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五章

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「イザナミ!酷いのじゃ。こやつが妾にこの貴重なトマトの種をくれると言うたのに、トマトの種を返せと言うのじゃ!」

「ち、違いますっ!貴重なトマトの種だからイザナギ様のお眼鏡に叶ったみたいだから、イザナミ様を紹介していただいて、元の場所に帰してくださいとお願いしているんですっ!」

 …………。

 沈黙がしばし続く。

 思わず私は、先ほどまで睨みあっていたイザナギ様と顔を見合わせる。

「ご、ごめんなさいっ!トマトの種は差し上げますっ!!」

「す、すまぬのじゃ!イザナミのことはちゃんと紹介するのじゃ!」

 そして、ほぼ同時に頭を下げて謝罪し合った。どうやら私たちはお互いに勘違いをしていたらしい。

「なんじゃ。はやとちりかのぉ。イザナギはあわてんぼうじゃの。」

 はははっ。とイザナミ様が笑う。

 笑っているイザナミ様をチラリと横目で見る。イザナギ様とイザナミ様とは対になる存在というだけあって、とても良く似ていた。それに、イザナミ様もイザナギ様もタマちゃんに酷似している。もしかして、タマちゃんもイザナギ様やイザナミ様と縁があるのだろうか。

「それにしても、トマトの種か。トマトの種くらい貴重でもなんでもないじゃろう。」

「うっ……。」

 イザナミ様は、そう言ってケラケラと笑った。確かになんの変哲もないトマトの種だ。イザナミ様がそうおっしゃるのもわかる。

「ほぅ。イザナミはこのトマトの種の貴重さがわからぬのかえ?まだまだじゃのぉ。」

 今度はイザナギ様がケラケラと笑った。

 もしかして、イザナギ様はイザナミ様に喧嘩を売っているのだろうか。

「ただのトマトの種であろう?そんなのそこら中にあるのじゃ。珍しくもなんともないと思うがのぉ。」

「イザナミはまだまだなのじゃ。」

「むっ!イザナギがおかしいのじゃ。このようなトマトの種に夢中になるのがおかしいのじゃ。」

「イザナミはこのトマトの種の価値がわからぬのかえ?」

「ただのトマトの種であろう!珍しくもなんともないのじゃ!」

「ほぅ。」

「ほぅ。」

 イザナギ様とイザナミ様がそれぞれ目を細めて相手を見る。眼光がやけに鋭いような気がした。一触即発状態なんだけど。なんで、トマトの種のことでこんなに険悪になるのだろうか。まさか、もともと仲が悪いとか?

「あ、あの。喧嘩はやめてください。」

 とりあえず、二人の喧嘩を止めないことには話が進まないし、私たちが帰る方法もわからないままだ。ちょっと怖いけど、私はイザナギ様とイザナミ様の間に割り込んだ。

「そなたは関係ないであろう。妾とイザナミの問題なのじゃ。ひっこんでおれ!」

「そうじゃ!……ん?マユかえ?」

 イザナギ様に怒鳴られてビクッとなっていたところに、イザナミ様の驚いたような声が聞こえてくる。

 イザナミ様は私のことを知っている……?もしかして……似てる似てるとは思ったけど。名前が違ったから本人じゃないと思ったけど。

「……タマちゃん、なの?」

 

 

 

 


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