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【戦人】轟く
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【大海の災厄】を討伐しバーム海域を渡ったブラックオニキス号の偉業は号外新聞が発行され、その日のうちに世界中に知れ渡った。
そして……。
「バームの悲願、大海の災厄討伐を祝して」
『カンパーイ!!』
ラッハで一番の高級海鮮レストラン兼ホテル【サン・ラド】で私達【渡り鳥】とブラックオニキス号の乗組員全員による祝賀会が開かれた、のだが。
「はぁ……」
「なんじゃタタラ、うかない顔をして」
「全然うきませんよ……沈むばかりです」
乾杯したグラスを飲み干し私は号外新聞を握り締め呆然としていた、こんなのが世界中に配られたと思うと……やってしまった……嗚呼、とてつもなくやらかしてしまった。
「それではここでバームの英雄、そして、突如現れた超新星!イザベルの【戦人】タタラさんにご挨拶いただきましょう!!」
「ハイトさぁぁん!!!!それ新聞のヤツやめてくださいよぉ!!!!」
『ギャハハハハハハ!!』
そう、恐ろしいことにこの号外新聞の見出しは私なのだ……しかも、どこでリサーチしてきたのか知らないが私の【戦陣】は【戦人】の通り名に変貌して伝えられていた。
「タタラさん気にし過ぎですって!凄いことじゃないっすか……ぷっ」
「フィット、絶対馬鹿にしてるだろ」
この号外新聞を見た時、私がハニワみたいな顔になってしまったのを面白がってこの人達はずっとこの調子でイジってくる……はぁ、今頃イザベルの知人達はどんな反応をしていることやら、この世界に携帯電話やスマホがなくて本当に良かった、もしあったら……考えただけでも恐ろしい。
『超新星!!超新星!!戦人タッタッラッ!!』
「フィウォーーーン!!」
『ギャハハハハハハ!!』
テメェ等合唱してんじゃねぇよ、クラゲの代わりにバーム海域占拠してやろうかコラァ。
と、まぁこんなノリで飲み続け、日をまたぐ前にほとんど全員つぶれてしまった。
「だらしねぇぞ!!さっきまでの勢いはどうした!!ガハハハ!!」
というより、私がつぶしてやったのだが、まだ元気な男が1人。
「さすが、酒も強いんだね」
「ハイト……さ……ま、もなかなかやりますね」
「呼び捨てでいい、気を使わないでくれ」
そう言われてもなぁ、王子と言われてる人を呼び捨てになんてしようものなら周りから調子に乗った勘違い野郎に思われても嫌だしなぁ。
「ハイトさんでいこうかと」
「ハハハ、それでいこうか」
「ええ」
その後しばらく沈黙が続き、宴会場に響く海の男達の豪快ないびきの音を聴きながらグラスの酒に口をつけるとハイトさんが立ち上がり口を開いた。
「クエストを偽りさらに身分を隠し、タタラ君達を危険な航海に巻き込んでしまったことを謝罪したい」
やっぱりそういう流れになるよなぁ……つーかこのまま頭なんて下げられたら俺はどうしたらいいんだ。
「王族が簡単に頭など下げるものではないぞ」
「リッリアス!おまっ寝てたんじゃ?」
「こんなうるさい所でいつまでも寝てられるか」
あっ、一応寝れるには寝れるのね。
「しかしリアスさんケジメはつけないと」
「ケジメじゃと?タタラがおぬしに恨みごとでも言うたのか?この阿呆が頭を下げられて喜ぶとでも思うておるのか?」
誰が阿呆だ!お前になら小一時間文句を言えるよ。
「信念のもとにした行いであれば謝罪など不要じゃし無用じゃ。そんなものよりおぬしにはせねばならないことがあるじゃろう?違うか!ハイト・バーム・オデッセイ」
ハイト・バーム……やはりハイトさんはバーム王国の王子だったのか……つーかそれよりどこでリサーチしてきたのか、リアスがハイトさんのフルネームを知っていることに驚きなんですけど。
「確かにあなたの言う通りだ、私はバーム王国の内戦を終わらせるという使命がまだ残っている」
そういえばバーム王国って内戦中だとダム会長の資料に書いてあったな、ハイトさんクラゲ退治の次は内戦問題かぁ……王子って大変だなぁ。
