THIRD ROVER 【サードローバー】オッサンのVRMMOは異世界にログインする

ケーサク

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三つ目の誓い

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 獣人の女性に教えられた方角に雑木林を走り続けていた私達は数匹のゴブリンを葬ったあと、巨大な魔獣に行く手を遮られ、足を止めた。

「グィィィッ!グィィィッ!」

 マロフィノが激しく威嚇をする相手は3m近い筋肉質の巨体で、その体は灰色をおびた深緑色の皮膚で覆われ、虎の皮のような素材の腰布を巻き、手には刃こぼれだらけの斬馬刀。下顎から伸びる発達した犬歯の間から鼻息の荒い鷲鼻が頭を出し、長く伸びた白髪をかき分けるように赤い瞳が光っている。

 鑑定スキル【解析かいせき
 【 名前 】 オーガロード
 【  レベル  】 62
 【 HP 】 5500/5500
 【 OP 】 98/98

 HPが高いな。この状況で面倒くさいが。

「悪いが、遊んではやれないぞ」

 オーガロードが斬馬刀を頭上に振り上げた、私は一気に勝負を決めにかかる、武術スキル【業】全ステータスが上昇、振り落とされた斬撃に片手剣スキル【剣破】で応戦、激しい金属音を放った斬馬刀は真っ二つになり別々に地面に突き刺さる。
 剣を引っこ抜く動作の分、次の行動が遅れたオーガロードの伸びきった両腕に【断破】をお見舞いする、しかしダメージを与え煙が上がったものの、ほぼほぼHPMAXのオーガロードの太い腕は切断にはいたらない、私が【断破】を放ち終わるとほぼ同時に私の横ぱっらを狙い斬馬刀が引き抜かれた勢いのまま強引にスイングされたが、素早く剣で受け地面に足で溝を作りながらもなんとかえきる。危なくこっちが真っ二つにされるところだった、さっさと倒してしまいたいのに、焦りのせいかどこか目の前の敵に集中しきれていない。

「クソッ、うざったい野郎だ」

 斬馬刀の下に抜けながら振り払い、がら空きの胴体を斬りつけ吹き上げる煙を乱しながら素早く後方に回る。武術スキル【鉄拳】左の正拳突きがオーガロードの背中に突き刺さりその巨体をずらす。

「グッゴォ」

 オーガロードが苦痛の声を漏らすと、私の遥か後方から爆音が上がり、振り向くと、木を飛び越え土砂が吹き上がりそれに巻き込まれたであろう数体のゴブリンが空中で砂煙になっていくのが遠目に見えた。急いでマップを開くと表示ギリギリのところに黒い点が表示され、その回りに赤点滅が群がっている。

「触るな!はなせ!!」

 微かに女性の叫び声が聞こえ、私の心臓が大きく脈うつ。

「リアスさん……」

 声の方向に走り出そうとした瞬間、背中から物凄い衝撃が襲い、吹き飛ばされ木に激突した。轟音を立てながら木がへし折れ一緒に倒れ込み土煙にのまれる。意識が飛びそうなほどの激痛は、もはやどこが負傷したのかすらわからない。力を振り絞り目線を後ろに動かすと、オーガロードが斬馬刀を振りきった態勢をくずし、ニヤニヤしながらゆっくりこちらに向かってくる。
 不用意に使った【業】の効果が切れてステータスが大幅に低下した無防備な背中にくらった渾身の一撃は、私のHPを3分の2も減らした。
 チクショウ、こんなことをしている場合じゃ
「ぐあっ!」
 
 折れた木の株に倒れこんでいた私をオーガロードが踏みつけたまま抑え込んだ。力が低下しているせいで、もがいても全く抜け出すことができない。

「いやじゃ何をするんじゃ、やめ……」

 微かに布が破ける音がした。

「いやじゃぁ!いやじゃぁぁ!」

 リアスさんの絶叫が響き、脳裏に獣人の女の言葉がよぎる。リアスさんのいるであろう方角を見ながらヨダレを垂らすオーガロードの足にさらに力が込められて、私は木の株にめり込みながらHPが4分の1を切った警告を聴きながら叫んでいた。

