THIRD ROVER 【サードローバー】オッサンのVRMMOは異世界にログインする

ケーサク

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2人の魔女の戦い

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「なんだソイツは?もう薬は無いから知り合いだったお前がどうにかしてやれ」
「りょ……かい」

 エヴァ・フリゲートという女性には労わりの心というものは存在しないらしい。今にも意識がシャットダウンしそうな状態で気合を入れてなんとか繫ぎ止める。

「さて、私に殺気を向ける阿呆はいったい何者だ」

「グルゥ、ガウゥ!!ガウゥ!!」

「ただの獣か、人様に喧嘩を売るとどうなるかしっかりと覚えてから、死ね」
「グルァアアアア!!」

 エヴァさんの気配が遠ざかり炸裂音があちこちから響く、おそらくエヴァさんがイオタと戦闘を開始したのだろう。
 周囲の状況も気になるがまずは呼吸を整え自分に回復魔法【ハイパーヒール】をかける。全身の痛みは引いたが体が重く意識がもうろうとしたままだったが、なんとか起き上がりヒバチを探す。

「タラ……大丈夫……か」
「ヒバチ!!」

 発見したヒバチは全身に大火傷を負ってうつ伏せで倒れていた。重い体を引きずるように近づく私に気づいたヒバチは自分のほうが圧倒的に重傷なのにもかかわらず他人の心配をしている。

「馬鹿野郎、まずは自分の心配しとけっつーの」

 回復魔法【ハイパーヒール】黒焦げのヒバチを優しい光が包み血が滲み焼け焦げていた肌が瞬時に修復していく。

「きったぁぁぁ!!完全復活やで!!」

 腕立て伏せの構えをとり一気に飛び起きたヒバチが叫びながらマッスルポーズ。

 なんでそんなに元気なのアンタ。

「空元気や」
「ああそうですか」

「つーか、どんなんしたらああなるねん」
「知らねぇよ……」

 エヴァさんとイオタの攻撃がぶつかり合うたびに火の粉が炸裂音と舞い上がり私達の心臓に響く。
 その戦いは、私たちが先ほどまで行っていたものはまるで子供の遊びだったのではないかと思わせられるほど、複雑な戦略と圧倒的な破壊力がぶつかり合う異次元の戦闘であった。
 轟音が轟く闘技場の中で私達にできる事は、ギルドマスター同士の戦いを恐れと尊敬の眼差しで見つめながらただただ立っていることだけであった。

「お前ら起きたんならさっさとはけろ、本気が出せない」

 衝撃が走った、今でさえ2人の動きを目で追うことすら困難なレベルの戦いなのに、さらに戦闘のレベルが上がるというエヴァさんの一言は私がこの世界で得たわずかな自信はなんとちっぽけなものだったのだろうと思い知らせるものだった。

「行くでタラちゃん!こんな怪物同士の戦闘に巻き込まれたら骨も残らなんで!」

「あぁ、そうだなぁ」

 私達は尻尾をまいてそそくさと闘技場の入場口に逃げ込んだ、石造りの通路に闘技場からの轟音が反響する音を聞きながら私は足を止めた。

「ヒバチ、やっぱり先に行っててくれ」
「なんやねんタラちゃん、忘れ物かいな」

「忘れ物と言えば忘れ物かな」
「なんやねん、ハッキリ言いや」

「世界最高レベルの戦いをこの目でしっかりと見ておきたいんだ」


 そう、今この闘技場で行われている戦いは間違いなく世界最高レベルの戦いなのだ。この先この2人のギルドマスターの戦闘力を合わせたよりも高いステータスを持つ男と戦わなければいけない私はこの闘技場での戦いを見ておかなければいけない、そう感じたのだ。

