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12 初仕事 2
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「クレア様」
僕は再び歩き出しながら、後ろにいるクレアさんに言った。
「え、何ですの?」
「先ほどの話、特産物のことです。僕も、よく考えてみます」
「まあ、ふふふ……ええ、お願いするわね」
クレアさんは嬉しそうに答えた。
♢♢♢
広々とした畑と果樹園が、森に囲まれた緩やかな斜面に整備されていた。周囲に木の柵が作られ、街道に近い場所に管理小屋と倉庫が建てられていた。
前の悪徳領主が唯一残した遺産が、この領主直営の農園だった。
「これは、これは、クレア様、よくおいでくださいました」
管理人らしい、五十歳くらいの男が僕たちを出迎えた。
「ベンソン、ご苦労様。どう、作物の出来は?」
「はい、出来はいいのですが、なにしろ獣や魔物の被害が多くて、思うようには収穫できないかもしれません」
「そう……騎士団の話では、この辺りは重点的に見回りや駆除をしているので、もうあまり魔物は見なくなったと聞いたのだけど……」
「いやあ、なにしろ三方を森に囲まれていますからねえ、どこからかやって来て住み着いているんじゃないですかねえ」
僕は、そのベンソンという男の目を見ていて、どうも嫌な感じがしてならなかった。そして、彼が言い終わって薄笑いを浮かべた時、僕の目に彼の周囲から立ち上る暗いオーラのようなものが見えたのである。
(《真眼》って、人の心のありようまで見えるんだ、すごいな……あんまり見ないようにしないと、こっちの心が壊れそうだ)
クレアさんはベンソンに案内されて、小麦畑、キャベツやビーツの畑、リンゴの果樹園などを見て回った。
それぞれの場所で働いている男女がいたが、どの人も何かおずおずしているように見えた。
「では、収穫までよろしくお願いね。もし、人手が足りないなら言ってちょうだい」
「はい、分かりました、そうさせていただきます」
視察は一時間余りで終わり、僕たちは農園を後にして街への帰路に就いた。
「クレア様、お尋ねしていいですか?」
農園を離れてしばらくして、僕はどうにも気になってクレアさんに尋ねた。
「ええ、何ですの?」
「あの、ベンソンという人、どんな人ですか?」
「どんな人?……さあ、詳しくは知らないけど、前の領主の時から、あの農園の管理を任されているってことくらいしか分からないわね」
うわあ、ますます怪しい、というか絶対、前の領主とつるんで悪いことしてた奴じゃん。
「あの人は、信用しない方がいいです」
「えっ、どうしてそう思ったの?」
クレアさんが驚いて立ち止まったので、僕も立ち止まって後ろを向いた。クレアさんとアイラさんが並んで、僕の方をじっと見つめていた。
「ええっと、実は、僕には《真眼》というスキルがあるんです。このスキルは、魔力が見えたり、周辺の様子が上から見渡すように見えたりするんですが、実は、人がどんな心を隠しているかも見えるんです。何と言うか、色の付いた光がその人の周囲を包んでいる、そんな感じです。上手く説明できませんが……」
「すごい…そんな能力まで持っているの? それで、ベンソンが悪い心を隠しているように見えた、というのね?」
僕は小さく頷いた。
「お嬢様、私もユウキ殿の見立ては当たっていると思います。ずっと、言うべきか迷っていたのですが、あの男は前の領主にべったりだったと聞いています。でも、前の領主が罪に問われて罷免されたとき、あの男はなぜか罪を問われませんでした。きっと、裏に良からぬからくりがあるはずです」
「ええ……私は、ベンソンが正しい人間だったから罪に問われなかったのだ、と思っていましたが、言われてみれば確かに怪しいですね……では、どうすればいいでしょうか?」
クレアさんとアイラさんは、深刻な顔で考え込んだ。
「あの……もう一つ気になったのは、あそこで働いていた人たちです。あの人たちはクレア様が雇ったのですか?」
