少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei

文字の大きさ
73 / 80

71 海を見に行こう

しおりを挟む
『……わあ、そんなことがあったんだ~。大変だったね、ご主人様? ごめんね~、そんな場所とは知らず、連れていっちゃって……』
 スノウが俺の顔に鼻面をこすりつけながら悲し気な目をする。

(ああ、気にするな。お前のせいじゃないさ。むしろ、あんな恐ろしい機械で被害が出る前に処分できたから良かったよ。それに……なんかもう、俺の行く先々で厄介事が起きるのが当たり前になってきたからな。驚きも無くなったよ)

 遺跡から遠く離れて、森の開けた場所で野営を始めた俺は、スノウを呼んで一連の出来事を話してやった。

『次は絶対良い所に連れていくからね~。どんな場所に行きたい? ご主人様』

(そうだなぁ……ああ、俺、この世界の海はまだ見たことないんだ。海がいいな)

『分かった~~、海はここから遠くないよ~』

(そうか。じゃあ、明日の朝、連れていってくれな)

『オッケ~~。じゃあ、今夜はご主人様と一緒に寝ていい?』

(おう、スノウのふかふか毛皮に包まれて寝たら、温かくて天国だろうな)

 はい、本当に天国でした。丸くなって俺を包み込んでくれたスノウベッドの中で、久々にぐっすり熟睡しました。

 次の日、気持ちよく目を覚ましたら、雨だった。幸い、寝床の周囲に魔物避けの結界を張っていたので、濡れることはなかったが……。

(これじゃあ、移動中にびしょぬれになるな。今日はあきらめるか……)

『大丈夫だよ~、雨雲の上を飛んでいけばいいんだから』

(あ、そうか。よし、雲の上に出るまでは、俺が結界でなんとか雨を防いでやるよ。ただし、スノウの顔の部分くらいしか防げないけどな)
 そうなのだ、俺の作る結界は、まだ狭い範囲でしか強度が保てない。ナビに言わせると、魔力操作が未熟らしい。その原因は意志の強さと根気が足りないからだと……はい、おっしゃる通りです。

『ありがとう~。じゃあ、行こう、海へ~!』
(おーっ!)
『ぉぉ』

 スノウの背中に乗って、森を抜け、空を覆った雨雲の中へ突入していく。俺が張った結界に雨粒が激しく打ち付け、前が見えない。ただ暗く灰色の水蒸気の中を、上に向かって突き進んでいく。そして……。
 いきなり視界がパアーッと開けた。結界に残っていた雨粒が風に飛び散って、太陽の光にキラキラと輝きながら落ちていく。

(ヒャッホー! すごい、すごい、雲の上を飛んでるよ!)
 俺は興奮しながら、雲に映ったスノウの影を見下ろしたり、どこまでも青く澄んだ空を見上げたりして歓声を上げた。

『ほら、見て、ご主人様っ、海だよ』
(おおおっ、キラキラ光ってるな! やっぱりこの星も丸いんだな、水平線がきれいな弧を描いている……)

 スノウは海に向かってゆっくりと高度を下げていった。もう、この辺りには雨雲はない。太陽に輝く透明な青い海が、所々に白い波がしらを立てながら広がっていた。

(お、あそこに小さな港町があるな。スノウ、手前の林の中に下ろしてくれないか)

『分かった~』
 スノウはゆっくりと弧を描きながら、海岸の手前に広がる林の中に下りていった。

(じゃあ、スノウ、俺この辺りでまたしばらく冒険してみるよ。ありがとうな)

『うん、分かった~。また、いつでも呼んでね』
 スノウはそう言って、俺に顔をすり寄せると、名残惜しそうに振り返りながら空へ上がっていった。


♢♢♢

 ローダス王国の西の端にある小さな港町プロスタ。かつては、海を挟んだ隣の大陸との交易港として賑わった。だが、四十年前、大陸への侵攻を企てたローダス王国が大軍を送り込み、大陸の小国連合との戦争が起こった。ローダス軍は最初は連合軍を圧倒し、大陸のかなり奥まで侵攻したが、ある戦いで大敗したのを機に劣勢となり、なんとか講和を図って軍を引き上げたのである。それ以来、大陸側は全ての港を封鎖し、交易を禁止した。
 その結果、プロスタの街は次第に寂れ、今は漁港として海産物の商いで細々と生計を立てる漁師の街になっていたのである。

「よぉし、下ろせ」
 古い木造の漁船から、ロープにくくられた大きな木箱がゆっくり下りて来る。吊り下げ式の滑車がキュルキュルと軋んだ音を立てる。
 朝から漁に出ていた何艘かの漁船が港に帰ってきて、水揚げ作業が行われていた。

「むむっ……くそ重いな。おーい、ジョンス、下りてきて手伝え」
「ええっ? こっちも仕事がいっぱいなんだ、なんとかしろよ。アレスはどうした?」
「あいつ、夕べから熱を出して寝込んでるんだ……くそ、こんなときにかぎって大漁なんだから、頭にくるぜ」
 市場の買い取り人の大男が、そんな愚痴を吐いたときだった。

