神様の忘れ物

mizuno sei

文字の大きさ
58 / 84

57 リーリエ式セーフガード

しおりを挟む
 リオン・セドルが、ポーデット家に嵐をもたらした夜が明けた。
 この日、リオンはすぐにでもプロリアに帰る予定だったが、ロナンが仲間になることを承諾し、一緒にプロリアに行くことになったので、ロナンと家族とのお別れの時間を考慮して、あと二日間丘の家に滞在することを決めた。

「では、われわれはいったん引き上げる。何かあったら、いつでも我々を頼ってくれ。では、いずれまた」
 朝食後、ランデール辺境伯とシーベル男爵は、それぞれイルクスとバナクスの屋敷に帰っていった。

 昼食後に、皆でイルクスの街に行くことにして、家族はそれぞれの仕事を始めた。
 私とプラムは、リオンとロナンを伴って北の森へ向かった。今、私の頭の中にある二人の弱点とそれを克服する手段を確かめるためだった。

 イルクスへ続く道から逸れて、明るい広葉樹の森の中へ入って行く。
「この辺りでいいでしょう。さて、リオン、まず、あなたに言っておくことがあるの」

 森の開けた場所で立ち止まった私は、リオンに向き直ってそう言った。リオンは、真剣な顔で姿勢を正した。
「はい、先生、お願いします」

「実は、私は〈鑑定〉のスキルを持っているの……」

 私の言葉に、リオンは一瞬口を開けて驚いたが、すぐに頷いた。

 私は続けて言った。
「……あなたは、剣技、魔法の技術は、すでに高みに達していると思う。比較できる人間を知らないし、魔王の強さがどのくらいか分からないから、これで魔王が倒せると断言はできない。でも、私が知る限り、あなたより強い魔物は想像できない。ただ、まだあなたに足りないものがあるの……」

「はい、先生、ぜひ教えてください」
 リオンは目を輝かせて、身を乗り出すように頷いた。

「それはね〝力〟よ。まだ、体が成長の途中なので仕方がないけれどね……あなたは、技術は十分ある、防御も良い装備と結界があれば、ある程度までは防げる……でも、防ぐだけでは勝てない、相手に、致命的な攻撃ができなければ、やがて相手の力に体力を削られて、負けてしまう。
 だから、これから、あなたがやらなければならないことは、力のステータスをできる限り上げることなの」

 リオンはしっかりと頷いた。
「はい、分かりました。何か効果的な方法はあるでしょうか?」

「そうね……いろいろあると思うけれど、一つは、ロナンもやっている木登りと丸太投げ、もう一つは、大剣を使った素振りね。今から、ロナンがやり方を教えるからいっしょにやってみて」

「はいっ。ロナン、よろしく」
「うん! じゃあ、木登りからいこうか」

 二人は嬉々として、鍛錬を始めた。もし、その様子をそれなりの実力を持つ冒険者とか、兵士とかが見ていたとしたら、きっと驚きに腰を抜かすだろう。
 ロナンが木に登る速さは一般の猿よりも速かった。リオンも最初こそロナンに負けていたが、慣れてくると互角の勝負をするようになった。
 丸太投げは、さすがにリオンが強かった。一本五、六十キロはある丸太を、軽々と担ぎ上げ、気合いの声とともに十メートル近く投げるのだ。

 勇者という存在は、本当に規格外だと思う。そして、なぜか悲しさを感じる。前世で見たラノベやアニメには、時にとんでもなくクズな勇者がいたが、リオンは、まったく正反対だった。
 金髪で、女の子のようなはかなげな顔立ち、そしてその誠実で優しい性格……彼のことを知れば知るほど、勇者にはふさわしくないと思ってしまう。ふてぶてしさとかが全くないのだ。なぜ、神様はこんな子を勇者に選んだのだろうと、つい思ってしまう。

