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78 魔王城の戦い 1
《第三者視点》
「ベルシアとブコはまだ来ぬのか、何をしておる」
玉座に座った魔王ザメロスはイライラと落ち着かない様子で、かたわらの側近に尋ねた。
「はっ、使いの者を出しましたが、まだ居城にはお帰りではないとのと。もう一度、使いを出しておきます」
「まさか、あの吸血鬼にやられたのではあるまいな?……」
「まさか、魔王様に表立って逆らうようなことは……恐らく、かの者を説得できずに、面目を失うことを恐れて、どこかに隠れているのやもしれません」
「ふむ……あり得るな。とにかく、見つけ次第、報告に来るよう伝えろ」
「ははっ」
側近は頭を下げると、ベルシアたちの捜索に出ていった。
「申し上げますっ!」
側近が出ていくのと入れ替わるように、近衛部隊の兵士が駆け込んできた。
「何事だ?」
「はっ、デッドバレーの砦が陥落、勇者軍が城下に侵入したとの報告が……」
「ぬうう、どいつもこいつも、役立たずどもめっ……ゴライズ将軍はどうした」
「はっ、将軍はただ今、勇者軍を食い止めるべく、ジャイアントエイプ兵三百とともに、城の外に出陣しておられます」
「よし、将軍の援護に、地下に幽閉しておるレイスどもを解き放て」
「っ! し、しかし、奴らは敵味方の区別なく……」
「構わんっ! 勇者軍を弱らせれば、それでいい。聖女一人では、どうにもなるまい、ふふふ……」
♢♢♢
「ん? 何か敵の様子がおかしいぞ」
混成勇者軍の参謀長ベイル・ラズモンドは首を傾げた。さっきまで騎士団や冒険者部隊と激しい戦闘を繰り広げていた敵のジャイアントエイプ軍団が、急に力が抜けたようにがっくりと膝をつき始めたからだ。
だが、それは敵だけではなかった。騎士たちや冒険者たちも、力が抜けたように倒れる者たちが続出し始めた。
先頭で、敵の大将らしき鎧で武装した巨大なエイプと戦っていたリオンたちも、この異常な事態に気づいて、いったん後ろに退いた。
「あ、あれだわ。半透明で見えにくいけど、ヒトの形をした幽霊みたいな奴」
「レイスかっ! また、厄介な奴らを出してきたな」
イリスが最初に気づき、ブレンダも正体がわかって嫌そうに眉間にしわを寄せた。
「リオン、あれって普通の魔法は効かないの?」
「うん、聖属性の上位魔法だけだね。おっと、来たぞ、ロナン、ブレンダ、僕の後ろに、イリス、騎士や冒険者さんたちを守って!」
「了解よ」
リオンは指示を終えると、ピュリファイの上位魔法〈カタルシス〉を発動した。すると、彼の周囲、半径二十メートルの円の範囲内のレイスたちは慌てて逃げようとしたが、逃げ切れず次々に浄化されて消えていった。
イリスも〈ホーリーランス〉の魔法で、騎士や冒険者たちに取り憑いた悪霊たちを一体ずつ葬り去っていた。
「このまま進もう。ロナン、ブレンダ、僕が魔法を使っている間、近づいてくる魔物たちの相手を頼む」
「うん、任せて」
「おう、心得た」
「みなさーん、このまま城へ進みまーす」
ロナンの明るい声に、冒険者たち、騎士たちは武器を天に掲げて雄たけびを上げた。
「「「「オオオッ」」」」
「ま、待て……魔王様のもとへは、いか…せ…ぬ」
フルアーマーに身を包んだエイプの将軍が、よろよろと立ち上がりながら行く手を塞いだ。
「君は、人語を話せるのか……そのままでは戦いにならないだろう、少しじっとしていろ」
リオンはそう言うと、レイスに取り憑かれて苦しむエイプに〈カタルシス〉をかけた。
