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8話 花束
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翌朝、魔王城を歩き回ることになった。ギャレットがとっても嬉しそうだ。
「俺はダレンと恋人つなぎをして歩きたい。ダレンの左手を握りたいんだ。婚約指輪をしてくれている素敵な手を愛でたい」
ギャレットが寒気のすることを言ってくる。当然、僕に拒否権なんかない。
「かしこまりました」
僕が同意して左手を差し出すと、ギャレットが強引に引っ張ってきた。そのまま指を力強く絡め取られる。肌の密着している感覚がとても気持ち悪い。こんな状態で歩き回るなんて、夜の営みより嫌かもしれない。
「さあ行こう。俺達は結婚を約束した幸せなカップルだと、魔王城のみんなに知らしめるぞ」
ギャレットが無邪気そうに言う。ギャレットはとても美しい顔立ちなのに、とても歪んだ表情に見えるのはなぜだろう。
そんなギャレットと一緒に部屋から出る。廊下にいる魔物達がこちらを見てくる中、僕達はゆっくり歩いていった。
「魔王ギャレット様が勇者ダレンと結婚するって噂は本当なのか。人間なんて敵なんだから、ダレンをとっとと殺せよ。それに、ダレンは男だから妊娠しないぞ。子どもを産む道具にすらなれないなら、ダレンの存在価値なんかないだろ」
どこからか魔物達の怒鳴り声が飛んでくる。この世界で人間と魔物は敵対しがちなので、予想できたヤジだった。
「魔王ギャレット様が勇者ダレンを去勢したって噂、あれガチらしいな。しかも、ギャレットはダレンを夜のオモチャとして毎日使っているらしいぞ。人間は老けるのも早いけどいいのかな。ダレンなんかすぐ年老いて汚くなくなるぞ。そうしたら、ギャレット様はダレンをあっさり捨てるんだろうな。婚約するほどの愛なんて言っても、所詮そんなものだろ」
魔物達のあざ笑う声も聞こえてくる。僕が去勢されたことや毎晩犯されていることを、多くの魔物達は知っているらしい。嫌だな。そんなことを知られたくはなかった。恥ずかしいし情けない。今すぐに消えてしまいたかった。
「でもさあ。魔王ギャレット様も悪いよな。勇者ダレン相手でもさすがにやりすぎだ。魔物王国と人間王国の国交を保とうと、一部の魔物達は頑張っていたんだぞ。それなのに、ギャレット様のワガママで全部丸潰れだ。ギャレット様は強いドラゴン族だからワガママも許されてきたけれど、さすがに駄目だろ。しかも、ギャレットは人間達を滅ぼす計画まで立てているらしい。人間王国にはいい人材がたくさんいるんだし、うまく利用していけばいいのにな」
そんな声も聞こえてきた。どうやら、ギャレットに不満を持っている魔物もいるらしい。
魔物達がざわめく中、一人の男性が出てきた。紫色の髪と瞳をした美青年だった。人間のような見た目をしているけれど、目がヘビのように怖いので、恐らく魔物の一種だろう。
「魔王ギャレット様。ご婚約おめでとうございます。お祝いの花束をお渡ししたいのですがよろしいでしょうか」
その美青年は嘘くさい笑みを浮かべて言った。紫色のバラの花束を手にしているけれど、バラの数が十七本に見えるのは気のせいだろうか。前世と同じ花言葉なら、十七本のバラは絶望的な愛、とかじゃなかったっけ。
この世界には異世界転生者が何人かいると噂に聞くから、前世の文化が一部流れ込んできている。だから、花言葉も同じである可能性はある。
「ニコラス。その花束から毒の香りが漂ってきているが、おおかた毒液魔法でもかけたのだろう。それに、花の隙間から刃物の輝きが見えているぞ。その花束の中にナイフでも仕込んであるのか」
ギャレットは呆れたように言った。確かに、ニコラスの持つ花束をよく見ると、ナイフがチラ見えしている。
「話に乗ってくれてもいいじゃないですか。これは魔物流のジョークってやつですよ。ギャレット様にはユーモアが足りませんね」
ニコラスは諦めたように言って笑い、花束を放り投げた。花束が勢いよく舞い落ちる。まるでブーケトスみたいだ。
もちろん誰も花束を拾おうとはしなかった。けれど、花束が床に落ちた瞬間、廊下にいた魔物達が武器を構え出した。花束が落ちるのは、戦闘開始の合図として決められていたのだろうか。
「ギャレット様を囲んだぞっ。みんな行けっ。ギャレット様を倒すんだっ」
魔物達が雄叫びを上げ始める。ギャレットは苛立った表情を浮かべ、僕の手を離した。
