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HO9.滅亡使命の救済者(7話)
5.救うべき人
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イオタから宇宙船の所在地を聞き出し、車で向かおうとした哲夫の端末が鳴った。画面に表示されたのは「小西夕花」。
「小西さん?」
何かあったのだろうか。杏からの接触とか。哲夫は通話ボタンを押して、耳に当てる。
「はい、国成です」
飛び込んできたのは、恐怖に震える涙声で、彼は仰天する。
『国成さんすみません! 朝菜が、朝菜がいなくなったんです!』
「ええっ!?」
『国成さんか浪越さんにご連絡は行ってないでしょうか? 誕生日に買った、魔法少女のおもちゃ一式もなくなってて……! また魔法少女ごっこしてるのかもしれないと思って近所を探したんですけど、どこにもいなくて!』
「さっき、自分からお電話したときには声がしてましたよね?」
『はい……あの時は元気だと言っていたんですが、大人しくしてたからやっぱり疲れてたんだと……でも、多分私たちの隙を窺ってたんです……』
「そ、そんな……」
小西朝菜の騒動があったのは昨日だ。喉元過ぎれば熱さを忘れるにしても早すぎる。
否、しかし、「天啓」とはそう言うものだ。
朝菜は、「天啓」による肉体の改造に適合してしまい、腫瘍の摘出が実質不可能になっているため、そのまま「天啓」を残している希有な例だ。
「他に心当たりは?」
『心当たりは全部当たったんです。学校も、私と主人の実家も。でも来てないって……警察に通報しようって言ってるところで』
「そうしてください」
「国成さん」
テータが哲夫の肩を叩いた。振り返ると、彼女は真剣な表情でこちらに端末の画面を向けている。それは、イオタが宇宙船を停泊させた、と言った場所の記事だった。
『魔法少女アニメ名シーンの元となった景色をご紹介!』
記事の本文をスクロールしながら、哲夫は昨日、朝菜の口から出てきた単語を見つけた。
「……グレートコスモスの漂着場?」
グレートコスモス。それは確か、魔法少女の敵対陣営にいながら、主人公の魔法少女と交流を持ってうんたらかんたらみたいな、物語に深みを出すキーパーソンに関連したワードだったと思う。朝菜はそれを杏と重ねていたっけ。
『えっ? 今なんて?』
「グレートコスモスの漂着場っていう場所のモデルになった場所があるっていう記事が……自分たちがこれから行くところなんですけど」
『それって……』
夕花は具体的な地名を出した。それは、まさしくこれから哲夫たちが向かう場所。彼が肯定すると、夕花は取り乱した。
『私、私それを見つけて、朝菜に話したことがあるんです! アニメのモデルになった場所があるって! どうしよう!』
「落ち着いて! ひとまず警察には通報してください。自分たちはこれからここに向かいます。そこで彼女が見つかった保護しますから!」
『お願いです、お願い、朝菜を連れ戻して……! 何でもしますから……!』
「ひとまず警察に」
『私があの子の聞こえるところで電話なんかするから!』
やがて、彼女を心配する夫・圭太の声が聞こえた。彼が電話を替わり、哲夫が事情を説明すると、彼は了承し、
『娘をお願いします』
と言って通話を切った。
◆◆◆
「天啓」に誰よりも適応している被害者、小西朝菜は、浪越テータにひけを取らない身体能力を見せた。しかし、「天啓」が馴染んでいるのは杏も同じだ。
どうも、魔法少女ものと言うのは女児向けの割に戦闘シーンが多いようで、朝菜は迷わず実力行使を選んだ。得物はおもちゃの杖だ。
「はっ!」
朝菜がステッキを横薙ぎに振るう。杏は頭を下げて躱すと翼状の触手を掴んで彼女を放り投げた。朝菜の軽い身体は簡単に吹き飛ぶが、宙で体勢を立て直して着地。
魔法はない。ステッキはビカビカ光っているが、それだけだ。魔法なんて物は、ない。
だから、やりとりは魔法少女アニメの再現に近くても、やっていることは肉弾戦なのだ。
「朝菜くん! 君を傷付けるつもりはないんだ! 今帰れば、お母さんに心配掛けなくて良いんだよ!」
「それはできない! だって、これは私の『使命』だから! 救済の魔法少女として、杏くんを助ける!」
「わからないかな。僕にだって『使命』があるんだ」
両者一歩も譲らない。朝菜は驚異的な瞬発力を見せて、投げられて空いた距離を一気に詰める。
「絶対に、グレートコスモスには帰らせない! そこにあなたの居場所はない!」
相手と対話することなく、お互いに自分の思い込みだけで言いたいことを言っている状態だ。
少女を殴るなんてことは杏にはできない。だから彼は防戦一方だが、朝菜の方もなかなか決まらない攻めに焦れてきているのが見て取れる。
(次の朝菜くんの攻撃が来たら、あっちの方に投げる……そしたら森の中に逃げ込めるから、捲いてイオタの宇宙船を探そう)
そして、朝菜は芸もなく、まっすぐに突っ込んできた。
杏はそれを待ち構え、自分に向かって振るわれたステッキを掴み、朝菜の手からもぎ取った。
「あっ!」
ボタンを押して、光らせると、音を鳴らしながら光るステッキを、あらぬ方向に放り投げた。光らせたのは、見つけられるようにと言う杏なりの情けだ。
「私のステッキ!」
(今だ!)