 ちなみに、現在のリオンのステータスはこのようになっている。

******

《名前》 リオン・セドル
《種族》 人族
《性別》 ♂
《年齢》 14歳
《職業》 学生
《状態》 健康

【ステータス】

《レベル》 76
《生命力》 655
《 力 》 380
《魔 力》 359
《物理防御力》 325
《魔法防御力》 323
《知 力》 230
《俊敏性》 188
《器用さ》 216
《 運 》 75
《スキル》 剣術Rnk10 槍術Rnk8 体術Rnk10 
      炎属性魔法Rnk7 水属性魔法Rnk8 
      土属性魔法Rnk5 聖属性魔法Rnk2
      無属性魔法Rnk2
《称号》 勇者のひな鳥
《加護》 天空神の愛し子

******

 確かに、ステータスだけ見れば、まさしく〝化け物〟だ。
 しかし、私はまだ安心できなかった。大切な弟を預ける相手だ。簡単に魔王にやられてもらっては困る。
 私は、あまり良いとは言えない頭で、〝力〟を向上させる以外にどんなセーフガードが必要なのだろうと、必死に考えるのだった。


♢♢♢

 昼食後、私たちは全員でイルクスの街に向かった。ロナンとリオンは、荷台でも魔法や剣の話に夢中になっていた。周囲に座った私たちは、それを微笑ましく見守った。

「お母さん、馬車の揺れ、きつくない?」

「うん、大丈夫よ、ありがとう、リーリエちゃん」
 そろそろ動くのが辛そうなお母さんだが、つわりがないことが救いだった。

 街に着くと、まずお母さんとおばあちゃんをカフェに連れて行って、プラムが二人の護衛に着いた。お父さんはチーズを市場に卸してから、お母さんたちに合流する予定だ。そして、私とロナン、リオンはゲンクさんの鍛冶工房に直行した。

「おじさん、こんにちは~」
 私の声に、いつも通り、奥の仕事場からガラガラ、ガシャンと金属品が崩れ落ちる音が聞こえてきた。

「おおっ、来たか……ん? 新顔だな、お嬢のこれか?」
 顔のほとんどが髭の中に隠れた、汗だくの大男が出てきて、そんなことを言いながら小指を立てた。

「バカなこと言わないで。この子はプロリアの貴族なのよ」

 私の言葉に、ゲンクおじさんはビクッとして、焦ったように手拭いで顔をぬぐった。
「そ、そいつはどうも……ええっと、今日はどんな御用で?」

 私とロナンは、思わずプッと吹き出し、リオンは笑い出した私たちとゲンクおじさんを交互に見ながら、困ったように苦笑した。


♢♢♢
「おお、そうだったのか……思ったより早かったな」
 ゲンクおじさんはそう言うと、カウンターの後ろへ行って黒革に銀細工がほどこされた鞘に入った剣を持ってきた。
「ほら、ロナン、今日からお前のものだ」

 ロナンは目を輝かせながらそれを両手で受け取ると、しばらくそれを上から下までじっと見つめていた。

「ロナン、刀身を見せて」
 リオンは早く見たくて、ロナンをせかせた。

 ロナンは頷いて、革巻きの束を手で握ると、ゆっくりと引き抜いていった。薄暗い店の中で、その直刀の黒い刀身が不思議な青い光を放った。
しおりを挟む
感想 8

あなたにおすすめの小説

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。  〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜

トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!? 婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。 気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。 美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。 けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。 食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉! 「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」 港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。 気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。 ――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談) *AIと一緒に書いています*

【完結】転生したら最強の魔法使いでした~元ブラック企業OLの異世界無双~

きゅちゃん
ファンタジー
過労死寸前のブラック企業OL・田中美咲(28歳)が、残業中に倒れて異世界に転生。転生先では「セリア・アルクライト」という名前で、なんと世界最強クラスの魔法使いとして生まれ変わる。 前世で我慢し続けた鬱憤を晴らすかのように、理不尽な権力者たちを魔法でバッサバッサと成敗し、困っている人々を助けていく。持ち前の社会人経験と常識、そして圧倒的な魔法力で、この世界の様々な問題を解決していく痛快ストーリー。

