Magic_and_Sorcery~生活魔法すら使えなかった俺が精霊に魔術を教わって真の勇者となるまで~

篠日記

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chapter.001《邂逅》

#022_魔術鎧装

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 風が心地いい。
 俺は、空に浮いている。PMVではなく、脚部装甲ソルレットに刻印された念動力術式を使っているのだ。

 眼下に広がるのは森。
 現在、ゴブリンの集落を捜索中である。

『ミキヒト、どうだ?』

 耳にかける形で装着している魔術具から、レイモンドさんの声が聞こえた。
 これもまたジェイク・メイヴィスが設計してリースが開発した魔術具の一つだ。

 仕組みは単純。音を電波に変えて発信する術式と、受信した電波を音に変える術式が組み込まれている。言ってしまえばトランシーバーだ。
 耳にかけるタイプのイヤホンみたいな形状をしてるため、術式さえ起動していれば手動操作が必要なく、ハンズフリーで声を送信することができる。

 逆に、術式を起動しっぱなしにしてないと電波を受信できなくなることが欠点だが、魔術使いの戦闘は魂源流域を大きく広げるのが定石であるため、たいしたデメリットにはならない。

「だめですね。っぽいです」

 さっきから俺は、三匹のゴブリンを追跡している。

 ゴブリンは緑色の肌を持つ小鬼のような容姿をした類人種だ。
 類人種とはゴブリンやコボルト、オークなどのヒトに似た種族のことで、動物よりは知能が高く、群れを作って行動するという特性を持つ。

 もしこいつらが集落出身のゴブリンなら、追いかけていればいつかは集落に帰るかもしれない……という期待を胸に追跡を行なっていたが、どうやらこいつは目的があって行動しているわけではなさそうだ。

 類人種が集落を形成する場合、たいていそこにはひときわ知能の高い個体が存在している。そいつが指導者となり、群れをまとめて先導しているのだ。

 群れの規模が大きくなると、その生活もまた変わってくる。警備に索敵、狩猟、食料調達、その他資材の収集などなど、それぞれの個体に仕事を割り振るようになるのだ。大人数での共同生活を営むにあたって、ヒトと同じように役割分担をすることで作業の効率化を図っていく傾向にある。

 だが、このゴブリンたちには役割が与えれられているようには思えない。
 その場で食べるぶんの木の実しか採集せず、狩った鹿も生肉のまま食べたうえ、骨や皮などを捨てていった。動物の骨はゴブリン建築における重要な建材であるはずだ。狩猟の役割が与えられているのなら、その場で肉を食べたり骨を捨てたりなんてするはずがない。

 おそらく、どこの集団にも属していない野良の個体だろう。それを冒険者たちはと呼んでいる。

「どうします? もう狩ります?」
『そうするか。位置は?』
「そこから北東30m……いや、ちょっと待って」

 ゴブリンとレイモンドさんの距離を目測で測る途中、視界の端に動く物体を捉えた。

「オークいます。数は二。北50m」
『マジかよ。どうすっかな』
「俺が全部やりましょうか? 空から遠距離で」
『それは、面白くねえだろ』

 レイモンドさんの笑みを含んだ声。

『お前も武器、新調したんだろ。試したいんじゃねえか?』
「レイモンドさんこそでしょ」
『俺たちはゴブリンをやる。お前はオークをやれ。戦闘中の合流はしねえ。……ミキヒト、お前なら一人でいけるよな?』
「舐めないでもらいたいですね」
『それならいい。……ゴブリンを目視で確認。こっちはいつでもいける』
「ちょっと待って……はい、大丈夫です。オークの真上に着きました」
『よし。ミキヒト、お前のタイミングで仕掛けろ』
「了解です。もういいですか?」
『いつでも』
「それじゃあ……」

 ふっ、と俺は念動力術式を解除する。
 俺の身体が、まさに重力を思い出したかのように落下を始める。

 せっかくだから、リースに言われていた検証項目を一つ試そう。
 耐衝撃系術式。鎧に加えられた衝撃のベクトルを操作して負荷を分散する術式や、衝撃のエネルギーを魔力エネルギーに変換することで衝撃を弱める術式などがある。

 それらの術式効果が、どれほど強化されているのか。

「……三、二、一」

 カウントをレイモンドさんに伝える。
 徐々に速度があがり、オークとの、地面との距離が近づきーーーー、

「ーーーーゼロ!」

 ドゴッ!!! と俺は両足と片手を接地して着地する。

 三点着地。またの名をスーパーヒーロー着地。
 高高度からの落下、それによる衝撃をまったく考慮に入れてない無謀な着地法だが、

「……おお」

 俺が感じた衝撃は、ほとんどゼロだ。

 ただ、俺が感じる衝撃……つまり力の反作用がゼロになっただけで、地面への作用がなくなったわけじゃない。
 振動は地面を、音は空気を伝って、オークに届く。

「プギッ!?」

 オークが二匹とも、俺のほうへ振り向いた。

 オークとは、ヒトの身体に豚の頭を載せたような類人種だ。
 身長はヒトと同程度だが、その身体は厚い肉に覆われていて、打撃系の攻撃は通りにくい。だから斬撃系の攻撃で削っていくのが定石である。

