79 / 80
77 獣人族と海の向こうの大陸 5
しおりを挟む
俺たちは崖の上の小屋に戻って、二人のスーリア族の男たちから二年前の事件の真相を聞いた。もちろん、ザガンが二人と話をして、それを俺が獣人たちに伝えるちうやり方だ。
「……そうだったんだ……父ちゃんを殺した本当の犯人は、シーサーペントだったんだな」
「まあ、そういうことだ。どうする?まだ敵討ちをしたいか?」
俺の問いに、リトはちらりと妹に目を向けた後、唇を引き結び、悲壮な目で俺を見つめた。
「悔しいけど……あきらめるよ。シーサーペントなんて、誰にもどうすることもできないから……」
「うん、まあ…どうにかならないこともない、かな」
俺の言葉に、リトも他の獣人たちも呆気にとられた顔で、口をポカンと開いたまま目を見開いた。言葉が分からないザガンたちも、異様な雰囲気に戸惑いながら俺に目を向けた。
「お、おい、トーマ、冗談だよな?」
「に、兄ちゃん、シーサーペントをやっつけられるのか?」
俺は両手でリトたちに落ち着くように指示したあと、ザガンに問い掛けた。
(ザガン、俺はシーサーペントを倒そうと思う。そこで頼みがあるんだが、シーサーペントは見つけられるか?)
ザガンは一瞬驚いたような目をしたが、すぐにしっかりと頷いた。
『ああ、もちろんできる。しかし、我々でも集団でなければ倒せない相手だ。特に、海に長時間潜れない君たちには厳しいと思うが……』
(うん、それには少し考えがある。よし、じゃあ、明日の朝、討伐を決行する。協力してくれるか?)
『ああ、もちろんだ。喜んで協力するよ』
俺はザガンとしっかり握手を交わし、獣人たちを振り返った。
「よし、あとは船だな。バル、ゼムさんに頼んでくれるか? 明日の昼前に海に出ようと思う」
「お、おう、それは任せてくれ。しかし、どうやってシーサーペントを倒すつもりだ?」
獣人たちはバルの言葉にうんうんと頷いて、身を乗り出すように俺の答えを待っていた。
「俺が魔法を使えるってことは言っただろう?」
「ああ、聞いた」
獣人たちは頷きながら、何人かがごくりと唾液を飲み込んだ。
「使える魔法はいくつかある。で、そいつを組み合わせてだな、こう……ああ、説明するのが面倒くさい。ということで、あとは見てのお楽しみだ」
『マスター、実は何も考えてなかったのでしょう?』
(う、うるさい、一応考えはあるんだよ。上手くいくかは分からないけど……)
ナビが肩をすくめるイメージが頭に浮かんだ。
獣人たちは肩透かしを食って、残念そうな表情でため息を吐いた。
「わかった…じゃあ、俺とリト、ルドはゼム爺さんのところへ行ってくる」
「ああ、頼む。あ、そうだ、手土産持っていった方が話しやすいだろう?ちょっと待っててくれ」
俺はそう言うと、小屋の外に出て、ルームから市場で買っておいた食料の中から、チーズとパンを取り出して小屋に戻った。バルたちは、それを受け取ると、ゼム爺さんの小屋へ向かった。
「よし、じゃあ今夜はシーサーペント討伐に向けての景気づけだ。美味いもの食って力を蓄えようぜ。ベルさん、料理はできるかい?」
「え、ええ、料理は得意よ。でも、材料が……」
「ああ、すぐ持ってくるよ」
俺はそう言って再び小屋を出て行った。いちいち面倒臭いが、収納魔法を見られたらまた大騒ぎになるのが分かっているから仕方がない。
♢♢♢
夕日が差し込む小屋の中に美味そうな匂いが充満している。獣人の姉妹が楽し気に作った魚と野菜の煮込み料理がそろそろ出来上がるという頃、小屋のドアが開いて、ゼムさんの所に行っていたバルたちが帰ってきた。彼ら三人の背後には、一人の大柄な獣人が立っていた。
「ただいま……ああ、トーマ、こちらが族長のゼムさんだ」
「お帰り。あ、どうも、冒険者のトーマです。わざわざ来てくれたんですか?」
俺は立ち上がってちょこんと頭を下げたが、その大柄な獣人は無言でじっと俺を舐め回すように見ていた。
彼は老人らしいが、俺の目にはどう見てもまだ働き盛りの筋骨たくましい壮年の男にしか見えなかった。獣人というのは長寿なのか、死ぬまで見た目があまり変わらないのだろうか。
バルが少しすまなそうな表情で頭に手をやりながら、代わりに答えた。
「ああ、すまない。その、今までのことを話して、船を出してもらうように頼んだんだが……君が、その、本当にシーサーペントを倒せるのか、自分の目で確かめないと引き受けられない、ということで、つまりだな……」
「シーサーペントを倒せるだと? お前のようなこわっぱが?」
ゼムがバルを遮って、ずいと前に出てきてそう言った。
一瞬にして小屋の中の空気が凍りついたように静まり返った。
「ああ、そうですね、なんとかなると思いますよ」
「ふざけるなっ!!」
俺がとぼけたように答えると、ゼムは烈火のごとく怒って叫んだ。
「そんないい加減な奴に、こいつらの命が賭けられるかっ! おい、お前たち村へ帰るぞ」
ゼムはそう言って、バルたちを促して去って行こうとした。
「逃げるんですか?」
「な、貴様のような…」
ゼムが何かを言おうとする前に、俺は彼を遮って続けた。