杏は脱兎のごとく走り出した。
「ちょっと杏くん! 卑怯だわ!」
背中に朝菜から非難の声が投げつけられる。彼女からそう言われると、少し胸が痛んだ。
(でも、やらなくちゃ行けないから)
必死で森の中を走り抜ける彼には聞こえなかった。
複数の車のエンジン音が。
◆◆◆
目的地に到着した宇宙対策室や関連省庁の面々は、懐中電灯と拡声器を持って森に入り込んだ。
「ロープを木に結んで……」
「一人で行動しない」
「鹿や猪に気をつけて」
「不明児童の特徴ですが」
そんな周りの声を聞きながら、哲夫は森の奥を睨んだ。
この中に、杏がいるかもしれない。
そう思うといてもたってもいられない。
彼を連れて帰りたい。
「天啓」から解放した。
それはすなわち、杏を救いたいと思っていることに他ならない。哲夫は目を閉じた。
(皆、誰かを救いたいと思う物なんだよな)
誰かの為になりたい。
誰かが境界を越えようとしたら引き留めたい。
そうやって社会を維持する努力をする。
それは善良で、正しいことだから。
社会で認められるには善良で正しくないといけないから。
「救いたい」と思うこと自体は、何も悪くない。
きっとその気持ちは、社会で人として生きるための「力」であり、「力」と言うやつは使い方次第で人を本当に救ったり、あるいは傷付けたりもする。
皆、そう言う「力」に振り回されているんだ。
「国成さん」
テータが哲夫に呼びかけた。彼女は、もらった目印用のテープを握りしめている。
「公務員と言うやつは、個人じゃなくて社会が一番良くなるように動かないといけないときがある。問題の起こっている個人を救うのではなくて、その人の周りで生じている歪みを正すために」
一人の犠牲で多数を救わないといけない時がある。
「その時に一番大きな声でSOSを出している人を救うどころか、犠牲にしないといけない時もある」
「それは私の星も同じです」
「でも、個人だってそうだよな。目の前の友達を助けたくても、法律とか社会的な問題で救えないことがある」
だから、人は快刀乱麻を断つように、全ての障害を薙ぎ払って誰かを救いたいと強く願うことがあるのだろう。
最初、「天啓」の話を聞いた時に、「救済願望でお節介する奴なんて山ほどいるだろう」と思った。
多くの人が、大なり小なり誰かを助けられなくて何かしらの悔恨を抱えているからなのだと、今ならわかる。
「行こう。神林さんを助けよう」
「はい」
捜索隊は、杏と朝菜の名前を呼びながら、木に目印のテープをつける。イオタは船までのルートを知っているため、テータと哲夫を先導している。あのアタッシェケースも持参していた。その腰には、警視庁から借り受けた腰縄が着けられ、テータが握っていた。
「朝菜さんはまだ着いていないのかもしれないな」
哲夫は何の反応もない森の奥を見て、希望的観測を述べた。
「ええ。彼女は少し衝動的なところがありますから、電車のルートも調べていないと思います。着くのには時間が掛かる……と思いたいですが、それはそれで逆に行方がわからないので困りますね」
「それもそうか」
「まったく358星人はどいつもこいつも勝手に先走る……」
「そうしたのは我々のせいですけどね」
文句を言うイオタを、テータが睨む。
「あなたも片棒を担いでいるのを忘れないように」
そこから少し歩いた時。突然けたたましい電子音が轟いた。三人とも驚いて身構える。しかし、哲夫は目を瞬かせ、
「なんかおもちゃみたいな……もしや」
そういえば、朝菜の母・夕花が、「誕生日に買った魔法少女グッズが消えていた」と言っていた。その中には、ボタンを押すと光ってサウンドエフェクトが鳴るステッキのおもちゃもあったらしい。
「朝菜さんか!?」
「国成さん……」
木の陰から、ひょっこりと魔法少女が顔を出した。格好が変わっているので一瞬誰だかわからなかったが、間違いない。小西朝菜だ。
「朝菜!」
テータは腰縄を哲夫に預けると、少女に駆け寄った。少女の身体は砂や泥で汚れていたが、大きな怪我などはないようだった。哲夫がトランシーバーで、朝菜発見の旨を報告する。テータは持っていたスポーツドリンクのペットボトルを渡した。
「大丈夫ですか? 探しましたよ」
「テータ! 良かった! 私、杏くんを止めようとしたんだけど、逃げられちゃって!」
「杏くんに会ったんですね。止めようとしたって言うのは……」
