機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds

るろうに

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ep.5-3 Growing

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「ここ……かな?」
「そうじゃない?」

 私のためらいに葵が迷うことなく答える。

「ほら、中津川って書いてあるし」
「あっ、ほんとだ」

 白い表札には確かに黒文字で『中津川』と書いてあった。優月が中津川さんと同居しているというのは以前聞いたことがある話だ。

 私がドアベルをピンポーンと鳴らすと、間を置くことなく優月が応答した。

「いらっしゃーい!さぁ入って入って!」

 ドアが解錠され、私たちは恐る恐る家の中に入った。家自体は普通の2階だての一軒家だが、やはり他人の家というのは緊張する。

「「おじゃましまーす」」
「いらっしゃーい、ゆっくりしてって……って勉強しに来たんだよね」
「もう。そうだよ、忘れたの?」

 葵がバッグを肩から下ろしながら口元を歪めた。私も一緒に靴を脱ごうとした時、奥に人影が2人分見えた。

「橘さんと小野寺さん!こんばんは」
「2人とも、こんばんは」

 影の正体は、中津川さんと平泉さんだ。

「お、お世話になってます」
「こちらこそ、毎回助けてもらって感謝しかありませんよ。私にできることがこれしかないことが悔やまれるぐらいです」

 平泉さんの言葉に、葵が「どゆこと?」と問いただす。

「あっ、こちらiARTSの平泉さん。今日の勉強を教えてくれるんだって」
「あーそういう」

 葵は納得したようで、口を大きく開けオーバーリアクションを取った。

「さ、こちらへ」

 平泉さんの言葉に連れられるまま、私たちはリビングへの狭い通路を進んだ。綺麗に掃除がしてあり、埃すら見当たらない。

 ――ユズって完璧なんだろうなぁ。その思いは、リビングの扉を開けてからより一層強まった。

 調味料まで美しく並べられたキッチン、整理整頓されたテーブル、光が反射するほど磨かれた床など、まるでモデルルームのような姿があった。

 その中に気になるものがあった。花瓶の横に置かれた、1枚の写真だ。

「これ、なに?」
「あぁ、これ?わたしがiARTSに入った時にスタッフのみんなと撮った写真だよ」

 ユズの言う通り、写真にはスーツや整備服など様々な服装に身を包んだ人たちがまとまって写っていた。最前列のど真ん中には、優月がいる。いちばん奥には、建造中の真鶴の姿もある。まだ両腕が取り付けられていない。

「ユズっていつiARTSに入ったの?」
「んー、中1かな?入ったらすごく大きなロボットがいて、わたし腰が抜けちゃって」

 優月が顎に指を当て、考え込むように言った。

「だってわたしの何倍も大きいんだもの。誰だって驚くわよね」
「そう、だよね……」

 そうか、優月も最初は普通の人だったんだ。そんな当たり前の事実を再確認すると、中津川さんが席に座るよう促した。

「私は夕飯を作るんで、皆さん頑張ってくださいね」
「それじゃあ頑張りますか!」

 葵の一言と共に、私はノートをテーブルに広げる。長く苦しい、勉強会の開始だ。



「ここってこう解けばいいんだっけ?」
「小野寺さん、そこはそうではなく……」
「あーもう分からん!」

 平泉さんの指導に、葵が根を上げる。万策尽きたとも言いたげな表情だ。それを横目に、優月がクスクスと笑っている。

「みんな頑張ってるねぇ」
「うっ……余裕そうだな、ユズ……」

 葵は鉛筆を握りながら、恨めしそうに優月を見た。

 そんな中、私はというと……。

「なんだ、この公式……」

 言うまでもなく苦闘していた。

「フロンティア人より手厳しいかもしれん……」
「そんなことありませんよ、橘さん。ちゃんと理解すれば解ける問題です」
「簡単に言わないでください……」

 平泉さんにしっかり目に反論する。私は再び視線をノートに落とした。

 数字を見て、答えを書いて、ページをめくって、消しゴムで消して。

 そんなことを繰り返しているうちに、段々と睡魔が私を侵食し始めた。

「ごめん、葵。私、眠い……」
「えっ?ちょっ、杏子!寝るなー杏子!」

 葵の言葉も虚しく、私は抗えず意識を手放した。


―――――

 意識が戻ると、私は浜辺にいた。細かい砂の粒が海水と合わさって、足の裏にこびりつく。

 海は太陽光の反射でキラキラと輝いて、そのあまりの眩しさに私は目を瞑った。

 再び目を開けた時、私はあることに気がついた。

 ――前よりも、背が高い?

 草原の夢の時より、私の目線が高い気がした。ふと手足を見る。以前より気持ち長めだ。

 だがそれよりも、大事なことがあった。

 胸に、小さい勾玉がぶら下げられていた。勾玉の穴の部分に糸が通されていて、その糸が首にかけられている。見た目はまるで、私の持っているものとそっくりだ。

 浜辺を海に向かって歩く。ザーッという音が耳をくすぐり、潮風が鼻を刺激する。

 海は東京ではもはや見ることができないほど美しいもので、ずっと見ていたいと感じるほどだった。

 私は目を凝らす。海の向こうに、島がある。ちょっとした山を据えた、いくつもの島がある。

 手が自然と島々の方をさす。なにが私の興味を惹きつけたか、全く見当もつかなかった。

 ただ。

 なにかが、あそこにある。

 そんな気がしてならなかった。
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