Ｓランク冒険者クロードは吸血鬼に愛される

１話 異世界転生

　異世界に転生した。僕は貧乏な村出身で、黒髪黒目の地味な見た目だったけれど、なんとか頑張って生きてきた。そのおかげか、今ではＳランク冒険者として王都に住んでいる。

　悪くない人生だったと思う。ただ、成人した後も恋愛経験はない。いつか優しい女性と巡り会えたら嬉しいと願っている。

「でも、今ここで僕は死にそうだ」

　現在ダンジョンの奥底で自分は倒れてしまっている。強いドラゴンをやっつけたものの、自分も大怪我を負ってしまい動けない。

「回復魔法薬を飲んでも治りが悪い。出血は止まらない」

　おかげで辺り一面血まみれだ。血液の匂いを嗅ぎつけて、他のモンスター達が襲ってくるのも時間の問題だろう。

　諦めて目を閉じる。ああ、もう少し生きたかった。もっと戦いたかったし、恋もしてみたかった。

「しっかりしろ。大丈夫か」

　誰かの声が聞こえる。目を開けると、そこには銀色の髪と瞳をもつ美青年が立っていた。人間とは思えないほど綺麗な見た目をしている。

　もしかして、ノアという人物だろうか。Ｓランク冒険者の中でも一番強いと噂されているすごい人だ。

「僕のことは見捨ててくれ。回復魔法薬を飲んだけれど、助かりそうにない」

　あわてて伝える。ダンジョン内で他人を助けようとして死ぬ冒険者はとても多い。だから、冒険者ギルドも『無理に人命救助しないでください。まずは自分の安全を確保しましょう』と言っている。

　ノアが僕を助けようとしたら、僕という足手まといを背負うことになる。つまり、ノアの死ぬ可能性が上がってしまう。そんなことは絶対駄目だ。

「吸血鬼の眷属になる方法なら生き延びられるが、クロードは人間でなくなっても構わないか」

　ノアが何か言ってくる。僕の名前がクロードだって知っていたんだ。ノアみたいなすごい人に覚えてもらえていただなんて嬉しいな。

　というか、吸血鬼の眷属ってなんだ。人間でなくなるって、よく分からない。ああもう、頭がぼんやりしてきてうまく考えられない。

「いいよ」

　とりあえず同意しつつも眠くなってきた。寝たらもう起きられないだろうな。このまま死にそうだ。

「分かった。僕はクロードを助けよう」

　ノアが決心したように言って、なぜか口付けてくる。そして、口移しで何かを飲ませてきた。鉄っぽい味だ。これは血液だろうか。

　そういえば、昔読んだ絵本の中に吸血鬼のことが書いてあった。吸血鬼が人間を眷属にするとき、吸血鬼の血液を人間に飲ませるらしい。

　まさか、ノアが吸血鬼だなんてことはないよな。珍しい吸血鬼が身近に潜んでいたなんてファンタジーすぎるだろう。ああでも、ここは異世界だから割となんでもあり得るな。

　ノアはキスが終わった後、僕の身体をお姫様抱っこして運ぼうとしてきた。なんでそんなことをするんだ。

「僕は置いていってほしい。だって、僕を抱えてながらの戦闘なんて難しいだろう。ノアが危険にさらされるなんて嫌だよ。他人を巻き込んで死なせたくない」

　僕は止めようとした。でも、ノアは優しい笑みを浮かべて言った。

「問題ない。前から僕はクロードのことが気に入っていたんだ。だから、勝手に助けるぞ」

　ノアがわがままを押し通してくる。ああ。これが強者の余裕ってやつか。うらやましい。僕もそんな風に強くなりたかった。