「俺は井戸の中のカエルではいられないんだ」

「そういうことならわいも付き合うで」

「ヒバチ……」
「でも、やばくなったら首根っこ掴んででも一緒に逃げたるからな」

「おう」

 私達は通路をUターンして闘技場の入場口から恐る恐る顔を出しエヴァさんイオタの戦闘を見守った。

 火花を散らし炸裂音を響かせ闘技場内を縦横無尽に動き回るギルドマスター2人の実力は拮抗していて、バトルアニメのような戦いが延々と続くかと思われた、だが私の想像よりずっと早く決着の時が訪れる。

『グゴォォ!【火炎放射フレイムスロウ】』
「そんな半端な攻撃!生成魔法【黒殻ブラックシェル
『グロォォオオ!!【フレイムスロウ】【フレイムスロウ】【フレイムスロウ】』

 イオタの容赦ない連続火炎放射が放たれた、だが黒い盾のような防御魔法を張ったエヴァさんにはまったく通じていない。

『グルウォガルウォバナルル……』

 突然イオタは立ち止まり突き出した両手をグルグルと回しながら何か呪文を唱えるように唸り出した……まさか。

『【炎撃破フレア】』
 
 イオタが放つ恐ろしい熱量を持った魔法の激しい閃光に私とヒバチは目がくらむ、だが。

「ハハハ!楽しいなぁイオタ!昔を思い出すぞ!だが、そんな攻撃じゃ私は焼けないぞ!生成魔法【黒弾ブラックショット】」

 フレアが直撃したはずのエヴァさんだったが、体から多少湯気が上がっているもののほぼ無傷で笑いながら魔法を放つ。エヴァさんの突き出した右手の前に現れた黒い球体が高速で射出され、大技を放ち無防備だったイオタを貫いた。

「グッギャャアアアァァ!!」

「ガキども絶対にそこから首出すんじゃないぞ!!生成魔法【黒槍雨ブラックレイン】」

 闘技場のスミでのたうち回るイオタを見つめながら、エヴァさんは天に手をかざした。すると漆黒の雲のような塊が現れそれが無数の槍の形に分散し闘技場の上空を覆い尽くす。

「これで、終わりだ」

 上空を覆い尽くした漆黒の槍が黒い雨のごとく闘技場に降り注ぐ。

「グァァァァアアアァァ!!!」

 漆黒の槍は、闘技場の地面を埋め尽くすように突き刺さり、当然その中の数本はのたうち回っていたイオタを貫ぬき大きなダメージを与えたと同時に動きを拘束した。
 エヴァさんは黒い槍の雨が降り終わると、身動きが取れなくなったイオタに向かって突き刺さった槍を払いながらゆっくりと歩み寄って行く。

「あかん!あかんで!!」

 突然私の横のヒバチが叫び入場口を飛びたしイオタに向かって走り出した。私も思わず後を追うが、漆黒の槍に躓きながらそれでも全速力で走るヒバチは速く、エヴァさんより先にイオタの所へたどり着き。

