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ep.4-2 Buddy
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雲ひとつない快晴の空から、眩しい朝日が降り注ぐ。季節はすっかり冬らしさを帯び、銀杏の枯葉が道路脇を埋め尽くしている。
「ふぁぁああ……」
「おっ、見事なあくびですねぇ」
「茶化さないでよ葵」
葵が私の顔を覗き込みながら微笑む。表情にはからかいと共に、ほんのりとした優しさも込められていた。
「iARTSっての、もっと非現実的でSFチックだと思ってたんだけどなぁ」
「それがさ?毎日めっちゃ忙しくてさ?大変なんだよね」
「ロボットに乗って戦うだけじゃないの?」
「……ドールユニット」
強めの語気で1字ずつ訂正する。
「私、どうしてもドールユニットでユズに勝てなくてさ。いっつも撃破されるんだよね」
「あはは、スクラップ祭りか……」
「もうちょっと手加減してくれてもいいんだけどね」
私は立ち止まり、ふと自分の左手を見つめた。
――どうしたら、もっと上達するんだろう?
このごろ考えてることといえば、そればかりだ。
理屈では理解できない動き、迷いのない判断。何度挑んでも、そのたびに叩き落とされて終わる。
――私、全然強くない……。
「うん?どした?」
「ううん、なんでもない」
私は小さく息を吐き、再び歩き出した。葵が「あっ、そうだ」と間の抜けた声を出す。
「そういえばさ、今日転校生が来るんだって」
「うちのクラスに?」
「それは分からないけど、なんかめっちゃ独特な髪の人なんだって」
「へえ」
この手の学校の噂は大体当たる。おそらく、転校生の話も本当なんだろう。
「仲良くなれるといいね」
「うん」
葵の声かけに相槌を返す。自然と、足音が軽くなった気がした。
もうすぐ朝礼の始まる教室内は、いつにも増して騒がしかった。この時期にしては珍しい転校生の話題に、男女問わず大盛り上がりだ。
「やっぱりこのクラスに来るのかな?」
椅子の背もたれの上から葵が体を振り向かせる。その目はどことなくキラキラしている気がした。確かに、私の後ろの席が空いている。
「それかテストだったりして」
「うっ……それは勘弁っ」
洒落にならない冗談に、葵はオーバーに顔をしかめた。私の口角が緩む。
やがてチャイムが鳴り、先生が室内に入るとざわめきは途端に止んだ。見ると、いつもと違う色の資料を脇に挟んでいる。
「起立!礼!おはようございます!」
クラス委員の案内に合わせて、皆が挨拶を唱える。朝らしい、いつもの光景。
――だが。
「今日は大事な話があります。うちのクラスに転校生が来ることになりました」
その一言に、クラス中の瞳が色めき立った。
誰だろう?女かな?男かな?そんな期待の声が漏れ出るようだった。
「さあ、入って」
「はい」
――聞き慣れた声だ。
胸の奥がざわつく。え?いやいや、まさか。そんな疑念が頭の中に溢れる。
簡潔に言うと、その疑念は見事的中した。
扉から入ってきた少女――レモンイエローの結んだ髪に、軽やかな足取り。整った顔つき。
聖堂優月が、そこにはいた。
「それじゃあ、自己紹介を」
「聖堂優月です!ユズって呼んでください!」
ペコリと腰を曲げる優月。その仕草ひとつひとつが、見慣れたものだった。
私は、ただ呆然と彼女を見つめることしかできない。
視線は縫い止められたように外れず、思考だけが遅れて追いついてくる。
「ねえ、もしかしてユズって……」
葵の声が、前から小さく漏れた。私は両目を右手で覆い、
「う、うん……あの子……」
漏らすように小さな声で答えた。
「じゃあ、聖堂さん。あなたの席はあそこね」
「分かりました!」
先生が指さした席に、優月は跳ねるように向かう。
「杏子ちゃん!よろしくね!」
おそらく本心からそう言った優月を、私は直視できなかった。
昼休み。
チャイムが鳴るや否や、教室の空気が一気に弾けた。気がつけば、クラス中の女子が優月の席を取り囲んでいる。
「ねえ、その髪って染めたの?」
「前の学校ってどんな感じだったの?」
「ユズって呼んでいいの?」
そんな質問が数多の口から飛び交う。それを尻目に、私は気まずそうに弁当に箸を入れる。
――なんで?なんで!?