「杏くん、グレートコスモスの使命に目覚めてたみたいだったから、戦ったの。杏くんも普通の人より強くなってたみたい」
身体能力が上がっているのか。と言う事は、彼も朝菜と同じくらい適応し始めているのだろう。早くしないと命に関わる。
「そしたらステッキ取られて投げられちゃって、それを取りに行ってる間に逃げられちゃった」
「そんなおもちゃ、なくたって構わないだろうに」
イオタが呆れたように言う。
「駄目! 魔法少女の力の元なんだから!」
「何を言ってるんだこいつ……」
「イオタ、悪いが黙っていてくれ。また浪越さんに怒られるぞ」
哲夫がたしなめた。テータが朝菜にかかっていなければ、既に彼女から鉄拳制裁が下されていたことだろう。
「君に言われる筋合いはないな」
「そうだ、朝菜、あの縛られている人は、杏くんをいじめたグレートコスモスの悪い奴なんです。あとでお仕置きしましょうね」
「そうなの?」
朝菜はキッとイオタを睨んだ。イオタはやれやれと言わんばかりに首を横に振る。
「テータたちも杏くんを探してるの?」
「ええ。恐らく杏くんは、グレートコスモスに帰るための船に向かっている筈です。あの人に案内してもらいます」
「私も行く!」
「朝菜」
テータは少女の方に手を置き、目を覗き込んだ。
「ここから先は、私たちに任せてください。あなたは杏くんと同じくらい、助けてあげないと人がいますよ」
「誰のこと?」
「あなたのお母さんです」
「ママ……」
「心配していました。自分があなたの聞こえるところで電話してしまったせいじゃないかって」
「そんな、ママは悪くないのに」
「それは、あなたが生きて帰れば帳消しになります。あなたが怪我したり、大変な目に遭えば、お母さんのことは誰も救ってあげられなくなります。今の彼女は、あなたにしか救えないんです。やってくれますか?」
「うん、わかった」
「それでこそ、私たちが見込んだ『救済の魔法少女』です。期待していますよ」
テータは朝菜を抱きしめる。少女を回収しに来た人員に引き渡し、再び目的地を目指した。
「小西さん?」
何かあったのだろうか。杏からの接触とか。哲夫は通話ボタンを押して、耳に当てる。
「はい、国成です」
飛び込んできたのは、恐怖に震える涙声で、彼は仰天する。
『国成さんすみません! 朝菜が、朝菜がいなくなったんです!』
「ええっ!?」
『国成さんか浪越さんにご連絡は行ってないでしょうか? 誕生日に買った、魔法少女のおもちゃ一式もなくなってて……! また魔法少女ごっこしてるのかもしれないと思って近所を探したんですけど、どこにもいなくて!』
「さっき、自分からお電話したときには声がしてましたよね?」
『はい……あの時は元気だと言っていたんですが、大人しくしてたからやっぱり疲れてたんだと……でも、多分私たちの隙を窺ってたんです……』
「そ、そんな……」
小西朝菜の騒動があったのは昨日だ。喉元過ぎれば熱さを忘れるにしても早すぎる。
否、しかし、「天啓」とはそう言うものだ。
朝菜は、「天啓」による肉体の改造に適合してしまい、腫瘍の摘出が実質不可能になっているため、そのまま「天啓」を残している希有な例だ。
「他に心当たりは?」
『心当たりは全部当たったんです。学校も、私と主人の実家も。でも来てないって……警察に通報しようって言ってるところで』
「そうしてください」
「国成さん」
テータが哲夫の肩を叩いた。振り返ると、彼女は真剣な表情でこちらに端末の画面を向けている。それは、イオタが宇宙船を停泊させた、と言った場所の記事だった。
『魔法少女アニメ名シーンの元となった景色をご紹介!』
記事の本文をスクロールしながら、哲夫は昨日、朝菜の口から出てきた単語を見つけた。
「……グレートコスモスの漂着場?」
グレートコスモス。それは確か、魔法少女の敵対陣営にいながら、主人公の魔法少女と交流を持ってうんたらかんたらみたいな、物語に深みを出すキーパーソンに関連したワードだったと思う。朝菜はそれを杏と重ねていたっけ。
『えっ? 今なんて?』
「グレートコスモスの漂着場っていう場所のモデルになった場所があるっていう記事が……自分たちがこれから行くところなんですけど」
『それって……』
夕花は具体的な地名を出した。それは、まさしくこれから哲夫たちが向かう場所。彼が肯定すると、夕花は取り乱した。
