皇太子の子を妊娠した悪役令嬢は逃げることにした

葉柚

文字サイズ
小 中 大 特大
74 / 170

73

 

生きていくためには仕事をしなければならないというのは世間一般での共通項である。

ただ、出自のわからない異国の女を雇い入れてくれる場所があれば良いのだが。

 

「いらっしゃいませ~。」

「こんにちは。厨房の人員を募集していると伺ってまいりました。」

目に付いたのは、庶民が気軽に入れるような一般的なレストランだった。

おいしそうな匂いにつられて店の入り口を見れば、接客と厨房の人員を一名ずつ募集している旨の張り紙があった。

清潔そうなレストランは働きやすそうに見えたので、すぐに店に入って、出迎えてくれたウエイトレスに声をかける。

すると、ウエイトレスの女性は眉間に皺をよせた。

「ごめんなさいね。厨房は男性限定なのよ。力仕事ばかりだからね。それにうちの店忙しいから女性では勤まらないわ。」

「・・・そう、ですか。」

体力には自身がある方だが、男性と同じだけの力仕事ができるとは思わない。

野菜の皮むきだけでも・・・とも思ったが、そういう専任は募集していないとのことだった。

接客については、見た目が異国人ということもあって採用は厳しいようだ。

特に私の容姿はハズラットーン大帝国の敵国であるヤックモーン王国人の容姿をしている。

出身国を尋ねられることはなかったが、人前に出るような接客としては雇っては貰えなかった。

これが、同盟国の容姿をしていたら違っていたかと思うと少しやるせなくなる。

どの店も基本的には裏方では主に男性が働いており、接客は女性がおこなうというスタイルだった。

そうして、やはり接客についてはヤックモーン王国人の容姿をしている私を雇ってくれるところは見つからなかった。

エドワード様やマコト様に大見得切ったが、短期間とはいえ帝都で就職することは予想以上にハードルが高かった。

 

「うぇ~んっ・・・。」

当ても無く歩いていると道の端っこに蹲って泣いている子供がいた。

しかし、誰も気にかけることはなく通り過ぎていく。

私も平素だったら気にかけなかっただろう。

だが、誰も雇ってくれない自分と道端で誰にも声をかけられないその子が重なってしまった。

「・・・どうしたの?」

子供が怖がらないように、子供と同じ目線になるためにもしゃがんで声をかける。

子供は恐る恐る顔を上げると「ヒッ・・・。」と恐怖に青ざめた。

どうしたのかと首を傾げる。

子供をよくよく観察すると、どうやら転んだのか膝に掠り傷がついていた。

また、足を捻ってもいるのか右の足首が真っ赤に腫れ上がっていてとても痛々しい。

「やっ!!こないでっ!!」

足が痛くて歩けないため、お尻をずって後ずさる。

それにちょっと眉を寄せながらも放ってはおけなくて、晴れ上がっている足首に手を当てる。

「治療するだけだから、逃げないで。」

魔力を子供の足首に当てている右手のひらに集中させる。

そのまま頭の中で子供の怪我が治るようにと思いを込めて、魔力を放出した。

子供の顔が恐怖から驚きの表情に変わっていった。

 

感想 269

あなたにおすすめの小説

「白い結婚だから息子は独身同然」ですか? お義母様、私たちまだ離縁しておりませんが 表紙

「白い結婚だから息子は独身同然」ですか? お義母様、私たちまだ離縁しておりませんが

 夫の再婚相手を募集する招待状が届いた。――差出人は義母。ちなみに、私はまだ妻である。 白い結婚を理由に、勝手に夫の再婚話を進める義母。 ところが調べてみると、令嬢たちから多額の準備金を集めていたことが発覚! 冷静で芯の強い妻クラリスと、実は妻を溺愛している公爵レオン。 夫婦で義母の企みを暴く、痛快ざまぁ&じれ甘異世界恋愛。
恋愛 完結 短編
文字数 30,175
義妹を優先した夫へ。引継書と離縁状を置いて去ります。二度と戻りません 表紙

義妹を優先した夫へ。引継書と離縁状を置いて去ります。二度と戻りません

貴族社会の政略結婚から三年。オルテシアは夫ゴドフロワから「愛嬌のない冷たい女」「義妹クラリーチェを見習え」と侮辱され、屋敷のすべての差配と借財の返済を押しつけられながら、冷遇に耐え続けていた。夫は血の繋がらない義妹の贅沢と我儘を際限なく甘やかし、ついにオルテシアの亡き母の形見である宝飾品までクラリーチェに与えてしまう。 心が完全に冷え切ったオルテシアは、感情を取り乱すこともなく、周到に準備を進めていた。夫と義妹が華やかな夜会へと出かけた夜、屋敷を完璧に整え、誰が見ても非の打ち所がない業務引継書と署名済みの離縁状を机に残し、夜闇に紛れて屋敷を去る。 身一つで自立を図るオルテシアを保護したのは、かつて窮地を救った隣国の冷徹大公カジミールだった。カジミールは彼女の類まれな差配の才と静かな気品を深く慈しみ、惜しみない敬意と甘い執着をもって彼女を溺愛し始める。 一方、オルテシアという「有能な土台」を失った伯爵家は、義妹の際限ない浪費と無能な夫の怠惰により、瞬く間に崩壊の一途をたどる。「いつでも頭を下げて戻ってくる」と高をくくっていたゴドフロワは、すべてを失って初めて自らの愚かさに気づき、狂乱状態でオルテシアを探し求める。しかし、再会した彼女の隣には、誰も逆らえぬ絶対的な庇護者カジミールがいた。さらに、義妹クラリーチェが抱えていた戦慄の正体と、夫が長年信じ込んでいた「思い出の少女」の真実が白日の下に晒される。
恋愛 完結 長編 R15
文字数 95,354
「君を愛することはない」と毎日言われたので、離縁の日だけは聞きに行きませんでした 表紙

