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四章

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玄関のドアを開けるとそこには、女王様が立っていた。

外が暗闇だからか、女王様の表情はどことなく暗いような気がする。

それに、いつもの威圧感が鳴りをひそめていた。

なんだか、全然違う人に見える。

あの禍々しいまでの威圧感がないと女王様ではないように見えてしまう。

きっと今目の前にいる女性とどこかですれ違ったとしても女王様だと判断ができないだろう。

「ああ、マユ。魔王はどうであった?」

破棄のない声で女王様は私に訊ねてくる。

なんだろう。ほんとうに調子が狂う。

「あの・・・うち狭いですけどよかったら上がってください。外は暗いですし、明るいところで座ってお話させていただきます。」

私はそう言って女王様を家の中へと招き入れた。

「感謝する。」

女王様はそう一言言うと、家に上がった。

そうして、案内された椅子に座った。

女王様がどこか意気消沈しているようにも見えるので、ホットミルクを作って女王様の目の前に置いた。その一連の動作をクーニャがじぃっと見つめている。

どうやらクーニャもホットミルクが欲しいようだ。

しかし、女王様のホットミルクを奪うほどではないらしい。

そこはどうやらクーニャもわきまえているようだ。

「魔王様はお元気でしたよ。」

コクリと女王様がホットミルクを一口飲んだことを確認してから私は話を切り出す。

女王様は、

「そう・・・。」

と、呟きホットミルクをテーブルの上に置いた。

その声には元気がなさそうだ。

『ミルク飲まないならクーニャにちょうだいなのー!!』

女王様がテーブルの上にホットミルクを置くと、待っていましたとばかりにクーニャがテーブルの上に飛び乗ってきた。

そうして、テーブルの上のホットミルクの隣に座り込み、女王様をじぃっと見つめておねだりをする。

「ちょっ・・・。クーニャ。クーニャの分のミルクは別に用意するから。それは女王様のだよ。」

私は女王様に用意したホットミルクを欲するクーニャに慌てて待ったをかける。

いくらなんでも、お客様にだしたものをねだるのは良くない。

「ふふっ。おまえは可愛いな。私の残したものでよければ飲むといい。」

女王様はどこか悲し気に笑うとクーニャにホットミルクを差し出した。

『ありがとーなのー。嬉しいのー。』

クーニャは女王様に差し出されたミルクを嬉しそうに小さな赤い舌でチロチロと飲み始めた。

本来、猫という生き物は牛乳を飲めない。

というのも、牛乳に含まれる乳糖を分解するための酵素が猫は少量しか持っていないからだ。

そのため牛乳を飲むとお腹を壊してしまう。

だけど、今回女王様に出したホットミルクは牛乳から乳糖を分解したものである。

この世界というかこの国は牛乳は乳糖を分解したものしか市場に出回っていない。

以前そのことを不思議に思ってマリアに確認してみたら、猫が間違って牛乳を飲んでお腹を壊さないように牛乳は必ず乳糖を分解したものしか市場にだしていないということだった。

本当、徹底しているな。この国。

「・・・ねえ、マユ。魔王は私のことをなんと言っていた?」

女王様はおずおずと訊ねてきた。

 

 

 

 

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