悪役令息に転生して絶望していたら王国至宝のエルフ様にヨシヨシしてもらえるので、頑張って生きたいと思います!

梻メギ

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第2章:幼少期・純愛編

第35話:【失望の果てに】

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「コレオプシス、リンドウ」


 ユーフォリアは改まったように二人の名を呼んだ。


「…俺はルピナスが望まなければ、この国を離れてもいいと思っている」


 放たれた言葉の内容に一同は血の気が引く感覚を覚えた。

 ルピナスが、もしも第二王子やショーテイジ伯爵を嫌い、このブバルディア王国に居たくないと望めばユーフォリアも共に国を出ていくということ。

 そうなってしまえば、ユーフォリアというエルフがいることでブバルディア王国に手を出さずにいた他国から目をつけられる可能性やユーフォリアを心酔する国民たちからの出ていくきっかけとなった王族や貴族に対する信用は地の底に落ちるだろう。

 コレオプシスは口の中がカラカラになるのを感じた。

 だが、このまま黙っている訳にはいかない。


「ユーフォリア様…お伝えするのが遅くなってしまいましたが、我が息子がユーフォリア様ならびにルピナス様に無礼を働きまして大変、申し訳ございませんでした。第二王子とショーテイジ伯爵のことやルピナス様を第二王子の誕生日会に非常識にも招待をしていたこと。本日ヤグルマギク教会へ無断で訪れ、真偽を確かめもせずルピナス様の御心を害するような発言を致しましたこと…心よりお詫び申し上げます。該当の貴族や関係者は処罰し、第二王子のダリアには再教育と相応の罰を与えますので何卒…お考え直しては、いただけないでしょうか……?」


 なるべく冷静に、だが真摯に言葉を重ねた。

 その様子をユーフォリアは、ただ黙って見つめている。


「…コレオプシス。君の気持ちは分かった。だがね、よく考えてみて欲しい。これが自身の立場で、この出来事が他国で起こったとしたら、どうだ?君はその国を、その後も信用することができるのかな。随分と虫がよすぎるとは思わないかい?」


 ユーフォリアの声は、その場に重々しく響いた。

 誰もが思った。

 そんなもの、信用できるわけがない。
 …都合が良すぎると。


「先程も言ったように俺は失望したんだ。お前たちは…もっとブバルディア王国の運営を上手く行えているのだと思っていた。だが、蓋を開けてみれば第二王子の教育や周りの環境に関しての詰めの甘さ、ショーテイジ伯爵家のような家の取り締まりが行えていない現状の悪さだ。加えて、そのような奴等の都合のいいように事が運んでしまっている体たらく。本来であれば国の責任者として、そういったことが起こるのを未然に防がなければならないのではないのか?」

「……ッ」

「未然に防ぐ為に貴族たちの特性を鑑みて様々な物事の調整を行うことが采配ではないのか?今まで国を持ったことのない俺に何が分かるのか、と思うかもしれないが何百年も人々の営みや情勢を、この目で見てきたし他国では口を挟むことになった経験もある。国の運営というのは、この部屋にいる少人数だけで行っているわけではないだろう?この国の運営体制が以前と変わっていないのなら大勢の人間が関わっている筈だ。なのに何故、未然に防ぐことが出来なかったのか。つまりは、そういったものが連携も機能もできていないということだ」


 リンドウは多くの痛いところを突かれて苦悶の表情を浮かべている。


「今までの俺であったなら、俺は俺で国は国と、ある種で関係がないと傍観していただろう。だが俺にはルピナスという運命の存在が現れた。俺は…ルピナスには心から幸せになって欲しいと望んでいる。ルピナスが傷ついたり嫌な目に遭う恐れのある国に俺はいられないんだ」


 ユーフォリアのルピナスに対する真っ直ぐな想いに、とてつもない意志の固さを感じた。

 そして、悟らざるを得なかった。

 今までユーフォリアの我々に対する優しさは信頼の証であるのと同時に一線を引かれていたからこそのものであったことを。

 ───加えて自分たちは、ユーフォリアの優しさに甘え過ぎていたのだと。


「話は以上だ。俺は…ルピナスの意思を尊重する」


 その言葉を最後にユーフォリアは、目の前から忽然と姿を消した。

 魔力圧が無くなり、コレオプシスとリンドウを背に庇っていた近衛は弾かれたように息を切らして膝をついた。


「……申しわけ、ござい…っません」

「いいんだ。私は立っていることすらできなかった。よく立っていられたものだ。守ってくれたこと感謝するよ」


 コレオプシスは疲れた顔で笑った。
 そして、一つ深く息を吸うと無理をして勢いよく、よろけつつも立ち上がった。


「私たちには、やらねばならないことがある。…たとえ、もう二度と信用していただけなかったとしても。ユーフォリア様から今まで頂いてきた恩に報いるべく我々の為すべきことをしよう」


 部屋にいた者たちは自国の王と倣うように立ち上がると力強く頷いたのだった。



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