「君を愛することはない」と毎日言われたので、離縁の日だけは聞きに行きませんでした

「君を愛することはない」 夫にそう言われながら、セシリアは一年間、二人分の夕食を用意して待ち続けた。 けれど、婚姻を継続するか決める前夜、夫は最後の約束まで破り、幼なじみと観劇へ出かけてしまう。 翌朝、セシリアは夫の書斎を訪ねず、不更新届を提出した。 慌てて差し出された更新証書にも、もう署名はしない。 私を待たせたあなたを、これ以上待つつもりはありません。 冷遇された妻が離縁を選び、自分の暮らしと新しい恋を手にする。
恋愛 完結 短編
文字数 17,086
悪役令嬢の末路 表紙

悪役令嬢の末路

政略結婚ではあったけれど、夫を愛していたのは本当。でも、もう疲れてしまった。 だから…いいわよね、あなた?
恋愛 完結 長編
文字数 76,987
10回目の婚約破棄。もう飽きたので、今回は断罪される前に自分で自分を追放します。二度と探さないでください(フリではありません) 表紙

10回目の婚約破棄。もう飽きたので、今回は断罪される前に自分で自分を追放します。二度と探さないでください(フリではありません)

「もう、疲れました。貴方の顔も見たくありません」 公爵令嬢リーゼロッテは、婚約者である王太子アレクセイに処刑される人生を9回繰り返してきた。 迎えた10回目の人生。もう努力も愛想笑いも無駄だと悟った彼女は、断罪イベントの一ヶ月前に自ら姿を消すことを決意する。 王城の宝物庫から慰謝料(国宝)を頂き、書き置きを残して国外逃亡! 目指せ、安眠と自由のスローライフ! ――のはずだったのだが。 「『顔も見たくない』だと? つまり、直視できないほど私が好きだという照れ隠しか!」 「『探さないで』? 地の果てまで追いかけて抱きしめてほしいというフリだな!」 実は1周目からリーゼロッテを溺愛していた(が、コミュ障すぎて伝わっていなかった)アレクセイ王子は、彼女の拒絶を「愛の試練(かくれんぼ)」と超ポジティブに誤解! 国家権力と軍隊、そしてS級ダンジョンすら踏破するチート能力を総動員して、全力で追いかけてきた!? 物理で逃げる最強令嬢VS愛が重すぎる勘違い王子。 聖女もドラゴンも帝国も巻き込んだ、史上最大規模の「国境なき痴話喧嘩」が今、始まる! ※表紙はNano Bananaで作成しています
恋愛 完結 短編
文字数 122,761
婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました 表紙

婚約者が他の女性に興味がある様なので旅に出たら彼が豹変しました

9歳の時お互いの両親が仲良しという理由から、幼馴染で同じ年の侯爵令息、オスカーと婚約した伯爵令嬢のアメリア。容姿端麗、強くて優しいオスカーが大好きなアメリアは、この婚約を心から喜んだ。 順風満帆に見えた2人だったが、婚約から5年後、貴族学院に入学してから状況は少しずつ変化する。元々容姿端麗、騎士団でも一目置かれ勉学にも優れたオスカーを他の令嬢たちが放っておく訳もなく、毎日たくさんの令嬢に囲まれるオスカー。 特に最近は、侯爵令嬢のミアと一緒に居る事も多くなった。自分より身分が高く美しいミアと幸せそうに微笑むオスカーの姿を見たアメリアは、ある決意をする。 そんなアメリアに対し、オスカーは… とても残念なヒーローと、行動派だが周りに流されやすいヒロインのお話です。
恋愛 完結 長編 R15
文字数 114,353
婚約者が挙式前日に私のウエディングドレスを愛人に着せ、コトに及んでいた 表紙

婚約者が挙式前日に私のウエディングドレスを愛人に着せ、コトに及んでいた

タイトル通りです。 婚約者が挙式前日に愛人に私が着るはずだったウエディングドレスを愛人に着せ、不貞行為に及んでいた事実を目撃してしまいました。
恋愛 完結 短編
文字数 108,535
悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜 表紙

悪役令嬢は推し活中〜殿下。貴方には興味がございませんのでご自由に〜

 公爵家令嬢のルーナ・フィオレンサは、輝く銀色の髪に、夜空に浮かぶ月のような金色を帯びた銀の瞳をした美しい少女だ。  当然のことながら王族との婚約が打診されるが、ルーナは首を縦に振らない。  どうやら彼女には、別に想い人がいるようで・・・
恋愛 完結 長編 R15
文字数 127,972