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待ち望んだ日
三上ひよりが、光が差し込む出口へと爽やかに去っていった後のことだ。
嵐が過ぎ去った後の静寂が訪れるかと思いきや、神楽坂ダンジョンのロビーは、かつてないパニックに包まれていた。
「な、なんなんですかあの人! 怖そうな人たちと、見たこともないモンスターをぞろぞろ連れてましたよ!」
「こっちも黒いスーツを着た人が、緑色のバケモノとガラの悪そうな人たちを連れて、一瞬でモンスターを狩ってました……」
次々と受付に駆け込んでくる、顔を真っ青にした初心者探索者たち。彼らの言葉を整理すればするほど、妃那の頭の中には「?」が浮かんでいく。
(え、なにそれ……。三上さんのことだと思うけど、彼は一人で入っていったはずじゃ……)
だが、その後も三上ひよりらしき人物の、あまりに現実離れした目撃情報が次々と届く。中には「影から人が湧き出てきた」という、オカルト染みた報告まであった。
(そういえば、姉さんが言ってたっけ。『なんとか組のボス』って。……もしかして、あの禍々しい職業のスキル? あんなに可愛いのに、一人で軍団を率いてるの……?)
混乱するロビーを宥めながら、妃那の胸の奥には、恐怖ではなく熱い高揚感が込み上げていた。
――
全ての対応を終え、夜の静まり返った神楽坂ダンジョンのカウンターで、妃那は一人、深く息を吐いた。
「あぁ……本当によかった。辞めないで、頑張って続けててよかった……」
明日も、彼は来てくれる。このどん底のダンジョンを「気に入った」と言ってくれた。
今のままの神楽坂では、いつか彼に愛想を尽かされてしまうかもしれない。もっと、彼にふさわしい、活気のあるダンジョンに変えていかなきゃ。
「探索者の意識改革は……少し時間がかかるわね。まずは、うちのスタッフから変えていこう。スマホいじってる場合じゃないんだから」
妃那の瞳には、かつての「死んだ魚の目」の面影はなかった。
そこでふと、大切なことを思い出す。自分に希望を運んでくれた「天使」のことを、誰よりも先に報告すべき相手がいる。
――
自宅に戻り、真っ先にスマホを手にした。コールは二回で繋がる。
「もしもし、お姉ちゃん?」
『妃那ちゃん、どうしたの? いつも私から電話するのに、珍しいじゃない』
電話の向こうで、姉の那奈が驚いたような、でも嬉しそうな声を出す。
「お姉ちゃん、聞いて。今日、三上さんがうちにきたよ」
『えっ? 三上くんが!? そっかぁ、あの子、そっちまで遠征してたんだぁ』
那奈の声が一段と明るくなる。ひよりの名が出ただけで、姉の溺愛っぷりが伝わってきた。
「なんかね、昨日ご家族と散策に来た時にうちを見つけたから、来てみたんだって」
『ふふっ、三上くんらしい。ねぇ、どうだった? 可愛いでしょ?』
「うーん……可愛いと思ったけど……すごく、かっこよかったよ」
『えっ? かっこよかった?』
那奈が少し意外そうに聞き返す。妃那は、今日の出来事を一気に捲し立てた。
「うん。だって、さらっとうちの未踏階層を更新して、7層まで行っちゃったんだもん。神楽坂の記録、塗り替えられちゃった」
『あら……。ふふっ、もしかして三上くん、自分が記録更新したこと気づいてなかったでしょ?』
「うん、そうなの! 教えたら、なんか謝られちゃった」
『あはは! やっぱり三上くんらしいね。無自覚なんだから』
姉の笑い声を聞きながら、妃那は改めて自分の決意を噛み締める。
「あたしもね、三上さんのおかげで頑張ろうと思えたよ。明日も来てくれるって言ってくれたから」
『ええっ!? よかったじゃない! ……あ、ちょっと妃那ちゃん、三上くんを独り占めしちゃダメだからね! あの子は私のお気に入りなんだから!』
急に「お姉ちゃんモード」から「ライバルモード」に切り替わる那奈に、妃那はいたずらっぽく微笑んだ。
「大丈夫だよ。三上さんね、お姉ちゃんのこと『俺のお姉ちゃんみたいな人です』って言ってたよ。だからお姉ちゃんは、ちゃんとお姉ちゃんでいてくださいね」
『もう! そんなこと言われたら、あたしも今すぐそっちに行きたくなっちゃう!』
「だめだよ、明日もお仕事でしょ! じゃあ、また報告するね」
電話を切った後、妃那は夜空を見上げた。
明日の受付では、今日よりももっと素敵な笑顔で彼を迎えよう。
神楽坂の夜明けは、もうすぐそこまで来ていた。
.........
【新宿じゃないよ】神楽坂ダンジョン攻略スレ【神楽坂だよ】Part.4
101:名無しの探索者
おい、今さっき受付で妃那ちゃんがすごい声出してたぞ。
なんか可愛い子が受付にいたけどなんかあったのか?