「今回の【大海の災厄】討伐で終戦への道は開かれたが、すでに国民から見放されたバーム王家には簡単な道ではないだろう……だから、恥を承知でお願いします。タタラ君、リアスさん
「お断りじゃ」
「ちょっ、リアスさん食い気味にそれは」
「タタラは聞いたら断れぬじゃろ。じゃから言わせないし聞く気も無い」
やっ、うん。リアスさんの言う通りです。流れ流されて来た結果が今の私ですもんねぇ、さすがです。
「聞く気も無いか……ハハハッ……はぁ、確かにこれ以上は君達の領分ではないよな、バーム王国の復興は私がやらなければ意味がない事だ、すまない、どうやら私は大海の災厄討伐で気が抜けて少し弱気になっていたようだ」
「かまわん、まだ腑抜けておるようじゃったら尻でも叩いてやろうかと思ったがその必要はないようじゃな」
蹴ってやろうかの間違いでは?などというツッコミが頭をよぎったがそこはグッと飲み込んだ。
「さて、妾は先に部屋で休ませてもらうがタタラはどうする?」
「えっ?また相部屋っすか?」
「妾に船乗りと一緒の部屋に寝ろとでもいうのか!?」
「えっ?いや……そうじゃなくて」
「じゃあ、どうだというんじゃ」
だから、なんで相部屋前提なんだっつーの、って言ってもまだ噛み付いて来そうだなぁ、もう、面倒くさい。
「……もう少し飲んだら行きますのでマロフィノをお願いします」
「えーっ!まぁ分かった……ちぇっ、最近重いんじゃよな……マロ……」
床に寝転がるマロフィノを文句を言いながら抱き上げ……きれなかったので、ズルズルと引きずりながら宴会場を後にするリアス……確かに最近のマロフィノは重い。
その様子を見ながらハイトさんが私に質問を投げかける。
「彼女は一体何者なんだい?」
「30代前半のエルフです」
「……えっ?」
「えっ?……あっ、アルフィムって国の出身らしくてAランクを目指す30代前半のエルフの女性です」
「マジで言ってるの?」
「えっマジで言ってます……けど」
だよねぇあんなガッカリミニがエルフだなんて思わないよねぇ。
「リアスさんの家柄とか学歴とかそういうのは?」
「知らないっす」
「マジ?」
「マジ」
「……」
ハイトさんは不審な目で私を見つめながら黙ってしまった……えっ何?家柄とかそんなに重要?てかどこの出身ですって言われても自分わからないですし、何より自分から話さない事を根掘り葉掘り聞いて、なんかトラウマ的な事語られても正直抱えきれないし。
それにしてもこの空気……何か話題を、あっ、そうだ。
「えー、あっ、そう言えば今日のラッハギルドでの事なんですが、【大海の災厄討伐】の報酬金は本当に俺達が貰って良かったんですか?船や装備に相当かかったんじゃ」
このサン・ラドに来る前に私達はラッハギルドに立ち寄りクエストの完了報告を行って来た。その際【バーム海域調査船護衛】のクエストは現金で頂戴したのだが【大海の災厄討伐】の15億を超える報酬金は例によりギルド本部から所属ギルドに支払われる事になったのだが、ブラックオニキス号を代表しハイト船長にも報酬金の半分を収得する権利があると言われたので当然のように分配しよう手続きしていたところハイト船長が権利を放棄したため全額私達に支払われる事になりはしたが、金額が金額だけにもしかしてさっきリアスがバッサリと断った頼み事の依頼料も含まれていたのではなかろうか?と、思った次第なのだが。
「当たり前じゃないか、むしろ私達が手をつけてしまったら冒険者から搾取する拝金主義とバーム王家の印象がさらに悪くなってしまうからね」
「そうなんですか……」
拝金主義ってそれはちょっと考え過ぎな気がするが……いや、まてよ、護衛料に討伐報酬金まで根こそぎ持って行ったというのが世間に広まったら私達の印象こそ悪くなるのではなかろうか……。
「それよりギルドといえば、あのダム会長のクエストの件なのだが」
