機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds

るろうに

文字の大きさ
19 / 38

ep.5-2 Growing

しおりを挟む
 白龍のコックピットの中。パイロットスーツを身につけ、シートに腰掛けた私の手元に、水色のクリップバインダーがある。表面にマジックで『修理・改善要望(白龍用)』と書かれたそれに、シャープペンシルで書き込んでいく。

「うーん、スラスターが急すぎたな……あと、キーボードの位置がちょっと不便だったかな?」

 戦闘で感じた違和感や要望などは、実際に操縦したパイロットにしか分からない。だからこそ、このような改善点を挙げ、整備班に伝える作業は私や優月がしなければならない。

 だが、まだ3回しか戦ったことのない私にとって、この作業は要領を得ないものだった。いくら操縦レバーを動かしても、ペダルを踏み込んでも、基準が分からないのだからどうしようもない。

 ――ああ、どうしよ。

 途方に暮れかけた、その時だった。不意に、誰かが私の名を呼ぶ声がした。

「橘さん、大丈夫ですか?」

 視線をコックピット直結の仮設足場に移すと、四角縁の眼鏡を付けた、黒髪の若そうな男が立っていた。iARTS整備班の青い作業着を身にまとっている。

「あっ……その……」
「すいません、自己紹介が遅れました。私、整備主任の富樫勝也とがしかつやと言います」

 男の改まった紹介にかえって背筋が強張る。

「なにか、困ってるようでしたので」
「あっその……どこを改善すればいいのかいまいちピンとこなくて……」
「それなら、橘さんの好きなように書いていいですよ」
「好きなように?」

 聞き返した私に、男は丁寧に「はい」と答える。

「聖堂さんも、最初はなにも分からなかったんです」
「えっ、ユズもですか?」
「はい、まあ彼女は中学の時から戦ってたというのもありますが。最初は、ゲームのコントローラーを繋げてほしい、なんて言われたこともありました」

 ――そんなこと言ってたんだ。小さな感慨が心の中に広がる。

「それはそれとして、橘さん。最近、あちこちで聞き回っていることがあると小耳に挟みましたが……」
「ああ、期末試験ですか」

 確かに、あちこちで期末試験の問題の手伝いをお願いしていたのは事実ではあるが、整備班にまで話が来ているとは。

「自分も、高校時代は試験に怯えてましたからねぇ。理系と文系どっちに進むべきかも分かりませんでした。まさかここに来るとも思いませんでしたが」
「ははは、そうですよね」

 思わず、口角が少し緩む。

「じゃあ、英語とか教えてくれませんか?」

 コックピット内の床に置いておいたバッグから教科書を取り出そうとした私を、男が制止する。

「すいません、自分はこれから用事がありまして」
「用事?」
「はい、3号機の建造です」
「……3号機?」

 初めての情報に反射的に返してしまった。

「先日、新たな勾玉が発掘されまして、それに合わせてドールユニット3号機の建造が開始されたんですよ」
「そうなんですか、どんな名前なんですか?」
「それはまだ……。じゃあ失礼します。がんばってください」

 男は深々と頭を下げ立ち去った。

 ――3号機かぁ。私の脳内に新たなワードが充満していく。

 誰が乗るんだろう?男子かな?女子かな?そんな僅かな期待感が胸を膨らます。

 ――でも、まずはこれを終わらせないと。そう思い、頭をシートに預けた時、急に睡魔が私を襲った。

「あれ?なんか……眠くなって……」

 ついに、私は抗うことができずに眠ってしまった。

―――――

 気がつけば、私は草原の真ん中にいた。心地よい風が私を撫で、太陽が温かく見守っている。遠くには白い城も見える。

 ――ここは、どこ?

 私はどこへ向かえば良いか分からないまま、裸足で歩き出した。流れる草がくすぐったく、乾いた土が固く感じる。

 数歩歩くと、私は違和感に気づいた。

 視線が低い。歩幅も小さい。

 もしやと思い、私は目線を落とした。その理由はすぐに分かった。

 体が、明らかに小さい。脚は草に埋もれてしまいそうなほど短く、手も丸みを帯びている。

 体が縮んでる。そう結論づけるのに時間はかからなかった。

 これは夢だ。きっとそうだろう。

 ――でも。

 私の中に疑問が生じる。これは夢でしかない。そう思いたいのに、草も、風も、土も、全てが本物のように感じた。

 すると、遠くに見えていた城が、不意に光った気がした。

 呼ばれている、そんな気がした。

―――――

「はっ!はぁ……はぁ……」

 目が覚めた。私は急かされるように自分の手足を見た。

 そこにあったのは、いつもと同じ、私の手足だった。何一つとしておかしなところはない。

「やっぱ夢かぁ」

 そう呟いて、私は息を整える。

 だが、しかし。私の中に芽生えた違和感は、消えることはなかった。

 夢のような、夢ではないような、不思議な感覚が、しこりのように胸に残った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

