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五章
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しおりを挟む「まあまあ、落ち着くのじゃ。マユよ。イザナギは照れておるのじゃ。」
「……落ち着いているわよ。」
タマちゃんが私を慰めるかのように、私の肩をポンポンと軽く叩いた。
っていうか、イザナギ様照れてるの?
タマちゃんの思いもよらない言葉に私は首を傾げた。
イザナギ様が照れているとかって全く信じられない。というか何に照れているのだろうか。照れるような要素が今までの会話の中であっただろうか。
「うむうむ。マユよ。見て見るのじゃ。」
「なにを?」
タマちゃんは何やらニマニマと笑いながらイザナギ様を見つめている。
「イザナギの顔じゃ。頬が赤くなっておるじゃろう?」
タマちゃんに言われてイザナギ様の方に視線を向ける。すると、頬と耳を真っ赤に染めたイザナギ様がいた。
……ほんとに照れてやがる。どこに照れる要素があったのだろうか。
「……照れてるみたいだね。」
「そうじゃ。照れておるのじゃ。くふふっ。」
タマちゃんは嬉しそうに笑い、笑っていることを悟られないように着物の袖で口元を隠した。
まあ、笑い声漏れちゃってるから意味がないんだけどね。
「な、なんじゃ。はよ、帰るのじゃっ!!」
イザナギ様は顔を真っ赤にしてそう怒鳴りつけてくる。
……もしかして、これって照れてるんじゃなくて怒って顔を赤くしているだけなんじゃないだろうか。
「くふふっ。イザナギも素直じゃないのぉ。素直になった方が良いこともあるのじゃぞ。そう、例えば、マユに行かないで欲しいと言うてみるのじゃ。寂しいのじゃろう?せっかくできた友が帰ってしまうのが。」
「そ、そんなことはないのじゃ!!いなくなって清々するのじゃ!!早く帰るのじゃ!!」
タマちゃんの言葉にイザナギ様は声を大にして抗議をしている。
「……帰る方法がわかったらすぐに帰るから安心してください。イザナギ様。」
こうも怒りをあらわにされてしまうと、辛いものがある。早く帰れと追い出されるように言われるのは聞いているこちらも辛い。
私は、イザナギ様にすぐに帰ると言ってにっこり笑った。
「……っ!!!?」
その瞬間、イザナギ様の目が大きく見開かれた。
「マユー!芽がでたのぉー。」
「早く早く―。」
「トマトの芽が出たのー。」
表情の変わったイザナギ様に驚いたが、マーニャたちの言葉にイザナギ様から視線をマーニャ達の方に移した。
「え?トマトの?早すぎない?だって、まだ種を植えてから一時間も経ってないわよ?普通だったらトマトの芽がでるまでは数日かかるのに……。」
イザナギ様の様子も気になるけれども、トマトの芽の方がより気になる。
さっき植えたばかりなのにもう芽が出るだなんてどうなっているのだろうか。
「ほら!芽が出てるでしょ?」
「出てるのー。」
「嘘なんてついてないもん。ちゃんとに見て!マユ!」
マーニャたちに急かされるように、トマトの種を植えた地面に視線を移す。
「……え゛っ?」
視線を移した先には確かにトマトの芽が出ていた。それももうすでに15㎝ほどに大きく成長をしている。
今、自分が見ているものが信じられなくて右手でゴシゴシと目を擦る。
だが、トマトの芽(というかもう苗って感じだけど)は目の前から消えて無くなることはなかった。頬を抓ってみても痛いので、これは夢でもないようだ。
私が植えたトマトの種は急成長を遂げたのだ。
そして、トマトの苗木を見ている時もトマトは急激に成長をし続けている。目に見えるほどの速さで大きくなっているのがわかるのだ。この分なら、トマトの実ができるまで1時間もかからないかもしれない。
それほどの勢いでトマトは成長している。
「ほ、ほらな。妾が言った通りなのじゃ。すぐ大きくなると言ったであろう!」
イザナギ様は目を真っ赤にして興奮してはしゃいでいる。先ほどまでの怒りはどこへ行ったのかとても嬉しそうだ。
そうだよね。イザナギ様は私たちにここにいて欲しくなかったみたいだし、早く帰れるとわかって嬉しいのかもしれない。
でも……。
「トマト、上に向かって成長してますよ?私たちが住んでいるところは、ここより下だったはずでは……。」
トマトの木は上に上にと伸びて行ったのだった。
まあ、普通に考えてトマトの木が下に成長するはずがないのである。自分の重さに耐えきれなくて落ちてくるかもしれないけど……。
ん?あれ?
自分の重さに耐えられなくて、落ちてくる?
そう言えばトマトって支柱を立てて支えてあげないと上に育たないんじゃなかったっけか?
あれ?なんで、上に向かって成長しているのかな?
これは、もしかして……。
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