虹のむこうに

Basco

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虹の向こうに

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上手く書けるかわからない。筆が重い。何が書きたいとか、そんなこともわからず、でも何かを書かなければいけない気がした。

昨日、神保町へ行った。最後に行ったのは、八年ほど前、大学の講義用の資料を買いに古書店にいったきりである。
久しぶりの本の街は、先の疫病の流布のせいか、書店の数は減り、代わりに小洒落た飲食店が増えていた。

秋葉原で降り、西の方にあるとの情報を頼りに歩みを進めた。小さな西遊記である。
万世橋を渡るとき、巷で有名な橋桁の下にある、どうすれば辿り着けるのかわからない場所を見かけた。5分ほど見た。分からなかった、どうやっていくのか。私の心はそこにあるようだった。写真だけぱしゃりととって、歩みを進める。

しかし、はて、困ったことになぜか神田に着いた。神田は確か、秋葉原の南だ。なんだ私は、方向感覚も狂ってしまったのかと思った。神田駅を見た途端、交差点を右に曲がった。まぁ、これで西には向いたな。そう思った。

歩いていると、住友のビルがあった。オフィスとカジュアルの混ざった、いかにもと言ったものである。小さな公園が併設されていて、そこに、目を引くオブジェがあった。白いワイヤーでできた、白サイである。いや、厳密にはただのサイだ、表皮があるわけではないから。
でも、向こう側まで透けて見えるその躰に、絶滅の危機に瀕しているというメッセージを感じた。
気になったのでこのビルをまた右に曲がった。間違いじゃなければ、北に進んでるはずだ。

3本くらい通りを越えると、人の流れがあったので、逆流してみた。ジャケットも羽織らず、息を切らして、作業服の入ったトートバッグを持つ私は奇怪なのか、サラリーマン達とよく目があった。
その通り沿いに、いいパスタ屋を見つけた。雰囲気がいい。だが、「あなたは本当に美味しいパスタを食べたことがあるか?」と書いてある看板は、よしたほうがいい。
味覚は人それぞれ、他にも美味いパスタはある。まぁ、もっと粋なことを言うなら、誰が作ったか、どんな思いで作ったかの方が私にとっては大事だなと思いながら、腹減る胃の音と戦った。

大通りに出ると、この先お茶の水という看板が出てくる。お茶の水といえば、お茶の水女子大だ。それに、確か明治大学もあったはずと思って上を見上げると、確かにあった。
今の学生がどうかは知りもしないが、学びの街に古書店街はあるだろう、いや、あってほしい。そう思って、自分の方向を確かめた。

看板の掲げてある所に行くと、靖国通りであった。間違いなさそうだ。さらに西へ...。
そう思って左を向くと、目当ての古書店があった。いつも、探し物というのは突然現れるものだ。物も人もそう。

道沿いにひろげられたワゴンに積まれた古本の中から、私の答えを探し出す。答え...とは、私の今の、心の中にある疑問に対する答えである。
3冊のうち一つは三島由紀夫だったか、あと2冊は面目無い、知らない作家であった。


今、そのうちの1冊、一番分厚いのを読んでいる。その項をめくるたび、その艶やかさが、君の頬に触れたようで、また胸が苦しくなった。
昨日、神保町から水道橋まで歩きながら思ったことは、君はどこにいるんだろうということ。神奈川だって?そんなことは知っている。心の場所だよ、君自身がいる場所のこと。
三田線に揺られ、芝公園に着き、君と会うはずの東京タワーに向けて足を運んだ。
芝公園など初めて入ったので、迷いに迷った挙句、高台の芝の広場まできた。タワーが真っ正面に、この薄暗い都会のなかで虹色のように煌然と輝いていた。また、ぱしゃりと写真を撮って君に送る。

送信した瞬間に、先の自問に対する答えは出た。君がいる場所は遥か遠く、虹の向こう側。遠い遠い、向こう側だね。

僕の小さな西遊記は、これでお終い。





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