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chapter.001《邂逅》
#021_半年
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「ふ……」
一つ、息を吐く。
集中だ。集中。
リースの家の裏庭からさらに奥にある、すこしだけ開けた草原。
そこに俺は座禅を組んで座っている。
この半年で習慣化した朝の日課だ。
俺を中心とした半径20m内には、さまざまな魔術具が配置してある。
発光の術式、定数指定された軌道に沿って物質を動かす念動力術式、準物質生成術式、ほかには俺が仕組みを理解できてない魔術具すらある。
それらを、起動する。
魔術式を起動するには、その対象となる術式に意識を集中させる必要はある。
この意識の集中という曖昧な行為。これの正体は魂の拡張であるとリースは言った。
魔術とは、エネルギーを操作することによって現象を起こす技術のことだ。術式素を組み合わせて術式を構築し、そこに記述した通りのエネルギーを操作し、任意の現象を起こす。
そのエネルギー操作を実現している器官こそ、俺たち人間の持つ魂であるという。
俺たちが周囲の物質を手に取れるのは、俺たちの肉体が物質でできてるからだ。
それと同じように、俺たちがエネルギーに触れて操作できるのは、俺たちの魂がエネルギーでできてるからであるらしい。魂という手を伸ばし、エネルギーに触れて操っているようなものだ、と。
ではもっと具体的に、どのようなエネルギー干渉が行われているのか。
魂は、魔力の流れのことである。
魔力の流れは、魔力海の作用であるエネルギー密度定常化作用によって、ヒトの脳内に作り出される。
魔術による現象というのは、たいてい脳の外側に望まれるものだから、エネルギーを操作するには魂を脳の外側に出力する必要がある。
この魂の外部出力を実現させる方法が、いま俺のやっている意識の集中だ。
深く意識を集中させると、まるで手を伸ばすかのように、魂がそっちへ伸びるらしい。魂は魔力の流れだから、その流れる方向を大きく広げるイメージだ。
そうやって魂を拡張させ、その流域を魔術式に重ねる。
そうすれば、術式に記述した通りの現象を起こすことができるらしい。
……どうして魔術式に魂を重ねると術式が起動させられるのか。この仕組みについては謎のままだが、すくなくとも法則性だけは保証されているみたいだ。
魂の流域を拡張し、魔術式と重ねる。
それが魔術式を起動するために、人間が行うべき動作である。
そして、いま俺がやっているのは、それの訓練だ。
魂源領域の拡張限界は、一般的には20m程度。この限界は、人間が人間である限り、超えられるものではないとティーは言っていた。
だから俺が訓練してるのは、拡張の方向と拡張した流域の維持だ。
流域を拡張する方向に制限はない。前後左右そして上下、一度にすべての方向に広げることができる。もっとも大きく広げた場合、半径20mの球状流域を形成することが可能だ。
……が、これがまた難しい。
魂を伸ばすには、意識を集中させなければならない。
だが、それには前後左右上下すべてに集中させる必要がある。
一方向ならまだしも、全方向に意識を集中させる、とは? それってむしろ集中ではなく拡散では?