「手伝おうか?」
 横合いから聞こえてきた声に、男はきょろきょろと辺りを見回したが、自分の足元に立った少年に目を留めて、怪訝な表情になった。

「今、言ったのはお前か?」

「ああ、そうだよ。困っているなら、手伝うよ」
 平然とした顔でそういう少年に、男は豪快な笑い声を上げた。

「うははは……ありがてえ申し出だがな、小僧、そんなひょろひょろした体じゃ、何の役にも立たねえんだ。危ねえから、あっち行ってな」

「おっちゃん、分かってないなぁ。この世界じゃ、筋肉量なんて当てにならないんだぜ。ステータスって分かるかい?」

「む、あ、ああ、もちろん知っているさ」

「この世界は、そのステータスの数値がすべてなんだ。確かにおかしな話だけどね。まあ、見てなよ」
 少年はそう言うと、さっき男が持ち上げられなかった魚が入った木箱をひょいと抱え上げたのだった。

「なっ、ば、馬鹿な……」
 筋骨隆々とした大男は、唖然として言葉を失った。

(まあ、確かに物理的にあり得ない話だよな。力は筋肉量に比例するのが常識だ。だが、この世界はそうじゃない。ステータスの数値が、そのまま現実の物理現象に反映する……)
 少年=俺は、そこまで考えて、ふと気づいた。

(あれ? これって、〝魔法〟なんじゃ? ステータスっていう魔法が、この世界を支配している、そう考えると、このあり得ない現象が説明できるんじゃないか?)

「お、おい、小僧、この荷馬車に積み込んでくれるか?」
 俺が自分の思いつきに考え込んでいると、大男が馬車を引っ張って来て叫んだ。

「ああ、分かった」
 俺は大きな木箱を抱えていき、馬車の荷台に下ろした。

「助かったぜ、ありがとうな。それにしても、おめえ、すげえな。その年で、どんだけ鍛えてるんだよ」

「ああ、まあ、それなりに鍛えているよ。それより、おっちゃん、美味い魚が食える店、知らないか? 朝飯食ってないから、腹が減ってるんだ」

「おう、市場に行けば何軒かお勧めの店があるぜ。連れて行くから馬車に乗んな」

「やったぁ、頼むぜ、おっちゃん」
 俺は、大男が座る御者席の横に飛び乗った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

読んでくださって、ありがとうございます。
よかったら📢をポチっと押していただくと、作者が喜んで頑張ります。

しおりを挟む
感想 47

あなたにおすすめの小説

少し冷めた村人少年の冒険記 2

mizuno sei
ファンタジー
 地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。  不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。  旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

魔法学校の落ちこぼれ

梨香
ファンタジー
昔、偉大な魔法使いがいた。シラス王国の危機に突然現れて、強力な魔法で国を救った。アシュレイという青年は国王の懇願で十数年を首都で過ごしたが、忽然と姿を消した。数人の弟子が、残された魔法書を基にアシュレイ魔法学校を創立した。それから300年後、貧しい農村の少年フィンは、税金が払えず家を追い出されそうになる。フィンはアシュレイ魔法学校の入学試験の巡回が来るのを知る。「魔法学校に入学できたら、家族は家を追い出されない」魔法使いの素質のある子供を発掘しようと、マキシム王は魔法学校に入学した生徒の家族には免税特権を与えていたのだ。フィンは一か八かで受験する。ギリギリの成績で合格したフィンは「落ちこぼれ」と一部の貴族から馬鹿にされる。  しかし、何人か友人もできて、頑張って魔法学校で勉強に励む。 『落ちこぼれ』と馬鹿にされていたフィンの成長物語です。  

神の加護を受けて異世界に

モンド
ファンタジー
親に言われるまま学校や塾に通い、卒業後は親の進める親族の会社に入り、上司や親の進める相手と見合いし、結婚。 その後馬車馬のように働き、特別好きな事をした覚えもないまま定年を迎えようとしている主人公、あとわずか数日の会社員生活でふと、何かに誘われるように会社を無断で休み、海の見える高台にある、神社に立ち寄った。 そこで野良犬に噛み殺されそうになっていた狐を助けたがその際、野良犬に喉笛を噛み切られその命を終えてしまうがその時、神社から不思議な光が放たれ新たな世界に生まれ変わる、そこでは自分の意思で何もかもしなければ生きてはいけない厳しい世界しかし、生きているという実感に震える主人公が、力強く生きるながら信仰と奇跡にに導かれて神に至る物語。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

追放貴族少年リュウキの成り上がり~魔力を全部奪われたけど、代わりに『闘気』を手に入れました~

さとう
ファンタジー
とある王国貴族に生まれた少年リュウキ。彼は生まれながらにして『大賢者』に匹敵する魔力を持って生まれた……が、義弟を溺愛する継母によって全ての魔力を奪われ、次期当主の座も奪われ追放されてしまう。 全てを失ったリュウキ。家も、婚約者も、母の形見すら奪われ涙する。もう生きる力もなくなり、全てを終わらせようと『龍の森』へ踏み込むと、そこにいたのは死にかけたドラゴンだった。 ドラゴンは、リュウキの境遇を憐れみ、ドラゴンしか使うことのできない『闘気』を命をかけて与えた。 これは、ドラゴンの力を得た少年リュウキが、新しい人生を歩む物語。

処理中です...