THIRD ROVER 【サードローバー】オッサンのVRMMOは異世界にログインする

ケーサク

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焦り

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 左手にショットガン型の銃【ブルーム】を握りしめ、頭にはマロフィノがしがみつき、北東に走り出して10分、私の人生においてこれほど長い10分は経験したことがないほど果てしない時間を浪費してしまったような気がしていた。激しく打ち付ける心臓にほだされるように私の脚はどんどん加速していく。
 
「フィン!」

 目の前に、棍棒を右手に持ち体には腰ミノを巻いただけの緑肌の半裸の生物が見えた。マロフィノの声に反応してこちらを見るより早く、引き金を引く。爆音を立て発射された銃弾が頭を吹き飛ばす。
 マップを開くと、進行方向の端の方に村のような物が映り出した。
 盗賊スキル【索敵】一気にマップが赤で埋め尽くされ、そしてすぐに、これは失敗だったと気づく。想像した以上の魔獣の多さに、スキルの効果が切れるまで人がどこにいるか見つけづらい状態になってしまった。

 「マロフィノ!頼む!俺、焦って馬鹿になってる、リアスさんを見つけれるか」
「フィン!フィンフィン!!」

 俺に任せろと言わんばかりに高らかに吠える。頼むぞマロフィノ。
 走りながらリアスさんが私に気づいてくれればと思い、私は息を大きく吸い込み今までの人生で一番の大声を出す。

「リーーーーーッ!アーーーーーーッ!!スさーーーーーーーんっ!!!」

 マップ上をもぞもぞと、赤い点滅の大軍がこちらに向かってくる。

「蹴散らすぞ!」
「フィン!!」

 うごめく緑の集団を視界にとらえるやいなや銃に込められた全弾を撃ちつくし、武器スキル【ブルーム】銃口より放たれた衝撃波が前方のマップの赤い点滅の集団の真ん中を凹ませるも、すぐに元に戻る。

「リアスさん!!!」

 私はなおも叫び続けるが返答はない。
その後まもなく、緑の軍勢の先鋒隊と手が届く距離になる。
  装備お気に入り1、オロチの角の刀と牙の小太刀が現れ二振りの剣の二本の軌跡が二匹のゴブリンを真っ二つにする。
 スキンヘッドのできものだらけの鷲鼻、目の前にすると身長150程度しかなく、レベルも10程度、だが200はいるんじゃないだろかというほど物凄い数だ。

「道を開けろぉぉぉ!!」

 剣スキル奥義【龍剣】纏った衝撃波は大地をかける龍の如くゴブリンどもをなぎ倒し、大軍を中央突破したが、左右に残った敵に後ろから追われる形になる。武術スキル【威嚇】なぜかいつも以上に効果的で大軍の動きが止まる。

「フィンフィン!」

 マロフィノが右手に何かを見つけたと騒ぐ、村の外周を覆う木柵に寄りかかり座り込む人を3匹のゴブリンが棍棒で殴り続けていた。私は一切の躊躇ちゅうちょもせず、3匹を後ろからバラバラに斬りつけ砂煙に変えた。

「大丈夫か」

 顔は人相が分からないほど腫れ上がってはいるが、リアスさんではないのは確かだ。ボロボロの鎧はもはや原型は留めておらず、肌が露出し全身があざだらけではあるがかろうじて息はあるようだ。このまま捨てて置きたいが、さすがにそういうわけにはいかないだろう。【ヒール】腫れが引き男はなんとか起き上がった。

「リアスさんをリアス・アーバンを知らないか?」

 丘の上にある雑木林を指差し、私が走り出そうすると武器もないのに置いていかないでくれと、足にしがみついてきたので軽くブチ切れそうになったが赤ミスリルの剣とポーションを投げつけて走り出した。ごねたら殺してしまうところだったが納得してくれてよかった。
 装備お気に入り2、私は振り返り後ろから追ってくる軍勢に武器スキル【ブルーム】を2発お見舞いしてから丘の上を目指して走り出す。前方の茂みの奥から5匹のゴブリンが飛び出して、私の行く手を塞いだ。そのうち1匹の装備が剣に盾に……どうでもいいわ!【飛剣】【四四連】8発の衝撃波で粉砕して、魔法薬を一本飲む。

「リアスさん!!」
「フィン!」

 丘を登りきり雑木林の前で私達が叫び現れたのは、ゴブリン。斬り捨ててまたゴブリン、またゴブリンゴブリン、またゴブリン……ゴブリン、ゴブゴブゴブゴブゴゴゴゴゴ……。
 
「はー……はー……リアスさん」

 雑木林の中をリアスさんの名を叫び走りながら、次から次へと沸いてくるゴブリンを斬り捨て、一向に返事のないリアスさんを探す。時間が経てば経つほど私は焦り気が狂いそうになる。

「フィン!フィンフィン!」

 HPはほとんど減ってはいないが肩で息をし始めた私の頭の上で、マロフィノが左前方に何かを見つける。

「きゃーーっ!!誰か!!」

 女性の叫び声だ。

「リアスさん!!」

 目の前にはゴブリンより一回り以上大きく、赤茶色の肌を全身鎧で覆ったゴブリンロードが下半身を剥き出しにしてこちらに振り向いた。
 【剣破】【断破】左の一撃が鎧を切り裂き、右の追撃がゴブリンロードの体を真っ二つにする。
 砂煙の奥で震えていたのは、見覚えのない獣人の女性だった。外傷はほとんどないが衣服が乱れている、ポーションとアイテムボックスにあった火鼠のローブを与えリアスの所在を聞くと、数は分からないがゴブリンどもに追われ林の奥に逃げたらしい。牙の小太刀を渡し丘の下の男性と合流するように指示して走り出す。
 マロフィノも焦っているのか、しがみつく指先は爪を立てている。去り際にさっきの獣人の女性に言われたことがさらに私を焦らせる。

「ゴブリンはエルフの若い女の子に物凄く発情するから、命があったとしても、もしかして……その」

 クソが!だったらなんでゴブリン討伐にリアスさんを誘ったんだ!私は奥歯が砕け散りそうなほど歯を食いしばりながらリアスさんの足跡を探す。

「何かないかマロフィノ?」

 マロフィノに反応はない、マップにも赤点滅がまばらにあるだけで黒い点はまだ映らない。



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