「しっかりしてください!姉御!姉御!!」

 膝をついてイオタを揺するヒバチのその後ろに、エヴァさんが立ち塞がる。

「そこをどけ、半鬼のガキ」

 ヒバチは膝をついたまま振り向き、地面に頭を擦りつけエヴァさんに土下座をしながら懇願した。

「堪忍してください、ほんまにお願いします、これ以上は堪忍してください」

「チッ……」

 舌打ちの後、エヴァさんは深いため息をはいて。

「ボガァッブヘッ」

 土下座するヒバチを蹴り飛ばした。

 ヒバチは黒い槍にぶつかりへし折りながら私の横を通過し入場口脇の壁に激突、そのまま気を失い倒れ込んでいる。死んではいけないハズ、多分。

「覚悟がないなら戦場に来るな」

 不機嫌な声で言い放ったエヴァさん、誰に向け言ったのかはわからないが、私にも向けられている言葉であるのは間違いない。

「好きこのんで昔馴染みを手にかけるヤツがどこにいる」

「手間かけさしてもうて、すまんなぁエヴァ」
「ああ、まったく不愉快だ」

「アタイは気分爽快やけどな……魔者の手先になる前にここで死ねるんやから」
「どういう意味だ!?」

「ロールがあるスピニアはヘルズ合州国と同盟を結んだんや……」

 世界にまだ知られていないスピニアとヘルズ合州国との同盟、それはつまりスピニアという国が魔王の傘下に入ったということである。
 たどたどしく語るイオタの話をまとめると、そのことが決まったのは交流戦が始まる2日前、当然のようにギルドの解体も決定され絶望したイオタがとった行動は何も知らないヒバチを連れて最後のギルド交流戦に参加するというものだった。

「かつて魔者の王を討伐したパーティーの一員だったアタイが、魔者の手下になるなんてどうしても受け入れられなかったんや」

 逃げるようにジングへとやってきたイオタは、まだロールギルドが存在しているかのように振る舞い現実から目をそらした。だがヒバチが私に敗北したことで、いよいよ現実と向き合わなければならないと悟り、キレた。
 何も知らないヒバチはイオタの暴行の意味が自分の敗北にだけ原因があると思い、ギルドの脱退を申し出たのだが、その言動でイオタは孤独感にさいなまれ暴行はさらにヒートアップ、【死】がよぎったヒバチはイオタの元から逃走、その後ヒバチはリアス達に出会い今に至る、なのだが。

「逃げたヒバチを追ったが結局見つけられなかったんや、その後酒場で死んでもいいってくらい酒を煽って酔い潰れた時……ヤツが現れたんや」

「ヤツ?誰だ?」

「それは、トラ……グッ!アガッ」
「どうした!?イオタ!イオタ!!」

 突然苦しみだしたイオタが、黒い槍に貫かれた箇所を引きちぎる勢いで暴れ出し、そして再び全身を炎が覆った。

「まだヤル気かテメェ!!」

「……せ」
「あっ!?」

「殺セ!!悪魔の音ガまたアタイを支配する前に……アタイがアタイのうちに殺してくれ。エヴァ」

 悪魔の音?音なんて……いや微かに遠くで何かラッパっぽい楽器の音がするような。
 そんなことを考えていると、地面を覆いイオタを拘束してた黒い槍が全て消えた。

「エヴァァァァアアアァァァ!!」

 拘束を解かれ一気にエヴァさんに飛びかかったイオタ。

「もういい……眠れ、イオタ」

 エヴァさんは自身の胸の前でそっと十字を切った。

「生成魔法【落下星ダーモクレース】」

 その瞬間、消えたと思っていた黒い槍が上空で一本の長い刃のように集まり、落下。飛び上がっていたイオタの心臓を貫き地面に深々と突き刺さる。

 刃をつたって血が地面に流れ、キラキラと血の魔石の破片が血溜まりの中で光りを放つ。

「じゃあな」

 エヴァさんが簡潔に別れの言葉を述べた後、黒い刃が消え地面に溜まった血の中にイオタが沈む。
 
 私は震えていた。恐ろしくて仕方がなかった。
 エヴァさんが怖いのではない、目の前で起きた出来事全てに恐怖していた。

 人が死ぬということは母を亡くした時に経験しているが、今目の前で起きた人が人を殺した瞬間に立ち合ってしまった私は、このような状況になると分かっていたはずなのに突きつけらたこの現状を受け入れられず、ただ震えていた。

「大丈夫か?」

 その声に思わず飛び上がってしまったのではないかというほど驚いた私を、険しくどこか寂しげな表情で見つめるエヴァさん。

「殺しが恐ろしいか?」

「……はい」

 私が俯きそう答えると、こちらにゆっくり歩み寄ってくるエヴァさん。私はなぜか恐ろしくなり思わず身構えてしまったが。

「怖くていい、この光景を忘れるな」

 そう言うと私の肩を撫でるように優しく叩き、入場口の方に歩いていった。

 震えていた。

 微かだけど確かに、エヴァさんの手も震えていたのだ。
 今すぐこの状況を飲み込めるわけではない、でも、怖くていいと、自分の今の感情は正常だと教えられ私の震えは止まった。

