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ep.8-4 Arousal
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「あれ、杏子ちゃん?帰らないの?今日はもう帰っていいんだよ?」
「う、うん」
iARTSのエントランスへ向かう通路、その分かれ道で私は足を止めた。真っ直ぐ行けばそのままエントランス、左へ行けば整備区画へのエレベーターがある。
「ちょっと、用事があって」
「わたしも行こっか?」
「ううん、私ひとりでいたいの」
優月は「そう?」と言って私に手を振った。どこか不安そうな目をしているのが気になった。
エレベーターで下り、整備区画に足を踏み入れる。白龍や真鶴は工事用の足場で囲まれ、多くの整備スタッフが機体の細部のチェックを行っていた。今回の戦いでは大きな損傷はなかったが、それでも確認すべき事項は山ほどあるのだろう。
私に気づいたスタッフのひとりが、駆け寄ってきては頭を深々と下げた。前にも話したことがある、整備主任の富樫さんだ。
「あっ、橘さん!今回も本当にありがとうございました」
「そんなわざわざ……なんか傷も沢山つけちゃったみたいで」
「いえいえ、これぐらいは傷のうちにも入りませんよ」
富樫さんが白龍の方を振り向いて見上げる。
「それにしても、今回は不思議な戦いでしたね」
「不思議?」
「はい、腕部シールドが刀に変形するの、本来なら白龍には実装されていない機能なんですよ」
「そうなんですか?」
「はい。なのでいま、整備班はその分析にてんてこ舞いです」
富樫さんは困ったように笑ったが、その目は至って真剣だった。
「実は、さっき敵のパイロットから話を聞きました。白龍は特別な機体だと……」
「特別、と言いますと?」
「白龍はあっちの世界、フロンティアだと他の機体とは一線を画した能力があって……。私もよくわからないんですけど、リンクしたらとんでもない力を発揮するとか……」
「私たちとしては、フロンティアの技術をいわば真似して作り上げただけなので、特別な機能とかはないと思うんですが……」
富樫さんは肩をすくめた。その言葉に嘘はないように感じた。
「そう、ですか……」
「まあ、白龍に本当にそんな能力があるなら、橘さんも戦いやすくなると思います」
――戦う。
胸の奥で言葉がこだまする。
「それじゃあ、私は整備に戻らないといけませんので。これで失礼します」
富樫さんは再び頭を深々と下げ、白龍の方へと走り去っていった。
「私は……」
――私は。
「いつまで、戦わないといけないんだろう……?」
白龍はこれまでも数々の修羅場を乗り越えてきた、もはやパートナーといっても過言ではない存在だ。
そんなパートナーを、私はいつまで戦いに巻き込まなければならないのだろうか。
「ねえ、白龍」
私の口からそっと言葉が溢れる。
「あなたは、戦いたい?……それとも、守りたい?」
――キィン
「……!」
私の頭に、ノイズが走った。あまりにも一瞬で、しかし確かなノイズが。
まるで、白龍が鳴いているかのような……。
「ただいまぁ春翔」
「お姉ちゃん!大丈夫だった!?」
私の元に弟が抱きつく。涙が制服を濡らす。
「大丈夫だよ……怖かったね、春翔……」
私は弟の頭をそっと撫でる。恐怖に震えているのか、頭が小刻みに揺れている。
弟には、私が白龍に乗っていることは教えていない。だから、弟の目には私はあくまで避難民のひとりとしか見えていないはずだ。
――だから、余計に……。
「でもね、お姉ちゃんは絶対大丈夫。必ずね」
「必ず……」
「うん!必ず……」
弟の手をそっと握る。少し冷たい気がした。
そうだ。
私は、この平穏な日々を、友達を、弟を守らないといけない。
戦うのではなく。
「あっそうだ、洗濯取り込まないと」
私は手を洗い、部屋を抜け、ベランダに出た。遠くには、戦いのせいで未だ炎上している建物がある。
「だから、お願いね。白龍」