『私、私それを見つけて、朝菜に話したことがあるんです! アニメのモデルになった場所があるって! どうしよう!』
「落ち着いて! ひとまず警察には通報してください。自分たちはこれからここに向かいます。そこで彼女が見つかった保護しますから!」
『お願いです、お願い、朝菜を連れ戻して……! 何でもしますから……!』
「ひとまず警察に」
『私があの子の聞こえるところで電話なんかするから!』
やがて、彼女を心配する夫・圭太の声が聞こえた。彼が電話を替わり、哲夫が事情を説明すると、彼は了承し、
『娘をお願いします』
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どうも、魔法少女ものと言うのは女児向けの割に戦闘シーンが多いようで、朝菜は迷わず実力行使を選んだ。得物はおもちゃの杖だ。
「はっ!」
朝菜がステッキを横薙ぎに振るう。杏は頭を下げて躱すと翼状の触手を掴んで彼女を放り投げた。朝菜の軽い身体は簡単に吹き飛ぶが、宙で体勢を立て直して着地。
魔法はない。ステッキはビカビカ光っているが、それだけだ。魔法なんて物は、ない。
だから、やりとりは魔法少女アニメの再現に近くても、やっていることは肉弾戦なのだ。
「朝菜くん! 君を傷付けるつもりはないんだ! 今帰れば、お母さんに心配掛けなくて良いんだよ!」
「それはできない! だって、これは私の『使命』だから! 救済の魔法少女として、杏くんを助ける!」
「わからないかな。僕にだって『使命』があるんだ」
両者一歩も譲らない。朝菜は驚異的な瞬発力を見せて、投げられて空いた距離を一気に詰める。
「絶対に、グレートコスモスには帰らせない! そこにあなたの居場所はない!」
相手と対話することなく、お互いに自分の思い込みだけで言いたいことを言っている状態だ。
少女を殴るなんてことは杏にはできない。だから彼は防戦一方だが、朝菜の方もなかなか決まらない攻めに焦れてきているのが見て取れる。
(次の朝菜くんの攻撃が来たら、あっちの方に投げる……そしたら森の中に逃げ込めるから、捲いてイオタの宇宙船を探そう)
そして、朝菜は芸もなく、まっすぐに突っ込んできた。
杏はそれを待ち構え、自分に向かって振るわれたステッキを掴み、朝菜の手からもぎ取った。
「あっ!」
ボタンを押して、光らせると、音を鳴らしながら光るステッキを、あらぬ方向に放り投げた。光らせたのは、見つけられるようにと言う杏なりの情けだ。
「私のステッキ!」
(今だ!)
杏は脱兎のごとく走り出した。
「ちょっと杏くん! 卑怯だわ!」
背中に朝菜から非難の声が投げつけられる。彼女からそう言われると、少し胸が痛んだ。
(でも、やらなくちゃ行けないから)
必死で森の中を走り抜ける彼には聞こえなかった。
複数の車のエンジン音が。
◆◆◆
目的地に到着した宇宙対策室や関連省庁の面々は、懐中電灯と拡声器を持って森に入り込んだ。
「ロープを木に結んで……」
「一人で行動しない」
「鹿や猪に気をつけて」
「不明児童の特徴ですが」
そんな周りの声を聞きながら、哲夫は森の奥を睨んだ。
この中に、杏がいるかもしれない。
そう思うといてもたってもいられない。
彼を連れて帰りたい。
「天啓」から解放した。
それはすなわち、杏を救いたいと思っていることに他ならない。哲夫は目を閉じた。
(皆、誰かを救いたいと思う物なんだよな)
誰かの為になりたい。
誰かが境界を越えようとしたら引き留めたい。
そうやって社会を維持する努力をする。
それは善良で、正しいことだから。
社会で認められるには善良で正しくないといけないから。
「救いたい」と思うこと自体は、何も悪くない。
きっとその気持ちは、社会で人として生きるための「力」であり、「力」と言うやつは使い方次第で人を本当に救ったり、あるいは傷付けたりもする。
皆、そう言う「力」に振り回されているんだ。
「国成さん」
テータが哲夫に呼びかけた。彼女は、もらった目印用のテープを握りしめている。
「公務員と言うやつは、個人じゃなくて社会が一番良くなるように動かないといけないときがある。問題の起こっている個人を救うのではなくて、その人の周りで生じている歪みを正すために」
一人の犠牲で多数を救わないといけない時がある。
「その時に一番大きな声でSOSを出している人を救うどころか、犠牲にしないといけない時もある」