 命をかけた戦闘であっても実際に命が失われるということはこの世界でも決して当たり前のことではない、どんなにスキルや魔法が発達していてもそれは殺しのための手段ではない、そうエヴァさんの震える手は語っていた。
 それと同時に、この世界で冒険者として生きるのならばこういう時が必ず私にも訪れるということも……。

 とっくに覚悟は出来ていたはずだった、だが、実際目の当たりにすると私の覚悟はただの言葉でしかなかったことを思い知らされた。
 
 イオタの亡骸を直視することも出来ず、俯きながらただただ立ち竦む。

 キンコン、キンコン。

 突然、テンポの速い電子音が頭に響く。常時スキル【警告】が私が攻撃のターゲットされたことを知らせる。

「誰だ!!」

 叫びながら振り返って見えたのは、驚きこちら見つめるエヴァさんと壁際に転がるヒバチ。私の叫び声がこだました後、闘技場はまた静寂に……いや、微かに、この音はさっき。

 メニュー起動、マップ、盗賊スキル【索敵】私を中心に表示されたマップ上に、赤の点滅が1つ追加された、この方角は……上か!!
 私が見上げたその先、闘技者のダメージポイントが表示される巨大リテラシーストーンのスクリーンの上に、何かを持った人影があった。

「あれ?おかしいなぁ、だいぶキテたからイケると思ったけど、もしかして君は耐性持ちかい」

 結構距離があるのにもかかわらずハッキリと聞き取れる謎の人影の声、性別は男。たぶん。

「まっまさか!?お前が黒幕だったのか」

 驚き声を荒げるエヴァさん、てか、えっ?見えんのこの距離で?

「そうですよ!黒幕は僕で大正解!ちなみ僕の今回の実験は大成功!なんてね」

「実験だぁ!?」

「あれ?怒った?ごめん嘘、実は大成功じゃなくて、ちょっと失敗もあったんだ」
「黙れ」

「あのオバさん操りやすかったけど思ったほど動かなくて、これって絶対僕のせいじゃなくてオバさんのせいだよね?本当はイカれた上司が出来損ないの部下を処刑するっていう茶番をやりたかったんだけどうまくいかなかったなぁ、ちなみになんでジングコロッセオを舞台にしたかと言うと昔ここは処刑場として使われたって言うのを聞いたからなんだ」
「黙れつってんだろうが!魔笛の奏者トランペッター!!」

「わーぉ、怖っわ。でも僕こと知ってるなんてもしかしてファン?」

 完全にブチ切れたエヴァさんは空に手をかざし……ってウッソ!?マジか!私はフラつきながらも全力疾走で歯を食いしばりながら走りヒバチを担ぎ上げ入場口に逃げ込んだ。

「【黒槍雨ブラックレイン】!!」

 イオタに使ったブラックレインと込めた殺気ものが違うのだろう、今回のブラックレインはコロッセオの客席を貫通し通路の中まで降り注いだ。
 石の天井を砕き、貫く黒い槍から必死で逃げ何とかジングコロッセオを脱出した私が振り返るとコロッセオの3割が崩壊していた。

「オバさん操るのに結構オーラ使っちゃったから今日はもう帰りますね、それでは皆さんまた逢う日まで!」

 腹ただしい口調の謎の男は、腹ただしいメッセージを残してどこかに消えた。

 巻き込まれただけでも必死で逃げたというのに、直接狙われながらあのブラックレインを余裕で逃げ切る【トランペッター】とはいったい何者なの……だろう……か?や……べ……意識が……。

 それでは皆さん……また……逢う日まで……。



 
 
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