機動する世界の狭間で:A Robot Meets a Girl Across Variable Worlds

るろうに

文字の大きさ
28 / 35

ep.7-3 Ragul

しおりを挟む
聖歴1400年・エルハ王国


「ラグール様、これを」
「ありがとうございます」
 
 僕は部下からコーヒーを受け取った。会議が長引いたせいか、生ぬるい温度が手に伝わる。

「それにしても、よろしいんでしょうか」
「なにがですか?」
「いくら司令官が不足しているとはいえ、軍師が司令官に転向するなど……前線で命を落とすのかもしれないのに」
「いえいえ、戦況がここまで悪化したのは僕の力不足でもあります。僕にはその責任を取る義務がある」

 ――責任。その2文字を僕はグッと噛み締めた。

 大陸を2分割する戦争が始まってからもう間も無く1年が経とうとしている。敵国・コルテーグ王国の勢いは止まるところを知らず、日々我が領土は蝕まれていた。

 突如始まった戦争は、元々軍備不足が指摘されていた我が国において深刻な兵士不足を引き起こした。特に司令官不足は深刻で、開戦と同時にいくつもの前線が機能不全を起こした。

 だからこそ、こうして司令官経験のある僕まで駆り出された、というわけだ。

「ところで、東部方面軍はどうなっている?」
「は。アリア様の軍はクル河で敵部隊と交戦中。やや劣勢です」
「ふむ……では、この山まで撤退。部隊を立て直させろ」
「は!」

 半分廃墟と化した建物の一室で、僕は椅子を軽く引き座り直した。

 ――やはり、敵軍の狙いは……。

「あれか」

 ――あの、巨大な魔物。機動神。

 僕の脳裏に、エレーナ姫の言葉が蘇る。

「いざとなったら、機動神で戦わないといけない、か……」

 そうなったら、姫は……。

 僕は頭を激しく振った。

「そんなことは……」

 ――させない。そう言おうとした、まさにその時だった。

 ドォンという激しい音と共に、部屋中が大きく揺れた。机上の地図や、ランプが床に落ち、窓硝子が砕け散る。

「なんだ!?」

 僕は乱れた服装のまま、建物を飛び出した。兵士が皆、同じ方向に顔を向けている。

 僕の目がその視線の先を見たとき、ありとあらゆる常識が崩れた気がした。

 そこにあったもの。それは。

 黒い、鋼鉄の魔物であった。

「あ……あれが」

 僕の口が言葉を途絶えさせる。

「機動神……」

 晴天の空から何本もの稲妻が地上に降り注ぎ、そのすべてが鋼鉄の巨躯へと吸い込まれていく。何kmも遠くにいるのにも関わらず、巨体が遠近感を狂わせる。
  
 その姿は、まさに神としか形容できないものであった。

 機動神は、ゆっくりと頭部を持ち上げた。兜を思わせる顔面部、その奥で二つの光点が灯る。
 
 まるで“こちらを見た”かのように。

「こっちを狙ってるぞ!」

 誰かが叫び、場の緊張感が一気に高まる。見ると、機動神は右腕に持っている"なにか"を仰々しく上げていた。銃に似た、なにかを。

 その銃から光のようなものが発された。ピンクのような、眩い光。

 その光は間髪を置かずに放たれ。僕たちの真上を通り抜け。

 背後の山を、貫通した。

「なっ……!」

 山は橙色の火に包まれ、溶け出した。燃えるのではなく、"溶解"したのだ。

「あれが、神の力……!」

 この場にいる全てが、言葉を失った。逃げ出すことすらせず、機動神をただ見つめている。

「あれが、直撃していたら……」

 誰かが言ったその一言で、皆が事態の深刻さをようやっと理解した。

 ――死ぬ。その2文字が、驚くほど現実味を帯びる。

 ひとり、またひとりと兵士が持ち場から逃げ出した。叫ぶ声すら上げず、ただ静かに後退りしている。

「待て!持ち場を……」

 しかし、それを止める言葉を僕は持ち合わせていなかった。

 ――正しい。彼らの行動は、圧倒的に正しい。

 もはや、あれは兵器ではない。

 戦術でも、戦略でもない。

 災厄だ。

 我々がここにいる意味など、消し飛んでしまうほどの、災厄。

 ――それでも。

「狼狽えるな!ここを捨てれば、奴らは王都へ侵略する!そうなれば、エルハは死んだも同然だ!」

 それは、命令、と言うにはあまりにも頼りない言葉だった。

 数人の勇敢な兵士が足を止めた。それでも、あの魔物を止めるには到底足りない。

「司令官……」
「分かっている」

 無謀な戦いだった。どうやって、災厄に勝てと言うのだろうか。

 ――終わりだ。僕の中に残っていた微かな勇気すら折れそうになった。

 その瞬間。

 再び、稲光が天地を揺るがした。轟音が響き渡り、地面が揺れる。

「今度はなんだ!?」

 僕は最後の言葉を振り絞った。

 これで僕たちは死ぬんだ。短い人生だった。

 だが、雷の中から現れた"それ"を見たとき、自分の中に希望と、

 絶望が生まれた。

 その雷の中に生まれたもの。それは、黒い魔物と対を成す、

 白い、機動神だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

月弥総合病院

御月様(旧名 僕君☽☽‪︎)
キャラ文芸
月弥総合病院。極度の病院嫌いや完治が難しい疾患、診察、検査などの医療行為を拒否したり中々治療が進められない子を治療していく。 また、ここは凄腕の医師達が集まる病院。特にその中の計5人が圧倒的に遥か上回る実力を持ち、「白鳥」と呼ばれている。 (小児科のストーリー)医療に全然詳しく無いのでそれっぽく書いてます...!!

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました! 【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】 皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました! 本当に、本当にありがとうございます! 皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。 市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です! 【作品紹介】 欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。 だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。 彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。 【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc. その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。 欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。 気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる! 【書誌情報】 タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』 著者: よっしぃ イラスト: 市丸きすけ 先生 出版社: アルファポリス ご購入はこちらから: Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/ 楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/ 【作者より、感謝を込めて】 この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。 そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。 本当に、ありがとうございます。 【これまでの主な実績】 アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得 小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得 アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞 第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過 復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞 ファミ通文庫大賞 一次選考通過

『続・聖パラダイス病院』

菊池昭仁
現代文学
『聖パラダイス病院』の続編です。こんな病院なら入院生活も悪くはありません。

性別交換ノート

廣瀬純七
ファンタジー
性別を交換できるノートを手に入れた高校生の山本渚の物語

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

処理中です...