そんな疑問にも似た叫びが口から飛び出しそうになるのを、私は堪えるしかなかった。
「優月ちゃん、思ったよりかわいいじゃん」
葵がわざと明るく茶化すような笑みを浮かべた。
「全く笑い事じゃないんですけど」
「まあいいじゃん、ロボットの話もできるし」
「うう……そうだけど……」
その時だった。ちゃん付けの名前が私の耳をくすぐった。
「杏子ちゃん!ちょっといいかしら?」
「は……はい!」
無駄に恐縮した声に葵が我慢できずに吹き出す。
「あ、あの……葵も連れてっていい?」
「杏子ちゃんの友達?いいよ!」
私は優月の提案に条件付きで応えた。
校庭端にある大木の下、昼休みでも滅多に人の来ない、静かな場所。その木陰に、私たち3人は並んで立っている。
「へぇ、前の学校にこんな場所はなかったなぁ」
興味深そうに大木を見つめる優月。それをからかいたがる葵。そして、疑問をぶつけられずにいる私。そんなちぐはぐな3人。
けれども、しかし、でも。そんな接続詞が頭を舞う。どうしたら聞き出せるのか、そもそも聞き出していいのか?
そう思っていた時だった。
「ユズちゃんってなんでこの学校に来たの?」
「え?」
「いや、なんか目的があるのかなぁって」
葵がまるで代弁するかのように問いかける。
「ああ……これって言っていいのかな?」
私は俯いたまま、軽く首を縦に振る。どこか、諦めに似た感情が溜まる。
「杏子ちゃんに……会うため、かな?」
「杏子に?」
「そう!実は私たちってiARTSっていう秘密の機関に所属してて、どうせなら一緒にいたほうがいいかなぁと思って。杏子ちゃんも、学校に来ていいって言ってたし」
体がビクッと動く。
――ああ、確かに言ったなぁ……。
「そうなんだ!実はね、私もiARTSのことは杏子から聞いてたんだ!ロボットに乗ってることも」
「そうなの?じゃあ仲間だね!」
「うん!」
優月と葵がガシッと握手する。初対面とは思えないほど息が合っていて、見ているこちらが置いていかれそうになる。
「それじゃあさ、なんか名前決めないとだよね!」
「え、名前? 面白そう!」
葵の何気ない一言に、優月が楽しそうに身を乗り出す。話題はすっかり、次の段階へと進んでいた。
「なら……ロボット部……とかどう?」
「部ってほど大きくないでしょ」
「じゃあ、金原高校ロボット同好会!」
「うーん、採用!」
葵が満足そうに、親指を立てた。私は勢いに圧倒されるばかりだった。
「ふぁぁああ……」
「おっ、見事なあくびですねぇ」
「茶化さないでよ葵」
葵が私の顔を覗き込みながら微笑む。表情にはからかいと共に、ほんのりとした優しさも込められていた。
「iARTSっての、もっと非現実的でSFチックだと思ってたんだけどなぁ」
「それがさ?毎日めっちゃ忙しくてさ?大変なんだよね」
「ロボットに乗って戦うだけじゃないの?」
「……ドールユニット」
強めの語気で1字ずつ訂正する。
「私、どうしてもドールユニットでユズに勝てなくてさ。いっつも撃破されるんだよね」
「あはは、スクラップ祭りか……」
「もうちょっと手加減してくれてもいいんだけどね」
私は立ち止まり、ふと自分の左手を見つめた。
――どうしたら、もっと上達するんだろう?
