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「あ、ごめん。俺、べらべら喋り過ぎたね」
巧は一応謝ると、焼肉弁当をかきこんだ。
「柳子ちゃん、いい感じだね。なんか上品だし」
上品。まあ、それは確かに。
「ずっと姿勢よかったよな」
そういえば、いつも背筋がピンと伸びている。所作もきれいかもしれない。
「樹奈のことふっきれてるなら、柳子ちゃんにすれば。あの子、良に気があるみたいだし」
「……は? どこが」
「ずっと良のこと気にしてたじゃん。ほんと鈍感だよなおまえは」
「……でも巧と連絡先交換してたじゃん」
「それは俺がお前の友達だからだろ」
そうだろうか。
「デートするの? 柳子と」
「ありゃ冗談だろうが。ほんとに行かねーよ」
そう。ふうん。
「告白しないの?」
急に真面目なトーンで巧は訊いた。すごいスピードで弁当を食べ終えて、食後のメロンにとりかかっている。相当腹減ってたな。
「ファミレス、秋に閉店するんだろ」
それも聞いたのか。
「職場が別々になったら、変な男にちょっかい出されるよ」
「系列のカレー屋で一緒に働くと思うけど」
「あくまで予定だろ? 実際どうなるかわかんないじゃん。職場が別になったら、ここも引越しちゃうかもしれないし」
そこまでは考えてなかった。確かに、どちらかが別の系列店で働く可能性もある。突然柳子が引っ越すこともあるだろう。
会わなくなったら、他人に戻る。元同僚、という他人に。
「……僕、あの子に気があるって言ったっけ?」
「でもさっき不機嫌そうだったじゃん」
そうだな。
僕は柳子のことが好きなのかもしれない。
「……だとしても、告白するのは怖いよ。樹奈で失敗してるから」
「あの失敗引きずって、告白待ちするつもり?」
告白待ち。それは……無謀だ。
「じゃあ……ファミレスが閉店する時に言うよ。ふられた場合、閉店間際の職場でぎくしゃくするのは嫌だから」
「閉店十月だっけ? それまでに彼女に言い寄る男が現れないように祈ろうか」
「うん」
新しい職場で柳子と一緒になっても、そのときはそのときだ。気まずい感じになったら僕が辞めればいいし。
「俺の見立てだと、いま告白したら絶対成功すると思うけどなぁ。でも数ヶ月先のことはわからんよ」
巧の見立てなんてあてにならない。
僕は成功より失敗したときのことをやっぱり考えてしまう。
樹奈のとき、大学で顔を合わせるのがどんなに気まずかったか。あんな思いはもうしたくないのだ。
*
午前中は僕も巧もバイトに出かけ、お昼に待ち合わせて外でご飯を食べた。
午後は家でごろごろ怠惰に過ごしながら、飲み食いしてゲームしてたまに昼寝して。
どっか行こうかという話はするけど、暑いしめんどくさいしで結局外出はせず。
そんな感じであっという間に最後の夜になった。
今夜は茉美が来る。会うのは久しぶりだ。
数日前に茉美から巧に連絡が来た。僕のところに泊まってると教えたところ、遊びに行きたいと言い出したのだ。巧と一緒に大慌てで部屋の掃除したことは言うまでもない。
茉美はまだ日が落ちきる前にやって来た。ファストフードのバーガーセットを三つお土産に。
「おじゃましまーす」
茉美はだいぶ伸びた髪をお団子にまとめ、赤い涼しそうなワンピースを着ていた。日傘にサンダル、透明バッグと、夏らしいいでたちだ。
「なんもないじゃん」
家にあがるなり、茉美は部屋を見まわして失礼なことを言った。
「いま流行りのミニマリストってーやつじゃないの?」
巧がへらへら笑いながら言って、茉美からハンバーガーセットの袋を受け取る。
一応カラーボックスにお気に入りの漫画を入れてるのだけど、それは彼女の視界には入らないらしい。
「なにやってたの?」
「出会い系アプリ」
巧が答えると、茉美はいやーな顔をした。そして僕のことも同じ目つきで見る。
「僕はやってないよ」
「こいつはやってないよ。すぐ近くにいい感じの子がいるから」
まじで、という顔で茉美は僕を見た。
「近くってどこ?」
「バイト先の子。だよな~、良」
巧はにやっと僕に笑いかけた。同じアパートに住んでることを明かさなかったことは、感謝すべきだろうか。
「あぁ、前に樹奈から聞いたかも。いい感じって、デートとかしてんの?」
「いや……」
一緒に近所をうろつくことはデートに入るんだろうか。
「ふうん。楽しくやってんだ」
茉美はハンバーガーやポテトをがさつに袋から取り出すと、むしゃむしゃ大口で食べはじめた。
「茉美はどうなの。楽しくやってる?」
巧がポテトを食べながら訊ねる。
「それなりにね」
「彼氏できた?」
茉美は軽く巧を睨んだが、素直に首を横に振った。
「全然」
「前にデートするとか言ってなかったっけ?」
そんなことになってんの? でも誰と?