そして、ギャレットは炎魔法を唱え始める。ギャレットは魔王だけあって、魔法の威力は絶大だ。周囲の魔物達は簡単に焼き払われていく。
でも、これだけ大勢の魔物が相手だと、ギャレットでもすぐには焼き尽くせないようだった。これはチャンスかもしれない。
戦場化した廊下で、先ほどの花束を見つけ、僕は拾い上げることに成功した。そして、ギャレットの背後にこっそりと近づく。
ギャレットは目の前の戦闘に夢中で、僕の行動に気づいていない。だから、僕は花束を両手で握りしめ、ギャレットの背中に向かって、花束を思いっきり押し付けた。花束内のナイフの突き刺さる感覚がする。
「何をする」
ギャレットが鋭い声をあげて振り向き、僕の顔を見た。そして、ギャレットが固まった。ギャレットは信じられないという目をして、口元が少し震えていた。
「家族の仇討ちだ」
僕はそう言って、ギャレットを睨みつけた。すると、ギャレットは泣きそうな顔で笑って、僕の首を思いっきり絞めてきた。気道を圧迫されて息ができない。
そのまま、ギャレットは僕を床に押し倒してきた。このままじゃ駄目だ。ギャレットはまだ生きている。トドメを刺さないといけない。
そう思っていたら、ニコラスがやってきた。ニコラスは持っていた剣を素早く振るい、ギャレットの首を綺麗にはねた。ギャレットの悲しそうな笑顔の浮かんだ生首が飛んでいき、血液は噴水のように噴き上がった。ギャレットの血液は僕を汚し、床や天井まで赤色で染めていく。
ギャレットの首は切り離されたのに、ギャレットの指先は僕の首を絞め続けていた。その指をなんとか引き剥がしたけれど、ギャレットの手に生温かい体温がまだ残っていて、とてつもなく気持ち悪かった。
「勇者ダレン様。ご協力ありがとうございます。おかげで魔王ギャレット様を倒すことができました」
ニコラスは楽しそうに言って笑い、剣をこちらに向けてくる。ああ、きっと僕もこのまま殺されるんだろう。それでいいや。家族の仇を討てたし、これでもう満足だ。
「こちらこそありがとうございました。どうぞ僕を殺してください」
そう言って、僕は目を閉じてみる。なんだか疲れた。このまま眠りたい。
「ダレン様は簡単に死なせませんよ。あなたには利用価値がありますから。ほら、ダレン様を保護して人質扱いすれば、人間王国との交渉材料にも使えますし。他にも色々とメリットがあるのです」
ニコラスが意地の悪いことを言ってくる。勘弁してくれ。これ以上何も求めてくるな。
「俺はダレンと恋人つなぎをして歩きたい。ダレンの左手を握りたいんだ。婚約指輪をしてくれている素敵な手を愛でたい」
ギャレットが寒気のすることを言ってくる。当然、僕に拒否権なんかない。
「かしこまりました」
僕が同意して左手を差し出すと、ギャレットが強引に引っ張ってきた。そのまま指を力強く絡め取られる。肌の密着している感覚がとても気持ち悪い。こんな状態で歩き回るなんて、夜の営みより嫌かもしれない。
「さあ行こう。俺達は結婚を約束した幸せなカップルだと、魔王城のみんなに知らしめるぞ」
ギャレットが無邪気そうに言う。ギャレットはとても美しい顔立ちなのに、とても歪んだ表情に見えるのはなぜだろう。
そんなギャレットと一緒に部屋から出る。廊下にいる魔物達がこちらを見てくる中、僕達はゆっくり歩いていった。
「魔王ギャレット様が勇者ダレンと結婚するって噂は本当なのか。人間なんて敵なんだから、ダレンをとっとと殺せよ。それに、ダレンは男だから妊娠しないぞ。子どもを産む道具にすらなれないなら、ダレンの存在価値なんかないだろ」
どこからか魔物達の怒鳴り声が飛んでくる。この世界で人間と魔物は敵対しがちなので、予想できたヤジだった。
「魔王ギャレット様が勇者ダレンを去勢したって噂、あれガチらしいな。しかも、ギャレットはダレンを夜のオモチャとして毎日使っているらしいぞ。人間は老けるのも早いけどいいのかな。ダレンなんかすぐ年老いて汚くなくなるぞ。そうしたら、ギャレット様はダレンをあっさり捨てるんだろうな。婚約するほどの愛なんて言っても、所詮そんなものだろ」
魔物達のあざ笑う声も聞こえてくる。僕が去勢されたことや毎晩犯されていることを、多くの魔物達は知っているらしい。嫌だな。そんなことを知られたくはなかった。恥ずかしいし情けない。今すぐに消えてしまいたかった。
「でもさあ。魔王ギャレット様も悪いよな。勇者ダレン相手でもさすがにやりすぎだ。魔物王国と人間王国の国交を保とうと、一部の魔物達は頑張っていたんだぞ。それなのに、ギャレット様のワガママで全部丸潰れだ。ギャレット様は強いドラゴン族だからワガママも許されてきたけれど、さすがに駄目だろ。しかも、ギャレットは人間達を滅ぼす計画まで立てているらしい。人間王国にはいい人材がたくさんいるんだし、うまく利用していけばいいのにな」
