神様の忘れ物

mizuno sei

文字の大きさ
33 / 84

32 キングベア討伐

「ええっ、キ、キングベアの討伐って……」
 昼食時、お母さんは、伯父さんから先ほどの話を聞くと、悲痛な声を上げた後、ぽろぽろと涙をこぼし始めた。

「ああ、お母さん、大丈夫だから、ね、泣かないで……」

「うう、どうして、いつも、いつも、あなたばかり、そんなに苦労しなくちゃいけないの? う、うう……どうして……」

「お母さん……」
 私もお母さんの溢れる愛情を感じて、思わず泣きながらお母さんの胸にしがみついた。

「……姉さん、すまない……分かったよ、リーリエは連れて行かない」
 アレン伯父さんがそう言って、席を立とうとしたとき、後ろの壁に控えて立っていたプラムが、静かに私たちのもとへ歩み寄った。
「奥様、私がついていきますので、どうかご安心を。それに、リーリエお嬢様は、奥様が思っておられる以上にお強いです。キングベアの一匹や二匹、敵ではありません」

「そうだよ、お母様。姉さまはすっごく強いよ。何も心配はいらないよ」

 プラムとロナンの両方からそう言われて、お母さんはようやく涙でくしゃくしゃになった顔を上げた。

「ほら、これで顔を拭いて」
 私はポケットからハンドタオルを出して、お母さんに渡した。

「リーリエちゃん…うう…ほんとに、大丈夫? 絶対ケガしないでね?」

「うん、約束する。危ない時はとっとと逃げて帰ってくるよ」
 お母さんはようやく安心したように微笑んで、私をしっかりと抱きしめた。


♢♢♢

 そんなわけで、私は今、プラムと一緒に村の広場に来ていた。

「……では、今、説明した通り、三人一組で広がって、一斉に森の中を進んでいくぞ。何かあったら、すぐに笛を吹け。では出発っ!」
 フェスタさんの声で、十六人の捜索隊が一斉に動き出した。

 私はアレン伯父さんプラム、そしてフェスタさんと一緒のグループだ。プラムが先頭に立って、探索をしながら進んでいく。

「ねえ、伯父さん、やっぱり熊は毛皮とかあまり傷つけない方がいいんだよね?」
 私はアレン伯父さんの隣を歩きながら、訪ねた。

「あ、ああ、そうだな。だが、相手はキングベアだ、そんなことも言ってられないだろう」

「お嬢、キングベアは、この辺りにはめったに出ないBランクの魔物なんですよ。うちの警備隊にはCランクの冒険者が二人しかいないのでね、大変なんでさあ」

「なるほど……」
 ふうん、そっか……見てみないと何とも言えないけど、20メラリードくらいの厚さでいいかな?
「プラム、厚さ20で囲ってみる。睡眠か麻痺をお願いね」

 私の声に五メートルほど先を歩いていたプラムが、振り返って頷いた。
「承知しました」

 アレン伯父さんもフェスタさんも、私たちのやり取りを聞いても訳が分からず、首をひねるのだった、

 それから十五分ほどが過ぎた時、森の中に鋭い笛の音が響き渡った。私たちがいる所からはだいぶ離れている。

「向こうの方角です」
 プラムが指さす方向に、私たちはいっせいに走り出した。

 私もこの五年間、プラムに〈身体強化〉や〈短剣術〉の指導を受けたので、森の中を走ることは苦でもない。

 やがて、いろいろな叫び声が近くに聞こえるようになってきた。笛を聞きつけたグループと、キングベアから逃げてくるグループがぶつかって、混乱を引き起こしていたのだ。

「感知しましたっ! この方向、距離八十ラリード、こちらに向かっています」
 プラムの〈探索〉がキングベアを捉えた。

「騒ぐなあっ! 全員、戦闘用意して待機、次の指示を待て」
 フェスタさんの声に、ようやく騒ぎは静まり、隊員たちはそれぞれの役目ごとに集まって、かがみこんだ。

 グフッ…グフッ……グアアアッ!

 荒い息遣いと唸り声が森の奥から次第に近づいてくる。そして、ついに、そいつの姿が、木々の間から肉眼で見えるようになった。

(おお、熊って言っても、黒くないんだ。赤い毛の熊なんて、さすがは異世界)
 それは体長三メートル近く、燃えるような赤い体毛に覆われた巨大な熊だった。

 私は素早く、対象を捕獲するための結界の準備を進めた。
(このまま真っすぐに進んでくれれば、二十秒後に距離およそ三十メートルね。よし、じゃあ、あの辺りに高さ三メートル、幅二メートル、厚さ二十五センチの結界の檻を……)