「あぁ、サークルの先輩ね。デートは二回したけど、だめそう。返信が遅いんだよね。私に関心がないんだよ、きっと」
茉美は新しい友達に誘われてゲームサークルに入ったらしい。
気になる相手の松角涼平(まつかどりょうへい)先輩は一つ年上。サークル内では目立たない存在だけど、新入りの茉美をなにかと気にかけて優しく接してくれたので、いいなと思ったそうだ。
「他に好きな子がいるとか?」
「そういうんじゃなくて……女の子よりゲームのほうに関心がある感じ。よくわかんないけど」
「顔はいいの? もてるタイプとか?」
「顔は普通。もてるタイプではないかな。少なくとも、サークル内にはもっと顔や雰囲気がいい子たちがいるから、女の子の大半はそっちに行ってるし。松角先輩は優しいけど生真面目だと思われてて、他の子たちのウケはあんまりよくない」
「へえ。でもそんな生真面目さんとデート二回もできたんらなら、脈ありなんじゃない」
「かなぁって私も思ったんだけど、なんかね」
茉美はスマホを確認してため息をついた。
「昨日、来週花火行こうよって連絡したのにまだ返事こない」
もう日は落ちて窓の外は暗くなっている。
「樹奈誘えば?」
巧がそう言って大口でハンバーガーにかぶりつく。
「忙しそうだからいいや。このまえ電話があって少し話したけど、クサカさんとは結局うまくいかなかったんだって。でもバイトもスケボーもやめないらしい」
そうだったんだ。夏休みに入ってから、樹奈とは一度も連絡をとってない。
「巧とりょーくん、一緒に行ってくれない? もし先輩がだめだったら」
「俺は明後日から一人旅に出るから無理」
巧の言葉に僕と茉美は驚いた。そんなこと初めて聞いた。
「旅ってどこいくの?」
茉美が食べる手を止めて訊く。
「北海道目指してバイク旅。寝袋担いで行ってきますわ」
「いいなぁ。私も旅行の予定いれればよかった。ゲームの大会と合宿しか予定ない」
「松角先輩が一緒だからいいじゃん」
「もういいよ、その話。じゃあ、りょーくん、一緒に行く? 花火」
だめだめ、と巧が口を挟む。
「良はバイト先の子と行くからだめ」
柳子と行くなんて一言も言ってないけど、僕は黙っていた。茉美と二人きりで行くのも気まずいから。
巧は一応謝ると、焼肉弁当をかきこんだ。
「柳子ちゃん、いい感じだね。なんか上品だし」
上品。まあ、それは確かに。
「ずっと姿勢よかったよな」
そういえば、いつも背筋がピンと伸びている。所作もきれいかもしれない。
「樹奈のことふっきれてるなら、柳子ちゃんにすれば。あの子、良に気があるみたいだし」
「……は? どこが」
「ずっと良のこと気にしてたじゃん。ほんと鈍感だよなおまえは」
「……でも巧と連絡先交換してたじゃん」
「それは俺がお前の友達だからだろ」
そうだろうか。
「デートするの? 柳子と」
「ありゃ冗談だろうが。ほんとに行かねーよ」
そう。ふうん。
「告白しないの?」
急に真面目なトーンで巧は訊いた。すごいスピードで弁当を食べ終えて、食後のメロンにとりかかっている。相当腹減ってたな。
「ファミレス、秋に閉店するんだろ」
それも聞いたのか。
「職場が別々になったら、変な男にちょっかい出されるよ」
「系列のカレー屋で一緒に働くと思うけど」
「あくまで予定だろ? 実際どうなるかわかんないじゃん。職場が別になったら、ここも引越しちゃうかもしれないし」
そこまでは考えてなかった。確かに、どちらかが別の系列店で働く可能性もある。突然柳子が引っ越すこともあるだろう。
会わなくなったら、他人に戻る。元同僚、という他人に。
「……僕、あの子に気があるって言ったっけ?」
「でもさっき不機嫌そうだったじゃん」
そうだな。
僕は柳子のことが好きなのかもしれない。
「……だとしても、告白するのは怖いよ。樹奈で失敗してるから」
「あの失敗引きずって、告白待ちするつもり?」
告白待ち。それは……無謀だ。
「じゃあ……ファミレスが閉店する時に言うよ。ふられた場合、閉店間際の職場でぎくしゃくするのは嫌だから」
「閉店十月だっけ? それまでに彼女に言い寄る男が現れないように祈ろうか」
「うん」
新しい職場で柳子と一緒になっても、そのときはそのときだ。気まずい感じになったら僕が辞めればいいし。
「俺の見立てだと、いま告白したら絶対成功すると思うけどなぁ。でも数ヶ月先のことはわからんよ」
巧の見立てなんてあてにならない。
僕は成功より失敗したときのことをやっぱり考えてしまう。
