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ep.7-X Elena
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私は、息を呑んだ。
――島の中に、こんな空間があったなんて。
――こんなものがあったなんて。
圧倒されそうな荘厳な雰囲気の中、私は歩き出す。
視線の先、巨大なドームの中央に鎮座していたのは――
白く輝く、機動神だった。
全身が白く染められ、ところどころに浅葱色が混ざっている、機動神。
「これが、禁断の……」
あまりの畏れ多さに、私は言葉を言い切ることができなかった。
これまでの魔石所有者にとって、機動神を動かさないことは、なににも勝る悲願であった。このような災厄に頼らず、外交で戦争を回避することを望んでいた。
――それが、こんな形で崩されるなんて。
「エレーナ様、コルテーグ軍が黒の機動神の使役に成功したとの情報が」
「……」
「敵の狙いは王都かと」
「わかってる……」
私は胸にぶら下げた魔石を左手で握った。魔石は機動神に呼応するかのように、光り輝いている。
「我が力となれ、ハクリュウ!」
私の意識が飛んだ。視界が真っ白になる。かと思えば、次の瞬間、私は泡の中に浮かんでいた。
いや、厳密には泡ではないのかもしれない。だが、そうとしか表現できなかった。
さっきまでと打って変わって、私の視界は高所を映していた。地を遥か下に見下ろす位置――およそ20mはあろうかという、高みからの景色だった。
「これが、機動神の心臓部……」
私はある種の感慨に包まれていた。畏怖とも言い換えることができるかもしれない、不思議な感情だ。
目の前に文字と地図が浮かぶ。地図には、赤い点が打たれていた。
『ここへ移動しますか?』
その文章が意味するところは、理解していた。
――もう、敵の機動神はそんなところに。
機動神は既に王都へ伸びる街道の上に位置していた。状況は最悪だ。
私は無意識のうちに拳を握りしめた。泡のような空間がわずかに脈打つ。
「……戦わないと」
私は拳を広げた。手がわずかに震えている。
――怖い。
死ぬのが、殺されるのが、果てしなく怖かった。
でも。それ以上に。
私の愛する民が殺されることが、なによりも怖かった。
私は再び拳を握り、天に向かって掲げた。
「行こう!ハクリュウ!」
そう呟いた瞬間、世界が反転した。思わず目を瞑る。
泡が砕け、白い光が奔流となって流れ込む。機動神の視界が、完全に私のものとなった。
目を開けたとき、私の目の前には、黒い機動神がいた。
私は視界を巡らせた。山がひとつ、燃えているのが見えた。
――あの山にも、人がいたのだろう……。
私は泡の中で足を必死に動かした。連動するように、ハクリュウも敵に目掛けて突進する。
「この……!」
叫びとともに腕を振り抜く。ハクリュウの右腕にも、緑色の光が収束し、やがてそれは刃となった。
ハクリュウが刃を振り上げると、黒の機動神は瞬時に右方向へ回避した。刃は空を切り、地面に叩きつけられた。土が弾けている。
ピーピーと無機質な音が鳴る。思わず視線を向けると、黒の機動神の拳が視界いっぱいに映った。
気づけば、私は大きく吹き飛ばされていた。機動神は街道上を転がり、装甲を削りながら滑走した。
激しい摩擦音と共に、ようやく停止する。
「いてて……」
荒い息の中、私は目を敵の方へやった。銃らしきものから、光が放たれようとしている。
――山を焼いた、光。
「ハクリュウ!!」
私は大きく叫んだ。ハクリュウが地を蹴り、射出された光を寸前で回避する。
光は、ハクリュウのはるか後方に聳え立っていた、王都の城壁に衝突し、そして、大きな爆発を引き起こした。
ピンク色の爆発が視界を覆う。爆発が収まったとき、城壁は溶解していた。
――あれをまともに喰らったら……!