「それは私の星も同じです」
「でも、個人だってそうだよな。目の前の友達を助けたくても、法律とか社会的な問題で救えないことがある」
だから、人は快刀乱麻を断つように、全ての障害を薙ぎ払って誰かを救いたいと強く願うことがあるのだろう。
最初、「天啓」の話を聞いた時に、「救済願望でお節介する奴なんて山ほどいるだろう」と思った。
多くの人が、大なり小なり誰かを助けられなくて何かしらの悔恨を抱えているからなのだと、今ならわかる。
「行こう。神林さんを助けよう」
「はい」
捜索隊は、杏と朝菜の名前を呼びながら、木に目印のテープをつける。イオタは船までのルートを知っているため、テータと哲夫を先導している。あのアタッシェケースも持参していた。その腰には、警視庁から借り受けた腰縄が着けられ、テータが握っていた。
「朝菜さんはまだ着いていないのかもしれないな」
哲夫は何の反応もない森の奥を見て、希望的観測を述べた。
「ええ。彼女は少し衝動的なところがありますから、電車のルートも調べていないと思います。着くのには時間が掛かる……と思いたいですが、それはそれで逆に行方がわからないので困りますね」
「それもそうか」
「まったく358星人はどいつもこいつも勝手に先走る……」
「そうしたのは我々のせいですけどね」
文句を言うイオタを、テータが睨む。
「あなたも片棒を担いでいるのを忘れないように」
そこから少し歩いた時。突然けたたましい電子音が轟いた。三人とも驚いて身構える。しかし、哲夫は目を瞬かせ、
「なんかおもちゃみたいな……もしや」
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「朝菜さんか!?」
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「朝菜!」
テータは腰縄を哲夫に預けると、少女に駆け寄った。少女の身体は砂や泥で汚れていたが、大きな怪我などはないようだった。哲夫がトランシーバーで、朝菜発見の旨を報告する。テータは持っていたスポーツドリンクのペットボトルを渡した。
「大丈夫ですか? 探しましたよ」
「テータ! 良かった! 私、杏くんを止めようとしたんだけど、逃げられちゃって!」
「杏くんに会ったんですね。止めようとしたって言うのは……」
「杏くん、グレートコスモスの使命に目覚めてたみたいだったから、戦ったの。杏くんも普通の人より強くなってたみたい」
身体能力が上がっているのか。と言う事は、彼も朝菜と同じくらい適応し始めているのだろう。早くしないと命に関わる。
「そしたらステッキ取られて投げられちゃって、それを取りに行ってる間に逃げられちゃった」
「そんなおもちゃ、なくたって構わないだろうに」
イオタが呆れたように言う。
「駄目! 魔法少女の力の元なんだから!」
「何を言ってるんだこいつ……」
「イオタ、悪いが黙っていてくれ。また浪越さんに怒られるぞ」
哲夫がたしなめた。テータが朝菜にかかっていなければ、既に彼女から鉄拳制裁が下されていたことだろう。
「君に言われる筋合いはないな」
「そうだ、朝菜、あの縛られている人は、杏くんをいじめたグレートコスモスの悪い奴なんです。あとでお仕置きしましょうね」
「そうなの?」
朝菜はキッとイオタを睨んだ。イオタはやれやれと言わんばかりに首を横に振る。
「テータたちも杏くんを探してるの?」
「ええ。恐らく杏くんは、グレートコスモスに帰るための船に向かっている筈です。あの人に案内してもらいます」
「私も行く!」
「朝菜」
テータは少女の方に手を置き、目を覗き込んだ。
「ここから先は、私たちに任せてください。あなたは杏くんと同じくらい、助けてあげないと人がいますよ」
「誰のこと?」
「あなたのお母さんです」
「ママ……」
「心配していました。自分があなたの聞こえるところで電話してしまったせいじゃないかって」
「そんな、ママは悪くないのに」
「それは、あなたが生きて帰れば帳消しになります。あなたが怪我したり、大変な目に遭えば、お母さんのことは誰も救ってあげられなくなります。今の彼女は、あなたにしか救えないんです。やってくれますか?」
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