樹奈のとき、大学で顔を合わせるのがどんなに気まずかったか。あんな思いはもうしたくないのだ。
*
午前中は僕も巧もバイトに出かけ、お昼に待ち合わせて外でご飯を食べた。
午後は家でごろごろ怠惰に過ごしながら、飲み食いしてゲームしてたまに昼寝して。
どっか行こうかという話はするけど、暑いしめんどくさいしで結局外出はせず。
そんな感じであっという間に最後の夜になった。
今夜は茉美が来る。会うのは久しぶりだ。
数日前に茉美から巧に連絡が来た。僕のところに泊まってると教えたところ、遊びに行きたいと言い出したのだ。巧と一緒に大慌てで部屋の掃除したことは言うまでもない。
茉美はまだ日が落ちきる前にやって来た。ファストフードのバーガーセットを三つお土産に。
「おじゃましまーす」
茉美はだいぶ伸びた髪をお団子にまとめ、赤い涼しそうなワンピースを着ていた。日傘にサンダル、透明バッグと、夏らしいいでたちだ。
「なんもないじゃん」
家にあがるなり、茉美は部屋を見まわして失礼なことを言った。
「いま流行りのミニマリストってーやつじゃないの?」
巧がへらへら笑いながら言って、茉美からハンバーガーセットの袋を受け取る。
一応カラーボックスにお気に入りの漫画を入れてるのだけど、それは彼女の視界には入らないらしい。
「なにやってたの?」
「出会い系アプリ」
巧が答えると、茉美はいやーな顔をした。そして僕のことも同じ目つきで見る。
「僕はやってないよ」
「こいつはやってないよ。すぐ近くにいい感じの子がいるから」
まじで、という顔で茉美は僕を見た。
「近くってどこ?」
「バイト先の子。だよな~、良」
巧はにやっと僕に笑いかけた。同じアパートに住んでることを明かさなかったことは、感謝すべきだろうか。
「あぁ、前に樹奈から聞いたかも。いい感じって、デートとかしてんの?」
「いや……」
一緒に近所をうろつくことはデートに入るんだろうか。
「ふうん。楽しくやってんだ」
茉美はハンバーガーやポテトをがさつに袋から取り出すと、むしゃむしゃ大口で食べはじめた。
「茉美はどうなの。楽しくやってる?」
巧がポテトを食べながら訊ねる。
「それなりにね」
「彼氏できた?」
茉美は軽く巧を睨んだが、素直に首を横に振った。
「全然」
「前にデートするとか言ってなかったっけ?」
そんなことになってんの? でも誰と?
「あぁ、サークルの先輩ね。デートは二回したけど、だめそう。返信が遅いんだよね。私に関心がないんだよ、きっと」
茉美は新しい友達に誘われてゲームサークルに入ったらしい。
気になる相手の松角涼平(まつかどりょうへい)先輩は一つ年上。サークル内では目立たない存在だけど、新入りの茉美をなにかと気にかけて優しく接してくれたので、いいなと思ったそうだ。
「他に好きな子がいるとか?」
「そういうんじゃなくて……女の子よりゲームのほうに関心がある感じ。よくわかんないけど」
「顔はいいの? もてるタイプとか?」
「顔は普通。もてるタイプではないかな。少なくとも、サークル内にはもっと顔や雰囲気がいい子たちがいるから、女の子の大半はそっちに行ってるし。松角先輩は優しいけど生真面目だと思われてて、他の子たちのウケはあんまりよくない」
「へえ。でもそんな生真面目さんとデート二回もできたんらなら、脈ありなんじゃない」
「かなぁって私も思ったんだけど、なんかね」
茉美はスマホを確認してため息をついた。
「昨日、来週花火行こうよって連絡したのにまだ返事こない」
もう日は落ちて窓の外は暗くなっている。
「樹奈誘えば?」
巧がそう言って大口でハンバーガーにかぶりつく。
「忙しそうだからいいや。このまえ電話があって少し話したけど、クサカさんとは結局うまくいかなかったんだって。でもバイトもスケボーもやめないらしい」
そうだったんだ。夏休みに入ってから、樹奈とは一度も連絡をとってない。
「巧とりょーくん、一緒に行ってくれない? もし先輩がだめだったら」
「俺は明後日から一人旅に出るから無理」
巧の言葉に僕と茉美は驚いた。そんなこと初めて聞いた。
「旅ってどこいくの?」
茉美が食べる手を止めて訊く。
「北海道目指してバイク旅。寝袋担いで行ってきますわ」
「いいなぁ。私も旅行の予定いれればよかった。ゲームの大会と合宿しか予定ない」
「松角先輩が一緒だからいいじゃん」
「もういいよ、その話。じゃあ、りょーくん、一緒に行く? 花火」
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