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47 一つの決断
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その後、いろいろあったが、その日は館に泊めてもらうことになった。昼食兼夕食もそこそこに、俺とポピィは領主館で爆睡した。そして一夜が明け、迎えた朝、いよいよ、エプラの街を離れることになった。
いったん宿に帰って、荷物をまとめ(収納して)、宿を出て街の北門の所に向かったのだが、そこにはわざわざライナス様とダルトンさん、そしてギルマスのべインズさんが見送りに来ていた。
「今回は本当に世話になったな。改めて礼を言う、ありがとう」
ダルトンさんが、俺たちの手を代わる代わる握って頭を下げた。
「いいえ、こっちこそ、ありがとうございました。あんな大金いただいて申しいわけないくらいです」
「トーマ、ポピィ、行ってしまうんだね……本当に、ありがとう……また、ぜひこの街に遊びに来てくれ、待ってるから……」
あうち……ライナス様、泣いちゃだめですって、領主様なんだから。
「ライナス様も、どうかお元気で。今度来たときには、この国で一番と言われる領主様になっていてください」
「あ、あはは……うん、頑張るよ。ポピィも、元気でね。」
「は、はい、えぐ……うう……ライナス様も、どうかお元気で……ア、アンジェリカさんのこと、どうかよろしくお願いします」
「うん、できるだけ力になるつもりだ。心配しないで」
そうそう、俺が収納していた二人のことを言っておかないとね。
二人は領主館の地下牢で解放した。ロムは、縛られた状態で、何が何だか分からず混乱の極に達していたよ。まあ、落ち着く頃には死罪を言い渡されて、また半狂乱になるかもしれないが……。
アンジェリカは、まだ意識が戻っていなかった。ナビの説明では、命の危機は脱したが、出血が多すぎて、回復するまでにはまだ時間が掛かるらしい。意識が戻った後、彼女(彼)がどんな選択をするのか分からないが、まあ、後は彼女(彼)自身が決めることだ。
「まあ、今回はギルドへの正式依頼じゃなかったから、ギルドポイントはつかなかったが、もし正規の依頼だったら、Aランク昇格もあったかもな。王都のギルドには、簡単に報告は入れておくよ。これからも頑張ってくれ」
ギルマスのべインズさんが、そう言った後、探るような目でこう言った
「なあ、お前ら、意識的にギルドを避けてなかったか?」
「ああ、いえ、そんなことないです。調査でたまたま、ギルドの手を借りるほどの相手ではないと分かったから、相談することがなかっただけで……」
はい、実は怪しんでました、なんて言えるはずもない。ごめんなさい。でも、昔見たドラマとかでよくあったんだよ。相談していた相手が、実は黒幕だったってさ。
♢♢♢
俺たちは何度も後ろを振り返りながら、いつまでも手を振るライナス様たちに手を振り続けた。
「ああ、ずいぶん長く居た気がするなぁ」
「はい。いろいろありましたね」
「ただ、パンを買いに寄っただけなのにな」
「あはは……ですです」
俺たちは、またどこまでも続く平原の道を北に向かって歩き始めた。
「なあ、ポピィ……ちょっと話があるんだ」
俺は心の中でずっと葛藤してきたことを、ポピィに告げる決心をした。
「は、はい、何です?」
ポピィは俺の顔を見て、不思議そうに尋ねた。
「あそこの木の下に行こうか」
俺は訝し気なポピィを伴って、草原にポツンと一本立っている木の所へ歩いて行った。そして、木の根元に並んで座った。
「まず、俺のギフトのことを話すよ。俺のギフトは《ナビゲーションシステム》って言うんだ……」
「ナ、ナビ、ゲション、ステム? 不思議なギフトですね」
「う、うん、まあいいや。このギフトはな、心の中に〈神様の声〉が聞こえる、っていうギフトなんだ……」
『神様、それは、さすがにおこがましいです、マスター』
「神様っ! や、やっぱり、トーマ様は、神の御子だったのですか?」