 だからこそ、

「ふっ!」

 俺はあえて、打撃での攻撃を試みる。

 性能調査のもう一つ。
 装着者の動作に合わせて、鎧に運動エネルギーを付加する動作支援術式。

「プギィッ!」

 俺の拳が命中したのは腹。一番脂肪が厚く、攻撃の通りにくい箇所だ。
 にもかかわらず、オークは悲鳴をあげてあとずさった。

 俺みたいな非力な人間の打撃すら、オークに通用するほど強化された一撃となる。それだけの運動エネルギーが付加されたということだ。動作支援術式は問題なく起動している。

 もう一匹のオークが、俺に向かって拳を振りかざした。

 武器を持たないオークの攻撃は、ヒトのそれと同じだ。
 殴る蹴る。あとはその巨体を生かしたのしかかり。指が短いので掴み技はほとんどない。

 ただし人間以上に体重があるため、ただのパンチでもかなりの威力になる。
 それを俺は左手一本、その腕部装甲ガントレットで受け止める。
 あの落下時の衝撃に比べれば、たいしたことない威力だ。

 殴ってきたオークの腹に前蹴りを入れ、俺は数歩後ろに退く。
 そこから最初に一撃入れたオークのほうへ跳躍。頭くらいの高さまで跳んで、顔面に蹴りを一発……のつもりだったのだが、

「あれっ?」

 俺は高く、足がオークに届かないくらい高くまで跳躍していた。

 生身との運動感覚のずれ。リースに言われた検証項目の一つだ。
 俺の感覚ではちょっと跳んだだけだったのだが、想定以上の運動エネルギーが脚部装甲に付加されたのだろう。

 従来の動作支援術式には運動エネルギーの付加量に上限が設定されていたのだが、今回の改善ではその上限量が増やされたのかもしれない。

 俺は念動力で落下速度と位置を調整し、オークの背後に降り立つ。その際、オークの首根っこを掴んで引き倒し、蹴りを入れて首を折る。
 これでこいつは戦闘不能だ。あとは一匹。

 検証の続きをしよう。どれくらい上限量が増やされたのかを確かめる。

 さっき大きく跳躍してしまったのは、俺が運動エネルギー付加量の上限を把握できていなかったせいだ。
 初めからあれくらい多くのエネルギーが付加されることがわかっていれば、調整コントロールできていた……はずである。それをいまから確かめる。

 方法は簡単。一発ごとに少しずつ威力を高めながら、ただただ敵を殴り蹴り続ける。
 打撃に強いオークは、そのテストに適した相手だ。

 近づいて殴り、敵が退がったら追撃する。反撃してきたら受け止め、隙を見つけたらまた攻撃。それを繰り返す。

 動作支援術式も耐衝撃系術式も問題なく機能している。運動エネルギーの付加量も掴めてきた。耐衝撃機能もまだまだ余裕がそうだ。

『オーク相手に打撃縛りたあ余裕あるな』

 しばらくすると、レイモンドさんから通信が入った。

「あれ? 見てるんですか?」
『ああ、こっちは終わった』
「じゃあ、こっちも終わらせますよ。《武装拡張:鉤爪タロン》」

 そう音声入力すると、腕部装甲の指先から猛禽類のような黄色く鋭い爪が生えてきた。
 準物質パラマテリアル製の鉤爪だ。

 魔術鎧装ソーサリックアーマーにはこういった拡張術式オプションがいくつか搭載されており、いずれも音声入力すれば展開できる仕様となっている。

 レイモンドさんたちを待たせている以上、手早く終わらせよう。
 ずっと殴り続けたおかげで、オークの息は切れ切れだ。素早い動きで手早く仕留める。

 俺はオークのいるところから走り、そして跳躍。
 そのまま方向転換する。

 足裏にのみ念動力をかけて、まるで地面を踏むように空中を跳躍する歩法、空中踏歩だ。これはレイモンドさんに教わった技術である。

 身体全体に念動力をかけて移動する飛行移動もあるが、こちらは少し危険度が高い。直接、肉体に念動力をかけるため、その力の出力を間違えでもすれば大事故につながるからだ。普段使いならまだいいが、戦闘中なんかはリキみすぎて魔術の出力を間違える、というミスはよく起こる。

 その点、この空中踏歩で使う念動力は、足裏にだけ力をかければいいから事故がすくない。それに歩く走るという動作の延長上で跳躍することができるから、自分の動きをイメージしやすく、かつ、そのイメージ通りに動きやすいというメリットがある。冒険者がよく使う歩法なのだそうだ。

 空中踏歩で跳躍すること、三歩。
 オークが振り向くより速く、俺はオークの背後に回り込んだ。
 そしてその膝裏を、鉤爪で削ぐ。

「プギャッ!」

 悲鳴をあげて後ろに倒れ込むオーク。
 俺は下敷きにならないように素早く離脱し、宙を踏んですぐにUターン。
 痛みに騒ぐオークの喉笛を掻き切った。

「お見事」

 レイモンドさんが繁みから姿を現した。
 彼の背後には人影が二人。盾役のダグラスさんと、後衛および司令塔のアーセルさんだ。
 この三人はリリン村一の実力を持つ熟練パーティである。

「ゴブリンはどうでした?」
「なんともねえよ。個々は弱いし連携も荒い。あれははぐれで確定だな」
「んん、じゃあ集落はどこにあるんでしょう? この近辺、集落ができそうなところは一通り調査しましたよね? 洞窟とか廃村とか」
「したなあ。追跡調査もこのザマだし……」
「そもそも集落なんてないんじゃないですか?」
「それにしては目撃情報が多いんだよなあ……。もうちょっと調査範囲を広げてみるか?」
「いいですけど、集落がそんなに遠いなら、このへんで目撃情報が増えますかね?」
「だよなあ……どうすっかな……」

 レイモンドさんは、眉間に皺を寄せて黙り込んでしまった。
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