102:名無しの探索者
知ってるモデルでも来たんじゃないの?一応新宿ではあるからな。
103:名無しの探索者
さっき一層の奥でたぶんその子とすれ違った。
後ろにヤカラ集団と、岩みたいな巨躯の化け物がぞろぞろ続いてたんだが。
お嬢かなにか?
104:名無しの探索者
>>103
お前もか!
俺も見たぞ。黒スーツの集団が、緑色のバケモノと一緒に魔物を一瞬でなぎ倒してた。
なんなんだよあいつら。
105:名無しの探索者
その集団、めちゃくちゃ殺気立ってて近寄れなかったわ。
本人は「こんにちはー」って可愛い笑顔で挨拶してくれたけど、後ろの連中が「邪魔をするな」って目で睨んできて、マジで石化した。
106:名無しの探索者
1層で固まって動けなくなってる奴らが大量にいるの、そのせいかw
「天使が死神連れて歩いてる」って慌ててる初心者がいたぞ。
107:名無しの探索者
受付で泡食ってる奴が多いのそのせいか。
何もしないで帰ろうと思ってたけど気になってきたわ。
………
143:名無しの探索者
おいおいおい!!
[神楽坂ダンジョン:踏破記録更新 7層 ]
出たあああああああああ!!!
144:名無しの探索者
マジかよ!
145:名無しの探索者
今、あの天使が受付に戻ってきた。
……あれ? 一人だ。さっきのヤクザみたいな連中どこ行った?
146:名無しの探索者
妃那ちゃんと話してるとこ聞いてたんだけどさ。
「初心者っぽい人たちがぼーっとしてましたけど大丈夫ですか?」とか聞いてるぞw
いや、お前のせいだよ!!www
147:名無しの探索者
妃那ちゃん、驚きすぎて言葉失ってるな。
「7層まで行ってきました」って……。
神楽坂の歴史、一瞬で終わって新しい章が始まった感じだわ。
148:名無しの探索者
あの子、明日も来るって言って帰っていったぞ。
妃那ちゃん、最後泣いてなかったか?
149:名無しの探索者
泣いてたな。
ずっとこのダンジョンの現状に悩んでたみたいだし、
あんな圧倒的な希望見せられたら、そりゃ感極まるだろ。
150:名無しの探索者
てかあの子男の子だったのか……。
明日、俺も本気で潜るわ。
あんな凄いの見せられたら、ロビーでスマホ弄ってるのが馬鹿らしくなった。
151:名無しの探索者
だな。
明日から神楽坂、面白くなりそうだわ。
嵐が過ぎ去った後の静寂が訪れるかと思いきや、神楽坂ダンジョンのロビーは、かつてないパニックに包まれていた。
「な、なんなんですかあの人! 怖そうな人たちと、見たこともないモンスターをぞろぞろ連れてましたよ!」
「こっちも黒いスーツを着た人が、緑色のバケモノとガラの悪そうな人たちを連れて、一瞬でモンスターを狩ってました……」
次々と受付に駆け込んでくる、顔を真っ青にした初心者探索者たち。彼らの言葉を整理すればするほど、妃那の頭の中には「?」が浮かんでいく。
(え、なにそれ……。三上さんのことだと思うけど、彼は一人で入っていったはずじゃ……)
だが、その後も三上ひよりらしき人物の、あまりに現実離れした目撃情報が次々と届く。中には「影から人が湧き出てきた」という、オカルト染みた報告まであった。
(そういえば、姉さんが言ってたっけ。『なんとか組のボス』って。……もしかして、あの禍々しい職業のスキル? あんなに可愛いのに、一人で軍団を率いてるの……?)