ダム会長のクエストの件か……ラッハギルドのギルドマスターに(内容は伏せて)確認してもらったが、私達が受注している正規クエストは【バーム海域調査船の護衛】のみと言われ、ダム会長からあと二つ依頼を受けていると言ったのだが「そんな依頼は存在しない、ちゃんとイストアギルドで依頼書を確認したのか?会長からの依頼とはいえ依頼を受けるならギルドで依頼書を確認するのが常識だろ」と、めちゃくちゃ怒られた。
「あれはもしかして、私達を調査しろという内容じゃなかったのかい」
まぁ、そりゃ今までの雰囲気でバレるわな。
「その通りです」
私の返答に「そうか……」と呟きそのまま何かを悩んでいるような難しい顔で黙ってしまったハイトさん。
「どういう内容で報告するつもりか聞きたいんですよね」
「……というより、ありのままを報告してほしい」
「えっ?いいんですか?俺はてっきり……」
バレるとまずいから黙っていてほしいと言うのかと思ったのだが、まさか逆をついてくるとはどういう事なんだ?
「これは別にタタラ君達に気を使って言っているわけじゃなくて、ありのままを報告してもらった方が私達にも都合が良いからなんだ」
「それはどういう?」
「まぁ、都合が良くなるかどうかは世間に公表されるタイミング次第なんだけど、まぁどう転がってもマイナスにはならないし、私達はどちらにせよ【大海の災厄】がいる前提で調査に向かったというのは公表するつもりでいたんだ」
「……それは……どういう」
「ハハハ、ごめんごめん。意味がわからないと思うが、タタラ君はタタラ君のやるべき事をやれば良いってことさ」
意味はわからないが政治的な判断なのだろうということでこの場は納得したふりをした。
「さて今日はもうお開きにしようか」
「そうっすね……ハイトさん達は明日というか今日出航するつもりで?」
「ああ、しばらくこの勝利に浸っていたいけどそういう訳にはいかないからね」
「なんて言ったらいいかわからないけど……頑張ってください」
私は深々と頭を下げて宴会場を立ち去ろうとした。
「タタラ君!!」
「はい?」
振り返ると、さっきまで眠っていたブラックオニキス号の船員全員が起き上がり。
「船員一同、あなたの勇姿とあなたにいただいたこの恩は生涯忘れません」
『ありがとうございました!!!』
ブラックオニキス号の全員が深々と頭を下げる姿を見て、私の目には少しだけ涙が溢れてきた。
「勘弁してくださいよぉ」
この時、私はSランク冒険者になるということ、そして、その名が世界に広まるということがただ照れくさくて恥ずかしいというだけでその意味をまったく理解していなかった。
♦︎
「失礼します!!王!!こちら私ご覧ください!!」
「なんだ?こんな夜更けに想像しい……新聞がどうしたと……」
「この男もしやと思いまして」
「フフッ……ハハハハハ!!やはりあの時のあの男は貴様だったか!!」
「あの時の?まさかフェンリルの!?しかし王の一撃を喰らい生きているとは到底思えませんが」
「忘れたかギヴェール、この男なら何が起こっても不思議はない」
「……確かに」
「クハハハハ、面白い!この世界に何をもたらすかこの魔王に見せてみろ!タタラ!!」
♦︎
「もうSランクとはさすがタタラ君、良かったねこれで君の敗北も少しはみんな納得してくれるんじゃないか?タリアス」
「……戦人……タタラ……」
♦︎
「ほう、エヴァのとこに久しぶりに良い新人が現れたようじゃのう。どれ、久しぶりにあの憎たらし顔でも拝みに行こうかのう……というわけじゃから、いい加減この追いかけっこを終わらせようぞ、のう……バハムート!!」
♦︎
私の名は私の想像を遥かに超える勢いで良くも悪くも世界中に広がっていた。
そう、この日、タタラの名は【戦人】の名と共に。
世界に轟いた。
そして……。
「バームの悲願、大海の災厄討伐を祝して」
『カンパーイ!!』
ラッハで一番の高級海鮮レストラン兼ホテル【サン・ラド】で私達【渡り鳥】とブラックオニキス号の乗組員全員による祝賀会が開かれた、のだが。
「はぁ……」
「なんじゃタタラ、うかない顔をして」
「全然うきませんよ……沈むばかりです」