最初のうちはそんな屁理屈をこねていたが……、
ぽう、と光が灯った。俺を中心に半径20m内が、蛍のような淡い発光体で満たされる。
俺の頭上には小球の魔術具が浮かび、橙色の準物質を纏った。加えて、同じく準物質の外殻に覆われた八つの球状魔術具が、橙球を中心として楕円軌道上を飛び回り始めた。
これは太陽系だ。軌道の設定は術式内に組み込まれており、術者はケプラーの法則を知らずとも太陽系を再現できる(その代わり、設定された軌道以外には飛ばせない)。
この魔術具はジェイク・メイヴィスの残した遺産の一つである。
ほかにも彼の遺産が多数。術式の仕組みを知らなくても起動できる魔術具を、リースがピックアップしてくれたのだ。
それらを使って、俺は魂源領域の拡張訓練を行なっている。
最初に始めてからもう半年は経つ。それだけの時間を使って、ようやく習得しつつある……あくまで、拡張のほうは。
問題は、拡張した流域の維持のほうだ。
広げた魂を維持するには、意識を集中させ続けなければならない。
いまみたいに、ただ静かな状態で維持するだけなら簡単だが……、
「ふっ」
耳に息が吹きかけられる。
「んふっ」
変な声が出て、起動していた術式すべてが途切れてしまう。頭のてっぺんに太陽が落ちてきた。
「集中が足りないわね」
「そりゃ不意打ちはまだね……」
振り返ると、そこに立っていたのはティーだ。
白磁のように白い肌と、絹糸を思わせる白い髪。そして、そこに一滴の血を垂らしたかのような、鮮やかな赤い虹彩。
その瞳に覗き込まれると、出会って半年以上経つというのに、いまだに胸が高く鳴る。
「リースが呼んでるわ。朝食ができたそうよ」
「……うん、いま行く」
***
「ミキヒト、そろそろ行こう」
昼前、リースに急かされ、俺は裏庭の倉庫に向かった。
「今日はこれとこれと……」
リースが倉庫からせっせと木箱を出していく。
そのあいだに、俺は靴に仕込んだ術式を起動させる。準物質の生成術式だ。
準物質をタイヤのないオープンカーのような形状に変化させ、その後部座席に木箱を積み込んでおく。その中身は薬以外に、村人から修理を依頼されていた魔術具などが含まれる。準物質剣もだ。
半年前に作った準物質剣の生成術式は、いまや調理器具や農具にまで応用され、村人みんなに愛される生活必需術式となった。
「……このくらいかな」
今日分の荷物をすべて積み終わり、俺は準物質車の運転席に、リースは助手席に乗り込んだ。まぁ運転席助手席とは言っても、俺の意思でどんな動きでもさせられるんだけどな、準物質だから。
俺が靴底に仕込んでいる準物質生成術式は、形状・生成位置・生成量ともに任意で指定できるという、自由度の高い術式になっている。生成した準物質も、俺の魂源流域内であれば意思の力で移動可能だ。
準物質剣の生成術式は、形状は剣、生成位置と量は刀身の表面だけ、と自由度の低い設定になっていた。そういった制限を設けることで、安全性の高い、エネルギー効率の高い術式にしたのである。
だが俺の魔術能力があれば、少なくともエネルギー効率の問題は気にしなくてよくなる。安全性の問題は、まぁ俺の努力次第だ。魂源流域の拡張と同じく、それもまた訓練中である。
「よし、じゃあ行くよ」
PMVを高く、家より木々より高くまで浮かび上がらせ、そこから空中を直線距離で村中心部まで向かう。
こうして空を、風を切って走ってると、まるでSF映画に出てくる飛ぶ車にでも乗ってるかのような気分になる。
ただ、見えるのは超高層ビルやネオン管の光ではなく、のどかな田舎の村景色だけだが。
村の中心部へはすぐに着いた。高度を徐々に落とし、集会所裏手の空き地に着陸。念動力術式で木箱を下ろし、PMVを解除する。
薬の木箱は村唯一の商店へ運び、いつもの価格で納品。すぐに店頭に並ぶことになった。
修理を頼まれていた魔術具は、持ち主が来るまでは出張所に保管する。顔見知りばかりの小さな村だ。盗難の心配なんてないから、そのうち持ち主のもとに戻るだろう。
「おっ、きたか」
よく聞く声に振り向くと、レイモンドさんがいた。
壮年の冒険者で、この村のまとめ役的な人だ。
革の繋ぎに金属プレートという戦闘装備。なのに腰には武器を吊ってない。
彼は返却魔術具の木箱から、鋼鉄製の剣を取り出した。その内部に刻印されている術式を起動したのだろう。刀身表面に赤い準物質が生成される。
それがレイモンドさんのメイン武器だ。
「どう? まだ調節する?」
リースが訊くと、レイモンドさんは片手で数度、振りかぶって、
「重量はこれでいい。剣速は……試してみねえとな。ミキヒト、もういけるか?」
「いいよ、いつでも」
「今日はなにするの?」
リースの問いに、レイモンドさんが答える。
「ちょっと調査だ。最近、ここら一帯でゴブリンの目撃情報が増えてる。どっかに集落ができてるのかもしれねえ」
「戦闘になる可能性は?」
「あくまで調査だから積極的に戦いはしねえが、やむを得ずって状況にはなるかもな」
「なるほど。……じゃあ、ミキヒトはこれを」
リースが光で術式を描く。
見覚えのある術式だ。修正を頼んでいたやつだろう。