混乱するロビーを宥めながら、妃那の胸の奥には、恐怖ではなく熱い高揚感が込み上げていた。
――
全ての対応を終え、夜の静まり返った神楽坂ダンジョンのカウンターで、妃那は一人、深く息を吐いた。
「あぁ……本当によかった。辞めないで、頑張って続けててよかった……」
明日も、彼は来てくれる。このどん底のダンジョンを「気に入った」と言ってくれた。
今のままの神楽坂では、いつか彼に愛想を尽かされてしまうかもしれない。もっと、彼にふさわしい、活気のあるダンジョンに変えていかなきゃ。
「探索者の意識改革は……少し時間がかかるわね。まずは、うちのスタッフから変えていこう。スマホいじってる場合じゃないんだから」
妃那の瞳には、かつての「死んだ魚の目」の面影はなかった。
そこでふと、大切なことを思い出す。自分に希望を運んでくれた「天使」のことを、誰よりも先に報告すべき相手がいる。
――
自宅に戻り、真っ先にスマホを手にした。コールは二回で繋がる。
「もしもし、お姉ちゃん?」
『妃那ちゃん、どうしたの? いつも私から電話するのに、珍しいじゃない』
電話の向こうで、姉の那奈が驚いたような、でも嬉しそうな声を出す。
「お姉ちゃん、聞いて。今日、三上さんがうちにきたよ」
『えっ? 三上くんが!? そっかぁ、あの子、そっちまで遠征してたんだぁ』
那奈の声が一段と明るくなる。ひよりの名が出ただけで、姉の溺愛っぷりが伝わってきた。
「なんかね、昨日ご家族と散策に来た時にうちを見つけたから、来てみたんだって」
『ふふっ、三上くんらしい。ねぇ、どうだった? 可愛いでしょ?』
「うーん……可愛いと思ったけど……すごく、かっこよかったよ」
『えっ? かっこよかった?』
那奈が少し意外そうに聞き返す。妃那は、今日の出来事を一気に捲し立てた。
「うん。だって、さらっとうちの未踏階層を更新して、7層まで行っちゃったんだもん。神楽坂の記録、塗り替えられちゃった」
『あら……。ふふっ、もしかして三上くん、自分が記録更新したこと気づいてなかったでしょ?』
「うん、そうなの! 教えたら、なんか謝られちゃった」
『あはは! やっぱり三上くんらしいね。無自覚なんだから』
姉の笑い声を聞きながら、妃那は改めて自分の決意を噛み締める。
「あたしもね、三上さんのおかげで頑張ろうと思えたよ。明日も来てくれるって言ってくれたから」
『ええっ!? よかったじゃない! ……あ、ちょっと妃那ちゃん、三上くんを独り占めしちゃダメだからね! あの子は私のお気に入りなんだから!』
急に「お姉ちゃんモード」から「ライバルモード」に切り替わる那奈に、妃那はいたずらっぽく微笑んだ。
「大丈夫だよ。三上さんね、お姉ちゃんのこと『俺のお姉ちゃんみたいな人です』って言ってたよ。だからお姉ちゃんは、ちゃんとお姉ちゃんでいてくださいね」
『もう! そんなこと言われたら、あたしも今すぐそっちに行きたくなっちゃう!』
「だめだよ、明日もお仕事でしょ! じゃあ、また報告するね」
電話を切った後、妃那は夜空を見上げた。
明日の受付では、今日よりももっと素敵な笑顔で彼を迎えよう。
神楽坂の夜明けは、もうすぐそこまで来ていた。
.........
【新宿じゃないよ】神楽坂ダンジョン攻略スレ【神楽坂だよ】Part.4
101:名無しの探索者
おい、今さっき受付で妃那ちゃんがすごい声出してたぞ。
なんか可愛い子が受付にいたけどなんかあったのか?
102:名無しの探索者
知ってるモデルでも来たんじゃないの?一応新宿ではあるからな。
103:名無しの探索者
さっき一層の奥でたぶんその子とすれ違った。
後ろにヤカラ集団と、岩みたいな巨躯の化け物がぞろぞろ続いてたんだが。
お嬢かなにか?
104:名無しの探索者
>>103
お前もか!
俺も見たぞ。黒スーツの集団が、緑色のバケモノと一緒に魔物を一瞬でなぎ倒してた。
なんなんだよあいつら。
105:名無しの探索者
その集団、めちゃくちゃ殺気立ってて近寄れなかったわ。
本人は「こんにちはー」って可愛い笑顔で挨拶してくれたけど、後ろの連中が「邪魔をするな」って目で睨んできて、マジで石化した。
106:名無しの探索者
1層で固まって動けなくなってる奴らが大量にいるの、そのせいかw
「天使が死神連れて歩いてる」って慌ててる初心者がいたぞ。
107:名無しの探索者
受付で泡食ってる奴が多いのそのせいか。
何もしないで帰ろうと思ってたけど気になってきたわ。
………
143:名無しの探索者
おいおいおい!!
[神楽坂ダンジョン:踏破記録更新 7層 ]
出たあああああああああ!!!
144:名無しの探索者
マジかよ!
145:名無しの探索者
今、あの天使が受付に戻ってきた。
……あれ? 一人だ。さっきのヤクザみたいな連中どこ行った?
146:名無しの探索者
妃那ちゃんと話してるとこ聞いてたんだけどさ。
「初心者っぽい人たちがぼーっとしてましたけど大丈夫ですか?」とか聞いてるぞw
いや、お前のせいだよ!!www
147:名無しの探索者
妃那ちゃん、驚きすぎて言葉失ってるな。
「7層まで行ってきました」って……。
神楽坂の歴史、一瞬で終わって新しい章が始まった感じだわ。
148:名無しの探索者
あの子、明日も来るって言って帰っていったぞ。
妃那ちゃん、最後泣いてなかったか?
149:名無しの探索者
泣いてたな。
ずっとこのダンジョンの現状に悩んでたみたいだし、
あんな圧倒的な希望見せられたら、そりゃ感極まるだろ。
150:名無しの探索者
てかあの子男の子だったのか……。
明日、俺も本気で潜るわ。
あんな凄いの見せられたら、ロビーでスマホ弄ってるのが馬鹿らしくなった。
151:名無しの探索者
だな。
明日から神楽坂、面白くなりそうだわ。
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