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8 《閑話》 女神ラクシス、異常個体の存在に気づく
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《天空神パラス 視点》
ある日の天界。この日、この宇宙区の最高神であるパラスは、運命の女神たちの神域を訪れていた。
「久しぶりだな、クローラよ。以前、頼んでおいた魂の用意はできたか?」
女神たちの長女クローラは、椅子から立ち上がって主神の前にかしこまった。
「はい、いくつか候補がありましたが、先日冥界から、潜在能力、適性ともに条件にふさわしい魂が送られてきました。仰せ(おお)の通り、「良い人生」のランクを与え、条件を書いた書面とともにラクシスのもとへ送っておきました」
「うむ、かたじけない。我が加護を与えた子が、そろそろ入魂の時期を迎えるのでな」
パラスはそう言うと、クローラのもとを去り、次に女神ラクシスのもとへ向かった。
「ラクシス、息災かな?」
「あ、これはパラス様、はい元気でやっております。本日はどのような御用事で?」
「うむ。そなたたちに頼んでおいた我が加護持ちの子の魂の件でな……そろそろ、その子の入魂の時期が迫ってきたので、確認に来たのだ」
「ああ、あのモノクロニクルですか、覚えております。条件は、聖属性を含めた四属性の魔法属性、私の加護付与、初期魔法能力の高めの設定でございましたね?」
「うむ、その通りだ」
「はい、条件通りに設定してアトロフィスのもとへ届けられております」
「そうか、かたじけない。では、アトロフィスのところへ行ってみよう」
パラスは満足の笑みを浮かべながら、ラクシスに別れを告げると、最後の女神のもとへ向かった。
♢♢♢
「アトロフィス、久しぶりだな、元気であったか?」
「あ、パラス様、お久しぶりです。元気ですよ」
パラスは、末っ子女神のいつもの対応に苦笑しながら、近づいていった。
「我が加護を与えた〈英雄の印〉を持つ子が、そろそろ入魂する時期が来たのだ。準備はできておるかな?」
「はあい、もちろんですよ。あとは、前世の記憶を消去、寿命の設定をするだけです。寿命についてはパラス様のご意見もお聞きしたいと思っていました……」
アトロフィスはそう言うと、「良い人生」クラスの一番上に置いてあるモノクロニクルを取り上げて、中身を確認した。
「あら? この前確認した内容と少し違うわ……確か、魔法属性は聖属性を含む四属性だったはず……なのに、聖属性がなくて、風と水の二属性になってる。ラクシスお姉様の加護もない……えええっ、うそぉ、どうなっているの?」
アトロフィスは、顔を青ざめさせて、慌ててそのクラスの他のモノクロニクルを一枚ずつ確認し始めた。
「どうかしたのか? アトロフィスよ、まさか、モノクロニクルが紛失したのか?」
「そ、そんなはずは……ちゃんとここに整理して置いていたのに、どうして?」
読者は、もうお分かりだろう。そう、二柱の神が求めていたのは、本編の主人公リーリエ・ポーデットに入れられた魂だったのだ。では、彼女の魂は、本来どこに生まれるべきだったのか。
それは、奇しくもこの世界の、このランハイム王国の隣国、プロリア公国という小さな国のユアン・セドルという伯爵の家だった。現在、この伯爵家の夫人フィローネが二番目の子を懐妊していた。その跡取りとなるべき男の子に入る予定の魂だったのだ。
「……やはり、ありません……どうしましょう……」
緊急事態だったので、使天使たちが集められ、パラス自身も加わって机上にあるすべてのモノクロニクルが調べられたが、該当のものは見つからなかった。
「ふむ…これだけ探してもないとすれば、間違ってすでにどこかの赤子の中に入れられたと考えるしかないな」
パラスの言葉に、アトロフィスはうなだれた。