「ええ、募集を掛けて集まった人の中から私とベンソンで……いいえ、主にベンソンの意見で選んで雇いました……まさか……」
僕は頷いてこう言った。
「はい…あの人たちが悪いことをしているかどうかは分かりません。でも、きっと、何か知っているはずです。だから、こうしたらどうでしょう、人手を追加するということで、こちら側の人間を送り込むのです。もし、顔が知られていなかったら、斥候班の人を送り込んで、いろいろ調べてもらったら、きっと証拠が出てくると思います」
クレアさんは目を大きく見開いて、口元を微かに微笑ませた。
「ユウキ、あなた、本当にすごいわね。分かったわ、さっそくバーンズに相談してみましょう。さあ、街へ帰るわよ」
クレアさんは喜びを満面に浮かべて、元気よくそう言った。
♢♢♢
後日、クレアさんはバーンズ隊長と相談して、僕の作戦通りに斥候班の二人を農夫として農園に送り込んだ。そして、ほどなくベンソンの悪事は白日の下に暴かれることになった。
彼は、前領主と図って国に治める税をごまかして横領し、私腹を肥やしていた。しかし、金銭のことで前領主と対立すると、前領主の悪行を国に密告したのである。その功績で、彼は罪を見逃され、のうのうと今でも農園の管理者として、出荷量の報告をごまかし、売却益の横領を続けようとしていた。農園で働く農夫たちは、それを知っていたが、ベンソンに脅されて口をふさがれていたのだ。
今回、斥候班の二人は、管理小屋の地下に隠し通路を見つけ、その先にある隠し部屋をつきとめた。さすがだ。そこには、ベンソンが長年貯えていた大量のお金と裏金の帳簿などがあった。それだけで証拠として十分だったが、さらには農夫たちが脅されていたという証言も採ることができたので、ベンソンの罪は逃れようもなかった。彼は即刻捕らえられ、騎士団の広場でクレアさんが裁きを下した。その結果、ベンソンは終身奴隷として、罪人たちが働く鉱山へと送られた。
僕は少し離れた場所からその様子を見ながら、(奴隷鉱山って、本当にあったんだ)と妙に感動したのだった
僕は再び歩き出しながら、後ろにいるクレアさんに言った。
「え、何ですの?」
「先ほどの話、特産物のことです。僕も、よく考えてみます」
「まあ、ふふふ……ええ、お願いするわね」
クレアさんは嬉しそうに答えた。
♢♢♢
広々とした畑と果樹園が、森に囲まれた緩やかな斜面に整備されていた。周囲に木の柵が作られ、街道に近い場所に管理小屋と倉庫が建てられていた。
前の悪徳領主が唯一残した遺産が、この領主直営の農園だった。
「これは、これは、クレア様、よくおいでくださいました」
管理人らしい、五十歳くらいの男が僕たちを出迎えた。
「ベンソン、ご苦労様。どう、作物の出来は?」
「はい、出来はいいのですが、なにしろ獣や魔物の被害が多くて、思うようには収穫できないかもしれません」
「そう……騎士団の話では、この辺りは重点的に見回りや駆除をしているので、もうあまり魔物は見なくなったと聞いたのだけど……」
「いやあ、なにしろ三方を森に囲まれていますからねえ、どこからかやって来て住み着いているんじゃないですかねえ」
僕は、そのベンソンという男の目を見ていて、どうも嫌な感じがしてならなかった。そして、彼が言い終わって薄笑いを浮かべた時、僕の目に彼の周囲から立ち上る暗いオーラのようなものが見えたのである。
(《真眼》って、人の心のありようまで見えるんだ、すごいな……あんまり見ないようにしないと、こっちの心が壊れそうだ)
クレアさんはベンソンに案内されて、小麦畑、キャベツやビーツの畑、リンゴの果樹園などを見て回った。
それぞれの場所で働いている男女がいたが、どの人も何かおずおずしているように見えた。
「では、収穫までよろしくお願いね。もし、人手が足りないなら言ってちょうだい」
「はい、分かりました、そうさせていただきます」
視察は一時間余りで終わり、僕たちは農園を後にして街への帰路に就いた。
「クレア様、お尋ねしていいですか?」