俺は術式を起動させるため、なるべく広く意識を集中……つまり俺の最大限、半径20mの球状に魂源流域を拡張させる。
「《武装展開:魔術鎧装》」
起動コマンドを音声入力すると、まず変化が現れたのは手だ。
手の甲に、小さなジュラルミン製の板金が生成された。そのプレートには目を凝らさなければ見えないくらい細かな刻印が施されている。その正体は術式だ。
同様に刻印の入ったプレートが、手の甲から指先、そして肘下にまで生成されていく。
そこからさらに、今度は刻印のないプレートが、刻印ありのプレートを覆うように生成。これは戦闘の中で刻印つまり術式に傷がつかないように保護するための外殻だ。
このような二層構造のジュラルミン装甲が、膝下から足先、胸と背部にも展開される。
服や靴の上からの装着だが、衣類を巻き込むような不快感はない。装甲と肉体とのあいだにはわずかに隙間が空いているのだ。
同じように、この装備には重力と反対方向の念動力がかかっており、装備にかかる重力は中和される。アルミ合金製というのもあり、体感重量はほとんどゼロだ。
この隙間と重力中和は、装甲一層目に刻印された術式の効果の一部だ。つまり装備を魂源流域内に留め置く限り、その効果は持続される。
もちろん、刻印された術式効果はそれだけではない。
動作確認のため、手のひらを握ったり開いたりしてみる。
すると、機械の駆動音のようなノイズとともに、装備が勝手に動いた。
勝手に、というのは俺の意志に反して、という意味でない。
まるで俺の動きに合わせて、装備が自分で動いてくれているような感覚なのだ。
装備自身に運動エネルギーを付加することで、装備者の肉体の動きに合わせて、装備者の肉体の何倍もの出力で装備を動かすという動作支援の術式。
そしてそれが刻印された腕部装甲と脚部装甲、胸背部装甲。
刻印型支援術式付帯の魔術鎧装。
「おお、これもう修正できてたんだ」
「昨日ね。修正内容は性能向上だけで、新機能はなし。術式による動作支援が、生身の運動感覚とずれてないかを検証してほしい。あとは耐衝撃系の術式も改善してるから、重めの攻撃も受けてみてほしいかな」
「了解了解」
「ま、無理はしないように」
一つ、息を吐く。
集中だ。集中。
リースの家の裏庭からさらに奥にある、すこしだけ開けた草原。
そこに俺は座禅を組んで座っている。
この半年で習慣化した朝の日課だ。
俺を中心とした半径20m内には、さまざまな魔術具が配置してある。
発光の術式、定数指定された軌道に沿って物質を動かす念動力術式、準物質生成術式、ほかには俺が仕組みを理解できてない魔術具すらある。
それらを、起動する。
魔術式を起動するには、その対象となる術式に意識を集中させる必要はある。
この意識の集中という曖昧な行為。これの正体は魂の拡張であるとリースは言った。
魔術とは、エネルギーを操作することによって現象を起こす技術のことだ。術式素を組み合わせて術式を構築し、そこに記述した通りのエネルギーを操作し、任意の現象を起こす。
そのエネルギー操作を実現している器官こそ、俺たち人間の持つ魂であるという。
俺たちが周囲の物質を手に取れるのは、俺たちの肉体が物質でできてるからだ。
それと同じように、俺たちがエネルギーに触れて操作できるのは、俺たちの魂がエネルギーでできてるからであるらしい。魂という手を伸ばし、エネルギーに触れて操っているようなものだ、と。
ではもっと具体的に、どのようなエネルギー干渉が行われているのか。
魂は、魔力の流れのことである。
魔力の流れは、魔力海の作用であるエネルギー密度定常化作用によって、ヒトの脳内に作り出される。
魔術による現象というのは、たいてい脳の外側に望まれるものだから、エネルギーを操作するには魂を脳の外側に出力する必要がある。
この魂の外部出力を実現させる方法が、いま俺のやっている意識の集中だ。
深く意識を集中させると、まるで手を伸ばすかのように、魂がそっちへ伸びるらしい。魂は魔力の流れだから、その流れる方向を大きく広げるイメージだ。
そうやって魂を拡張させ、その流域を魔術式に重ねる。
そうすれば、術式に記述した通りの現象を起こすことができるらしい。
……どうして魔術式に魂を重ねると術式が起動させられるのか。この仕組みについては謎のままだが、すくなくとも法則性だけは保証されているみたいだ。
魂の流域を拡張し、魔術式と重ねる。
それが魔術式を起動するために、人間が行うべき動作である。
そして、いま俺がやっているのは、それの訓練だ。
魂源領域の拡張限界は、一般的には20m程度。この限界は、人間が人間である限り、超えられるものではないとティーは言っていた。
だから俺が訓練してるのは、拡張の方向と拡張した流域の維持だ。
流域を拡張する方向に制限はない。前後左右そして上下、一度にすべての方向に広げることができる。もっとも大きく広げた場合、半径20mの球状流域を形成することが可能だ。
……が、これがまた難しい。
魂を伸ばすには、意識を集中させなければならない。
だが、それには前後左右上下すべてに集中させる必要がある。
一方向ならまだしも、全方向に意識を集中させる、とは? それってむしろ集中ではなく拡散では?