サイレント・サブマリン ―虚構の海―

来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。 科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。 電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。 小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。 「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」 しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。 謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か—— そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。 記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える—— これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。 【全17話完結】

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

大和型戦艦、異世界に転移する。

焼飯学生
ファンタジー
第二次世界大戦が起きなかった世界。大日本帝国は仮想敵国を定め、軍事力を中心に強化を行っていた。ある日、大日本帝国海軍は、大和型戦艦四隻による大規模な演習と言う名目で、太平洋沖合にて、演習を行うことに決定。大和、武蔵、信濃、紀伊の四隻は、横須賀海軍基地で補給したのち出港。しかし、移動の途中で濃霧が発生し、レーダーやソナーが使えなくなり、更に信濃と紀伊とは通信が途絶してしまう。孤立した大和と武蔵は濃霧を突き進み、太平洋にはないはずの、未知の島に辿り着いた。 ※ この作品は私が書きたいと思い、書き進めている作品です。文章がおかしかったり、不明瞭な点、あるいは不快な思いをさせてしまう可能性がございます。できる限りそのような事態が起こらないよう気をつけていますが、何卒ご了承賜りますよう、お願い申し上げます。

大絶滅 2億年後 -原付でエルフの村にやって来た勇者たち-

半道海豚
SF
200万年後の姉妹編です。2億年後への移住は、誰もが思いもよらない結果になってしまいました。推定2億人の移住者は、1年2カ月の間に2億年後へと旅立ちました。移住者2億人は11万6666年という長い期間にばらまかれてしまいます。結果、移住者個々が独自に生き残りを目指さなくてはならなくなります。本稿は、移住最終期に2億年後へと旅だった5人の少年少女の奮闘を描きます。彼らはなんと、2億年後の移動手段に原付を選びます。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

1×∞(ワンバイエイト) 経験値1でレベルアップする俺は、最速で異世界最強になりました!

マツヤマユタカ
ファンタジー
23年5月22日にアルファポリス様より、拙著が出版されました!そのため改題しました。 今後ともよろしくお願いいたします! トラックに轢かれ、気づくと異世界の自然豊かな場所に一人いた少年、カズマ・ナカミチ。彼は事情がわからないまま、仕方なくそこでサバイバル生活を開始する。だが、未経験だった釣りや狩りは妙に上手くいった。その秘密は、レベル上げに必要な経験値にあった。実はカズマは、あらゆるスキルが経験値1でレベルアップするのだ。おかげで、何をやっても簡単にこなせて――。異世界爆速成長系ファンタジー、堂々開幕! タイトルの『1×∞』は『ワンバイエイト』と読みます。 男性向けHOTランキング1位!ファンタジー1位を獲得しました!【22/7/22】 そして『第15回ファンタジー小説大賞』において、奨励賞を受賞いたしました!【22/10/31】 アルファポリス様より出版されました!現在第四巻まで発売中です! コミカライズされました!公式漫画タブから見られます!【24/8/28】 マツヤマユタカ名義でTwitterやってます。 見てください。

​『イージス艦長、インパール最前線へ。――牟田口廉也に転生した俺は、地獄の餓死作戦を「鉄壁の兵站要塞」に変える』

月神世一
SF
​【あらすじ】 ​「補給がなければ、戦場に立つ資格すらない」 ​ 坂上真一(さかがみ しんいち)、50歳。  かつてイージス艦長として鉄壁の防空網を指揮し、現在は海上自衛隊で次世代艦の兵站システムを設計する男。  背中には若き日の過ちである「仁王」の刺青を隠し持ち、北辰一刀流の達人でもある彼は、ある日、勤務中に仮眠をとる。 ​ 目が覚めると、そこは湿気と熱気に満ちた1944年のビルマだった。  鏡に映っていたのは、小太りで口髭の男――歴史の教科書で見た、あの「牟田口廉也」。 ​ しかも時期は、日本陸軍史上最悪の汚点とされる「インパール作戦」決行の直前。  部下たちは「必勝の精神論」を叫び、無謀な突撃を今か今かと待っている。 ​ (……ふざけるな。俺に、部下を餓死させろと言うのか?) ​ 現代の知識と、冷徹な計算、そして海自仕込みのロジスティクス能力。  すべてを駆使して、坂上(中身)は歴史への介入を開始する。  精神論を振りかざすふりをして上層部を欺き、現地改修で兵器を強化し、密かに撤退路を整備する。 ​ これは、「史上最も無能な指揮官」の皮を被った「現代の有能な指揮官」が、確定した敗北の運命をねじ伏せ、数万の命を救うために戦う、逆転の戦記ドラマ。

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

処理中です...