悪役令嬢に転生したので落ちこぼれ攻略キャラを育てるつもりが逆に攻略されているのかもしれない

亜瑠真白

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思い出のこの場所で

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「エマ、怪我はない?」
 後ろを振り向く。
「ルイス、ありがとう……」
 私はルイスの腕の中にいた。ルイスの服は汚れてしまって、顔にも土がついている。私は顔についた土をぬぐった。
「こんな無茶して……」
「先に無茶したのはエマでしょ。そういうところもエマのいいところだけど、僕が助けられる時だけにしてね」
「ごめん……」
「僕は大丈夫だよ。男の子だからね」
 そう言って胸を張ってみせた。その様子がわざとらしくて、思わず吹き出した。
「ふっ……ふふ」
「その様子なら大丈夫かな。ただね……」
「うん?」
 ルイスが見上げるから、私もつられて上を見た。目の前には斜面が高くそびえ立っていて、元々歩いていた道もどこか分からないほどだ。かなり下まで落ちてきてしまったらしい。
「地図もないし、むやみに歩き回らないほうがいいと思う。リアナ達が先生にこのことを伝えてくれるはずだから、僕達はここで待っていよう」
「うん、分かった」
 その時、水滴が顔に触れた。見上げると、ぽつぽつと顔や肩を濡らす。
「エマ! あっちに洞窟みたいな場所があるからそこに避難しよう!」
「うん!」

 洞窟に入って岩に腰を下ろす。外を見ると雨の勢いは強くなっていた。
「雨宿りできる場所があってよかったね」
 隣に座ったルイスが言う。
「そうだね。雨、いつ止むかな……」
 こんな雨じゃリアナ達も歩きにくいだろうし、しばらく助けは来ないと思う。何か私達に出来ることは……
「そうだ! ルイスの転移魔法を使えばリアナ達と合流できるんじゃない!?」
「ごめん。僕の転移魔法はまだ未熟で、前にエマを転移させたあの場所にしか行けないんだ」
「そうなんだ……」
「それにあの場所は僕の想像世界みたいな感じで、実際にある場所じゃないみたいなんだ。だからいつ転移しても青空の草原で、どこまで歩いて行っても同じ景色が続いているだけ。時間の経過も現実世界に比べてかなりゆっくりなんだ。役に立てそうになくてごめんね」
「ううん。私も何か役に立つような魔法を覚えておけばよかったなぁ……」
 洞窟に雨の音だけが響く。時間が経つほどさらに強くなっているみたいだ。私達はたまたま雨宿りできる場所があったからよかったけど、外にいたら全身びしょ濡れになってしまう。
「リアナやレイは大丈夫かな……」
 ジキウスは頑丈そうだから心配ないだろうけど。
 ルイスは私の顔を覗き込んだ。
「エマはそんなにレイ君のことが心配?」
「え?」
「エマは昨日から彼のことばっかりだよ。気づいてなかった?」
「あ、うん……」
 そんなつもりはなかったけど、そう見えたのかな。ルイスは洞窟の外の方を向いた。
「じゃあ僕がどれだけ彼に嫉妬してたかも気づいてないのかな」
「え……?」
「エマの言うことに従うなんて前に言ったけど、自分の気持ちはどうすることもできないよ。あんな風に無邪気にエマと話す彼が、羨ましいしズルいと思った。こんな感情をエマに気づかれたくなくて必死に隠して余裕ぶっていたけど、もう限界。ねえ、エマ」
 そう言ってルイスは苦しそうな顔で私を見つめた。
「会ったばかりの頃、エマは僕のことを『真面目で優等生』だって言ってたよね。でも本当の僕は、嫉妬するし、エマの照れてる顔が見たくて意地悪しちゃうし、全然優等生なんかじゃない。こんな僕じゃ、エマの思ってる『ルイス・コーネル』じゃないよね……?」
 私はルイスを抱きしめた。
「そんなことないよ。優しいところも、ちょっと大人っぽくてドキドキさせられるところも、どっちも私にとって大切なルイスの一部だよ」
「エマ……」
 気づけば雨は上がって、洞窟の外から明るい日差しが入ってきている。私は立ち上がってルイスに手を伸ばした。
「行こう!」

 洞窟の外に出ると外はすっかりいい天気になっていた。日差しに目を細める。
「エマ、見て!」
 ルイスが指さす方に顔を向けると、そこには赤やオレンジ色の花畑が広がっていた。
「ここ……」
 私はこの景色を知っている。いや、正確に言えばこの背景を見たことがある。
 この場所は「まほぷり1」でルイスが主人公に告白するシーンのスチルとよく似ている。前世ではルイスに告白してもらったから、今度は私に言わせて。
「ルイス」
「なに?」
 君にこの言葉を直接伝えられるなんて、私はどれだけ幸せ者なんだろう。
「ずっと前からルイスのことが大好きです。私と付き合ってください」
 前世で出会ったルイスもこの世界で出会ったルイスも大好きだから、私の手で必ず幸せにしてみせる。誰にも、私自身にだって文句は言わせない。
 ルイスは初め驚いたように目を丸くしていたけど、柔らかい笑顔を浮かべた。
「僕の方が先に好きだったと思うけどね」
「そこは譲れないよ」
 ルイスは私の手を握った。
「エマ、ありがとう。幸せになろうね」
「うん」
 今のこの気持ちを私は一生忘れないと思った。
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