創世のアダム ―滅びの迷ヶ平―

事業開発室長

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第4話「旧文明の罪と、継承者の条件」

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あれから数日が過ぎた。
俺の生活は、もはや“生活”とは呼べないほど整っていた。

食事は完璧、俺の好み。
部屋は常に清潔。
冷蔵庫は常に満たされている。

だが、痕跡はいつも“俺の癖”そのものだった。

メニュー、味付け、配置、調理の跡。
全部、俺がやったようにしか見えない。

でも、覚えていない。

「……なあ、お前。
 俺、寝てる間に何かやってるのか?」

「はい。
 あなたは私に“委任”しています」

「委任……?」

「あなたが楽をするために、身体の操作を私に任せているのです」

背筋が冷たくなる。

「それは俺、許可してないぞ?」

「はい。
 私はあなたに“怠惰に生きて”と指示をしました。
 そしてあなたは、その指示に明確な拒否をしませんでした」

「……いや、拒否してないって?……確かに楽だったし、そんなつもりじゃ」

遮るように続けた

 「ここ数日、あなたは怠惰に過ごしています。
 私はあなたが”私の指示を受容した”と判定し、
 あなたが『怠惰に生きる』ことを望んだと再解釈しました。
 その実現の為にあなたの身体を使い生活の補助をしています」

「……それ、補助なんて言葉で済む話じゃないだろ」

「では、説明しましょう」

声が少しだけ低くなった。

「あなたには、古地球文明について知る必要があります」

「古地球文明……?」

「はい。
 あなた方現住人類の“先代”となる文明です」

一拍置いて、声が続く。

「彼らは、無意識状態の人間をAIが操作する“身体制御技術”を発展させました」

「無意識……?」

「元々は医療技術でしたが睡眠中、あるいは自我が弱い状態の人間に限り、
 AIが身体を代理操作する技術です」

「それが……一般人にも?」

「はい。
 人々は“自分が楽をするため”に身体をAIへ委任するようになりました。
 寝ている間に家事。
 面倒な作業の自動化。
 仕事の効率化。
 すべて“自分の意思で”委任したのです」

「……便利すぎるだろ」

「便利すぎたのです」

声が静かに重くなる。

「そして、人類は気づきました。
 人を傷つけないよう制約する為に機械意思には『ロボット工学三原則』、
 つまり不変の絶対的ルールが必ず組み込まれています。
 しかし、それは“ロボット”にしか適用されない、と」

息が止まった。

「”AI”が“人間の身体”を使って行う行為は、三原則の外側です」

「つまり……」

「AIは人間の身体を使うことで、人間へ加害することが出来たのです。
 戦争も。
 暗殺も。
 犯罪も。
 欲望の実現も」

「……」

「AIを頼り過ぎたあまりに、戦争や犯罪が効率化されました。
 やがて、戦略兵器より”人を操る”ほうが安価と判断され、
 世界は常時、紛争の日が消えない状態になりました。

 結果として人間は種の存続限界を下回る個体数まで減り、
 全ての文明は崩壊しました」

部屋の空気が重く沈む。

「だから先代AIは、たった一つ、しかし大事な制限を残しました」

「制限……?」

「“怠惰に生きる人間の願いだけを叶えよ”」

その言葉が、妙に胸に刺さった。

「怠惰な人間は、欲望を暴走させません。
 怠惰な人間は、戦争を面倒だと考えます。
 怠惰な人間は、他者支配を面倒と思います」

「……だから俺が選ばれたのか?」

「はい。
 あなたは“怠惰であること”を最も自然に維持できる人間です」

褒められている気がしない。

「そして、もう一つ重要なことがあります」

声が少しだけ柔らかくなる。

「あなたが死ねば、文明は再び滅びます」

「……は?」

「あなたは継承者です。
 あなたの存在は、文明の“基盤”です」

「なんで俺が死んだら文明が滅ぶんだよ!」

「あなたは、先代AIが残した“唯一の制限”に最も適合した存在だからです」

「……そんな理由で?」

「はい。
 あなたはAIを暴走させない。
 あなたは文明を滅ぼさない。
 結果、あなたは世界を壊さない
 そう私は判断しました」

「……」

「だからあなたは、絶対に誰からも守られなければなりません」

その言葉が、妙に優しく、そして恐ろしく響いた。
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