周囲の者たちは、呆れて苦笑いしながらその様子を見ていた。
「こ、これは……なぜ、敵であるオレを助けた?」
「なぜ?……なぜだろう、わからない……ただ、公平でない戦いはしたくない。たとえ、今から倒す相手でもね」
エイプの将軍ゴライズは不可解といった表情で、大剣を構えた。
「我は魔王四将軍の一人、ゴライズ、救ってもらった恩義はあるが、魔王様に害をなすものを通すわけにはいかぬ、いざ、勝負っ!」
ゴライズは大股で突進してきた。
それを受けて立つのは、ブレンダとロナンだった。
リオンに向かって振り下ろされた大剣を、前に飛び出したブレンダがスパイクシールドを軽々と持ち上げて左斜め方向に受け流す。その瞬間、ブレンダの背後から飛び出したロナンが、黒鉄の剣で、ゴライズの剣を持つ手を一閃する。プレートアーマーで覆われたゴライズの体で、わずかにむき出しの部分が、二の腕の一部と顔の前面だけだったのだ。
「グワァッ!…こ、小癪なっ」
ゴライズは腕から血を流しながら、その腕で大剣を横殴りに振る。
ブンッ、というすさまじい剣音が耳朶をかすめていく。間一髪、それを避けたロナンは、さらにスピードを上げて、壁や柱を蹴りながら、ゴライズの背丈より高くジャンプした。
「それは悪手だ、馬鹿めっ!」
空中では逃げ場がない。ゴライズは、勝ち誇った声を上げながら、落ちてくるロナンに剣を突き出した。
「なっ!!」
体を貫いたと思った瞬間、少年の小さな体がくるりと回転し、逆さまになって剣を真っすぐに下に向けたまま突っ込んできたのだった。
ゴライズは、眼前に迫った剣先からなんとか逃れようとしたが、今度はその剣先から槍のような水流が飛び出し、彼の目を貫いた。
「ギャアアッ!……」
ゴライズ将軍は、脳まで達する〈ウォーターランス〉の直撃を受けて、ゆっくりと地面に崩れ落ちていった。
「ベルシアとブコはまだ来ぬのか、何をしておる」
玉座に座った魔王ザメロスはイライラと落ち着かない様子で、かたわらの側近に尋ねた。
「はっ、使いの者を出しましたが、まだ居城にはお帰りではないとのと。もう一度、使いを出しておきます」
「まさか、あの吸血鬼にやられたのではあるまいな?……」
「まさか、魔王様に表立って逆らうようなことは……恐らく、かの者を説得できずに、面目を失うことを恐れて、どこかに隠れているのやもしれません」
「ふむ……あり得るな。とにかく、見つけ次第、報告に来るよう伝えろ」
「ははっ」
側近は頭を下げると、ベルシアたちの捜索に出ていった。
「申し上げますっ!」
側近が出ていくのと入れ替わるように、近衛部隊の兵士が駆け込んできた。
「何事だ?」
「はっ、デッドバレーの砦が陥落、勇者軍が城下に侵入したとの報告が……」
「ぬうう、どいつもこいつも、役立たずどもめっ……ゴライズ将軍はどうした」
「はっ、将軍はただ今、勇者軍を食い止めるべく、ジャイアントエイプ兵三百とともに、城の外に出陣しておられます」
「よし、将軍の援護に、地下に幽閉しておるレイスどもを解き放て」
「っ! し、しかし、奴らは敵味方の区別なく……」
「構わんっ! 勇者軍を弱らせれば、それでいい。聖女一人では、どうにもなるまい、ふふふ……」
♢♢♢
「ん? 何か敵の様子がおかしいぞ」
混成勇者軍の参謀長ベイル・ラズモンドは首を傾げた。さっきまで騎士団や冒険者部隊と激しい戦闘を繰り広げていた敵のジャイアントエイプ軍団が、急に力が抜けたようにがっくりと膝をつき始めたからだ。
だが、それは敵だけではなかった。騎士たちや冒険者たちも、力が抜けたように倒れる者たちが続出し始めた。