ナビとポピィの声が重なって頭に響き渡る。うるさい。
「いや、俺は神の子じゃない。普通の人間だ。ただ、そういう声が聞こえるというギフトなんだよ」
「す、すごいギフトなのです」
「うん、確かにすごいギフトだよ。それでな、ここからが大事な話なんだが、前に魔法の練習をしたよな、覚えているか?」
ポピィはにこっと微笑んで頷いた。
「はい、覚えています。わたしは、風の魔法と闇の魔法が使えました。実戦ではまだ使っていませんが」
「うん、そうだな。それでな、その時、ポピィに言ってなかったことがある。闇属性のことだ……」
微笑みを浮かべていたポピィの顔が、それを聞いて急に不安そうな表情に変わった。
俺は続けて言った。
「……その闇属性について、ナビ……ああ、〈神様の声〉のことを、おれは『ナビ』って呼んでるんだ。そのナビが、こう言ったんだ。『属性は魂に影響を与える』ってね。
なあ、ポピィ、正直に答えるんだぞ? 最近、人を斬ってもあまり心が動揺しなくなってきたんじゃないか?」
ポピィは図星だったのか、一瞬俺を見た後、うつむいて小さく頷いた。そして、不安そうな顔を上げて俺に言った。
「はい、自分でもそのことが気になっていたです。わ、わたしは、どうなるんです? 悪い人間になってしまうのですか?」
「いや、そうじゃない。闇属性が悪いってことじゃないんだ。ただ、闇属性の魔法を長く使っていると、自分や人が死ぬことが怖くなくなったり、物事を悪い方に考えやすくなったりするらしいんだ」
ポピィは納得したように、小さく何度か頷いた。
「なるほど、そうなんですね。じゃあ、風魔法はどうなんです?」
「え、か、風魔法か? ええっと……」
(おい、ナビ、どうなんだ?)
『そうですね……大気の動きに敏感になりますね。天気の予測とか、気配察知のスキルを得やすくなります。あとは、物事にあまり執着しなくなるようですね』
俺は、ナビに言われた通りのことをポピィに伝えた。
「なるほどです。じゃあ、魔法を使うときは風魔法を使うです」
「あ、うん、そうだな……って、いや、そうじゃなくてだな、俺が言いたいのは、ポピィ、お前がこれからも俺と一緒に旅をするなら、今回のようなことに巻き込まれることが多くなるだろう。そしたら、お前は闇属性に飲み込まれる危険が高くなる、ということだ」
ポピィは悲し気にじっと俺を見つめたあと、おずおずと口を開いた。
「わたしは、トーマ様の足手まといになってるですか?」
ああ、くそっ……そうじゃないから、困ってるんだよ、ポピィ……。でも、ここは、そうだと肯定してやった方が良いのかな? いや、ウソは言いたくはない。
「いや、違う。ポピィはとても頼りになる相棒だと思っている。これは本当だ。だから逆に心配なんだ。俺はこれから、ますますポピィに頼ってしまうと思う。特に戦闘においてはな。そうなれば……分かるよな? さっき言った心配が現実になるかもしれないんだ」
ポピィはますます悲しそうにうつむいたが、反論はしなかった。
「……これから、わたしは、どうすればいいですか?」
「うん、それなんだがな。ポピィは、小さい頃から十分悲しい思いをした。だから、これからはその何倍も幸せになってほしいんだ。そのためには、お金をもっと貯める必要がある。今、俺が考えているのは、《木漏れ日亭》で、住み込みで働かせてもらうことだ。俺が一緒に行ってお願いするから、な、どうだ?」
ポピィはまだ悲しげだったが、ようやく顔を上げて俺を見つめた。
「分かったです。トーマ様が、それがいいと言われるなら、そうしますです……でも……トーマ様のことが、心配です……」
「うん、ありがとうな……じゃあ、こうしよう。俺が手助けしてほしいと思った時は、呼ぶから、助けに来てくれ」
「えっ? ど、どうやって呼ぶですか? 遠くだったら、助けに行けないですよ」
俺はニヤリと微笑みながら、ポピィの頭を撫でた。
「それが、できるんだよ。今からやってみるからな」
ポピィは、俺が何を言っているのか理解できずに、目をぱちくりさせていた。
