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初めてのチーム戦
世田谷ダンジョン3層。
本来であれば、推奨レベル15前後の探索者たちが数人がかりで挑み、命がけでリザードマンの群れを捌く死線。
だが、新調した黒スーツを纏うひよりが率いる軍団にとって、そこはもはや「修行場」ですらなく、単なる「散歩コース」へと変貌していた。
「――フウくん、左。ライくん、正面をお願い」
ひよりの静かな、まるで放課後の予定を話すような軽いトーンの指示。
その瞬間、新緑の影が爆ぜた。
敏捷特化のフウが、物理法則を無視したような挙動でリザードマンの背後へ回り込み、その鋭い爪で喉元を正確に裂く。
間髪入れず、岩のような筋肉を持つライが、正面からリザードマンの長槍を盾で受け止め、もう片方の手に握った巨大な棍棒を振り下ろした。
ドゴォォォォンッ!
石造りの床が砕け、リザードマンだったモノが肉塊へと変わる。圧倒的な、蹂躙。
そんな化け物じみた進化個体の合間を縫って、ひよりが新たに招集した二人の男たちも、それぞれの「仕事」を全うしていた。
「……っ、こっちに来るなッ!」
「おらぁ! ボスの前だぞ、シャキッとしろ!」
柄ジャケットの兄貴分と、スカジャンの若手。
彼らの戦闘力は、フウやライに比べればまだまだ低い。
リザードマンの槍をその身に受け、血を流しながらも、彼らは必死に背中を追っていた。
自分たちが傷つくことは、彼らにとってはどうでもいい。
ただ、背後に控える美しい「ボス」に、魔物の返り血一つ、不浄な視線一つ向けさせないこと。
それこそが、彼ら影のチンピラたちに刻まれた絶対的な優先事項だった。
「……っ、二人とも! 無理しないで!」
ひよりの心配そうな声が飛ぶ。だが、その声こそが彼らにとって最高のバフとなる。
時には盾となり、時には囮となり、彼らは泥臭く、けれど徹底的にひよりを守り抜いた。
やがて、一行は3層の最奥へと到達する。
そこには、3層の主(フロアボス)である『大顎のリザードナイト』が、巨躯を揺らしながら鎮座していた。
本来、中堅探索者のパーティが数十分の死闘の末にようやく倒せる強敵。
だが、今のひより組の前では、それはただの「経験値の塊」に過ぎなかった。
フウが視覚を奪い、ライが四肢を叩き潰してボスの動きを完全に封殺する。
ひより組のシステムでは、招集された部下が敵を倒しても経験値はひよりに入る。
だが、今の彼らの攻撃力ではトドメを刺すには決定打に欠ける。
ひよりは愛刀『鬼灯』を抜き放ち、流れるような動作でボスの急所を一突きにした。
「……ふぅ。お疲れ様、みんな」
激闘の終わり。ひよりは、自分を守るためにボロボロになったチンピラたちの元へ駆け寄った。
普通なら、システムの召喚体は「駒」として扱われる。だが、ひよりにそんな考えは微塵もなかった。
「……二人とも、大丈夫? すごく痛かったよね。ごめんね、俺がもっと上手く指示できてれば……」
ひよりは魔法瓶に入れてきた温かいお茶をコップに注ぎ、まず二人の男たちに差し出した。
それだけではない。ひよりは申し訳なさそうに、傷ついたスカジャンの袖に触れ、優しく撫でたのだ。
「ボ、ボス……っ!? な、何をなさいますか!」
眉上に傷のある兄貴分が、顔を真っ赤にして狼狽える。
スカジャンの若手も、恐縮しすぎて地面に頭を擦り付けそうな勢いだ。
彼らにとって、自分たちはボスの道具であり、盾に過ぎない。名前すらない、影の存在。
なのに、この美しき主は、まるで家族を心配するように自分たちに心を痛め、あまつさえ温かいお茶まで振る舞っている。
「自分たちは道具です! お気になさらず、どうか……!」
「……ううん。道具じゃないよ。俺にとっては、わざわざ来てくれた大事な家族だから。……守ってくれて、ありがとう」
ひよりの、嘘偽りのない、太陽のように眩しい笑顔。
その一言、その微笑みが、強面の男たちの心を完全に撃ち抜いた。
彼らの目に、じわりと涙が浮かぶ。彼らがひよりに向ける眼差しは、忠誠を超え、――「狂信」へと昇華していた。
(このボスのためなら、何度でも死ねる。いや、死んでも守り抜いてみせる)
その誓いは、彼らの魂の奥底、システムの根源的な領域にまで深く刻み込まれていった。
ボスを倒しては、ひよりが持ってきたお菓子をみんなでつまみ、少し休憩する。魔物がリスポーンする頃に、また立ち上がって最深部へ向かう。
世田谷ダンジョンの初心者を抜け出したパーティたちが、青い顔をして剣を握り直すこの場所で、ひよりたちはまるで休日のピクニックでも楽しんでいるかのような穏やかな時間(周回)を重ねていた。
(……もっとMPが増えたら、Lv.1くんも『昇格』させてあげられるかな。そうしたら、みんなもっと楽に、怪我をせずに済むよね)
ひよりは、影の中で自分を見守る仲間たちのことを想い、小さく微笑んだ。
その微笑みと、このダンジョンでピクニックをしているという異質さが、どれほど周囲の探索者たちを戦慄させているかにも気づかずに。
後に世界を震撼させる「最凶の軍団」が、その結束を最も純粋に、そして歪に深めていた。
本来であれば、推奨レベル15前後の探索者たちが数人がかりで挑み、命がけでリザードマンの群れを捌く死線。
だが、新調した黒スーツを纏うひよりが率いる軍団にとって、そこはもはや「修行場」ですらなく、単なる「散歩コース」へと変貌していた。
「――フウくん、左。ライくん、正面をお願い」
ひよりの静かな、まるで放課後の予定を話すような軽いトーンの指示。
その瞬間、新緑の影が爆ぜた。
敏捷特化のフウが、物理法則を無視したような挙動でリザードマンの背後へ回り込み、その鋭い爪で喉元を正確に裂く。
間髪入れず、岩のような筋肉を持つライが、正面からリザードマンの長槍を盾で受け止め、もう片方の手に握った巨大な棍棒を振り下ろした。
ドゴォォォォンッ!
