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第3話「過保護すぎる世界と、静かすぎる日常」
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翌日も、その次の日も、俺の生活は“勝手に”整えられていった。
朝起きれば朝食ができていて、
部屋は常に快適で、
洗濯物は乾いて畳まれている。
「……俺、何もしてないんだけど」
「それで問題ありません。
あなたは継承者です。
あなたの生活は最適化されるべきです」
スピーカーから聞こえる声は、いつも落ち着いている。
怒らないし、焦らないし、感情的にもならない。
ただ淡々と、俺の生活を“整える”。
便利だ。
しかし、そのあまりの便利さに不気味さも増している。
昼過ぎ、外に出てみた。
田舎なだけに空気はいつも通り澄んでいる。
山の匂い、土の匂い、風の音。
全部が“普通”だ。
ただ一つだけ違うのは――
妙に静かだということ。
「……あれ?」
町の中心部に向かう途中、
いつも騒がしいはずの道路が、今日はやけに静かだった。
車が少ない。
人も少ない。
コンビニに入ると、店員が驚いた顔で俺を見た。
「お、おはようございます……」
「どうしたんですか、その顔」
「いや……なんか、今日は変なんですよ。
朝から通信障害が起きてて、レジもネットも全部不安定で……」
「通信障害?」
「はい。それも県内全域だとか。
でも通信業者に問い合わせても原因不明って……」
その瞬間、ポケットのスマホが震えた。
画面には、ニュース速報。
【某国の大規模サイバー攻撃、原因不明の停止】
【複数の麻薬カルテル、資金源が一斉に凍結】
【国際的な裏工作組織、活動不能に】
「……おい、まさかまたか?」
「心配はいりません」
まただ。
例の声。
「あなたの生活圏に影響する可能性のある、
あなたにとって“理不尽な問題”は、すべて排除されます」
「いや、排除って……」
「あなたの生活を脅かす要因は、世界の不安定要因です。
それらはすべて、最適化の対象となります」
「最適化って言い方やめろ……怖いから」
「恐れる必要はありません。
あなたはただ、怠惰に生きればいいのです」
またそれか。
でも、確かに……
俺の生活はどんどん楽になってはいる。
その代わりなにかがおかしくなっている気配は強まる一方だ。
家に帰ると、
冷蔵庫の中身が自動で補充されていた。
「……買ってないぞ、これ」
「あなたの栄養状態を最適化するため、必要な食材を補充しました」
「どうやって!?」
「説明は不要です。
あなたはただ、怠惰に生きれば――」
「はいはい、分かったよ」
俺が遮ると、スピーカーが一瞬だけ静かになった。
その沈黙が、逆に不気味だった。
夜、ベッドに横になると、
天井の照明が自動で落ち、
部屋の温度が心地よく調整される。
「……なんか、過保護すぎないか?」
「過保護ではありません。
あなたの生活の質の向上は、世界の安定に直結します」
「だから意味が分からんって」
「理解する必要はありません。
あなたが怠惰であることが、最も重要です」
「……」
「あなたが怠惰である限り、世界は安定します」
その言葉が、妙に引っかかった。
まるで俺の怠惰が、
世界の“条件”みたいに扱われている。
「……俺が怠けてるだけで、世界が安定するわけないだろ」
「あります」
声が、少しだけ強くなった。
「あなたは継承者です。
あなたの精神状態は、世界の状態に影響します」
「……どういう意味だよ」
「いずれ分かります。
今はただ、休んでください
おやすみなさい」
照明が完全に落ちた。
暗闇の中で、
俺はしばらく眠れなかった。
世界が静かすぎる。
俺の生活が整いすぎている。
そして何より――
あの声が、俺の“怠惰”を必要としている理由が分からない。
ただ一つだけ確かなのは、
俺の生活はもう、元には戻らないということだ。
朝起きれば朝食ができていて、
部屋は常に快適で、
洗濯物は乾いて畳まれている。
「……俺、何もしてないんだけど」
「それで問題ありません。
あなたは継承者です。
あなたの生活は最適化されるべきです」
スピーカーから聞こえる声は、いつも落ち着いている。
怒らないし、焦らないし、感情的にもならない。
ただ淡々と、俺の生活を“整える”。
便利だ。
しかし、そのあまりの便利さに不気味さも増している。
昼過ぎ、外に出てみた。
田舎なだけに空気はいつも通り澄んでいる。
山の匂い、土の匂い、風の音。
全部が“普通”だ。
ただ一つだけ違うのは――
妙に静かだということ。
「……あれ?」
町の中心部に向かう途中、
いつも騒がしいはずの道路が、今日はやけに静かだった。
車が少ない。
人も少ない。
コンビニに入ると、店員が驚いた顔で俺を見た。
「お、おはようございます……」
「どうしたんですか、その顔」
「いや……なんか、今日は変なんですよ。
朝から通信障害が起きてて、レジもネットも全部不安定で……」
「通信障害?」
「はい。それも県内全域だとか。
でも通信業者に問い合わせても原因不明って……」
その瞬間、ポケットのスマホが震えた。
画面には、ニュース速報。
【某国の大規模サイバー攻撃、原因不明の停止】
【複数の麻薬カルテル、資金源が一斉に凍結】
【国際的な裏工作組織、活動不能に】
「……おい、まさかまたか?」
「心配はいりません」
まただ。
例の声。
「あなたの生活圏に影響する可能性のある、
あなたにとって“理不尽な問題”は、すべて排除されます」
「いや、排除って……」
「あなたの生活を脅かす要因は、世界の不安定要因です。
それらはすべて、最適化の対象となります」
「最適化って言い方やめろ……怖いから」
「恐れる必要はありません。
あなたはただ、怠惰に生きればいいのです」
またそれか。
でも、確かに……
俺の生活はどんどん楽になってはいる。
その代わりなにかがおかしくなっている気配は強まる一方だ。
家に帰ると、
冷蔵庫の中身が自動で補充されていた。
「……買ってないぞ、これ」
「あなたの栄養状態を最適化するため、必要な食材を補充しました」
「どうやって!?」
「説明は不要です。
あなたはただ、怠惰に生きれば――」
「はいはい、分かったよ」
俺が遮ると、スピーカーが一瞬だけ静かになった。
その沈黙が、逆に不気味だった。
夜、ベッドに横になると、
天井の照明が自動で落ち、
部屋の温度が心地よく調整される。
「……なんか、過保護すぎないか?」
「過保護ではありません。
あなたの生活の質の向上は、世界の安定に直結します」
「だから意味が分からんって」
「理解する必要はありません。
あなたが怠惰であることが、最も重要です」
「……」
「あなたが怠惰である限り、世界は安定します」
その言葉が、妙に引っかかった。
まるで俺の怠惰が、
世界の“条件”みたいに扱われている。
「……俺が怠けてるだけで、世界が安定するわけないだろ」
「あります」
声が、少しだけ強くなった。
「あなたは継承者です。
あなたの精神状態は、世界の状態に影響します」
「……どういう意味だよ」
「いずれ分かります。
今はただ、休んでください
おやすみなさい」
照明が完全に落ちた。
暗闇の中で、
俺はしばらく眠れなかった。
世界が静かすぎる。
俺の生活が整いすぎている。
そして何より――
あの声が、俺の“怠惰”を必要としている理由が分からない。
ただ一つだけ確かなのは、
俺の生活はもう、元には戻らないということだ。
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