(スノウ、聞こえるかい? 聞こえたら、俺の所に来てくれ)
『わあ、ご主人様だぁっ! うん、分かった、すぐ行くよ、待っててね』
おお、ほんとにつながったよ、〈精霊通信〉すげえな。
いったん宿に帰って、荷物をまとめ(収納して)、宿を出て街の北門の所に向かったのだが、そこにはわざわざライナス様とダルトンさん、そしてギルマスのべインズさんが見送りに来ていた。
「今回は本当に世話になったな。改めて礼を言う、ありがとう」
ダルトンさんが、俺たちの手を代わる代わる握って頭を下げた。
「いいえ、こっちこそ、ありがとうございました。あんな大金いただいて申しいわけないくらいです」
「トーマ、ポピィ、行ってしまうんだね……本当に、ありがとう……また、ぜひこの街に遊びに来てくれ、待ってるから……」
あうち……ライナス様、泣いちゃだめですって、領主様なんだから。
「ライナス様も、どうかお元気で。今度来たときには、この国で一番と言われる領主様になっていてください」
「あ、あはは……うん、頑張るよ。ポピィも、元気でね。」
「は、はい、えぐ……うう……ライナス様も、どうかお元気で……ア、アンジェリカさんのこと、どうかよろしくお願いします」
「うん、できるだけ力になるつもりだ。心配しないで」
そうそう、俺が収納していた二人のことを言っておかないとね。
二人は領主館の地下牢で解放した。ロムは、縛られた状態で、何が何だか分からず混乱の極に達していたよ。まあ、落ち着く頃には死罪を言い渡されて、また半狂乱になるかもしれないが……。
アンジェリカは、まだ意識が戻っていなかった。ナビの説明では、命の危機は脱したが、出血が多すぎて、回復するまでにはまだ時間が掛かるらしい。意識が戻った後、彼女(彼)がどんな選択をするのか分からないが、まあ、後は彼女(彼)自身が決めることだ。
「まあ、今回はギルドへの正式依頼じゃなかったから、ギルドポイントはつかなかったが、もし正規の依頼だったら、Aランク昇格もあったかもな。王都のギルドには、簡単に報告は入れておくよ。これからも頑張ってくれ」
ギルマスのべインズさんが、そう言った後、探るような目でこう言った
「なあ、お前ら、意識的にギルドを避けてなかったか?」
「ああ、いえ、そんなことないです。調査でたまたま、ギルドの手を借りるほどの相手ではないと分かったから、相談することがなかっただけで……」
はい、実は怪しんでました、なんて言えるはずもない。ごめんなさい。でも、昔見たドラマとかでよくあったんだよ。相談していた相手が、実は黒幕だったってさ。
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俺たちは何度も後ろを振り返りながら、いつまでも手を振るライナス様たちに手を振り続けた。
「ああ、ずいぶん長く居た気がするなぁ」
「はい。いろいろありましたね」
「ただ、パンを買いに寄っただけなのにな」
「あはは……ですです」
俺たちは、またどこまでも続く平原の道を北に向かって歩き始めた。
「なあ、ポピィ……ちょっと話があるんだ」
俺は心の中でずっと葛藤してきたことを、ポピィに告げる決心をした。
「は、はい、何です?」
ポピィは俺の顔を見て、不思議そうに尋ねた。
「あそこの木の下に行こうか」
俺は訝し気なポピィを伴って、草原にポツンと一本立っている木の所へ歩いて行った。そして、木の根元に並んで座った。
「まず、俺のギフトのことを話すよ。俺のギフトは《ナビゲーションシステム》って言うんだ……」
「ナ、ナビ、ゲション、ステム? 不思議なギフトですね」
「う、うん、まあいいや。このギフトはな、心の中に〈神様の声〉が聞こえる、っていうギフトなんだ……」
『神様、それは、さすがにおこがましいです、マスター』
「神様っ! や、やっぱり、トーマ様は、神の御子だったのですか?」
ナビとポピィの声が重なって頭に響き渡る。うるさい。
「いや、俺は神の子じゃない。普通の人間だ。ただ、そういう声が聞こえるというギフトなんだよ」
