機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds

るろうに

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ep.4-4 Buddy

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 初めて足を踏み入れたブリーフィング室は、とても無機質だった。内装は灰色寄りの黒を基調として、細い黄色のラインが横に走っている。天井には蛍光灯がぶら下げられている。部屋の中央には巨大なモニター付きの固定テーブルが備え付けられており、周囲にはキャスターのある椅子が並べられている。

 既にスーツ姿のお偉いさんが腰掛けている中、私と優月は空いている2つ並びの席に座った。制服にコートの組み合わせが嫌に浮いている。

「それでは、いまから事態の説明を始める」

 真向かいに立つ平泉さんが声を張る。モニター状には、とある画像が表示された。地図の上に赤い棒が無数に立っている。

「これは、10分前に富士山麓で観測された空間動の記録だ。見ての通り、他のエリアに比べて著しい値が計測されている」
「これって……」

 周りの大人がみな気難しい顔をする中、優月が顎に手を当てる。

「おそらく、フロンティア人の襲撃だろう。しかし、これまでと違う点がある」

 モニターに新たな2枚の画像が出現する。1枚は新宿の地図、もう1枚は海上の地図。いずれも赤い棒が立っているが、さっきのに比べその高さは低い。

「先の戦闘では、空間動が観測されてから出現するまで2-3分ほどしか余裕がなかった。だが、今回は10分経ったいまですら敵は出現していない。しかも、揺れの大きさは前回の4倍、なおも増大中だ」

 優月がゴクリと唾を飲み込む。なにか重大なことが起きているのは素人目からしても分かった。

「これらの事実から、我々司令部は複数機による侵攻の可能性が高いと判断した。まもなく出現するだろう」

 ――複数機。つまり、敵が沢山来るということ。

 暑さからではない汗が、私の手を滴る。場の雰囲気も次第に切迫したものになってきた。

「そのため、今回は白龍と真鶴、2機に出撃してもらう。転送予定地域は、敵との距離から相模湖とする」

 まるで、戦争だ。そう思うと、胸が切り刻まれるような感じすらした。

「杏子くんは優月から聞いてると思うが、パイロットスーツに着替えてから白龍に搭乗するように。以上」

 周囲の大人たちが一斉に椅子を引き、慌ただしく立ち上がる。私もその流れに押されるように席を立ち、ざわめきの中へと身を投じた。

 更衣室へ向かう通路の中で、私は足を止めた。身体中がじわりと重くなる。

 ――本当に、来るのか。

 敵が、それも沢山。その事実に、私は怯えるしかなかった。体が自然と震え、それを抑えようとする手が上手く伸びない。

「杏子ちゃん?どうかしたの?」
「ううん、なんでもない!」
「……絶対、ウソ」

 先を進んでいた優月が振り返ってこちらを見つめる。どこか心配そうな目つきをしている。

「……怖いんでしょ」
「……うん」

 私はそっと静かに頷いた。怖い、それは本心だった。

「だって……なにもかも前回と違うし……敵は沢山来るし……」
「怖いのは……わたしも一緒だよ」

 優月は私に歩み寄ると、震える両手をがっしり掴んだ。ちょっと痛みすら感じる。

「でも大丈夫、わたしたちはバディだから」
「バディ?」
「そう、それも最強の」

 優月が微笑む。その笑顔は、不安を押し殺した作り物ではなく、確かな覚悟に裏打ちされたものだった。

 ――大丈夫、きっと今回も。

 そんな言葉が、発してないのに胸に溶け込んだ。

「だから、行こ!」
「……うん!」

 自分の声が、驚くほど澄んで聞こえた。



「杏子ちゃんのパイロットスーツ、似合ってるよ!」
「え~?そう?」

 白龍のコックピットに、スピーカー越しに優月の声が響く。視界の右側に優月の顔が映し出されている。

「なんか、わたしより着こなしてない?」
「そんなことないない」

 確かに、このパイロットスーツはよく出来ていた。白龍の機体デザインを思わせるように、白を基調としたボディに、翡翠色の流線が左右へとなめらかに走っている。両肩、両肘、両膝には小型のセンサーらしき装置が組み込まれ、装着者の動きを余すところなく拾い上げる構造になっていた。

 そしてなによりも、シートによりフィットするような、不思議な感覚がした。機体の揺れもいつもより感じない。

「杏子ちゃん、スタイリストになれば?」
「……いいかも」

 たわいもない会話が流れていく。

 ――こんな会話だけしていたい。そんな希望は、すぐに打ち砕かれた。

「敵機出現!7機の編隊が富士山麓より東京方面に飛行中!」

 中津川さんの緊迫した声が耳を突き刺す。

「7機……」

 思わず漏れた呟きに、優月が威勢よくこたえる。

「大丈夫!私たちはバディだから」

 バディという言葉を、私は胸の中で反芻する。

 ひとりではない。背中を預けられる相手がいる――そう思えただけで、張りつめていた不安が、ほんの少しだけ和らいだ気がした。

「転送準備完了!いつでもできます!」

 中津川さんからOKサインが出る。出撃の時間だ。

「聖堂優月、真鶴、出ます!」
「橘杏子、白龍、行きます!」

 機体を囲むゲージが発光する。数多の稲光が機体を包み込む。モニターには、『転送中』の3文字が踊る。

「……行こう!」
「……うん!」

 その瞬間、機体は光の中へと消えた。
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