石造りの床が砕け、リザードマンだったモノが肉塊へと変わる。圧倒的な、蹂躙。
そんな化け物じみた進化個体の合間を縫って、ひよりが新たに招集した二人の男たちも、それぞれの「仕事」を全うしていた。
「……っ、こっちに来るなッ!」
「おらぁ! ボスの前だぞ、シャキッとしろ!」
柄ジャケットの兄貴分と、スカジャンの若手。
彼らの戦闘力は、フウやライに比べればまだまだ低い。
リザードマンの槍をその身に受け、血を流しながらも、彼らは必死に背中を追っていた。
自分たちが傷つくことは、彼らにとってはどうでもいい。
ただ、背後に控える美しい「ボス」に、魔物の返り血一つ、不浄な視線一つ向けさせないこと。
それこそが、彼ら影のチンピラたちに刻まれた絶対的な優先事項だった。
「……っ、二人とも! 無理しないで!」
ひよりの心配そうな声が飛ぶ。だが、その声こそが彼らにとって最高のバフとなる。
時には盾となり、時には囮となり、彼らは泥臭く、けれど徹底的にひよりを守り抜いた。
やがて、一行は3層の最奥へと到達する。
そこには、3層の主(フロアボス)である『大顎のリザードナイト』が、巨躯を揺らしながら鎮座していた。
本来、中堅探索者のパーティが数十分の死闘の末にようやく倒せる強敵。
だが、今のひより組の前では、それはただの「経験値の塊」に過ぎなかった。
フウが視覚を奪い、ライが四肢を叩き潰してボスの動きを完全に封殺する。
ひより組のシステムでは、招集された部下が敵を倒しても経験値はひよりに入る。
だが、今の彼らの攻撃力ではトドメを刺すには決定打に欠ける。
ひよりは愛刀『鬼灯』を抜き放ち、流れるような動作でボスの急所を一突きにした。
「……ふぅ。お疲れ様、みんな」
激闘の終わり。ひよりは、自分を守るためにボロボロになったチンピラたちの元へ駆け寄った。
普通なら、システムの召喚体は「駒」として扱われる。だが、ひよりにそんな考えは微塵もなかった。
「……二人とも、大丈夫? すごく痛かったよね。ごめんね、俺がもっと上手く指示できてれば……」
ひよりは魔法瓶に入れてきた温かいお茶をコップに注ぎ、まず二人の男たちに差し出した。
それだけではない。ひよりは申し訳なさそうに、傷ついたスカジャンの袖に触れ、優しく撫でたのだ。
「ボ、ボス……っ!? な、何をなさいますか!」
眉上に傷のある兄貴分が、顔を真っ赤にして狼狽える。
スカジャンの若手も、恐縮しすぎて地面に頭を擦り付けそうな勢いだ。
彼らにとって、自分たちはボスの道具であり、盾に過ぎない。名前すらない、影の存在。
なのに、この美しき主は、まるで家族を心配するように自分たちに心を痛め、あまつさえ温かいお茶まで振る舞っている。
「自分たちは道具です! お気になさらず、どうか……!」
「……ううん。道具じゃないよ。俺にとっては、わざわざ来てくれた大事な家族だから。……守ってくれて、ありがとう」
ひよりの、嘘偽りのない、太陽のように眩しい笑顔。
その一言、その微笑みが、強面の男たちの心を完全に撃ち抜いた。
彼らの目に、じわりと涙が浮かぶ。彼らがひよりに向ける眼差しは、忠誠を超え、――「狂信」へと昇華していた。
(このボスのためなら、何度でも死ねる。いや、死んでも守り抜いてみせる)
その誓いは、彼らの魂の奥底、システムの根源的な領域にまで深く刻み込まれていった。
ボスを倒しては、ひよりが持ってきたお菓子をみんなでつまみ、少し休憩する。魔物がリスポーンする頃に、また立ち上がって最深部へ向かう。
世田谷ダンジョンの初心者を抜け出したパーティたちが、青い顔をして剣を握り直すこの場所で、ひよりたちはまるで休日のピクニックでも楽しんでいるかのような穏やかな時間(周回)を重ねていた。
(……もっとMPが増えたら、Lv.1くんも『昇格』させてあげられるかな。そうしたら、みんなもっと楽に、怪我をせずに済むよね)
ひよりは、影の中で自分を見守る仲間たちのことを想い、小さく微笑んだ。
その微笑みと、このダンジョンでピクニックをしているという異質さが、どれほど周囲の探索者たちを戦慄させているかにも気づかずに。
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