このごろ考えてることといえば、そればかりだ。
理屈では理解できない動き、迷いのない判断。何度挑んでも、そのたびに叩き落とされて終わる。
――私、全然強くない……。
「うん?どした?」
「ううん、なんでもない」
私は小さく息を吐き、再び歩き出した。葵が「あっ、そうだ」と間の抜けた声を出す。
「そういえばさ、今日転校生が来るんだって」
「うちのクラスに?」
「それは分からないけど、なんかめっちゃ独特な髪の人なんだって」
「へえ」
この手の学校の噂は大体当たる。おそらく、転校生の話も本当なんだろう。
「仲良くなれるといいね」
「うん」
葵の声かけに相槌を返す。自然と、足音が軽くなった気がした。
もうすぐ朝礼の始まる教室内は、いつにも増して騒がしかった。この時期にしては珍しい転校生の話題に、男女問わず大盛り上がりだ。
「やっぱりこのクラスに来るのかな?」
椅子の背もたれの上から葵が体を振り向かせる。その目はどことなくキラキラしている気がした。確かに、私の後ろの席が空いている。
「それかテストだったりして」
「うっ……それは勘弁っ」
洒落にならない冗談に、葵はオーバーに顔をしかめた。私の口角が緩む。
やがてチャイムが鳴り、先生が室内に入るとざわめきは途端に止んだ。見ると、いつもと違う色の資料を脇に挟んでいる。
「起立!礼!おはようございます!」
クラス委員の案内に合わせて、皆が挨拶を唱える。朝らしい、いつもの光景。
――だが。
「今日は大事な話があります。うちのクラスに転校生が来ることになりました」
その一言に、クラス中の瞳が色めき立った。
誰だろう?女かな?男かな?そんな期待の声が漏れ出るようだった。
「さあ、入って」
「はい」
――聞き慣れた声だ。
胸の奥がざわつく。え?いやいや、まさか。そんな疑念が頭の中に溢れる。
簡潔に言うと、その疑念は見事的中した。
扉から入ってきた少女――レモンイエローの結んだ髪に、軽やかな足取り。整った顔つき。
聖堂優月が、そこにはいた。
「それじゃあ、自己紹介を」
「聖堂優月です!ユズって呼んでください!」
ペコリと腰を曲げる優月。その仕草ひとつひとつが、見慣れたものだった。
私は、ただ呆然と彼女を見つめることしかできない。
視線は縫い止められたように外れず、思考だけが遅れて追いついてくる。
「ねえ、もしかしてユズって……」
葵の声が、前から小さく漏れた。私は両目を右手で覆い、
「う、うん……あの子……」
漏らすように小さな声で答えた。
「じゃあ、聖堂さん。あなたの席はあそこね」
「分かりました!」
先生が指さした席に、優月は跳ねるように向かう。
「杏子ちゃん!よろしくね!」
おそらく本心からそう言った優月を、私は直視できなかった。
昼休み。
チャイムが鳴るや否や、教室の空気が一気に弾けた。気がつけば、クラス中の女子が優月の席を取り囲んでいる。
「ねえ、その髪って染めたの?」
「前の学校ってどんな感じだったの?」
「ユズって呼んでいいの?」
そんな質問が数多の口から飛び交う。それを尻目に、私は気まずそうに弁当に箸を入れる。
――なんで?なんで!?
そんな疑問にも似た叫びが口から飛び出しそうになるのを、私は堪えるしかなかった。
「優月ちゃん、思ったよりかわいいじゃん」
葵がわざと明るく茶化すような笑みを浮かべた。
「全く笑い事じゃないんですけど」
「まあいいじゃん、ロボットの話もできるし」
「うう……そうだけど……」
その時だった。ちゃん付けの名前が私の耳をくすぐった。
「杏子ちゃん!ちょっといいかしら?」
「は……はい!」
無駄に恐縮した声に葵が我慢できずに吹き出す。
「あ、あの……葵も連れてっていい?」
「杏子ちゃんの友達?いいよ!」
私は優月の提案に条件付きで応えた。
校庭端にある大木の下、昼休みでも滅多に人の来ない、静かな場所。その木陰に、私たち3人は並んで立っている。
「へぇ、前の学校にこんな場所はなかったなぁ」
興味深そうに大木を見つめる優月。それをからかいたがる葵。そして、疑問をぶつけられずにいる私。そんなちぐはぐな3人。
けれども、しかし、でも。そんな接続詞が頭を舞う。どうしたら聞き出せるのか、そもそも聞き出していいのか?
そう思っていた時だった。
「ユズちゃんってなんでこの学校に来たの?」
「え?」
「いや、なんか目的があるのかなぁって」
葵がまるで代弁するかのように問いかける。
「ああ……これって言っていいのかな?」
私は俯いたまま、軽く首を縦に振る。どこか、諦めに似た感情が溜まる。
「杏子ちゃんに……会うため、かな?」
「杏子に?」
「そう!実は私たちってiARTSっていう秘密の機関に所属してて、どうせなら一緒にいたほうがいいかなぁと思って。杏子ちゃんも、学校に来ていいって言ってたし」
体がビクッと動く。
――ああ、確かに言ったなぁ……。
「そうなんだ!実はね、私もiARTSのことは杏子から聞いてたんだ!ロボットに乗ってることも」
「そうなの?じゃあ仲間だね!」
「うん!」
優月と葵がガシッと握手する。初対面とは思えないほど息が合っていて、見ているこちらが置いていかれそうになる。
「それじゃあさ、なんか名前決めないとだよね!」
「え、名前? 面白そう!」
葵の何気ない一言に、優月が楽しそうに身を乗り出す。話題はすっかり、次の段階へと進んでいた。
「なら……ロボット部……とかどう?」
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