「どけぇぇっ!このクソ野郎が!殺してやる、お前ら全員殺してやる!!うあぁぁああ゛ぁ゛ぁ゛ぁぁ!!」

 全身に力を入れ起き上がろうとするも株が割れてめり込んで行くだけだ。

「やめろ!やめるんじゃぁ。お願いしますやめてください……お願いします……いやじゃ、いやじゃぁ」

 リアスさんのすがるような声が心に突き刺さる。
 チクショウ!どけ!動け!チクショウ!チクショウ!チクショウ!!
 踏まれた昆虫のようにジタバタと情けなく手足を動かすだけで何も出来ない私の目には涙が溢れ出てきていた。

「誰か、リアスさんを……誰でもいい、頼むリアスさんを助けてください……」

 まだ【業】のステータス低下は回復をみせず、救えたはずの人を自分の判断ミスで救うことができないでいる絶望のような後悔の中、腕をリアスさんの方に伸ばして、半ばあきらめのように助けを求めた声は、誰に届くこともなく、雑木林の中に消える。オーガロードの足の力がよりいっそう強くなり私の体は完全に株の中に埋まり警告音が加速してHPが5分の1を切ったことをしつこく知らせてくる。
 創造神よ、お願いします。私から何を奪ってもいい、だから……だから……。
 神に祈り出したその時、聞こえるはずのない微かで消えそうな声が、私の頭に響く。
 
「助けて…………タタラ……」

 ブチッ。

 俺の中で何かが音を立てて、切れた。

「うぉぉおおおおおぉぉぉぉ!!!」

 耳鳴りのような高音が頭に響き、体から蒸気のごとくオーラが立ち上がる。体が埋まっていた株は破片を飛ばしながら砕け散り、オーガロードはつまずいたように前のめりに転びそうになりながらもなんとか踏みとどまり振り返り、砕け散った木片の中で立ち上がる俺と目を合わせる。
 メニュー起動、装備お気に入り3。
 漆黒の直刃の大剣が右手に現れ両手で突き出すように握る。
 両手剣スキル・・・・・・奥義【龍剣】蹴り足の衝撃で残りの株は木片になり後方に飛び散り、全身を覆う龍の如き衝撃波が唸り声をあげながらオーガロードを飲み込み、消滅させた。
 振り返ることなく俺はリアスさんのところへ全力で走る。

「いやじゃぁ……いやじゃぁ」

 視界の先に醜い緑色の魔獣どもが何かをとり押さえるようにしゃがみながら群がっている。足の隙間から薄いピンク色の髪が見えた。リアスさんはゴブリン7匹に囲まれて押さえつけられ、鎧と衣服を引き裂かれ足を掴んだ2匹に無理矢理に股を開かされていた。

「リアスから離れろテメェらぁぁぁぁ!!」
「タタラ?タタラァァ!!いやじゃ!こんなのいやじゃぁ!!」

 100m先から叫ぶ俺に1匹のゴブリンが振り向いて、醜悪な笑顔を晒す。
 そいつは腰布を投げ捨て下半身をあらわにした。

「それをやったら……ただじゃ殺さねぇからなぁ!!」
『グギャギャギャ!!』

 勝ち誇ったようなゴブリンどもの高笑いが響き、俺の怒りと焦りが頂点を越える。

「キィッ!?ィヤァァァアアアァァ……ァァ…ッァ……」

 腰布を投げ捨てたゴブリンが聞いたことのない悲惨な声を上げながら飛び上がった。その股の間に黒い毛玉が見える。
 それは俺の頭の上にいるはずだった勇者の姿だった。
 いつのまにか頭からいなくなったマロフィノは投げ捨てられていたリアスの短剣をくわえ、それを意気がったゴブリンの短剣・・に突き刺したのだ。そしてリアスを囲んでいた緑色のクソ野郎どもはマロフィノを捕まえようと一斉に立ち上がる。

「マロフィノに感謝しろ。ただ殺してやる」

 両手剣スキル秘境【飛断破ひだんぱ】左から右に勢いよく振り切られた黒剣から放たれた衝撃波は、立ち上がった6匹のゴブリンを真っ二つにし砂煙に変える。メニュー画面起動、装備お気に入り1。

「リアスさん!」

 駆け寄る私から目をそらし、はだけた胸元を隠しながらゆっくりと起き上がろうとするリアスさんの横に膝をつき、私は両手で優しく抱きしめた。

「……タ……ラァ……」

 すすり泣く彼女の頭を、母親のように優しくなでながら、生きていてくれた喜びを全身で噛み締める。

「これからは、一緒に……一緒にいきましょう」
「ふえっ!?」

 リアスさんは腕の間から真っ赤になった顔を勢いよく上げ、私の顔を見つめる。えーーっ!?何?なんか変なこと言ったか……あっ!!?