そう思ったのも束の間、黒の機動神の左腕が、ハクリュウの左腕をがっしりと掴んだ。ハクリュウは成す術もないまま、敵に振り回され、地面に叩きつけられた。
凄まじい衝撃が走り、地面が呻く。土砂と瓦礫が跳ね上がり、視界が一瞬、茶色に染まる。
「いっ……!」
私の体に激痛が走る。言葉にならないほどの痛みだ。
「ハクリュウ!動け!動けってば!!」
私は泡の中で必死にもがいた。しかし、ハクリュウはびくともしない。
――ここまでか……。そう観念したとき、黒い機動神がハクリュウの胸を跨ぐように立った。銃がハクリュウの心臓部に向けられる。
「どうした?撃て!殺せ!」
「……」
「早く撃て!私の負けだ!」
敵の操者はなぜか撃とうとしない。私をどうする気なのか、全く分からない。
数秒した時だろうか、私の耳を男の声が刺激した。
「こちらに来る気はないか」
「……は?」
「我が国は魔石の開発に既に成功している。じきに何体もの機動神が貴様らの国を襲うだろう。だが……」
男は深く息継ぎをした。
「貴様なら我が国に貢献できる。だから」
「そっち側に行けと……そんなの、お断りだね」
「お断り?」
「貴様らの魂胆はわかっている……それを選ぶぐらいなら死を選んだ方がマジだ」
「そうか……残念だ」
敵の銃口に無数の光が満ちていく。光は一筋の線となり、
「お別れだ、お姫様」
白い機動神の、心臓を貫いた。
――島の中に、こんな空間があったなんて。
――こんなものがあったなんて。
圧倒されそうな荘厳な雰囲気の中、私は歩き出す。
視線の先、巨大なドームの中央に鎮座していたのは――
白く輝く、機動神だった。
全身が白く染められ、ところどころに浅葱色が混ざっている、機動神。
「これが、禁断の……」
あまりの畏れ多さに、私は言葉を言い切ることができなかった。
これまでの魔石所有者にとって、機動神を動かさないことは、なににも勝る悲願であった。このような災厄に頼らず、外交で戦争を回避することを望んでいた。
――それが、こんな形で崩されるなんて。
「エレーナ様、コルテーグ軍が黒の機動神の使役に成功したとの情報が」
「……」
「敵の狙いは王都かと」
「わかってる……」
私は胸にぶら下げた魔石を左手で握った。魔石は機動神に呼応するかのように、光り輝いている。
「我が力となれ、ハクリュウ!」
私の意識が飛んだ。視界が真っ白になる。かと思えば、次の瞬間、私は泡の中に浮かんでいた。
いや、厳密には泡ではないのかもしれない。だが、そうとしか表現できなかった。
さっきまでと打って変わって、私の視界は高所を映していた。地を遥か下に見下ろす位置――およそ20mはあろうかという、高みからの景色だった。
「これが、機動神の心臓部……」
私はある種の感慨に包まれていた。畏怖とも言い換えることができるかもしれない、不思議な感情だ。
目の前に文字と地図が浮かぶ。地図には、赤い点が打たれていた。
『ここへ移動しますか?』
その文章が意味するところは、理解していた。
――もう、敵の機動神はそんなところに。
機動神は既に王都へ伸びる街道の上に位置していた。状況は最悪だ。
私は無意識のうちに拳を握りしめた。泡のような空間がわずかに脈打つ。
「……戦わないと」
私は拳を広げた。手がわずかに震えている。
――怖い。
死ぬのが、殺されるのが、果てしなく怖かった。
でも。それ以上に。
私の愛する民が殺されることが、なによりも怖かった。
私は再び拳を握り、天に向かって掲げた。
「行こう!ハクリュウ!」
そう呟いた瞬間、世界が反転した。思わず目を瞑る。
泡が砕け、白い光が奔流となって流れ込む。機動神の視界が、完全に私のものとなった。
目を開けたとき、私の目の前には、黒い機動神がいた。
私は視界を巡らせた。山がひとつ、燃えているのが見えた。
――あの山にも、人がいたのだろう……。
私は泡の中で足を必死に動かした。連動するように、ハクリュウも敵に目掛けて突進する。
「この……!」
叫びとともに腕を振り抜く。ハクリュウの右腕にも、緑色の光が収束し、やがてそれは刃となった。
ハクリュウが刃を振り上げると、黒の機動神は瞬時に右方向へ回避した。刃は空を切り、地面に叩きつけられた。土が弾けている。
ピーピーと無機質な音が鳴る。思わず視線を向けると、黒の機動神の拳が視界いっぱいに映った。
気づけば、私は大きく吹き飛ばされていた。機動神は街道上を転がり、装甲を削りながら滑走した。
激しい摩擦音と共に、ようやく停止する。
「いてて……」
荒い息の中、私は目を敵の方へやった。銃らしきものから、光が放たれようとしている。
――山を焼いた、光。
「ハクリュウ!!」
私は大きく叫んだ。ハクリュウが地を蹴り、射出された光を寸前で回避する。
光は、ハクリュウのはるか後方に聳え立っていた、王都の城壁に衝突し、そして、大きな爆発を引き起こした。
ピンク色の爆発が視界を覆う。爆発が収まったとき、城壁は溶解していた。
――あれをまともに喰らったら……!
そう思ったのも束の間、黒の機動神の左腕が、ハクリュウの左腕をがっしりと掴んだ。ハクリュウは成す術もないまま、敵に振り回され、地面に叩きつけられた。
凄まじい衝撃が走り、地面が呻く。土砂と瓦礫が跳ね上がり、視界が一瞬、茶色に染まる。
「いっ……!」
私の体に激痛が走る。言葉にならないほどの痛みだ。
「ハクリュウ!動け!動けってば!!」
私は泡の中で必死にもがいた。しかし、ハクリュウはびくともしない。
――ここまでか……。そう観念したとき、黒い機動神がハクリュウの胸を跨ぐように立った。銃がハクリュウの心臓部に向けられる。
「どうした?撃て!殺せ!」
「……」
「早く撃て!私の負けだ!」
敵の操者はなぜか撃とうとしない。私をどうする気なのか、全く分からない。
数秒した時だろうか、私の耳を男の声が刺激した。
「こちらに来る気はないか」
「……は?」
「我が国は魔石の開発に既に成功している。じきに何体もの機動神が貴様らの国を襲うだろう。だが……」
男は深く息継ぎをした。
「貴様なら我が国に貢献できる。だから」
「そっち側に行けと……そんなの、お断りだね」
「お断り?」
「貴様らの魂胆はわかっている……それを選ぶぐらいなら死を選んだ方がマジだ」
「そうか……残念だ」
敵の銃口に無数の光が満ちていく。光は一筋の線となり、
「お別れだ、お姫様」
白い機動神の、心臓を貫いた。
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