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第一章
第十二話
しおりを挟む「アルヴェイン殿下、また神殿の者たちが、神子の身柄を渡せと打診してきました」
部下の報告に、アルヴェインは小さく息を吐いた。
その声音だけで、どれほど強い圧がかけられているのかが分かる。
もはや単なる「打診」ではない。明確な催促――いや、警告に近いものだった。
神殿の人間たちは、サクを神子として認めていない。
それどころか、心の底から「偽物」だと断じ、強い憤りすら抱いている。
アルヴェインには、それがはっきりと理解できていた。
彼らが信仰しているのは、神子という存在そのものだ。
正確には、彼らが思い描く「正しい神子」であり、伝統の枠から外れた存在は、最初から神子ではない。
サクという存在そのものが、彼らにとっては冒涜だった。
だから神殿は、サクを「救うべき存在」とは考えていない。
むしろ、神子召喚という神聖な儀式を穢した異物――排除すべき存在だと捉えている。
彼らの要求の根底にあるのは、国の安定ではない。
信仰を汚されたことへの、純粋な怒りだった。
神殿側の主張は一貫している。
召喚陣を保有しているのは神殿であり、ゆえに神子は神殿に引き渡されるべきだ、というものだ。
確かに、これまで召喚された神子たちは王妃となり、結果として王宮側の人間となってきた。
だが、サクはまだ王妃ではない。
その点に限って言えば、神殿の主張は間違いではなかった。
それでも、こちらとしてもサクを渡すわけにはいかなかった。
神殿のもとへ引き渡せば、その結末がどうなるかは、考えるまでもない。
そもそも、彼を召喚したのは自分だ。
アルヴェインはその一点を拠り所に、サクは自身の管理下にあると主張し続けてきた。
さらに、元の世界へ戻す可能性を探るためにも、サクは王宮に置くべきだと訴えている。
召喚陣こそ神殿の所有物だが、その研究を進める術師も、歴代神子の残した手記も、すべて王宮の管理下にある。
現状において、彼を守り、かつ未来を探れるのは、王宮しか存在しなかった。
だが、それも時間の問題だった。
そもそも、サクを生かすのか、それとも殺すのか。
当初は、さすがに罪のない人間を処刑することは許されない、という倫理的な意見が大勢を占めていた。
しかし、時間が経つにつれて、王宮内にも焦りが生まれ始めている。
原因は、国民だった。
本来、神子の召喚には長い時間を要する。
半年、長ければ一年ほどかかった例もある。
アルヴェインの一度目の召喚が成功したこと自体、異例中の異例だった。
そのため、国民には未だ「召喚は成功していない」と公表されている。
だが、それを永遠に隠し通せるわけではない。
神子は、この国にとって平和の象徴だ。
あまりに時間がかかれば、当然不安は広がる。
そして、その責任を問われるのは王宮の人間だ。
それでも――
サクを処刑するなど、アルヴェインには到底受け入れられなかった。
「わかった。これから向かうと伝えてくれ。それと、例の件は進んでいるか」
「かしこまりました。はい、そちらの件も進んでおります」
「……早急に頼む」
そう言って、アルヴェインは静かに立ち上がる。
たとえサク自身が死を受け入れようとも、
自分だけは――必ず彼を生かす。
その決意だけは、揺らぐことがなかった。
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