元公爵令嬢は年下騎士たちに「用済みのおばさん」と捨てられる 〜今更戻ってこいと泣きつかれても献身的な美少年に溺愛されているのでもう遅いです〜

日々埋没。
ファンタジー
​「新しい従者を雇うことにした。おばさんはもう用済みだ。今すぐ消えてくれ」  ​かつて婚約破棄され、実家を追放された元公爵令嬢のレアーヌ。  その身分を隠し、年下の冒険者たちの身の回りを世話する『メイド』として献身的に尽くしてきた彼女に突きつけられたのは、あまりに非情な追放宣告だった。  ​レアーヌがこれまで教育し、支えてきた若い男たちは、新しく現れた他人の物を欲しがり子悪魔メイドに骨抜きにされ、彼女を「加齢臭のする汚いおばさん」と蔑み、笑いながら追い出したのだ。 ​ 地位も、居場所も、信じていた絆も……すべてを失い、絶望する彼女の前に現れたのは、一人の美少年だった。 ​「僕とパーティーを組んでくれませんか? 貴方が必要なんです」  ​新米ながら将来の可能性を感じさせる彼は、レアーヌを「おばさん」ではなく「一人の女性」として、甘く狂おしく溺愛し始める。  一方でレアーヌという『真の支柱』を失った元パーティーは、自分たちがどれほど愚かな選択をしたかを知る由もなかった。  ​やがて彼らが地獄の淵で「戻ってきてくれ」と泣きついてきても、もう遅い。  レアーヌの隣には、彼女を離さないと誓った執着愛の化身が微笑んでいるのだから。

水精姫の選択

六道イオリ/剣崎月
ファンタジー
見た目が美しくも奇異な小国の王女パルヴィは、財政難から大国に身売りすることになったのだが、道中で買うと言った王が死亡したと聞かされる。 買われ故国を救いたいと願う王女は引き返さずに大国へと赴き 

勝手に召喚され捨てられた聖女さま。~よっしゃここから本当のセカンドライフの始まりだ!~

楠ノ木雫
ファンタジー
 IT企業に勤めていた25歳独身彼氏無しの立花菫は、勝手に異世界に召喚され勝手に聖女として称えられた。確かにステータスには一応〈聖女〉と記されているのだが、しばらくして偽物扱いされ国を追放される。まぁ仕方ない、と森に移り住み神様の助けの元セカンドライフを満喫するのだった。だが、彼女を追いだした国はその日を境に天気が大荒れになり始めていき…… ※他の投稿サイトにも掲載しています。

派手にしない工房は、今日もちゃんと続いている

ふわふわ
恋愛
名門でも、流行でもない。 選ばなかったからこそ、残った場所がある。 街の片隅で、小さな工房を営む職人シオンと、帳簿と現実を見つめ続けるリリカ。 派手な宣伝も、無理な拡大もせず、ただ「ちゃんと作る」ことを選び続けてきた二人の工房は、いつの間にか人々の日常の一部になっていた。 しかし、再開発と条件変更という現実が、その場所を静かに揺さぶる。 移るか、変えるか、終わらせるか―― 迫られる選択の中で、二人が選んだのは「何も変えない」という、最も難しい決断だった。 特別にならなくていい。 成功と呼ばれなくてもいい。 ただ、今日も続いていることに意味がある。 これは、成り上がらない。 ざまぁもしない。 けれど確かに「生き方」を選びきった人たちの物語。 終わらせなかったからこそ辿り着いた、 静かで、確かな完結。

アワセワザ! ~異世界乳幼女と父は、二人で強く生きていく~

eggy
ファンタジー
 もと魔狩人《まかりびと》ライナルトは大雪の中、乳飲み子を抱いて村に入った。  村では魔獣や獣に被害を受けることが多く、村人たちが生活と育児に協力する代わりとして、害獣狩りを依頼される。  ライナルトは村人たちの威力の低い攻撃魔法と協力して大剣を振るうことで、害獣狩りに挑む。  しかし年々増加、凶暴化してくる害獣に、低威力の魔法では対処しきれなくなってくる。  まだ赤ん坊の娘イェッタは何処からか降りてくる『知識』に従い、魔法の威力増加、複数合わせた使用法を工夫して、父親を援助しようと考えた。  幼い娘と父親が力を合わせて害獣や強敵に挑む、冒険ファンタジー。 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

処理中です...