乾杯したグラスを飲み干し私は号外新聞を握り締め呆然としていた、こんなのが世界中に配られたと思うと……やってしまった……嗚呼、とてつもなくやらかしてしまった。
「それではここでバームの英雄、そして、突如現れた超新星!イザベルの【戦人】タタラさんにご挨拶いただきましょう!!」
「ハイトさぁぁん!!!!それ新聞のヤツやめてくださいよぉ!!!!」
『ギャハハハハハハ!!』
そう、恐ろしいことにこの号外新聞の見出しは私なのだ……しかも、どこでリサーチしてきたのか知らないが私の【戦陣】は【戦人】の通り名に変貌して伝えられていた。
「タタラさん気にし過ぎですって!凄いことじゃないっすか……ぷっ」
「フィット、絶対馬鹿にしてるだろ」
この号外新聞を見た時、私がハニワみたいな顔になってしまったのを面白がってこの人達はずっとこの調子でイジってくる……はぁ、今頃イザベルの知人達はどんな反応をしていることやら、この世界に携帯電話やスマホがなくて本当に良かった、もしあったら……考えただけでも恐ろしい。
『超新星!!超新星!!戦人タッタッラッ!!』
「フィウォーーーン!!」
『ギャハハハハハハ!!』
テメェ等合唱してんじゃねぇよ、クラゲの代わりにバーム海域占拠してやろうかコラァ。
と、まぁこんなノリで飲み続け、日をまたぐ前にほとんど全員つぶれてしまった。
「だらしねぇぞ!!さっきまでの勢いはどうした!!ガハハハ!!」
というより、私がつぶしてやったのだが、まだ元気な男が1人。
「さすが、酒も強いんだね」
「ハイト……さ……ま、もなかなかやりますね」
「呼び捨てでいい、気を使わないでくれ」
そう言われてもなぁ、王子と言われてる人を呼び捨てになんてしようものなら周りから調子に乗った勘違い野郎に思われても嫌だしなぁ。
「ハイトさんでいこうかと」
「ハハハ、それでいこうか」
「ええ」
その後しばらく沈黙が続き、宴会場に響く海の男達の豪快ないびきの音を聴きながらグラスの酒に口をつけるとハイトさんが立ち上がり口を開いた。
「クエストを偽りさらに身分を隠し、タタラ君達を危険な航海に巻き込んでしまったことを謝罪したい」
やっぱりそういう流れになるよなぁ……つーかこのまま頭なんて下げられたら俺はどうしたらいいんだ。
「王族が簡単に頭など下げるものではないぞ」
「リッリアス!おまっ寝てたんじゃ?」
「こんなうるさい所でいつまでも寝てられるか」
あっ、一応寝れるには寝れるのね。
「しかしリアスさんケジメはつけないと」
「ケジメじゃと?タタラがおぬしに恨みごとでも言うたのか?この阿呆が頭を下げられて喜ぶとでも思うておるのか?」
誰が阿呆だ!お前になら小一時間文句を言えるよ。
「信念のもとにした行いであれば謝罪など不要じゃし無用じゃ。そんなものよりおぬしにはせねばならないことがあるじゃろう?違うか!ハイト・バーム・オデッセイ」
ハイト・バーム……やはりハイトさんはバーム王国の王子だったのか……つーかそれよりどこでリサーチしてきたのか、リアスがハイトさんのフルネームを知っていることに驚きなんですけど。
「確かにあなたの言う通りだ、私はバーム王国の内戦を終わらせるという使命がまだ残っている」
そういえばバーム王国って内戦中だとダム会長の資料に書いてあったな、ハイトさんクラゲ退治の次は内戦問題かぁ……王子って大変だなぁ。
「今回の【大海の災厄】討伐で終戦への道は開かれたが、すでに国民から見放されたバーム王家には簡単な道ではないだろう……だから、恥を承知でお願いします。タタラ君、リアスさん
「お断りじゃ」
「ちょっ、リアスさん食い気味にそれは」
「タタラは聞いたら断れぬじゃろ。じゃから言わせないし聞く気も無い」
やっ、うん。リアスさんの言う通りです。流れ流されて来た結果が今の私ですもんねぇ、さすがです。
「聞く気も無いか……ハハハッ……はぁ、確かにこれ以上は君達の領分ではないよな、バーム王国の復興は私がやらなければ意味がない事だ、すまない、どうやら私は大海の災厄討伐で気が抜けて少し弱気になっていたようだ」
「かまわん、まだ腑抜けておるようじゃったら尻でも叩いてやろうかと思ったがその必要はないようじゃな」