農園を離れてしばらくして、僕はどうにも気になってクレアさんに尋ねた。
「ええ、何ですの?」
「あの、ベンソンという人、どんな人ですか?」
「どんな人?……さあ、詳しくは知らないけど、前の領主の時から、あの農園の管理を任されているってことくらいしか分からないわね」
うわあ、ますます怪しい、というか絶対、前の領主とつるんで悪いことしてた奴じゃん。
「あの人は、信用しない方がいいです」
「えっ、どうしてそう思ったの?」
クレアさんが驚いて立ち止まったので、僕も立ち止まって後ろを向いた。クレアさんとアイラさんが並んで、僕の方をじっと見つめていた。
「ええっと、実は、僕には《真眼》というスキルがあるんです。このスキルは、魔力が見えたり、周辺の様子が上から見渡すように見えたりするんですが、実は、人がどんな心を隠しているかも見えるんです。何と言うか、色の付いた光がその人の周囲を包んでいる、そんな感じです。上手く説明できませんが……」
「すごい…そんな能力まで持っているの? それで、ベンソンが悪い心を隠しているように見えた、というのね?」
僕は小さく頷いた。
「お嬢様、私もユウキ殿の見立ては当たっていると思います。ずっと、言うべきか迷っていたのですが、あの男は前の領主にべったりだったと聞いています。でも、前の領主が罪に問われて罷免されたとき、あの男はなぜか罪を問われませんでした。きっと、裏に良からぬからくりがあるはずです」
「ええ……私は、ベンソンが正しい人間だったから罪に問われなかったのだ、と思っていましたが、言われてみれば確かに怪しいですね……では、どうすればいいでしょうか?」
クレアさんとアイラさんは、深刻な顔で考え込んだ。
「あの……もう一つ気になったのは、あそこで働いていた人たちです。あの人たちはクレア様が雇ったのですか?」
「ええ、募集を掛けて集まった人の中から私とベンソンで……いいえ、主にベンソンの意見で選んで雇いました……まさか……」
僕は頷いてこう言った。
「はい…あの人たちが悪いことをしているかどうかは分かりません。でも、きっと、何か知っているはずです。だから、こうしたらどうでしょう、人手を追加するということで、こちら側の人間を送り込むのです。もし、顔が知られていなかったら、斥候班の人を送り込んで、いろいろ調べてもらったら、きっと証拠が出てくると思います」
クレアさんは目を大きく見開いて、口元を微かに微笑ませた。
「ユウキ、あなた、本当にすごいわね。分かったわ、さっそくバーンズに相談してみましょう。さあ、街へ帰るわよ」
クレアさんは喜びを満面に浮かべて、元気よくそう言った。
♢♢♢
後日、クレアさんはバーンズ隊長と相談して、僕の作戦通りに斥候班の二人を農夫として農園に送り込んだ。そして、ほどなくベンソンの悪事は白日の下に暴かれることになった。
彼は、前領主と図って国に治める税をごまかして横領し、私腹を肥やしていた。しかし、金銭のことで前領主と対立すると、前領主の悪行を国に密告したのである。その功績で、彼は罪を見逃され、のうのうと今でも農園の管理者として、出荷量の報告をごまかし、売却益の横領を続けようとしていた。農園で働く農夫たちは、それを知っていたが、ベンソンに脅されて口をふさがれていたのだ。
今回、斥候班の二人は、管理小屋の地下に隠し通路を見つけ、その先にある隠し部屋をつきとめた。さすがだ。そこには、ベンソンが長年貯えていた大量のお金と裏金の帳簿などがあった。それだけで証拠として十分だったが、さらには農夫たちが脅されていたという証言も採ることができたので、ベンソンの罪は逃れようもなかった。彼は即刻捕らえられ、騎士団の広場でクレアさんが裁きを下した。その結果、ベンソンは終身奴隷として、罪人たちが働く鉱山へと送られた。
僕は少し離れた場所からその様子を見ながら、(奴隷鉱山って、本当にあったんだ)と妙に感動したのだった
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