぅ~。早くぅ~!早くしてくださいぃ~!」

焦るあまり、プーちゃんとマーニャたちを連れて行かなくてはいけないことを忘れていたらしい。
私はすぐにいつもマーニャたちを入れているバスケットを持ってくると、満腹でまったりと寛いでいるマーニャたちをバスケットの中に入れた。
マーニャたちは、ベアトリクスさんが来ても動じていなかった。こんなに騒いでいるのにも関わらず。

『マユ、どうしたのー?』

『マコトさんのところに、いくのー?』

『私、まだ寝てたいんだけどぉー。』

マーニャと、ボーニャはどこかに連れていかれるのか、不思議がっている。クーニャは、宿でまったりとしていたいようだ。

「ごめんね。女王様にこれから会いに行かなきゃならないの。一緒に来てね。マコトさんからは連絡がまだないからまだ行かないよ。」

女王様と聞いてマーニャたちがピタリと大人しくなる。大人しくなるというか、固まっている。どうしたのだろうか。

『我も行くのか?』

「あ、うん。プーちゃんも。私の肩に乗る?それとも、マーニャたちと一緒?」

『もちろんマーニャ様たちと一緒に決まってる。』

プーちゃんはそう言ってそそくさと、バスケットに入った。顔をこちらに向けて、「早く蓋を閉めてくれ。」と要求してくる。
マーニャたちと狭い空間に閉じ込められるのが嬉しいらしい。

「用意できましたねぇ~!では~、すぐに行きましょ~。」

「あ、うん。ザックさん行ってきますね!」

「ああ。」

「あら、その必要はありませんよ。」

「えっ?」

ザックさんに挨拶をして、部屋を出ようしたところ、聞き覚えのない女性の声が聞こえてきた。
ベアトリクスさんは、その女性を見つめてハッとしたように、膝をついた。そうして、私にも膝をつくようにと手を引っ張って教えてくれる。
訳がわからないながらも、ベアトリクスさんにならって膝をつき、深く礼をとる。

「お伺いするのが遅くなり申し訳ございません。」

ベアトリクスさんがいつもの語尾が伸びる口調を改めている。ベアトリクスさん、普通に喋れたんだと関心しながらも、頭の中は疑問だらけだ。

「顔を上げてください。」

女性の穏やかな声に、私たちは揃って顔をあげる。
ようやく見れた女性は、この世のものとは思えないほど綺麗な人だった。プロポーションも完璧である。
思わず見とれてしまう。

「ふふっ。それで?化粧水を作った迷い人というのは貴女かしら?」

女性は私を見て問いかける。その問いかけをするということは、この女性はベアトリクスさんの上司だろうか。
まさか、女王様自らここまで足を運ぶだなんてことはないだろう。

「は、はい。迷い人のマユと申します。」

「そう。マユ、共に化粧水を作った猫様と青竜はどこかしら?」

「あ、バスケットの中です。」

問いかけられたので、慌ててバスケットの蓋を開ける。
マーニャたちは、珍しいことにバスケットの隅に固まっていた。
普段は誰が来ても自分を貫くのに。どうしたことだろう。

「ふふふっ。可愛いわねぇ~。」

女性は、にこやかに笑ってマーニャを抱き上げた。マーニャは動くことなく固まっている。
ほんとに、いったいどうしたことだろうか。
女性はマーニャの身体をあちこち触っている。猫が大好きなようで、幸せそうに顔を綻ばせている。
マーニャが、顔をゆっくりとこちらに向けた。その瞳はまるで「助けて」と言っているように見えた。
マーニャのお腹に女性が顔をすりすりと擦りつけている。その表情は恍惚としていた。

「あ、あの、もう、それくらいで………。」

マーニャが可哀想に見えてきてしまったので、女性をとめる。すると、女性はハッとしたようにマーニャにうずめていた顔を上げた。

「ごめんなさい。私としたことが。こう、猫様を見ると自分が押さえきれなくて。ダメね、私ったら。マーニャ様もごめんなさいね。」

マーニャは女性から開放されると、急いでバスケットの中に飛び込んだ。そうして、ボーニャとクーニャにスリスリしている。

「ねえ、マユ。あの化粧水10本全部私にくださらない?もちろん、礼は弾むわ。」

女性は、そう言ってにっこりと笑った。

あれ?化粧水の件で女王様と会う予定だったのに、ベアトリクスさんの上司と思われる目の前の女性に渡してしまってもいいのだろうか。そもそも、化粧水の存在が危険だから女王様に会う予定なんじゃなかったっけ?
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