機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds

るろうに

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ep.5-2 Growing

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 白龍のコックピットの中。パイロットスーツを身につけ、シートに腰掛けた私の手元に、水色のクリップバインダーがある。表面にマジックで『修理・改善要望(白龍用)』と書かれたそれに、シャープペンシルで書き込んでいく。

「うーん、スラスターが急すぎたな……あと、キーボードの位置がちょっと不便だったかな?」

 戦闘で感じた違和感や要望などは、実際に操縦したパイロットにしか分からない。だからこそ、このような改善点を挙げ、整備班に伝える作業は私や優月がしなければならない。

 だが、まだ3回しか戦ったことのない私にとって、この作業は要領を得ないものだった。いくら操縦レバーを動かしても、ペダルを踏み込んでも、基準が分からないのだからどうしようもない。

 ――ああ、どうしよ。

 途方に暮れかけた、その時だった。不意に、誰かが私の名を呼ぶ声がした。

「橘さん、大丈夫ですか?」

 視線をコックピット直結の仮設足場に移すと、四角縁の眼鏡を付けた、黒髪の若そうな男が立っていた。iARTS整備班の青い作業着を身にまとっている。

「あっ……その……」
「すいません、自己紹介が遅れました。私、整備主任の富樫勝也とがしかつやと言います」

 男の改まった紹介にかえって背筋が強張る。

「なにか、困ってるようでしたので」
「あっその……どこを改善すればいいのかいまいちピンとこなくて……」
「それなら、橘さんの好きなように書いていいですよ」
「好きなように?」

 聞き返した私に、男は丁寧に「はい」と答える。

「聖堂さんも、最初はなにも分からなかったんです」
「えっ、ユズもですか?」
「はい、まあ彼女は中学の時から戦ってたというのもありますが。最初は、ゲームのコントローラーを繋げてほしい、なんて言われたこともありました」

 ――そんなこと言ってたんだ。小さな感慨が心の中に広がる。

「それはそれとして、橘さん。最近、あちこちで聞き回っていることがあると小耳に挟みましたが……」
「ああ、期末試験ですか」

 確かに、あちこちで期末試験の問題の手伝いをお願いしていたのは事実ではあるが、整備班にまで話が来ているとは。

「自分も、高校時代は試験に怯えてましたからねぇ。理系と文系どっちに進むべきかも分かりませんでした。まさかここに来るとも思いませんでしたが」
「ははは、そうですよね」

 思わず、口角が少し緩む。

「じゃあ、英語とか教えてくれませんか?」

 コックピット内の床に置いておいたバッグから教科書を取り出そうとした私を、男が制止する。

「すいません、自分はこれから用事がありまして」
「用事?」
「はい、3号機の建造です」
「……3号機?」

 初めての情報に反射的に返してしまった。

「先日、新たな勾玉が発掘されまして、それに合わせてドールユニット3号機の建造が開始されたんですよ」
「そうなんですか、どんな名前なんですか?」
「それはまだ……。じゃあ失礼します。がんばってください」

 男は深々と頭を下げ立ち去った。

 ――3号機かぁ。私の脳内に新たなワードが充満していく。

 誰が乗るんだろう?男子かな?女子かな?そんな僅かな期待感が胸を膨らます。

 ――でも、まずはこれを終わらせないと。そう思い、頭をシートに預けた時、急に睡魔が私を襲った。

「あれ?なんか……眠くなって……」

 ついに、私は抗うことができずに眠ってしまった。

―――――

 気がつけば、私は草原の真ん中にいた。心地よい風が私を撫で、太陽が温かく見守っている。遠くには白い城も見える。

 ――ここは、どこ?

 私はどこへ向かえば良いか分からないまま、裸足で歩き出した。流れる草がくすぐったく、乾いた土が固く感じる。

 数歩歩くと、私は違和感に気づいた。

 視線が低い。歩幅も小さい。

 もしやと思い、私は目線を落とした。その理由はすぐに分かった。

 体が、明らかに小さい。脚は草に埋もれてしまいそうなほど短く、手も丸みを帯びている。

 体が縮んでる。そう結論づけるのに時間はかからなかった。

 これは夢だ。きっとそうだろう。

 ――でも。

 私の中に疑問が生じる。これは夢でしかない。そう思いたいのに、草も、風も、土も、全てが本物のように感じた。

 すると、遠くに見えていた城が、不意に光った気がした。

 呼ばれている、そんな気がした。

―――――

「はっ!はぁ……はぁ……」

 目が覚めた。私は急かされるように自分の手足を見た。

 そこにあったのは、いつもと同じ、私の手足だった。何一つとしておかしなところはない。

「やっぱ夢かぁ」

 そう呟いて、私は息を整える。

 だが、しかし。私の中に芽生えた違和感は、消えることはなかった。

 夢のような、夢ではないような、不思議な感覚が、しこりのように胸に残った。
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