私は胸に手をそっと当てた。
「私と一緒に、この世界を守らせて……」
それは、偽りのない純粋な願いだった。
「う、うん」
iARTSのエントランスへ向かう通路、その分かれ道で私は足を止めた。真っ直ぐ行けばそのままエントランス、左へ行けば整備区画へのエレベーターがある。
「ちょっと、用事があって」
「わたしも行こっか?」
「ううん、私ひとりでいたいの」
優月は「そう?」と言って私に手を振った。どこか不安そうな目をしているのが気になった。
エレベーターで下り、整備区画に足を踏み入れる。白龍や真鶴は工事用の足場で囲まれ、多くの整備スタッフが機体の細部のチェックを行っていた。今回の戦いでは大きな損傷はなかったが、それでも確認すべき事項は山ほどあるのだろう。
私に気づいたスタッフのひとりが、駆け寄ってきては頭を深々と下げた。前にも話したことがある、整備主任の富樫さんだ。
「あっ、橘さん!今回も本当にありがとうございました」
「そんなわざわざ……なんか傷も沢山つけちゃったみたいで」
「いえいえ、これぐらいは傷のうちにも入りませんよ」
富樫さんが白龍の方を振り向いて見上げる。
「それにしても、今回は不思議な戦いでしたね」
「不思議?」
「はい、腕部シールドが刀に変形するの、本来なら白龍には実装されていない機能なんですよ」
「そうなんですか?」
「はい。なのでいま、整備班はその分析にてんてこ舞いです」
富樫さんは困ったように笑ったが、その目は至って真剣だった。
「実は、さっき敵のパイロットから話を聞きました。白龍は特別な機体だと……」
「特別、と言いますと?」
「白龍はあっちの世界、フロンティアだと他の機体とは一線を画した能力があって……。私もよくわからないんですけど、リンクしたらとんでもない力を発揮するとか……」
「私たちとしては、フロンティアの技術をいわば真似して作り上げただけなので、特別な機能とかはないと思うんですが……」
富樫さんは肩をすくめた。その言葉に嘘はないように感じた。
「そう、ですか……」
「まあ、白龍に本当にそんな能力があるなら、橘さんも戦いやすくなると思います」
――戦う。
胸の奥で言葉がこだまする。
「それじゃあ、私は整備に戻らないといけませんので。これで失礼します」
富樫さんは再び頭を深々と下げ、白龍の方へと走り去っていった。
「私は……」
――私は。
「いつまで、戦わないといけないんだろう……?」
白龍はこれまでも数々の修羅場を乗り越えてきた、もはやパートナーといっても過言ではない存在だ。
そんなパートナーを、私はいつまで戦いに巻き込まなければならないのだろうか。
「ねえ、白龍」
私の口からそっと言葉が溢れる。
「あなたは、戦いたい?……それとも、守りたい?」
――キィン
「……!」
私の頭に、ノイズが走った。あまりにも一瞬で、しかし確かなノイズが。
まるで、白龍が鳴いているかのような……。
「ただいまぁ春翔」
「お姉ちゃん!大丈夫だった!?」
私の元に弟が抱きつく。涙が制服を濡らす。
「大丈夫だよ……怖かったね、春翔……」
私は弟の頭をそっと撫でる。恐怖に震えているのか、頭が小刻みに揺れている。
弟には、私が白龍に乗っていることは教えていない。だから、弟の目には私はあくまで避難民のひとりとしか見えていないはずだ。
――だから、余計に……。
「でもね、お姉ちゃんは絶対大丈夫。必ずね」
「必ず……」
「うん!必ず……」
弟の手をそっと握る。少し冷たい気がした。
そうだ。
私は、この平穏な日々を、友達を、弟を守らないといけない。
戦うのではなく。
「あっそうだ、洗濯取り込まないと」
私は手を洗い、部屋を抜け、ベランダに出た。遠くには、戦いのせいで未だ炎上している建物がある。
「だから、お願いね。白龍」
私は胸に手をそっと当てた。
「私と一緒に、この世界を守らせて……」
それは、偽りのない純粋な願いだった。
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