蹴ってやろうかの間違いでは?などというツッコミが頭をよぎったがそこはグッと飲み込んだ。
「さて、妾は先に部屋で休ませてもらうがタタラはどうする?」
「えっ?また相部屋っすか?」
「妾に船乗りと一緒の部屋に寝ろとでもいうのか!?」
「えっ?いや……そうじゃなくて」
「じゃあ、どうだというんじゃ」
だから、なんで相部屋前提なんだっつーの、って言ってもまだ噛み付いて来そうだなぁ、もう、面倒くさい。
「……もう少し飲んだら行きますのでマロフィノをお願いします」
「えーっ!まぁ分かった……ちぇっ、最近重いんじゃよな……マロ……」
床に寝転がるマロフィノを文句を言いながら抱き上げ……きれなかったので、ズルズルと引きずりながら宴会場を後にするリアス……確かに最近のマロフィノは重い。
その様子を見ながらハイトさんが私に質問を投げかける。
「彼女は一体何者なんだい?」
「30代前半のエルフです」
「……えっ?」
「えっ?……あっ、アルフィムって国の出身らしくてAランクを目指す30代前半のエルフの女性です」
「マジで言ってるの?」
「えっマジで言ってます……けど」
だよねぇあんなガッカリミニがエルフだなんて思わないよねぇ。
「リアスさんの家柄とか学歴とかそういうのは?」
「知らないっす」
「マジ?」
「マジ」
「……」
ハイトさんは不審な目で私を見つめながら黙ってしまった……えっ何?家柄とかそんなに重要?てかどこの出身ですって言われても自分わからないですし、何より自分から話さない事を根掘り葉掘り聞いて、なんかトラウマ的な事語られても正直抱えきれないし。
それにしてもこの空気……何か話題を、あっ、そうだ。
「えー、あっ、そう言えば今日のラッハギルドでの事なんですが、【大海の災厄討伐】の報酬金は本当に俺達が貰って良かったんですか?船や装備に相当かかったんじゃ」
このサン・ラドに来る前に私達はラッハギルドに立ち寄りクエストの完了報告を行って来た。その際【バーム海域調査船護衛】のクエストは現金で頂戴したのだが【大海の災厄討伐】の15億を超える報酬金は例によりギルド本部から所属ギルドに支払われる事になったのだが、ブラックオニキス号を代表しハイト船長にも報酬金の半分を収得する権利があると言われたので当然のように分配しよう手続きしていたところハイト船長が権利を放棄したため全額私達に支払われる事になりはしたが、金額が金額だけにもしかしてさっきリアスがバッサリと断った頼み事の依頼料も含まれていたのではなかろうか?と、思った次第なのだが。
「当たり前じゃないか、むしろ私達が手をつけてしまったら冒険者から搾取する拝金主義とバーム王家の印象がさらに悪くなってしまうからね」
「そうなんですか……」
拝金主義ってそれはちょっと考え過ぎな気がするが……いや、まてよ、護衛料に討伐報酬金まで根こそぎ持って行ったというのが世間に広まったら私達の印象こそ悪くなるのではなかろうか……。
「それよりギルドといえば、あのダム会長のクエストの件なのだが」
ダム会長のクエストの件か……ラッハギルドのギルドマスターに(内容は伏せて)確認してもらったが、私達が受注している正規クエストは【バーム海域調査船の護衛】のみと言われ、ダム会長からあと二つ依頼を受けていると言ったのだが「そんな依頼は存在しない、ちゃんとイストアギルドで依頼書を確認したのか?会長からの依頼とはいえ依頼を受けるならギルドで依頼書を確認するのが常識だろ」と、めちゃくちゃ怒られた。
「あれはもしかして、私達を調査しろという内容じゃなかったのかい」
まぁ、そりゃ今までの雰囲気でバレるわな。
「その通りです」
私の返答に「そうか……」と呟きそのまま何かを悩んでいるような難しい顔で黙ってしまったハイトさん。
「どういう内容で報告するつもりか聞きたいんですよね」
「……というより、ありのままを報告してほしい」
「えっ?いいんですか?俺はてっきり……」
バレるとまずいから黙っていてほしいと言うのかと思ったのだが、まさか逆をついてくるとはどういう事なんだ?