「あなたたち、獣人が過去に辛い経験をしたことは、いろいろな人から聞きました。でも、だから何だって言うんです? だから、人間は信用できない、協力はしないし、恨みを抱えたまま、人間たちから離れて暮らす、ですか? それは、俺に言わせれば逃げているだけだ。
でも、このバルやリトたちには、まだ長い未来がある。俺は、彼らに堂々と人間たちと対等な関係で生きていって欲しい。これは、その大事な第一歩になるはずです」
ゼムはいつしか呆気にとられたように、口を開けたまま俺を見つめていた。
「……お前、本当に子どもか? ふっ、まあいい。それだけの口をきくからには、それだけの実力があるということだな? では、それを見せてもらおうか。ついて来い」
ゼムは口元に笑みを浮かべると、小屋を出て行った。
「ト、トーマ、すまねえ、あの人は……」
「うん、分かっているよ。皆は先に夕食を食べていてくれ。ちょっと、行ってくる」
俺はそう言い残すと、ゼムの後について小屋から出た。
「……そうだったんだ……父ちゃんを殺した本当の犯人は、シーサーペントだったんだな」
「まあ、そういうことだ。どうする?まだ敵討ちをしたいか?」
俺の問いに、リトはちらりと妹に目を向けた後、唇を引き結び、悲壮な目で俺を見つめた。
「悔しいけど……あきらめるよ。シーサーペントなんて、誰にもどうすることもできないから……」
「うん、まあ…どうにかならないこともない、かな」
俺の言葉に、リトも他の獣人たちも呆気にとられた顔で、口をポカンと開いたまま目を見開いた。言葉が分からないザガンたちも、異様な雰囲気に戸惑いながら俺に目を向けた。
「お、おい、トーマ、冗談だよな?」
「に、兄ちゃん、シーサーペントをやっつけられるのか?」
俺は両手でリトたちに落ち着くように指示したあと、ザガンに問い掛けた。
(ザガン、俺はシーサーペントを倒そうと思う。そこで頼みがあるんだが、シーサーペントは見つけられるか?)
ザガンは一瞬驚いたような目をしたが、すぐにしっかりと頷いた。
『ああ、もちろんできる。しかし、我々でも集団でなければ倒せない相手だ。特に、海に長時間潜れない君たちには厳しいと思うが……』
(うん、それには少し考えがある。よし、じゃあ、明日の朝、討伐を決行する。協力してくれるか?)
『ああ、もちろんだ。喜んで協力するよ』
俺はザガンとしっかり握手を交わし、獣人たちを振り返った。
「よし、あとは船だな。バル、ゼムさんに頼んでくれるか? 明日の昼前に海に出ようと思う」
「お、おう、それは任せてくれ。しかし、どうやってシーサーペントを倒すつもりだ?」
獣人たちはバルの言葉にうんうんと頷いて、身を乗り出すように俺の答えを待っていた。
「俺が魔法を使えるってことは言っただろう?」
「ああ、聞いた」
獣人たちは頷きながら、何人かがごくりと唾液を飲み込んだ。
「使える魔法はいくつかある。で、そいつを組み合わせてだな、こう……ああ、説明するのが面倒くさい。ということで、あとは見てのお楽しみだ」
『マスター、実は何も考えてなかったのでしょう?』
(う、うるさい、一応考えはあるんだよ。上手くいくかは分からないけど……)
ナビが肩をすくめるイメージが頭に浮かんだ。
獣人たちは肩透かしを食って、残念そうな表情でため息を吐いた。
「わかった…じゃあ、俺とリト、ルドはゼム爺さんのところへ行ってくる」
「ああ、頼む。あ、そうだ、手土産持っていった方が話しやすいだろう?ちょっと待っててくれ」
俺はそう言うと、小屋の外に出て、ルームから市場で買っておいた食料の中から、チーズとパンを取り出して小屋に戻った。バルたちは、それを受け取ると、ゼム爺さんの小屋へ向かった。
「よし、じゃあ今夜はシーサーペント討伐に向けての景気づけだ。美味いもの食って力を蓄えようぜ。ベルさん、料理はできるかい?」
「え、ええ、料理は得意よ。でも、材料が……」
「ああ、すぐ持ってくるよ」
俺はそう言って再び小屋を出て行った。いちいち面倒臭いが、収納魔法を見られたらまた大騒ぎになるのが分かっているから仕方がない。
♢♢♢
夕日が差し込む小屋の中に美味そうな匂いが充満している。獣人の姉妹が楽し気に作った魚と野菜の煮込み料理がそろそろ出来上がるという頃、小屋のドアが開いて、ゼムさんの所に行っていたバルたちが帰ってきた。彼ら三人の背後には、一人の大柄な獣人が立っていた。
「ただいま……ああ、トーマ、こちらが族長のゼムさんだ」
「お帰り。あ、どうも、冒険者のトーマです。わざわざ来てくれたんですか?」
俺は立ち上がってちょこんと頭を下げたが、その大柄な獣人は無言でじっと俺を舐め回すように見ていた。
彼は老人らしいが、俺の目にはどう見てもまだ働き盛りの筋骨たくましい壮年の男にしか見えなかった。獣人というのは長寿なのか、死ぬまで見た目があまり変わらないのだろうか。
バルが少しすまなそうな表情で頭に手をやりながら、代わりに答えた。
「ああ、すまない。その、今までのことを話して、船を出してもらうように頼んだんだが……君が、その、本当にシーサーペントを倒せるのか、自分の目で確かめないと引き受けられない、ということで、つまりだな……」