「いや!その、リアスさん!一緒にクエストに行こうって意味で!ずっと一緒に生きていこう的な、アレ的な意味じゃないです!」

 リアスさんはもぞもぞと腕の中に顔を隠し何かぶつぶつ言い出した。

「そんなに焦って否定しなくてもわかっておる、別にそこまで否定しなくてもさぁ、それにさっきみたいにリアスでよい」
「すっすみません」

 もぞもぞとリアスが腕の中から顔を出す。

「来てくれてありがとう、タタラ」

 今まで見たどんな女性よりも美しく優しい笑顔で私に微笑むリアスに、私の心臓の鼓動が早くなり顔が熱くなった。

「どういたっひまして」

 噛んだ。

「とっところで、えーっと、あの、その」
「なんじゃ?」
「アレの……初めてがゴブリン、なんてことには……グホッ!」

 ゼロ距離からリアスのボディブローが私の脇腹に突き刺さり、そのまま後ろに倒れ込んだ。

「そんなの聞くな!バカ!バカ!バカ!バカ!……わらわは……その……生娘のままじゃ」

 私は馬鹿かぁ!!そんな聞いてどうするんだ!?わざわざ確認するようなことじゃないだろうが!!?アホか!?もし本当にアレされてたらどうすんだよ!?それに元々さ、ほら、経験済みかもしれないしってそうじゃなくて!アレだけじゃくても怖い目に会ったのには違いないんだから心配すんのそこじゃないだろうが!何考えてるんだぁぁ!?デリカシーの問題だよデリカシーの、あああ、顔から火が出るほど恥ずかしい。私は全身火だるまになったかのごとく地面を転げ、のたうちまわる。

「グギャァァァ!キィィ、キィ」

 情けない叫び声がして二人で顔を向けると、怒り狂った猛犬が情けなく逃げ惑うゴブリンを追いかけ回しながら、くわえた短剣を振り回し何度も斬りつけ最後に喉元を切り裂き、倒れ込んだ敵の顔面を踏みつけ砂煙に完全に消える最後の最後まで恐怖を刻み込むように睨みつけ続けていた。マロフィノ、怖っ。もしかして私よりも怒っていたのは彼なのかもしてない。私はジャケットを脱ぎリアスに差し出した。

「マロフィノにも心配かけてしまったようじゃ」
「帰ったら何かご馳走してあげないと」
「のう、タタラ」
「はい」

 リアスは少し戸惑ったような横顔で遠くを見ている。

「明日からタタラはどうするんじゃ」

 私はハッとした。それは、私がなぜあの時と思い、できるならばもう一度やり直したいと思ったあの時の質問だったからだ。
 目を瞑り唾を飲み込み、深呼吸。胸の中でリアスがAランク冒険者になり国に帰るその日まで共に歩んで行こうと自分に誓いを立てて、ゆっくりと目を開く。

「マロフィノとリアスさえ良ければ、パーティーを組んで一緒にクエストですかね」
「そこはリアスとマロフィノと言うとこじゃぞ!」
「以後気をつけます」
「フィン!」

 微笑み合う私達の間からマロフィノが顔を出しベロを出してみんなでに笑い合う。その上を、三羽の渡り鳥達がどこかに流れて行った。

 こうして小さな丘の雑木林で新たな冒険者パーティーが生まれた。後日【渡り鳥】と名付けたこのパーティーは、のちに世界の命運をかけた大きな戦いの中で伝説として語り継がれるほどの功績を残すことになるのだが、この時の私達はそんなことなど想像さえしていなかった。




 
 
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