最初のうちはそんな屁理屈をこねていたが……、
ぽう、と光が灯った。俺を中心に半径20m内が、蛍のような淡い発光体で満たされる。
俺の頭上には小球の魔術具が浮かび、橙色の準物質を纏った。加えて、同じく準物質の外殻に覆われた八つの球状魔術具が、橙球を中心として楕円軌道上を飛び回り始めた。
これは太陽系だ。軌道の設定は術式内に組み込まれており、術者はケプラーの法則を知らずとも太陽系を再現できる(その代わり、設定された軌道以外には飛ばせない)。
この魔術具はジェイク・メイヴィスの残した遺産の一つである。
ほかにも彼の遺産が多数。術式の仕組みを知らなくても起動できる魔術具を、リースがピックアップしてくれたのだ。
それらを使って、俺は魂源領域の拡張訓練を行なっている。
最初に始めてからもう半年は経つ。それだけの時間を使って、ようやく習得しつつある……あくまで、拡張のほうは。
問題は、拡張した流域の維持のほうだ。
広げた魂を維持するには、意識を集中させ続けなければならない。
いまみたいに、ただ静かな状態で維持するだけなら簡単だが……、
「ふっ」
耳に息が吹きかけられる。
「んふっ」
変な声が出て、起動していた術式すべてが途切れてしまう。頭のてっぺんに太陽が落ちてきた。
「集中が足りないわね」
「そりゃ不意打ちはまだね……」
振り返ると、そこに立っていたのはティーだ。
白磁のように白い肌と、絹糸を思わせる白い髪。そして、そこに一滴の血を垂らしたかのような、鮮やかな赤い虹彩。
その瞳に覗き込まれると、出会って半年以上経つというのに、いまだに胸が高く鳴る。
「リースが呼んでるわ。朝食ができたそうよ」
「……うん、いま行く」
***
「ミキヒト、そろそろ行こう」
昼前、リースに急かされ、俺は裏庭の倉庫に向かった。
「今日はこれとこれと……」
リースが倉庫からせっせと木箱を出していく。
そのあいだに、俺は靴に仕込んだ術式を起動させる。準物質の生成術式だ。
準物質をタイヤのないオープンカーのような形状に変化させ、その後部座席に木箱を積み込んでおく。その中身は薬以外に、村人から修理を依頼されていた魔術具などが含まれる。準物質剣もだ。
半年前に作った準物質剣の生成術式は、いまや調理器具や農具にまで応用され、村人みんなに愛される生活必需術式となった。
「……このくらいかな」
今日分の荷物をすべて積み終わり、俺は準物質車の運転席に、リースは助手席に乗り込んだ。まぁ運転席助手席とは言っても、俺の意思でどんな動きでもさせられるんだけどな、準物質だから。
俺が靴底に仕込んでいる準物質生成術式は、形状・生成位置・生成量ともに任意で指定できるという、自由度の高い術式になっている。生成した準物質も、俺の魂源流域内であれば意思の力で移動可能だ。
準物質剣の生成術式は、形状は剣、生成位置と量は刀身の表面だけ、と自由度の低い設定になっていた。そういった制限を設けることで、安全性の高い、エネルギー効率の高い術式にしたのである。
だが俺の魔術能力があれば、少なくともエネルギー効率の問題は気にしなくてよくなる。安全性の問題は、まぁ俺の努力次第だ。魂源流域の拡張と同じく、それもまた訓練中である。
「よし、じゃあ行くよ」
PMVを高く、家より木々より高くまで浮かび上がらせ、そこから空中を直線距離で村中心部まで向かう。
こうして空を、風を切って走ってると、まるでSF映画に出てくる飛ぶ車にでも乗ってるかのような気分になる。
ただ、見えるのは超高層ビルやネオン管の光ではなく、のどかな田舎の村景色だけだが。
村の中心部へはすぐに着いた。高度を徐々に落とし、集会所裏手の空き地に着陸。念動力術式で木箱を下ろし、PMVを解除する。