「総員、迎撃準備っ! 合図を待って、一斉攻撃っ!」

 私の思考をかき消すような、アレン伯父さんの声が響き渡った。

「あ、待って、伯父さんっ」
 私は慌てて、叫んだ。

「何だ、どうした? 早く攻撃しないと、近づかれたら全滅だぞ」
 伯父さんも他の隊員の人たちも、怪訝な顔で私を見た。

「うん、分かってる。一回だけ、私に機会をちょうだい。あと、二十秒待って?」

 伯父さんは迷ったが、私の確信に満ちた目を見て、頷いた。
「分かった。二十秒だな。全員、そのまま待機っ! リーリエの攻撃を待つ」

 いや、攻撃じゃないけどね。でも、ありがとう、伯父さん。

「プラム、いくよ」

「はいっ、いつでも」

 私は集中してキングベアの動きを見つめた。あと十秒……あと五秒……よしっ、今だっ!
「結界、発動っ!!」

 グオッ!?……ガンッ…ガアアッ!

 強い魔力を感じたキングベアの驚きの声の直後に、結界にぶつかった音、そしてそれに驚いた叫び声が続いた。
 その時には、すでにプラムが飛び出して行き、警備隊全員があっと息を飲む間に、凶悪な魔物の前に立ちはだかっていた。
感想 8

あなたにおすすめの小説

【完結】男爵令嬢は冒険者生活を満喫する

影清
ファンタジー
英雄の両親を持つ男爵令嬢のサラは、十歳の頃から冒険者として活動している。優秀な両親、優秀な兄に恥じない娘であろうと努力するサラの前に、たくさんのメイドや護衛に囲まれた侯爵令嬢が現れた。「卒業イベントまでに、立派な冒険者になっておきたいの」。一人でも生きていけるようにだとか、追放なんてごめんだわなど、意味の分からぬことを言う令嬢と関わりたくないサラだが、同じ学園に入学することになって――。 ※残酷な描写は予告なく出てきます。 ※小説家になろう、アルファポリス、カクヨムに掲載中です。 ※106話完結。

能力値カンストで異世界転生したので…のんびり生きちゃダメですか?

火産霊神
ファンタジー
私の異世界転生、思ってたのとちょっと違う…? 24歳OLの立花由芽は、ある日異世界転生し「ユメ」という名前の16歳の魔女として生きることに。その世界は魔王の脅威に怯え…ているわけでもなく、レベルアップは…能力値がカンストしているのでする必要もなく、能力を持て余した彼女はスローライフをおくることに。そう決めた矢先から何やらイベントが発生し…!?

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

ペットたちと一緒に異世界へ転生!?魔法を覚えて、皆とのんびり過ごしたい。

千晶もーこ
ファンタジー
疲労で亡くなってしまった和菓。 気付いたら、異世界に転生していた。 なんと、そこには前世で飼っていた犬、猫、インコもいた!? 物語のような魔法も覚えたいけど、一番は皆で楽しくのんびり過ごすのが目標です! ※この話は小説家になろう様へも掲載しています

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

転生したので好きに生きよう!

ゆっけ
ファンタジー
前世では妹によって全てを奪われ続けていた少女。そんな少女はある日、事故にあい亡くなってしまう。 不思議な場所で目覚める少女は女神と出会う。その女神は全く人の話を聞かないで少女を地上へと送る。 奪われ続けた少女が異世界で周囲から愛される話。…にしようと思います。 ※見切り発車感が凄い。 ※マイペースに更新する予定なのでいつ次話が更新するか作者も不明。

幼女はリペア(修復魔法)で無双……しない

しろこねこ
ファンタジー
田舎の小さな村・セデル村に生まれた貧乏貴族のリナ5歳はある日魔法にめざめる。それは貧乏村にとって最強の魔法、リペア、修復の魔法だった。ちょっと説明がつかないでたらめチートな魔法でリナは覇王を目指……さない。だって平凡が1番だもん。騙され上手な父ヘンリーと脳筋な兄カイル、スーパー執事のゴフじいさんと乙女なおかんマール婆さんとの平和で凹凸な日々の話。

追放令嬢、辺境王国で無双して王宮を揺るがす

遊鷹太
ファンタジー
王国随一の名門ハーランド公爵家の令嬢エリシアは、第一王子の婚約者でありながら、王宮の陰謀により突然追放される。濡れ衣を着せられ、全てを奪われた彼女は極寒の辺境国家ノルディアへと流される。しかしエリシアには秘密があった――前世の記憶と現代日本の経営知識を持つ転生者だったのだ。荒廃した辺境で、彼女は持ち前の戦略眼と人心掌握術で奇跡の復興を成し遂げる。やがて彼女の手腕は王国全土を震撼させ、自らを追放した者たちに復讐の刃を向ける。だが辺境王ルシアンとの運命的な出会いが、彼女の心に新たな感情を芽生えさせていく。これは、理不尽に奪われた女性が、知略と情熱で世界を変える物語――。