「申し訳ございません……いかなる罰も謹んでお受けいたします」
「ああ、まあ、それはよい。手違いは誰にでもあることだ。それより、すぐに代わりの魂を用意せよ。そのクロニクル中にある〈勇者〉にふさわしい素質のものを選び、すぐにラクシスのもとへ持っていくのだ」
「は、はい、ただ今……」
アトロフィスはかしこまって、すぐに使天使たちとともに代わりになるモノクロニクルの選択を始めた。
実は、その天使たちの中に、すべての事情を知る者がいたのだが、彼(彼女)は、事があまりに大きくなりすぎて恐ろしくなり、とうとう言い出せなかったのだった。
《女神ラクシス 視点》
「なんと、そのようなことが……分かった、すぐに準備しよう。そのモノクロニクルをここへ」
上級天使から事のいきさつを聞いた女神ラクシスは、急いで神級魔法を使う準備を始めた。
結界に囲まれ、床に大きな魔法陣が描かれた一角。そこには神聖な魔力と魔素が満ち、空間が虹色に揺らめいていた。その中で女神は作業を始める。
「ええっと、まずは聖属性の付与ね……これで、よし、と。次は……」
女神ラクシスは、指示された条件に従ってモノクロニクルにスキルと加護を与えていった。
「ふう……これで終りね。じゃあ、これをアトロフィスのところへ持って行きなさい」
仕事を終えた女神は、モノクロニクルを上級天使に託すと、やや疲れた表情で、いつもの柔らかい椅子に腰を下ろした。
「それにしても……こんなことは初めてね。気をつけないと……」
女神は、自分を戒めると同時に、姉妹たちにも注意喚起しないといけないと思うのだった。まあ、普通の人間のものであれば、さほど影響はないが、今回のように歴史に関わる人間の魂は、その影響が大きすぎるからだ。
女神はふうっと息を一つ吐くと、最近楽しみにおこなっている瞑想を始めた。というのも、先日、仕事が終わって少し魔力不足を感じた彼女は、椅子に座って静かに瞑想をし、魔力の回復を図ったのだが、そのとき、どこからともなく心地よい神力が流れ込んできたのだ。
普段は、自分の体内の魔力が少しずつ回復していくのだが、この時は外部から普通の魔力とは異なる、神々の体内に入ることではじめて魔力に変化する不思議な力(これを神々は神力と呼んでいる)が流れ込んできたのだ。通常、それは、神への信仰心が変化したエネルギーのようなものであった。しかし、これまで自分たち運命神モイラを信仰した知的生命体はほとんどいなかった。
それから、毎日のように女神ラクシスは、仕事終わりに瞑想をするのが日課になった。そしてそのたびに、彼女の体を、ほんのわずかだが、神力が癒してくれるのであった。
ある日、女神はその神力、つまり自分への信仰がどこから来るのか知りたくなった。そこで、神力の微かな流れを辿っていき、ようやくそれが、自分たちが担当する、とある星から来ていることを知った。
さらに辿っていくと、それはある国の一人のまだ幼い少女から発せられていた。
「思ったより早く見つかったわね……っ! あら、これは……?」
このとき、女神はふとあることに気づいた。
なぜ、少女のもとに早く辿り着くことができたのか、その原因に気づいたのだ。女神ラクシスは思わず小さな笑い声を上げた。
「まあ、あなたはこんな所にいたのですね、ふふふ……」
女神は、小さな少女の魂に刻まれた自分の加護に気づいた。思ったより早く、失踪した魂の行き先が分かったのである。
しかも、この小さな少女は、生まれて間もなくからずっと、加護を与えた女神に対する感謝の祈りを捧げ続けていたのだ。
「なんて愛(いと)しい子……」
女神は、無邪気に眠る幼子(おさなご)を見ながら優しい微笑みを浮かべた。そして、心の中でこうつぶやくのだった。
(行方が分からなかったクロニクルが見つかったことを、パラス様と姉妹たちに報告しなければ……そして、これから私が、あなたのことをずっと見守ることもね)