そんな声も聞こえてきた。どうやら、ギャレットに不満を持っている魔物もいるらしい。
魔物達がざわめく中、一人の男性が出てきた。紫色の髪と瞳をした美青年だった。人間のような見た目をしているけれど、目がヘビのように怖いので、恐らく魔物の一種だろう。
「魔王ギャレット様。ご婚約おめでとうございます。お祝いの花束をお渡ししたいのですがよろしいでしょうか」
その美青年は嘘くさい笑みを浮かべて言った。紫色のバラの花束を手にしているけれど、バラの数が十七本に見えるのは気のせいだろうか。前世と同じ花言葉なら、十七本のバラは絶望的な愛、とかじゃなかったっけ。
この世界には異世界転生者が何人かいると噂に聞くから、前世の文化が一部流れ込んできている。だから、花言葉も同じである可能性はある。
「ニコラス。その花束から毒の香りが漂ってきているが、おおかた毒液魔法でもかけたのだろう。それに、花の隙間から刃物の輝きが見えているぞ。その花束の中にナイフでも仕込んであるのか」
ギャレットは呆れたように言った。確かに、ニコラスの持つ花束をよく見ると、ナイフがチラ見えしている。
「話に乗ってくれてもいいじゃないですか。これは魔物流のジョークってやつですよ。ギャレット様にはユーモアが足りませんね」
ニコラスは諦めたように言って笑い、花束を放り投げた。花束が勢いよく舞い落ちる。まるでブーケトスみたいだ。
もちろん誰も花束を拾おうとはしなかった。けれど、花束が床に落ちた瞬間、廊下にいた魔物達が武器を構え出した。花束が落ちるのは、戦闘開始の合図として決められていたのだろうか。
「ギャレット様を囲んだぞっ。みんな行けっ。ギャレット様を倒すんだっ」
魔物達が雄叫びを上げ始める。ギャレットは苛立った表情を浮かべ、僕の手を離した。
そして、ギャレットは炎魔法を唱え始める。ギャレットは魔王だけあって、魔法の威力は絶大だ。周囲の魔物達は簡単に焼き払われていく。
でも、これだけ大勢の魔物が相手だと、ギャレットでもすぐには焼き尽くせないようだった。これはチャンスかもしれない。
戦場化した廊下で、先ほどの花束を見つけ、僕は拾い上げることに成功した。そして、ギャレットの背後にこっそりと近づく。
ギャレットは目の前の戦闘に夢中で、僕の行動に気づいていない。だから、僕は花束を両手で握りしめ、ギャレットの背中に向かって、花束を思いっきり押し付けた。花束内のナイフの突き刺さる感覚がする。
「何をする」
ギャレットが鋭い声をあげて振り向き、僕の顔を見た。そして、ギャレットが固まった。ギャレットは信じられないという目をして、口元が少し震えていた。
「家族の仇討ちだ」
僕はそう言って、ギャレットを睨みつけた。すると、ギャレットは泣きそうな顔で笑って、僕の首を思いっきり絞めてきた。気道を圧迫されて息ができない。
そのまま、ギャレットは僕を床に押し倒してきた。このままじゃ駄目だ。ギャレットはまだ生きている。トドメを刺さないといけない。
そう思っていたら、ニコラスがやってきた。ニコラスは持っていた剣を素早く振るい、ギャレットの首を綺麗にはねた。ギャレットの悲しそうな笑顔の浮かんだ生首が飛んでいき、血液は噴水のように噴き上がった。ギャレットの血液は僕を汚し、床や天井まで赤色で染めていく。
ギャレットの首は切り離されたのに、ギャレットの指先は僕の首を絞め続けていた。その指をなんとか引き剥がしたけれど、ギャレットの手に生温かい体温がまだ残っていて、とてつもなく気持ち悪かった。
「勇者ダレン様。ご協力ありがとうございます。おかげで魔王ギャレット様を倒すことができました」
ニコラスは楽しそうに言って笑い、剣をこちらに向けてくる。ああ、きっと僕もこのまま殺されるんだろう。それでいいや。家族の仇を討てたし、これでもう満足だ。
「こちらこそありがとうございました。どうぞ僕を殺してください」
そう言って、僕は目を閉じてみる。なんだか疲れた。このまま眠りたい。
「ダレン様は簡単に死なせませんよ。あなたには利用価値がありますから。ほら、ダレン様を保護して人質扱いすれば、人間王国との交渉材料にも使えますし。他にも色々とメリットがあるのです」
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