「これは別にタタラ君達に気を使って言っているわけじゃなくて、ありのままを報告してもらった方が私達にも都合が良いからなんだ」
「それはどういう?」
「まぁ、都合が良くなるかどうかは世間に公表されるタイミング次第なんだけど、まぁどう転がってもマイナスにはならないし、私達はどちらにせよ【大海の災厄】がいる前提で調査に向かったというのは公表するつもりでいたんだ」
「……それは……どういう」
「ハハハ、ごめんごめん。意味がわからないと思うが、タタラ君はタタラ君のやるべき事をやれば良いってことさ」
意味はわからないが政治的な判断なのだろうということでこの場は納得したふりをした。
「さて今日はもうお開きにしようか」
「そうっすね……ハイトさん達は明日というか今日出航するつもりで?」
「ああ、しばらくこの勝利に浸っていたいけどそういう訳にはいかないからね」
「なんて言ったらいいかわからないけど……頑張ってください」
私は深々と頭を下げて宴会場を立ち去ろうとした。
「タタラ君!!」
「はい?」
振り返ると、さっきまで眠っていたブラックオニキス号の船員全員が起き上がり。
「船員一同、あなたの勇姿とあなたにいただいたこの恩は生涯忘れません」
『ありがとうございました!!!』
ブラックオニキス号の全員が深々と頭を下げる姿を見て、私の目には少しだけ涙が溢れてきた。
「勘弁してくださいよぉ」
この時、私はSランク冒険者になるということ、そして、その名が世界に広まるということがただ照れくさくて恥ずかしいというだけでその意味をまったく理解していなかった。
♦︎
「失礼します!!王!!こちら私ご覧ください!!」
「なんだ?こんな夜更けに想像しい……新聞がどうしたと……」
「この男もしやと思いまして」
「フフッ……ハハハハハ!!やはりあの時のあの男は貴様だったか!!」
「あの時の?まさかフェンリルの!?しかし王の一撃を喰らい生きているとは到底思えませんが」
「忘れたかギヴェール、この男なら何が起こっても不思議はない」
「……確かに」
「クハハハハ、面白い!この世界に何をもたらすかこの魔王に見せてみろ!タタラ!!」
♦︎
「もうSランクとはさすがタタラ君、良かったねこれで君の敗北も少しはみんな納得してくれるんじゃないか?タリアス」
「……戦人……タタラ……」
♦︎
「ほう、エヴァのとこに久しぶりに良い新人が現れたようじゃのう。どれ、久しぶりにあの憎たらし顔でも拝みに行こうかのう……というわけじゃから、いい加減この追いかけっこを終わらせようぞ、のう……バハムート!!」
♦︎
私の名は私の想像を遥かに超える勢いで良くも悪くも世界中に広がっていた。
そう、この日、タタラの名は【戦人】の名と共に。
世界に轟いた。
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