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
本日は、この一話のみの投稿となります。
また、書き溜めてから投稿を再開しますので、しばらく間が空きます。すみません。
どうか、応援よろしくお願いいたします。
ある日の天界。この日、この宇宙区の最高神であるパラスは、運命の女神たちの神域を訪れていた。
「久しぶりだな、クローラよ。以前、頼んでおいた魂の用意はできたか?」
女神たちの長女クローラは、椅子から立ち上がって主神の前にかしこまった。
「はい、いくつか候補がありましたが、先日冥界から、潜在能力、適性ともに条件にふさわしい魂が送られてきました。仰せ(おお)の通り、「良い人生」のランクを与え、条件を書いた書面とともにラクシスのもとへ送っておきました」
「うむ、かたじけない。我が加護を与えた子が、そろそろ入魂の時期を迎えるのでな」
パラスはそう言うと、クローラのもとを去り、次に女神ラクシスのもとへ向かった。
「ラクシス、息災かな?」
「あ、これはパラス様、はい元気でやっております。本日はどのような御用事で?」
「うむ。そなたたちに頼んでおいた我が加護持ちの子の魂の件でな……そろそろ、その子の入魂の時期が迫ってきたので、確認に来たのだ」
「ああ、あのモノクロニクルですか、覚えております。条件は、聖属性を含めた四属性の魔法属性、私の加護付与、初期魔法能力の高めの設定でございましたね?」
「うむ、その通りだ」
「はい、条件通りに設定してアトロフィスのもとへ届けられております」
「そうか、かたじけない。では、アトロフィスのところへ行ってみよう」
パラスは満足の笑みを浮かべながら、ラクシスに別れを告げると、最後の女神のもとへ向かった。
♢♢♢
「アトロフィス、久しぶりだな、元気であったか?」
「あ、パラス様、お久しぶりです。元気ですよ」
パラスは、末っ子女神のいつもの対応に苦笑しながら、近づいていった。
「我が加護を与えた〈英雄の印〉を持つ子が、そろそろ入魂する時期が来たのだ。準備はできておるかな?」
「はあい、もちろんですよ。あとは、前世の記憶を消去、寿命の設定をするだけです。寿命についてはパラス様のご意見もお聞きしたいと思っていました……」
アトロフィスはそう言うと、「良い人生」クラスの一番上に置いてあるモノクロニクルを取り上げて、中身を確認した。
「あら? この前確認した内容と少し違うわ……確か、魔法属性は聖属性を含む四属性だったはず……なのに、聖属性がなくて、風と水の二属性になってる。ラクシスお姉様の加護もない……えええっ、うそぉ、どうなっているの?」
アトロフィスは、顔を青ざめさせて、慌ててそのクラスの他のモノクロニクルを一枚ずつ確認し始めた。
「どうかしたのか? アトロフィスよ、まさか、モノクロニクルが紛失したのか?」
「そ、そんなはずは……ちゃんとここに整理して置いていたのに、どうして?」
読者は、もうお分かりだろう。そう、二柱の神が求めていたのは、本編の主人公リーリエ・ポーデットに入れられた魂だったのだ。では、彼女の魂は、本来どこに生まれるべきだったのか。
それは、奇しくもこの世界の、このランハイム王国の隣国、プロリア公国という小さな国のユアン・セドルという伯爵の家だった。現在、この伯爵家の夫人フィローネが二番目の子を懐妊していた。その跡取りとなるべき男の子に入る予定の魂だったのだ。
「……やはり、ありません……どうしましょう……」
緊急事態だったので、使天使たちが集められ、パラス自身も加わって机上にあるすべてのモノクロニクルが調べられたが、該当のものは見つからなかった。
「ふむ…これだけ探してもないとすれば、間違ってすでにどこかの赤子の中に入れられたと考えるしかないな」
パラスの言葉に、アトロフィスはうなだれた。
「申し訳ございません……いかなる罰も謹んでお受けいたします」