「す、すごいギフトなのです」
「うん、確かにすごいギフトだよ。それでな、ここからが大事な話なんだが、前に魔法の練習をしたよな、覚えているか?」
ポピィはにこっと微笑んで頷いた。
「はい、覚えています。わたしは、風の魔法と闇の魔法が使えました。実戦ではまだ使っていませんが」
「うん、そうだな。それでな、その時、ポピィに言ってなかったことがある。闇属性のことだ……」
微笑みを浮かべていたポピィの顔が、それを聞いて急に不安そうな表情に変わった。
俺は続けて言った。
「……その闇属性について、ナビ……ああ、〈神様の声〉のことを、おれは『ナビ』って呼んでるんだ。そのナビが、こう言ったんだ。『属性は魂に影響を与える』ってね。
なあ、ポピィ、正直に答えるんだぞ? 最近、人を斬ってもあまり心が動揺しなくなってきたんじゃないか?」
ポピィは図星だったのか、一瞬俺を見た後、うつむいて小さく頷いた。そして、不安そうな顔を上げて俺に言った。
「はい、自分でもそのことが気になっていたです。わ、わたしは、どうなるんです? 悪い人間になってしまうのですか?」
「いや、そうじゃない。闇属性が悪いってことじゃないんだ。ただ、闇属性の魔法を長く使っていると、自分や人が死ぬことが怖くなくなったり、物事を悪い方に考えやすくなったりするらしいんだ」
ポピィは納得したように、小さく何度か頷いた。
「なるほど、そうなんですね。じゃあ、風魔法はどうなんです?」
「え、か、風魔法か? ええっと……」
(おい、ナビ、どうなんだ?)
『そうですね……大気の動きに敏感になりますね。天気の予測とか、気配察知のスキルを得やすくなります。あとは、物事にあまり執着しなくなるようですね』
俺は、ナビに言われた通りのことをポピィに伝えた。
「なるほどです。じゃあ、魔法を使うときは風魔法を使うです」
「あ、うん、そうだな……って、いや、そうじゃなくてだな、俺が言いたいのは、ポピィ、お前がこれからも俺と一緒に旅をするなら、今回のようなことに巻き込まれることが多くなるだろう。そしたら、お前は闇属性に飲み込まれる危険が高くなる、ということだ」
ポピィは悲し気にじっと俺を見つめたあと、おずおずと口を開いた。
「わたしは、トーマ様の足手まといになってるですか?」
ああ、くそっ……そうじゃないから、困ってるんだよ、ポピィ……。でも、ここは、そうだと肯定してやった方が良いのかな? いや、ウソは言いたくはない。
「いや、違う。ポピィはとても頼りになる相棒だと思っている。これは本当だ。だから逆に心配なんだ。俺はこれから、ますますポピィに頼ってしまうと思う。特に戦闘においてはな。そうなれば……分かるよな? さっき言った心配が現実になるかもしれないんだ」
ポピィはますます悲しそうにうつむいたが、反論はしなかった。
「……これから、わたしは、どうすればいいですか?」
「うん、それなんだがな。ポピィは、小さい頃から十分悲しい思いをした。だから、これからはその何倍も幸せになってほしいんだ。そのためには、お金をもっと貯める必要がある。今、俺が考えているのは、《木漏れ日亭》で、住み込みで働かせてもらうことだ。俺が一緒に行ってお願いするから、な、どうだ?」
ポピィはまだ悲しげだったが、ようやく顔を上げて俺を見つめた。
「分かったです。トーマ様が、それがいいと言われるなら、そうしますです……でも……トーマ様のことが、心配です……」
「うん、ありがとうな……じゃあ、こうしよう。俺が手助けしてほしいと思った時は、呼ぶから、助けに来てくれ」
「えっ? ど、どうやって呼ぶですか? 遠くだったら、助けに行けないですよ」
俺はニヤリと微笑みながら、ポピィの頭を撫でた。
「それが、できるんだよ。今からやってみるからな」
ポピィは、俺が何を言っているのか理解できずに、目をぱちくりさせていた。
(スノウ、聞こえるかい? 聞こえたら、俺の所に来てくれ)
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