薬の木箱は村唯一の商店へ運び、いつもの価格で納品。すぐに店頭に並ぶことになった。
修理を頼まれていた魔術具は、持ち主が来るまでは出張所に保管する。顔見知りばかりの小さな村だ。盗難の心配なんてないから、そのうち持ち主のもとに戻るだろう。
「おっ、きたか」
よく聞く声に振り向くと、レイモンドさんがいた。
壮年の冒険者で、この村のまとめ役的な人だ。
革の繋ぎに金属プレートという戦闘装備。なのに腰には武器を吊ってない。
彼は返却魔術具の木箱から、鋼鉄製の剣を取り出した。その内部に刻印されている術式を起動したのだろう。刀身表面に赤い準物質が生成される。
それがレイモンドさんのメイン武器だ。
「どう? まだ調節する?」
リースが訊くと、レイモンドさんは片手で数度、振りかぶって、
「重量はこれでいい。剣速は……試してみねえとな。ミキヒト、もういけるか?」
「いいよ、いつでも」
「今日はなにするの?」
リースの問いに、レイモンドさんが答える。
「ちょっと調査だ。最近、ここら一帯でゴブリンの目撃情報が増えてる。どっかに集落ができてるのかもしれねえ」
「戦闘になる可能性は?」
「あくまで調査だから積極的に戦いはしねえが、やむを得ずって状況にはなるかもな」
「なるほど。……じゃあ、ミキヒトはこれを」
リースが光で術式を描く。
見覚えのある術式だ。修正を頼んでいたやつだろう。
俺は術式を起動させるため、なるべく広く意識を集中……つまり俺の最大限、半径20mの球状に魂源流域を拡張させる。
「《武装展開:魔術鎧装》」
起動コマンドを音声入力すると、まず変化が現れたのは手だ。
手の甲に、小さなジュラルミン製の板金が生成された。そのプレートには目を凝らさなければ見えないくらい細かな刻印が施されている。その正体は術式だ。
同様に刻印の入ったプレートが、手の甲から指先、そして肘下にまで生成されていく。
そこからさらに、今度は刻印のないプレートが、刻印ありのプレートを覆うように生成。これは戦闘の中で刻印つまり術式に傷がつかないように保護するための外殻だ。
このような二層構造のジュラルミン装甲が、膝下から足先、胸と背部にも展開される。
服や靴の上からの装着だが、衣類を巻き込むような不快感はない。装甲と肉体とのあいだにはわずかに隙間が空いているのだ。
同じように、この装備には重力と反対方向の念動力がかかっており、装備にかかる重力は中和される。アルミ合金製というのもあり、体感重量はほとんどゼロだ。
この隙間と重力中和は、装甲一層目に刻印された術式の効果の一部だ。つまり装備を魂源流域内に留め置く限り、その効果は持続される。
もちろん、刻印された術式効果はそれだけではない。
動作確認のため、手のひらを握ったり開いたりしてみる。
すると、機械の駆動音のようなノイズとともに、装備が勝手に動いた。
勝手に、というのは俺の意志に反して、という意味でない。
まるで俺の動きに合わせて、装備が自分で動いてくれているような感覚なのだ。
装備自身に運動エネルギーを付加することで、装備者の肉体の動きに合わせて、装備者の肉体の何倍もの出力で装備を動かすという動作支援の術式。
そしてそれが刻印された腕部装甲と脚部装甲、胸背部装甲。
刻印型支援術式付帯の魔術鎧装。
「おお、これもう修正できてたんだ」
「昨日ね。修正内容は性能向上だけで、新機能はなし。術式による動作支援が、生身の運動感覚とずれてないかを検証してほしい。あとは耐衝撃系の術式も改善してるから、重めの攻撃も受けてみてほしいかな」
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