「ああ、まあ、それはよい。手違いは誰にでもあることだ。それより、すぐに代わりの魂を用意せよ。そのクロニクル中にある〈勇者〉にふさわしい素質のものを選び、すぐにラクシスのもとへ持っていくのだ」
「は、はい、ただ今……」
アトロフィスはかしこまって、すぐに使天使たちとともに代わりになるモノクロニクルの選択を始めた。
実は、その天使たちの中に、すべての事情を知る者がいたのだが、彼(彼女)は、事があまりに大きくなりすぎて恐ろしくなり、とうとう言い出せなかったのだった。
《女神ラクシス 視点》
「なんと、そのようなことが……分かった、すぐに準備しよう。そのモノクロニクルをここへ」
上級天使から事のいきさつを聞いた女神ラクシスは、急いで神級魔法を使う準備を始めた。
結界に囲まれ、床に大きな魔法陣が描かれた一角。そこには神聖な魔力と魔素が満ち、空間が虹色に揺らめいていた。その中で女神は作業を始める。
「ええっと、まずは聖属性の付与ね……これで、よし、と。次は……」
女神ラクシスは、指示された条件に従ってモノクロニクルにスキルと加護を与えていった。
「ふう……これで終りね。じゃあ、これをアトロフィスのところへ持って行きなさい」
仕事を終えた女神は、モノクロニクルを上級天使に託すと、やや疲れた表情で、いつもの柔らかい椅子に腰を下ろした。
「それにしても……こんなことは初めてね。気をつけないと……」
女神は、自分を戒めると同時に、姉妹たちにも注意喚起しないといけないと思うのだった。まあ、普通の人間のものであれば、さほど影響はないが、今回のように歴史に関わる人間の魂は、その影響が大きすぎるからだ。
女神はふうっと息を一つ吐くと、最近楽しみにおこなっている瞑想を始めた。というのも、先日、仕事が終わって少し魔力不足を感じた彼女は、椅子に座って静かに瞑想をし、魔力の回復を図ったのだが、そのとき、どこからともなく心地よい神力が流れ込んできたのだ。
普段は、自分の体内の魔力が少しずつ回復していくのだが、この時は外部から普通の魔力とは異なる、神々の体内に入ることではじめて魔力に変化する不思議な力(これを神々は神力と呼んでいる)が流れ込んできたのだ。通常、それは、神への信仰心が変化したエネルギーのようなものであった。しかし、これまで自分たち運命神モイラを信仰した知的生命体はほとんどいなかった。
それから、毎日のように女神ラクシスは、仕事終わりに瞑想をするのが日課になった。そしてそのたびに、彼女の体を、ほんのわずかだが、神力が癒してくれるのであった。
ある日、女神はその神力、つまり自分への信仰がどこから来るのか知りたくなった。そこで、神力の微かな流れを辿っていき、ようやくそれが、自分たちが担当する、とある星から来ていることを知った。
さらに辿っていくと、それはある国の一人のまだ幼い少女から発せられていた。
「思ったより早く見つかったわね……っ! あら、これは……?」
このとき、女神はふとあることに気づいた。
なぜ、少女のもとに早く辿り着くことができたのか、その原因に気づいたのだ。女神ラクシスは思わず小さな笑い声を上げた。
「まあ、あなたはこんな所にいたのですね、ふふふ……」
女神は、小さな少女の魂に刻まれた自分の加護に気づいた。思ったより早く、失踪した魂の行き先が分かったのである。
しかも、この小さな少女は、生まれて間もなくからずっと、加護を与えた女神に対する感謝の祈りを捧げ続けていたのだ。
「なんて愛(いと)しい子……」
女神は、無邪気に眠る幼子(おさなご)を見ながら優しい微笑みを浮かべた。そして、心の中でこうつぶやくのだった。
(行方が分からなかったクロニクルが見つかったことを、パラス様と姉妹たちに報告しなければ……そして、これから私が、あなたのことをずっと見守ることもね)
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