先頭で、敵の大将らしき鎧で武装した巨大なエイプと戦っていたリオンたちも、この異常な事態に気づいて、いったん後ろに退いた。
「あ、あれだわ。半透明で見えにくいけど、ヒトの形をした幽霊みたいな奴」
「レイスかっ! また、厄介な奴らを出してきたな」
イリスが最初に気づき、ブレンダも正体がわかって嫌そうに眉間にしわを寄せた。
「リオン、あれって普通の魔法は効かないの?」
「うん、聖属性の上位魔法だけだね。おっと、来たぞ、ロナン、ブレンダ、僕の後ろに、イリス、騎士や冒険者さんたちを守って!」
「了解よ」
リオンは指示を終えると、ピュリファイの上位魔法〈カタルシス〉を発動した。すると、彼の周囲、半径二十メートルの円の範囲内のレイスたちは慌てて逃げようとしたが、逃げ切れず次々に浄化されて消えていった。
イリスも〈ホーリーランス〉の魔法で、騎士や冒険者たちに取り憑いた悪霊たちを一体ずつ葬り去っていた。
「このまま進もう。ロナン、ブレンダ、僕が魔法を使っている間、近づいてくる魔物たちの相手を頼む」
「うん、任せて」
「おう、心得た」
「みなさーん、このまま城へ進みまーす」
ロナンの明るい声に、冒険者たち、騎士たちは武器を天に掲げて雄たけびを上げた。
「「「「オオオッ」」」」
「ま、待て……魔王様のもとへは、いか…せ…ぬ」
フルアーマーに身を包んだエイプの将軍が、よろよろと立ち上がりながら行く手を塞いだ。
「君は、人語を話せるのか……そのままでは戦いにならないだろう、少しじっとしていろ」
リオンはそう言うと、レイスに取り憑かれて苦しむエイプに〈カタルシス〉をかけた。
周囲の者たちは、呆れて苦笑いしながらその様子を見ていた。
「こ、これは……なぜ、敵であるオレを助けた?」
「なぜ?……なぜだろう、わからない……ただ、公平でない戦いはしたくない。たとえ、今から倒す相手でもね」
エイプの将軍ゴライズは不可解といった表情で、大剣を構えた。
「我は魔王四将軍の一人、ゴライズ、救ってもらった恩義はあるが、魔王様に害をなすものを通すわけにはいかぬ、いざ、勝負っ!」
ゴライズは大股で突進してきた。
それを受けて立つのは、ブレンダとロナンだった。
リオンに向かって振り下ろされた大剣を、前に飛び出したブレンダがスパイクシールドを軽々と持ち上げて左斜め方向に受け流す。その瞬間、ブレンダの背後から飛び出したロナンが、黒鉄の剣で、ゴライズの剣を持つ手を一閃する。プレートアーマーで覆われたゴライズの体で、わずかにむき出しの部分が、二の腕の一部と顔の前面だけだったのだ。
「グワァッ!…こ、小癪なっ」
ゴライズは腕から血を流しながら、その腕で大剣を横殴りに振る。
ブンッ、というすさまじい剣音が耳朶をかすめていく。間一髪、それを避けたロナンは、さらにスピードを上げて、壁や柱を蹴りながら、ゴライズの背丈より高くジャンプした。
「それは悪手だ、馬鹿めっ!」
空中では逃げ場がない。ゴライズは、勝ち誇った声を上げながら、落ちてくるロナンに剣を突き出した。
「なっ!!」
体を貫いたと思った瞬間、少年の小さな体がくるりと回転し、逆さまになって剣を真っすぐに下に向けたまま突っ込んできたのだった。
ゴライズは、眼前に迫った剣先からなんとか逃れようとしたが、今度はその剣先から槍のような水流が飛び出し、彼の目を貫いた。
「ギャアアッ!……」
ゴライズ将軍は、脳まで達する〈ウォーターランス〉の直撃を受けて、ゆっくりと地面に崩れ落ちていった。
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