Sランク冒険者クロードは吸血鬼に愛される

あさざきゆずき

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2話 眷属化

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 そのままノアは無傷でダンジョンから出た。辺りはすっかり暗くなっていて、空には月が浮かんでいる。その頃には僕の体調もずいぶん良くなっていた。

 いや、おかしい。僕は致命傷を負ったはずだ。なんで傷の治りがこんなに早いんだ。傷口を触ってみると、もうほとんど完治しているように思えた。いくら回復魔法薬を飲んだとはいえ、効き目がこんなにすごいはずもない。

「ノアのおかげで怪我がだいぶ良くなったみたいだ。本当にありがとう。もう歩けそうだから、ここで降ろしてほしい」

 僕がそう伝えると、ノアは安心したように微笑んでくれた。

「それは良かった。ただ、今クロードが無理をすると傷口がまた開く可能性も高い。このままクロードを王都まで送ろう」
 
 ノアは優しく言ってくれる。なんか申し訳ないな。

「でも、迷惑じゃないかな。ここに僕を置いていってくれていいんだよ」

 そう伝えたけれど、ノアはお姫様抱っこをやめようとはしなかった。

「いいや。クロードのことが心配だ。このまま僕がクロードを抱きかかえていきたい。それに、ダンジョンの外にもモンスターがうろついていることはある。手負いのクロードが、モンスターに襲われて亡くなってしまうのは嫌だ」

 ノアはとてもいい人だなあ。いや、人間なんだろうか。ノアは吸血鬼なのかな。よく分からない。

 ノアに連れられて王都へ向かう途中、ふと違和感を覚えた。何か変な感情が湧き上がってくる。食欲みたいな感じだ。いや、食べたいというよりも、食べられたい。ノアに首筋を噛まれて血液を吸われたい。もしくは、ノアとキスを交わしたい。

 おかしいだろ。僕の恋愛対象は女性なのに、なぜかノアのことがだんだん愛しくなっていく。ノアに助けられたから恋してしまった、というわけでもなさそうだ。もっと本能的に突き動かされる何かがある。例えるならそう、まるで惚れ薬でも飲まされたかのような感覚だ。

「ノア。移動中に変なことを聞いて申し訳ないんだけれど、確認させてほしいことがある。ノアは吸血鬼で、僕は眷属になったということで合っているのかな。もしそうなら、僕の身体はどう変化していくんだろう」

 僕の質問を受けて、ノアが少し困ったような表情を浮かべた。そのまま、ノアは立ち止まって説明を始めてくれた。

「クロードの認識で合っている。僕は吸血鬼で、クロードを眷属にした。人間が眷属になると不老長寿となり、魔力や身体能力の向上が認められる。怪我に対する自然治癒能力も上がるため、先程のような死にかけのクロードが一気に回復したと思われる。眷属になるデメリットとしては太陽の光に弱くなることだが、体調が少し悪くなるくらいで、死ぬほどではない。あと、眷属は吸血鬼に好意を抱きやすくなるとは言われている」

 ノアの言うことが信じられない。でも、自分の本能が強く訴えかけてくる。ノアに血を吸われたくて仕方がない。自分は眷属で、ノアは尽くすべき吸血鬼だと感じる。

「説明してくれてありがとう。ところで、吸血鬼が人間を眷属にするメリットは何なのかな。ノアは僕の命を救うために眷属化したことは分かったけれど、それ以外の一般的な理由を教えてほしい」

 ああ、僕は何を聞き出そうとしているのだろう。ノアを質問攻めしたいわけじゃないのに。

「吸血鬼の食事の確保として人間を眷属にすることが、一般的な理由だと思われる。一人の人間から血液をもらい続けた方が、情報漏えいや病気感染などのリスクも低く済むからだ」

 ノアはそう言って、困ったように見つめてきた。その銀色の瞳には、食欲や興奮も少し入り混じっているように見えた。そんな目で見られるとゾクゾクしてしまう。自分がおかしくなっていく。

「そっか。じゃあ、今僕がノアに血液を吸われたいと思っていることは変じゃないよね。僕はノアに噛まれたいし食べられたいな」

 甘ったるく言って、ノアにすり寄ってみる。実際、自分の本能が抑えられないのは確かだった。ノアに僕の血をいっぱい吸ってもらいたい。そのためなら何をしたっていい。そんな気持ちがあふれていく。

「いいや。今はやめておく。なぜなら、先程クロードは怪我で大量出血したところだからだ。そんな体調の悪いクロードの血を吸ってしまうのは、クロードの健康上よくない。僕はクロードに死んでほしくないからな」

 ノアはとても優しいな。人外にもこんな素敵な存在がいるだなんて思いもしなかった。

 でも、個人的にはつらい。無理矢理我慢させられているような生殺し感が半端ない。このまま発情しそうなくらいには本能がおかしくなっている。

「分かったよ。僕が元気になったら、血液を吸ってね」
 
 そう言ってみたものの、身体がどんどん熱くなっていく。ノアにお姫様抱っこされながら、僕の意識はどんどん溶けていく。やばい。頭が変になる。

 そのままノアが僕を王都の家まで送り届けてくれたけれど、僕はノアと離れたくなかった。
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