「シーサーペントを倒せるだと? お前のようなこわっぱが?」
ゼムがバルを遮って、ずいと前に出てきてそう言った。
一瞬にして小屋の中の空気が凍りついたように静まり返った。
「ああ、そうですね、なんとかなると思いますよ」
「ふざけるなっ!!」
俺がとぼけたように答えると、ゼムは烈火のごとく怒って叫んだ。
「そんないい加減な奴に、こいつらの命が賭けられるかっ! おい、お前たち村へ帰るぞ」
ゼムはそう言って、バルたちを促して去って行こうとした。
「逃げるんですか?」
「な、貴様のような…」
ゼムが何かを言おうとする前に、俺は彼を遮って続けた。
「あなたたち、獣人が過去に辛い経験をしたことは、いろいろな人から聞きました。でも、だから何だって言うんです? だから、人間は信用できない、協力はしないし、恨みを抱えたまま、人間たちから離れて暮らす、ですか? それは、俺に言わせれば逃げているだけだ。
でも、このバルやリトたちには、まだ長い未来がある。俺は、彼らに堂々と人間たちと対等な関係で生きていって欲しい。これは、その大事な第一歩になるはずです」
ゼムはいつしか呆気にとられたように、口を開けたまま俺を見つめていた。
「……お前、本当に子どもか? ふっ、まあいい。それだけの口をきくからには、それだけの実力があるということだな? では、それを見せてもらおうか。ついて来い」
ゼムは口元に笑みを浮かべると、小屋を出て行った。
「ト、トーマ、すまねえ、あの人は……」
「うん、分かっているよ。皆は先に夕食を食べていてくれ。ちょっと、行ってくる」
俺はそう言い残すと、ゼムの後について小屋から出た。
256
あなたにおすすめの小説
少し冷めた村人少年の冒険記 2
mizuno sei
ファンタジー
地球からの転生者である主人公トーマは、「はずれギフト」と言われた「ナビゲーションシステム」を持って新しい人生を歩み始めた。
不幸だった前世の記憶から、少し冷めた目で世の中を見つめ、誰にも邪魔されない力を身に着けて第二の人生を楽しもうと考えている。
旅の中でいろいろな人と出会い、成長していく少年の物語。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
『異世界庭付き一戸建て』を相続した仲良し兄妹は今までの不幸にサヨナラしてスローライフを満喫できる、はず?
釈 余白(しやく)
ファンタジー
毒親の父が不慮の事故で死亡したことで最後の肉親を失い、残された高校生の小村雷人(こむら らいと)と小学生の真琴(まこと)の兄妹が聞かされたのは、父が家を担保に金を借りていたという絶望の事実だった。慣れ親しんだ自宅から早々の退去が必要となった二人は家の中で金目の物を探す。
その結果見つかったのは、僅かな現金に空の預金通帳といくつかの宝飾品、そして家の権利書と見知らぬ文字で書かれた書類くらいだった。謎の書類には祖父のサインが記されていたが内容は読めず、頼みの綱は挟まれていた弁護士の名刺だけだ。
最後の希望とも言える名刺の電話番号へ連絡した二人は、やってきた弁護士から契約書の内容を聞かされ唖然とする。それは祖父が遺産として残した『異世界トラス』にある土地と建物を孫へ渡すというものだった。もちろん現地へ行かなければ遺産は受け取れないが。兄妹には他に頼れるものがなく、思い切って異世界へと赴き新生活をスタートさせるのだった。
連載時、HOT 1位ありがとうございました!
その他、多数投稿しています。
こちらもよろしくお願いします!
https://www.alphapolis.co.jp/author/detail/398438394
魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します
怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。
本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。
彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。
世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。
喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。
異世界召喚に条件を付けたのに、女神様に呼ばれた
りゅう
ファンタジー
異世界召喚。サラリーマンだって、そんな空想をする。
いや、さすがに大人なので空想する内容も大人だ。少年の心が残っていても、現実社会でもまれた人間はまた別の空想をするのだ。
その日の神岡龍二も、日々の生活から離れ異世界を想像して遊んでいるだけのハズだった。そこには何の問題もないハズだった。だが、そんなお気楽な日々は、この日が最後となってしまった。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる