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最初の森は果てしなく遠い
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「部長、怒らない人だと思っていたけど、めっちゃキレてたな」
冷蔵庫を開け、ビールを取り出しながらつぶやく。
私の名前は、多田 良夫 、35才、どこにでもいる普通の会社員。そして独身。本日私は、ゲームで遊びたいがために、残り全ての有給休暇を使い16連休を取った。
そのゲームというのが。
世界中で約1000万人がプレイする
VRMMO【AQURIS online】 現実と錯覚するほどの圧倒的ビジュアルで作られた全周約2万キロメートルにも及ぶ惑星。そこに住まう多種多様な種族の【人】そして人を襲う【モンスター】が存在する剣と魔法の世界で、自身のアバターを作成し、グランドクエストである【魔王討伐】を目指しつつ、モンスターと戦ったり、ギルドで様々なクエストに挑戦したり、他のプレイヤーとチームを組んだり、オリジナルの装備やアイテムを作ったり、拠点となる家や店を作ったりと、思いつくことは、ほとんどなんでも出来てしまうそんなゲームなのである。
「待ちに待った2年ぶりの大型アップデートだ。今日からしばらく普通の会社員生活とはお別れだぜ」
グッとビールを飲み干し、黒い全身タイツのような服に着替えた。同じ素材の手袋をはめ、足袋を履き、電源コードの付いた、フルフェイスヘルメットのような機械を頭に装着。左手にはスティックコントローラーを持った。この格好は私が変態と言うわけではなく、全てがゲーム専用の機械なのでご安心を。
ゲームを起動させ。
「タタラ」
そうつぶやき【AQURIS online】の世界にログインした。
目に映る景色に変化はないようだが、 服装は全身タイツからN-3Bのようなジャッケットに皮のズボンと革靴に変わっている。これはゲーム内に作った拠点に、自分の部屋をトレースすることができるからだ。それにより拠点に帰れば風呂以外なら食事もトイレもログインしたまま可能になるという、まさに廃人製造仕様なのだ。
「このアバターは久しぶりだな」
βテストからの最古参プレイヤーのひとりである私は、しばらくサブアバターでばかりプレイをしていた。
なぜならこのメインアバター【タタラ】は、妖精の森の発見に始まり、ユニークモンスター、レアモンスターを次々と発見。Sランクレイドボスの単独撃破方の確立などなど、数えるのも面倒くさくなるほどの功績を挙げ、最も【魔王討伐】に近いプレイヤーと呼ばれるほど有名になっていた。
そのため、町を歩けばチーム勧誘の嵐、フィールドに出ればモンスターよりPK襲われることの方が多くなり、とてもまともにプレイ出来る状態ではなくなっていたのだが 、今回のバージョンアップで勧誘やPKに規制がかかるということで半年ぶりにメインアバターを起動させることにした。
玄関のドアを開けると、そこは山のように巨大な樹の上 。そこから見える景色はスイスのアルプス山脈のようにも見える。
『ピロン!』
(運営からのお知らせ)
「不具合の……どうでもいいわっ。ほかにはえーっと……グランドストーリーの追加……サブストーリーにアメリア地方の……新スキル 、レベル上限解放……えっ!ヨーロピース地方でユニークモンスターの追加!いいじゃんいいじゃん。今まさにそこですから」
勢いよく巨大な樹から飛び降りたのだが、この時私は、重大なミスをおかしてしまったことにまだ気づいていなかった。
メニュー画面起動、装備お気に入り1を選択 。
その瞬間、腰に二振の剣が現れた。
盗賊スキル【索敵】【盗賊の目】
目の前に地図が現れ、10ヶ所ほど赤く点滅している。その中1つだけ中心が黄色で他より点滅が早い。
「いきなり当たりか」
【索敵】は【盗賊の目】と同時使用することで、ノーマルモンスターとレア、ユニークモンスターを見分けて表示することができる。(非公表)
目測30メートルほど落下したところで樹を蹴り、ひとつだけ違う反応をしたモンスターの方角に飛ぶ。さらに10メートルほど落下し難なく着地。その瞬間、剣を抜き時速50kmほどの速さで森を駆け抜ける。
「見えた!!」
そこには体長6メートルはある巨大なモンスターがいた、下半身は黒毛の馬、上半身は鎧を着た人間の様だが、頭にはトナカイのような巨大なツノがあり、手には斧に近い二又の槍を持っている。
鑑定スキル【解析】
【 名前 】 タリアスロード
【 レベル 】 180
「名前とレベルだけか、ユニークモンスター確定だな」
タリアスロードが気づくより一瞬早く飛び上がり。
片手剣スキル極地【オロチおろし】
8つの頭を、全て同時に切り落とさないと倒せないレイドボスのヤマタノオロチを単独で討伐した時に偶然発動したスキル。高速8連撃プラス攻撃力2倍補正と言う超大技。
だが
(SPがありません)
「っえ?」
タタラ(Lv96)スキルメイカー
HP:221/980 MP:18/328 SP:5/469
メニューウインドウを注視し自身の失態に気づく。その瞬間、脇腹に衝撃が走る。
「っう」
私は詰まったような呻き声を吐き出す。タリアスロードの強烈な袈裟斬りが腹部にクリティカルヒットしたのだ。
タタラ(Lv96)スキルメイカー
HP:0/980 MP:18/328 SP:5/469
目の前がゆっくりと暗くなり、GAME OVER の文字が浮かび上がってくるのを見つめながら、最後にタタラでプレイした半年前のことを思い出していた 。
あの日も例にもれずパーティー勧誘地獄から始まり、その後フィールドではタタラ狙いのPKプレイヤーと20連戦。逃げるように拠点戻った。
「なんでも自由にできるのは良いけど、俺に自由はないのかーーー!!?」
っと、他プレイヤーち運営に対する不満を漏らしながら半ギレでログアウト。すぐさま新しくサブアバターを作成した。
そして今日のバージョンアップで、久しぶりのメインアバターにテンションが上がり、ステータスを確認もせず 、古参プレイヤーとは思えない、いきなりの大技狙いでまさかの即ゲームオーバーの大失態。
「人に見られてなくて良かった 、デスペナルティは甘んじて受け入れよう」
【AQURIS online】では、ゲームオーバーになると登録拠点での復活と引き換えに、所持金の半額没収、レベルマイナス5、装備品の一つ消滅、のいづれかがデスペナルティとして実行される。これがタタラがPKに執拗に狙われる理由なのだ。
目の前が明るくなったが。
見なれた自分の部屋ではない。
ゆっくり辺りを見回す。
広い草原、その先に森、さらに遠くに緑の山が点々とある。
「はじまりの……いや、フーランド地方の……違うか」
必死で場所を推測するがすぐに地図コマンドの存在を思い出す。
そこには自分の周囲100m程度写すだけで、今まで10000時間近くプレイして築き上げたワールドマップは一切表示されなかった 。
もしかして新エリア?。などと考えてみたものの、今までのマップが消えているのはやはりおかしい。
「バグか?」
うーん…しばらく何か考えているそぶりをしてみたが、頭の中は真っ白である。
「はっ、デスペナルティ」
メニュー画面を開いた。
その瞬間、背筋が凍った。
「れっれべっレベルっいっいい……ゴクッ……レベル1?」
嫌な汗が流れ、うっすらと目が潤んできたのがわかった。絶望感に包まれながらステータス画面を開く。
タタラ(Lv1)スキルメイカー
ステータス
HP:980/980
OP:630/630
攻撃力:1069
守備力:652
魔力:520
素早さ:875
技術:702
運:99
「あれ?減ってないんですけど」
ステータス据え置きで、レベルだけ初期値って逆にボーナスじゃね?などと思いつつ、さらなる異変気づいた。
「OP?MPとSPはどこ行った?」
結局、バージョンアップでありがちなバグだろうと推測し、運営に報告のため問い合わせコマンドを探すが無い 。
仕方なくログアウトしてサイトから……。
「えっ?」
無い。
メニューを全ページ確認する
無い。
もう一度……。
無い。
ログアウトが無い。
「えっ?えっ?」
えっ?えっ?えっ?声にも出しているが頭の中もえっ?でいっぱいだ。
キンコンキンコン
早いテンポの効果音が鳴り、電流が走ったように驚き肩をすくませた 。常時スキル【警戒】で、自分が認識していないモンスターにターゲットにされことを知らせる音だ。
周囲を見渡してモンスターを確認。
「なんだアレは」
まだ遠くてはっきりとは見えないが、甲冑に身を包んだ鬼ようなモンスターが、ものすごい勢いでこちらに走ってきている。
鑑定スキル【解析】
【 名前 】 ヴィザル
【 レベル 】 225
混乱状態の今の自分では、さっき二の舞になると思い戦術的撤退をすることに決めた。幸い距離はまだ100m程度離れている、これくらいあれば余裕で戦術的撤退は可能ある。
「キャウン」
ヴィザルの方から仔犬のような声が微かだが確かに聞こえた。
振り向きヴィザルの顔を見る。
「いやいや無いっしょ」
戦術的撤退のため走り出そうとした
「キャウン キャウ」
なぜか助けを求められているような気がしてもう一度振り向く。
ヴェザルの左手の中にいる仔犬と目が合った 。その目は黒くよどんでいて、何の力もなく、今にも閉じてしまいそうな様子だ。
「クゥー」
もう数十メートルまでせまった敵を、迎え撃つことにした。
残念なことに私はワンコが大好きなのだ。
メニュー起動。装備お気に入り(3)を選択
右手:オロチの角の刀
左手:オロチの牙の小太刀
頭:オロチの鱗の兜
体:オロチの皮ジャケット
腕:オロチの鱗の手甲
足:オロチの皮ブーツ
モーターの回転するような独特の電子音が響き、背中から大量の帯のような物が現れ私の体にまとわりつき選択した装備が形を現す。
装備換装時の、このエフェクトが私は大好きだ。
武術スキル【威嚇】を発動。
全く怯むことなく向かってくるヴェザル、その体長は約4メートル。
ヴィザルは、右手に持っているトゲ付き金棒を振り下ろし、地面を深くえぐり取り粉塵を撒き散らした。その攻撃をダッシュで懐に潜り込んで回避して。
片手剣スキル【断破】
ダメージよりも、局部破壊を目的としたこの攻撃は、鋭く重い一撃でヴィザルの左手を斬り落とした。そして素早く仔犬を救出し、間合いを取る。
ヴェザルは、金棒を振り被ったまま動きを止めている。
その隙に、仔犬を離れた場所にそっと置いた。息をするのもやっとの様子で、かなり衰弱しているように見える。こんな状態で鳴き声を…。
助けを求められている気がしたのは、間違いではなかったようだ。
しかし……おかしい。
レベル200オーバーなのに動きが悪いし、あの鎧も武器も傷だらけだ……それに……。
さっきの交差で【風】を感じた、それはこのゲームではありえないことだった。
ヘッドセットの機能で臭いも感じることが出来る 。モーションキャプチャで実際の動きを反映することもできる 。スーツや手袋にはヒーター、クーラー、エアバックやバイブレーションが内蔵され、温度 、質感 、重量、受けた攻撃の衝撃だって体感できる。が 、【風】を作る機能は、このシステム上に存在しないのだ。
まさか…っと、思わず長考しそうになったが、なんとか意識を目の前の敵に引き戻す。
「貴様何者だ?」
「!!?」
クエストモンスターが喋ることは当たり前にあるが、フィールドモンスターが喋るなんて、正直面食らってしまった。
「さっき殺したと思った時は、まったくの雑魚だったのに。突然、蘇ったかと思えば今度は、王国騎士を遥かに凌駕するほどの剣技だと」
さっき殺した?私が殺されたのはタリなんとかで、えっ……ヤバイ思考が追いつかない。
「だんまりか、まあいい、今度こそ確実息の根を止めてやろう…全力でな!!!!」
私は、この意味不明な状況に正直イラ付き始めていた 。
武術スキル【業】一定時間ステータスを向上させるが、時間が切れると同じ時間全ステータスが低下する。
「跡形も残さぬぞ人間!!くらえ【殴嵐】!!!!」
巨大な金棒を目にも止まらない速さで縦横無尽に振り回し、まるで嵐のごとく突撃してきた。
片手剣スキル【両手持ち】両手剣スキル【剣破】
嵐のような攻撃の中に放たれた一撃は、ヴェザルの金棒を粉砕したが 、そんなことは全く意に介さずにそのまま素手で殴りかかってきた。すかさず片手剣スキル【断破】を発動。ヴェザルの右手を切断したが。
頭上からまったく予想だにしない衝撃が落とされ、頭を垂れながら片膝をついた。
攻防のさなか倒れ込むように放たれたヘッドバッドを回避できなかったのだ。
あまりの激痛に悶絶し涙目になる。
タタラ(Lv1)スキルメイカー
HP:691/980 OP:418/630
やっぱりそうか。
この痛み、やっぱりそうだ。
「ここは、ゲームじゃねぇーのかぁぁ!!!」
片手剣スキル極地【オロチおろし】
【オロチおろし】を発動した私の姿は、ヴェザルの視界から完全に消え、八つの軌跡が巨大な体躯に刻まれ、その軌跡の通りヴィザルはバラバラになった。
「ゴホッお主の名は?」
「タタラ」
「我は、魔王軍鬼人隊、副隊長、ヴィザル。タタラよお主に忠告だ、そのグホッガハッボッ……を置いて即刻この場を、ゲホッ……去れ」
「魔王軍?置いて行けって、このワンコのことか?ここは一体どこなだ!!?」
ヴィザルはもう何も語ることなく、煙をたてながら砂になった。その中心には手の平サイズの正八面体の黒い宝石がある。手に取ると、内側がうっすら赤く光っているのがわかった。
「魔石?」
ゲームにはこんなエフェクトは存在しない…。
「はははははっ……異世界……きちゃった?」
思いっきり頬をつねってみた 、やはり痛い。
私は【AQURIS online】のゲームシステムを有したまま、別世界に来てしまったのだ。
そういえば。
「……ワンコ!!」
回復魔法【ヒール】
鑑定スキル【解析】
【 名前 】 不明
【 レベル 】 0
「こいつもユニークかレアモンスターなのか?」
ノーマルモンスターであれば【解析】でHPなどのステータスも確認できるはずだ(ゲームの時は)。しかし、HPの確認は出来なくても、目に見えて呼吸が落ち着いてきたので、良しとする。私はしゃがみ、小さな頭をなでてみる。
「フィンッ」
少々特殊な鳴き声と共に仔犬モンスターは目を覚ました。先程とは打って変わり
、目を大きく開き、キラキラと光を放っている 。少し飛び跳ねながら私の顔を舐めてきたので、座ってそっと抱き上げ、膝の上に乗せた。チワワぐらいの小さい体を、大きく揺らしながら喜んでいる姿はとても愛らしく、どこからどう見ても黒柴にしか見えない。少し足が太くて短いが、白いマロ眉がチャーミングすぎる。
「はぁぁ、なんて可愛いんだ」
アイテムウインドウを開き、干し肉を取り出し二つに割いて、片方を食べて見せた。ゲームの癖で当たり前に食べたが味がして少し驚いた 。美味い。
もう片方を差し出すと、スンスンと音たてながらしつこく匂いをかいだ後、軽くひと舐めした。すると、先ほどとは、くらべものにならないほど、キラキラした瞳を大きく見開いて干し肉にかぶりついた。
「美味しいよなぁ」
その光景を見ながら自身に【ヒール】をかけ、アイテムウインドウから魔法薬を取り出し飲んだ 。効果が不安だったが。
タタラ(Lv48)スキルメイカー
HP:1655/1655 OP:810/810
しっかりと全回復できた。やはりOPはMPとSPに変わるステータスみたいだ 。しかし、ヴィザル一体でレベルが48も上がっている。しかもHP1000の大台軽く超えてるし 。
状況整理を始めた私の思考を遮るように【警戒】の音がなり、その瞬間、私達は巨大な影に包まれた 。はっと空を見上げるとそこには、大きな翼を広げた爬虫類のモンスターがいた。
「ワイバーン?」
鑑定スキル【解析】
【 名前 】 ギヴェール
【 レベル 】 301
「300!!レイドボスクラスじゃねーか」
マロフィノは驚き、干し肉を噛んだまま硬直している。ちなみに、今かってに犬に名前をつけてみた。
「あれがそうかと思われますが。ヴィザルと鬼人部隊の姿は見当たりません」
ギヴェールと言う翼竜も喋ることができるようだ。
「はっそんなの見りゃわかんだろアイツにやられたんだろう」
背に何かを乗せているのか別な声がする。
「しかしヴィザルが人間ひとりに」
「どうせあのダンジョンでHP減らしちまったんだろう?いいから降りて回収だ」
「御意」
上下に優雅に揺らした翼から吹き飛ばされそうなほどの爆風と、大きな羽音を立てながら降下しきた。危険を感じマロフィノを抱えて走り出した 。盗賊スキル【脱兎】で戦術的撤退行動の速度が3倍増しになる。
翼竜の背から【何か】が飛び出し、私の退路に立ちはだかる 。2メートルないくらいの身長。人型だ。
おいおいおいおい!素早さ3000クラスの全力ダッシュに追いつくなんて。
「そこをどけ!!」
片手剣スキル【飛剣】斬撃が衝撃波となって【何か】へと直撃する。
そのまま左横をすり抜けようとした瞬間。
「無礼者め」
ものすごい衝撃が私達を吹き飛ばした 。10メートルほど飛ばされながら、なんとか体制を整え膝をついて着地。顔を上げると、もうすでに目の前に【何か】が立っていた。黒革のロングコートにズボンとロングブーツ、肩まではないくらいの髪は、メッキをかけたような銀色。つり上がった鋭い目の奥で、マグマのような赤い瞳。
今日、一番の衝撃だった。
私はコイツを知っている。
「レベル48?てっきり80はあるかと思ったが。キサマなかなかの攻撃だったぞ
、余の軍に入れてやろう、名を名乗れ」
鑑定スキルを使われたのかレベルを知られていた。だが私よりスキルランクが低かったのだろう、名前は知られずに済んだようだ 。コイツにだけは、私がタタラだということが知れてはいけない。絶対に。
「名乗れと言ったのが聞こえなかったか?」
鑑定スキル【解析】
【 名前 】 サンタ・クロウズ
【 レベル 】 989
このふざけた名前、やはりそうだ。コイツは、私と同じβテストプレーヤーにして【AQURIS online】史上 最もプレーヤーキルをし【魔人】と呼ばれた男だ!!
ゲームで私とコイツは、幾度となく戦い、何度ゲームオーバーの画面を拝んだことか…。
3年前突然姿を消して、てっきりゲームを追放されたとばかり思っていたが 。まさか私と同じく異世界に飛ばされていたなんて。と言うかコイツのレベルは一体なんなんだ!!絶対絶命と言う言葉が頭をよぎる ……
「恐怖で声も出ぬか」
そのセリフに、イラッときた私は、少し恐怖心を忘れ冷静になった。そして、腕の中で震えながら必死に私にしがみつく存在に気づく、マロフィノだ 。私は決意した。全身全霊全力全開の戦術的撤退を。
「電気と遊んでみたくないか?」
雷魔法【スタン】
私の手から放たれた電気はサンタにまとわりつき一時的に行動不能にさせる
武術スキル【業】盗賊スキル【脱兎】
発動と同時にマロフィノをしっかり抱きしめ全速力で森に向かって走り出す。
「貴様!!魔王様に何をした!!?」
翼竜が叫びながらサンタに駆け寄る 、魔王だと!?どういう経緯あったかまったく想像もつかないが、アイツは、この世界で魔人どころか魔王にまでなっていた。
「雷魔法だとキサマまさか タタラ?」
ヤバイ!もうスタンが切れた、しかも正体までバレた 。だけど森は目と鼻の先 、このまま森に入って【迷彩】を使えば。
「なんてな 、過去とはいえ余と渡り合った数少ない戦士がレベル48なワケがない。もしもタタラならレベル200はとうに超えているはず 。雷魔法は、タタラだけのユニークスキルだと思っていたが世界は広い。もうひとりくらい使い手がいても不思議ではないか」
うるさい!バーカ、バーカ、俺の最高レベルは96だっ。バレてないのはいいけど、いちいち腹がたつこと言うんじゃねぇ。
【AQURIS online】の守護属性は、火、水、風 、大地の四大属性で正規版はリリースされたが 。βテストではその四大属性に加えて、光、闇、重力、雷の八属性でテストが行われた。しかし、威力、消費MP、技の多様性などの理由で 四大属性に人気が集中し、光 、闇、重力、雷属性は、βテストプレーヤーの間で下位属性とバカにされ、ほとんどのプレーヤーが正規版発表前に四大属性のいずれかにコンバートしていき、気づけば雷魔法を使っているのは私だけになっていた。(バージョン1.5で他の属性魔法もある程度習得出来るようになったよ)
「面白いものを見せてもらった礼にキサマにも良いものを見せてやろう」
重力魔法【グラヴィアス】
急に目の前が暗くなったと思った瞬間、ものすごい圧力が私を地面に押し付けてくる。立っていることも出来ず、体が地面に埋まっていく。
おそらくこれは、サンタの失踪とともに失われた魔法スキル重力魔法だと思うが。なんだこの威力は!!ゲームでは、大量のMPを消費して発動しても 、敵の動きを鈍くする程度の重力しか、かけれなかったのに。どれだけスキルランク上げればこうなるんだ!?
抜け出そうともがく私に、ゆっくりと近づいてくるサンタ 。手には槍を持っている 。しばらくすると重力の束縛は消え体が軽くなったが、もう起き上がる力はない。
私は剣の装備を解除して、クルミのようなものを取り出した。
「光栄に思えこれが世界最強の槍だ」
槍はサンタの手を離れ空高く舞い上がり矛先を私に向け空中で静止した。
「貫けロンギヌス」
号令とともに彗星のごとく落下してきた魔王の槍は、横たわる私の心臓を貫き大地を砕いた 。
タタラ(Lv48)スキルメイカー
HP:0/1655 OP:602/810
こうして私は、最初の森さえ辿りつくことも出来ずに死んでしまった。
冷蔵庫を開け、ビールを取り出しながらつぶやく。
私の名前は、多田 良夫 、35才、どこにでもいる普通の会社員。そして独身。本日私は、ゲームで遊びたいがために、残り全ての有給休暇を使い16連休を取った。
そのゲームというのが。
世界中で約1000万人がプレイする
VRMMO【AQURIS online】 現実と錯覚するほどの圧倒的ビジュアルで作られた全周約2万キロメートルにも及ぶ惑星。そこに住まう多種多様な種族の【人】そして人を襲う【モンスター】が存在する剣と魔法の世界で、自身のアバターを作成し、グランドクエストである【魔王討伐】を目指しつつ、モンスターと戦ったり、ギルドで様々なクエストに挑戦したり、他のプレイヤーとチームを組んだり、オリジナルの装備やアイテムを作ったり、拠点となる家や店を作ったりと、思いつくことは、ほとんどなんでも出来てしまうそんなゲームなのである。
「待ちに待った2年ぶりの大型アップデートだ。今日からしばらく普通の会社員生活とはお別れだぜ」
グッとビールを飲み干し、黒い全身タイツのような服に着替えた。同じ素材の手袋をはめ、足袋を履き、電源コードの付いた、フルフェイスヘルメットのような機械を頭に装着。左手にはスティックコントローラーを持った。この格好は私が変態と言うわけではなく、全てがゲーム専用の機械なのでご安心を。
ゲームを起動させ。
「タタラ」
そうつぶやき【AQURIS online】の世界にログインした。
目に映る景色に変化はないようだが、 服装は全身タイツからN-3Bのようなジャッケットに皮のズボンと革靴に変わっている。これはゲーム内に作った拠点に、自分の部屋をトレースすることができるからだ。それにより拠点に帰れば風呂以外なら食事もトイレもログインしたまま可能になるという、まさに廃人製造仕様なのだ。
「このアバターは久しぶりだな」
βテストからの最古参プレイヤーのひとりである私は、しばらくサブアバターでばかりプレイをしていた。
なぜならこのメインアバター【タタラ】は、妖精の森の発見に始まり、ユニークモンスター、レアモンスターを次々と発見。Sランクレイドボスの単独撃破方の確立などなど、数えるのも面倒くさくなるほどの功績を挙げ、最も【魔王討伐】に近いプレイヤーと呼ばれるほど有名になっていた。
そのため、町を歩けばチーム勧誘の嵐、フィールドに出ればモンスターよりPK襲われることの方が多くなり、とてもまともにプレイ出来る状態ではなくなっていたのだが 、今回のバージョンアップで勧誘やPKに規制がかかるということで半年ぶりにメインアバターを起動させることにした。
玄関のドアを開けると、そこは山のように巨大な樹の上 。そこから見える景色はスイスのアルプス山脈のようにも見える。
『ピロン!』
(運営からのお知らせ)
「不具合の……どうでもいいわっ。ほかにはえーっと……グランドストーリーの追加……サブストーリーにアメリア地方の……新スキル 、レベル上限解放……えっ!ヨーロピース地方でユニークモンスターの追加!いいじゃんいいじゃん。今まさにそこですから」
勢いよく巨大な樹から飛び降りたのだが、この時私は、重大なミスをおかしてしまったことにまだ気づいていなかった。
メニュー画面起動、装備お気に入り1を選択 。
その瞬間、腰に二振の剣が現れた。
盗賊スキル【索敵】【盗賊の目】
目の前に地図が現れ、10ヶ所ほど赤く点滅している。その中1つだけ中心が黄色で他より点滅が早い。
「いきなり当たりか」
【索敵】は【盗賊の目】と同時使用することで、ノーマルモンスターとレア、ユニークモンスターを見分けて表示することができる。(非公表)
目測30メートルほど落下したところで樹を蹴り、ひとつだけ違う反応をしたモンスターの方角に飛ぶ。さらに10メートルほど落下し難なく着地。その瞬間、剣を抜き時速50kmほどの速さで森を駆け抜ける。
「見えた!!」
そこには体長6メートルはある巨大なモンスターがいた、下半身は黒毛の馬、上半身は鎧を着た人間の様だが、頭にはトナカイのような巨大なツノがあり、手には斧に近い二又の槍を持っている。
鑑定スキル【解析】
【 名前 】 タリアスロード
【 レベル 】 180
「名前とレベルだけか、ユニークモンスター確定だな」
タリアスロードが気づくより一瞬早く飛び上がり。
片手剣スキル極地【オロチおろし】
8つの頭を、全て同時に切り落とさないと倒せないレイドボスのヤマタノオロチを単独で討伐した時に偶然発動したスキル。高速8連撃プラス攻撃力2倍補正と言う超大技。
だが
(SPがありません)
「っえ?」
タタラ(Lv96)スキルメイカー
HP:221/980 MP:18/328 SP:5/469
メニューウインドウを注視し自身の失態に気づく。その瞬間、脇腹に衝撃が走る。
「っう」
私は詰まったような呻き声を吐き出す。タリアスロードの強烈な袈裟斬りが腹部にクリティカルヒットしたのだ。
タタラ(Lv96)スキルメイカー
HP:0/980 MP:18/328 SP:5/469
目の前がゆっくりと暗くなり、GAME OVER の文字が浮かび上がってくるのを見つめながら、最後にタタラでプレイした半年前のことを思い出していた 。
あの日も例にもれずパーティー勧誘地獄から始まり、その後フィールドではタタラ狙いのPKプレイヤーと20連戦。逃げるように拠点戻った。
「なんでも自由にできるのは良いけど、俺に自由はないのかーーー!!?」
っと、他プレイヤーち運営に対する不満を漏らしながら半ギレでログアウト。すぐさま新しくサブアバターを作成した。
そして今日のバージョンアップで、久しぶりのメインアバターにテンションが上がり、ステータスを確認もせず 、古参プレイヤーとは思えない、いきなりの大技狙いでまさかの即ゲームオーバーの大失態。
「人に見られてなくて良かった 、デスペナルティは甘んじて受け入れよう」
【AQURIS online】では、ゲームオーバーになると登録拠点での復活と引き換えに、所持金の半額没収、レベルマイナス5、装備品の一つ消滅、のいづれかがデスペナルティとして実行される。これがタタラがPKに執拗に狙われる理由なのだ。
目の前が明るくなったが。
見なれた自分の部屋ではない。
ゆっくり辺りを見回す。
広い草原、その先に森、さらに遠くに緑の山が点々とある。
「はじまりの……いや、フーランド地方の……違うか」
必死で場所を推測するがすぐに地図コマンドの存在を思い出す。
そこには自分の周囲100m程度写すだけで、今まで10000時間近くプレイして築き上げたワールドマップは一切表示されなかった 。
もしかして新エリア?。などと考えてみたものの、今までのマップが消えているのはやはりおかしい。
「バグか?」
うーん…しばらく何か考えているそぶりをしてみたが、頭の中は真っ白である。
「はっ、デスペナルティ」
メニュー画面を開いた。
その瞬間、背筋が凍った。
「れっれべっレベルっいっいい……ゴクッ……レベル1?」
嫌な汗が流れ、うっすらと目が潤んできたのがわかった。絶望感に包まれながらステータス画面を開く。
タタラ(Lv1)スキルメイカー
ステータス
HP:980/980
OP:630/630
攻撃力:1069
守備力:652
魔力:520
素早さ:875
技術:702
運:99
「あれ?減ってないんですけど」
ステータス据え置きで、レベルだけ初期値って逆にボーナスじゃね?などと思いつつ、さらなる異変気づいた。
「OP?MPとSPはどこ行った?」
結局、バージョンアップでありがちなバグだろうと推測し、運営に報告のため問い合わせコマンドを探すが無い 。
仕方なくログアウトしてサイトから……。
「えっ?」
無い。
メニューを全ページ確認する
無い。
もう一度……。
無い。
ログアウトが無い。
「えっ?えっ?」
えっ?えっ?えっ?声にも出しているが頭の中もえっ?でいっぱいだ。
キンコンキンコン
早いテンポの効果音が鳴り、電流が走ったように驚き肩をすくませた 。常時スキル【警戒】で、自分が認識していないモンスターにターゲットにされことを知らせる音だ。
周囲を見渡してモンスターを確認。
「なんだアレは」
まだ遠くてはっきりとは見えないが、甲冑に身を包んだ鬼ようなモンスターが、ものすごい勢いでこちらに走ってきている。
鑑定スキル【解析】
【 名前 】 ヴィザル
【 レベル 】 225
混乱状態の今の自分では、さっき二の舞になると思い戦術的撤退をすることに決めた。幸い距離はまだ100m程度離れている、これくらいあれば余裕で戦術的撤退は可能ある。
「キャウン」
ヴィザルの方から仔犬のような声が微かだが確かに聞こえた。
振り向きヴィザルの顔を見る。
「いやいや無いっしょ」
戦術的撤退のため走り出そうとした
「キャウン キャウ」
なぜか助けを求められているような気がしてもう一度振り向く。
ヴェザルの左手の中にいる仔犬と目が合った 。その目は黒くよどんでいて、何の力もなく、今にも閉じてしまいそうな様子だ。
「クゥー」
もう数十メートルまでせまった敵を、迎え撃つことにした。
残念なことに私はワンコが大好きなのだ。
メニュー起動。装備お気に入り(3)を選択
右手:オロチの角の刀
左手:オロチの牙の小太刀
頭:オロチの鱗の兜
体:オロチの皮ジャケット
腕:オロチの鱗の手甲
足:オロチの皮ブーツ
モーターの回転するような独特の電子音が響き、背中から大量の帯のような物が現れ私の体にまとわりつき選択した装備が形を現す。
装備換装時の、このエフェクトが私は大好きだ。
武術スキル【威嚇】を発動。
全く怯むことなく向かってくるヴェザル、その体長は約4メートル。
ヴィザルは、右手に持っているトゲ付き金棒を振り下ろし、地面を深くえぐり取り粉塵を撒き散らした。その攻撃をダッシュで懐に潜り込んで回避して。
片手剣スキル【断破】
ダメージよりも、局部破壊を目的としたこの攻撃は、鋭く重い一撃でヴィザルの左手を斬り落とした。そして素早く仔犬を救出し、間合いを取る。
ヴェザルは、金棒を振り被ったまま動きを止めている。
その隙に、仔犬を離れた場所にそっと置いた。息をするのもやっとの様子で、かなり衰弱しているように見える。こんな状態で鳴き声を…。
助けを求められている気がしたのは、間違いではなかったようだ。
しかし……おかしい。
レベル200オーバーなのに動きが悪いし、あの鎧も武器も傷だらけだ……それに……。
さっきの交差で【風】を感じた、それはこのゲームではありえないことだった。
ヘッドセットの機能で臭いも感じることが出来る 。モーションキャプチャで実際の動きを反映することもできる 。スーツや手袋にはヒーター、クーラー、エアバックやバイブレーションが内蔵され、温度 、質感 、重量、受けた攻撃の衝撃だって体感できる。が 、【風】を作る機能は、このシステム上に存在しないのだ。
まさか…っと、思わず長考しそうになったが、なんとか意識を目の前の敵に引き戻す。
「貴様何者だ?」
「!!?」
クエストモンスターが喋ることは当たり前にあるが、フィールドモンスターが喋るなんて、正直面食らってしまった。
「さっき殺したと思った時は、まったくの雑魚だったのに。突然、蘇ったかと思えば今度は、王国騎士を遥かに凌駕するほどの剣技だと」
さっき殺した?私が殺されたのはタリなんとかで、えっ……ヤバイ思考が追いつかない。
「だんまりか、まあいい、今度こそ確実息の根を止めてやろう…全力でな!!!!」
私は、この意味不明な状況に正直イラ付き始めていた 。
武術スキル【業】一定時間ステータスを向上させるが、時間が切れると同じ時間全ステータスが低下する。
「跡形も残さぬぞ人間!!くらえ【殴嵐】!!!!」
巨大な金棒を目にも止まらない速さで縦横無尽に振り回し、まるで嵐のごとく突撃してきた。
片手剣スキル【両手持ち】両手剣スキル【剣破】
嵐のような攻撃の中に放たれた一撃は、ヴェザルの金棒を粉砕したが 、そんなことは全く意に介さずにそのまま素手で殴りかかってきた。すかさず片手剣スキル【断破】を発動。ヴェザルの右手を切断したが。
頭上からまったく予想だにしない衝撃が落とされ、頭を垂れながら片膝をついた。
攻防のさなか倒れ込むように放たれたヘッドバッドを回避できなかったのだ。
あまりの激痛に悶絶し涙目になる。
タタラ(Lv1)スキルメイカー
HP:691/980 OP:418/630
やっぱりそうか。
この痛み、やっぱりそうだ。
「ここは、ゲームじゃねぇーのかぁぁ!!!」
片手剣スキル極地【オロチおろし】
【オロチおろし】を発動した私の姿は、ヴェザルの視界から完全に消え、八つの軌跡が巨大な体躯に刻まれ、その軌跡の通りヴィザルはバラバラになった。
「ゴホッお主の名は?」
「タタラ」
「我は、魔王軍鬼人隊、副隊長、ヴィザル。タタラよお主に忠告だ、そのグホッガハッボッ……を置いて即刻この場を、ゲホッ……去れ」
「魔王軍?置いて行けって、このワンコのことか?ここは一体どこなだ!!?」
ヴィザルはもう何も語ることなく、煙をたてながら砂になった。その中心には手の平サイズの正八面体の黒い宝石がある。手に取ると、内側がうっすら赤く光っているのがわかった。
「魔石?」
ゲームにはこんなエフェクトは存在しない…。
「はははははっ……異世界……きちゃった?」
思いっきり頬をつねってみた 、やはり痛い。
私は【AQURIS online】のゲームシステムを有したまま、別世界に来てしまったのだ。
そういえば。
「……ワンコ!!」
回復魔法【ヒール】
鑑定スキル【解析】
【 名前 】 不明
【 レベル 】 0
「こいつもユニークかレアモンスターなのか?」
ノーマルモンスターであれば【解析】でHPなどのステータスも確認できるはずだ(ゲームの時は)。しかし、HPの確認は出来なくても、目に見えて呼吸が落ち着いてきたので、良しとする。私はしゃがみ、小さな頭をなでてみる。
「フィンッ」
少々特殊な鳴き声と共に仔犬モンスターは目を覚ました。先程とは打って変わり
、目を大きく開き、キラキラと光を放っている 。少し飛び跳ねながら私の顔を舐めてきたので、座ってそっと抱き上げ、膝の上に乗せた。チワワぐらいの小さい体を、大きく揺らしながら喜んでいる姿はとても愛らしく、どこからどう見ても黒柴にしか見えない。少し足が太くて短いが、白いマロ眉がチャーミングすぎる。
「はぁぁ、なんて可愛いんだ」
アイテムウインドウを開き、干し肉を取り出し二つに割いて、片方を食べて見せた。ゲームの癖で当たり前に食べたが味がして少し驚いた 。美味い。
もう片方を差し出すと、スンスンと音たてながらしつこく匂いをかいだ後、軽くひと舐めした。すると、先ほどとは、くらべものにならないほど、キラキラした瞳を大きく見開いて干し肉にかぶりついた。
「美味しいよなぁ」
その光景を見ながら自身に【ヒール】をかけ、アイテムウインドウから魔法薬を取り出し飲んだ 。効果が不安だったが。
タタラ(Lv48)スキルメイカー
HP:1655/1655 OP:810/810
しっかりと全回復できた。やはりOPはMPとSPに変わるステータスみたいだ 。しかし、ヴィザル一体でレベルが48も上がっている。しかもHP1000の大台軽く超えてるし 。
状況整理を始めた私の思考を遮るように【警戒】の音がなり、その瞬間、私達は巨大な影に包まれた 。はっと空を見上げるとそこには、大きな翼を広げた爬虫類のモンスターがいた。
「ワイバーン?」
鑑定スキル【解析】
【 名前 】 ギヴェール
【 レベル 】 301
「300!!レイドボスクラスじゃねーか」
マロフィノは驚き、干し肉を噛んだまま硬直している。ちなみに、今かってに犬に名前をつけてみた。
「あれがそうかと思われますが。ヴィザルと鬼人部隊の姿は見当たりません」
ギヴェールと言う翼竜も喋ることができるようだ。
「はっそんなの見りゃわかんだろアイツにやられたんだろう」
背に何かを乗せているのか別な声がする。
「しかしヴィザルが人間ひとりに」
「どうせあのダンジョンでHP減らしちまったんだろう?いいから降りて回収だ」
「御意」
上下に優雅に揺らした翼から吹き飛ばされそうなほどの爆風と、大きな羽音を立てながら降下しきた。危険を感じマロフィノを抱えて走り出した 。盗賊スキル【脱兎】で戦術的撤退行動の速度が3倍増しになる。
翼竜の背から【何か】が飛び出し、私の退路に立ちはだかる 。2メートルないくらいの身長。人型だ。
おいおいおいおい!素早さ3000クラスの全力ダッシュに追いつくなんて。
「そこをどけ!!」
片手剣スキル【飛剣】斬撃が衝撃波となって【何か】へと直撃する。
そのまま左横をすり抜けようとした瞬間。
「無礼者め」
ものすごい衝撃が私達を吹き飛ばした 。10メートルほど飛ばされながら、なんとか体制を整え膝をついて着地。顔を上げると、もうすでに目の前に【何か】が立っていた。黒革のロングコートにズボンとロングブーツ、肩まではないくらいの髪は、メッキをかけたような銀色。つり上がった鋭い目の奥で、マグマのような赤い瞳。
今日、一番の衝撃だった。
私はコイツを知っている。
「レベル48?てっきり80はあるかと思ったが。キサマなかなかの攻撃だったぞ
、余の軍に入れてやろう、名を名乗れ」
鑑定スキルを使われたのかレベルを知られていた。だが私よりスキルランクが低かったのだろう、名前は知られずに済んだようだ 。コイツにだけは、私がタタラだということが知れてはいけない。絶対に。
「名乗れと言ったのが聞こえなかったか?」
鑑定スキル【解析】
【 名前 】 サンタ・クロウズ
【 レベル 】 989
このふざけた名前、やはりそうだ。コイツは、私と同じβテストプレーヤーにして【AQURIS online】史上 最もプレーヤーキルをし【魔人】と呼ばれた男だ!!
ゲームで私とコイツは、幾度となく戦い、何度ゲームオーバーの画面を拝んだことか…。
3年前突然姿を消して、てっきりゲームを追放されたとばかり思っていたが 。まさか私と同じく異世界に飛ばされていたなんて。と言うかコイツのレベルは一体なんなんだ!!絶対絶命と言う言葉が頭をよぎる ……
「恐怖で声も出ぬか」
そのセリフに、イラッときた私は、少し恐怖心を忘れ冷静になった。そして、腕の中で震えながら必死に私にしがみつく存在に気づく、マロフィノだ 。私は決意した。全身全霊全力全開の戦術的撤退を。
「電気と遊んでみたくないか?」
雷魔法【スタン】
私の手から放たれた電気はサンタにまとわりつき一時的に行動不能にさせる
武術スキル【業】盗賊スキル【脱兎】
発動と同時にマロフィノをしっかり抱きしめ全速力で森に向かって走り出す。
「貴様!!魔王様に何をした!!?」
翼竜が叫びながらサンタに駆け寄る 、魔王だと!?どういう経緯あったかまったく想像もつかないが、アイツは、この世界で魔人どころか魔王にまでなっていた。
「雷魔法だとキサマまさか タタラ?」
ヤバイ!もうスタンが切れた、しかも正体までバレた 。だけど森は目と鼻の先 、このまま森に入って【迷彩】を使えば。
「なんてな 、過去とはいえ余と渡り合った数少ない戦士がレベル48なワケがない。もしもタタラならレベル200はとうに超えているはず 。雷魔法は、タタラだけのユニークスキルだと思っていたが世界は広い。もうひとりくらい使い手がいても不思議ではないか」
うるさい!バーカ、バーカ、俺の最高レベルは96だっ。バレてないのはいいけど、いちいち腹がたつこと言うんじゃねぇ。
【AQURIS online】の守護属性は、火、水、風 、大地の四大属性で正規版はリリースされたが 。βテストではその四大属性に加えて、光、闇、重力、雷の八属性でテストが行われた。しかし、威力、消費MP、技の多様性などの理由で 四大属性に人気が集中し、光 、闇、重力、雷属性は、βテストプレーヤーの間で下位属性とバカにされ、ほとんどのプレーヤーが正規版発表前に四大属性のいずれかにコンバートしていき、気づけば雷魔法を使っているのは私だけになっていた。(バージョン1.5で他の属性魔法もある程度習得出来るようになったよ)
「面白いものを見せてもらった礼にキサマにも良いものを見せてやろう」
重力魔法【グラヴィアス】
急に目の前が暗くなったと思った瞬間、ものすごい圧力が私を地面に押し付けてくる。立っていることも出来ず、体が地面に埋まっていく。
おそらくこれは、サンタの失踪とともに失われた魔法スキル重力魔法だと思うが。なんだこの威力は!!ゲームでは、大量のMPを消費して発動しても 、敵の動きを鈍くする程度の重力しか、かけれなかったのに。どれだけスキルランク上げればこうなるんだ!?
抜け出そうともがく私に、ゆっくりと近づいてくるサンタ 。手には槍を持っている 。しばらくすると重力の束縛は消え体が軽くなったが、もう起き上がる力はない。
私は剣の装備を解除して、クルミのようなものを取り出した。
「光栄に思えこれが世界最強の槍だ」
槍はサンタの手を離れ空高く舞い上がり矛先を私に向け空中で静止した。
「貫けロンギヌス」
号令とともに彗星のごとく落下してきた魔王の槍は、横たわる私の心臓を貫き大地を砕いた 。
タタラ(Lv48)スキルメイカー
HP:0/1655 OP:602/810
こうして私は、最初の森さえ辿りつくことも出来ずに死んでしまった。
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