悪役令嬢に転生したので落ちこぼれ攻略キャラを育てるつもりが逆に攻略されているのかもしれない

亜瑠真白

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心の音色(リアナ視点) 後編

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 翌日、自分のヴァリンを持っていつもの川辺へ向かった。彼はまだ来ていない。
 岩に腰掛けて川の流れを眺める。ずっと不思議だった。最近の自分の行動に理解が追い付いていない。面倒くさがりな性格で、自分から積極的に誰かと関係を持とうとすることはほとんどない。エマやルイスと仲良くなれたのは、エマが私を引っ張ってくれたから。それなのに今、私は彼に会うためにここへ来ている。昨日も、その前も。
「あれ、今日は早いんだな」
 後ろから声が掛かって振り向く。
「うん。習い事、さぼってきたから」
 先生には「しばらく習い事の時間を抜け出したい。話を合わせてほしい」と伝えた。断られるかと思ったけど、先生は私の話に協力してくれた。今は習い事の時間が終わるまで、いつもの部屋で紅茶を飲んでいる。
 私の言葉に彼は驚いているみたいだった。
「え、サボるって……くっ、あはは! あんた、思ってたより大胆なんだな」
 おかしそうに笑う彼を見て、また胸がふわふわする。これは、一体何だろう。
「それで、教えるって言っても何か目標はあるのか? 大会で賞を取りたいとか、誰かに聴かせたいとか」
「お父さんに聴いてもらいたい。私がヴァリンを演奏するのはお父さんの望みだから。ヴァリンの音を通して、私の気持ちを全部伝えたい」
 「ここまで弾けるようになった」も、「自分の音が好きになれなくて苦しかった」も、全部音に乗せて伝えたい。
「分かった。そんじゃ、始めっか」
 彼の言葉を合図に、私達はヴァリンを構える。
 私の音はまだ未熟だけど、二人で音を合わせるのは気持ちがよかった。
 彼との練習は数日続いた。

 いつもの習い事の時間、私はお父さんの書斎へ向かった。中に入ると、本を読んでいたお父さんが顔を上げる。
「お父さん。今日は聞いてほしいことがあるの」
「どうしたんだ」
「聴いていて」
 そして、手にしていたヴァリンを構える。私の気持ちは全部音に乗せるから。私のヴァリンは優しい音を奏でた。
 一曲弾き終えると、お父さんは少し寂しそうに微笑んだ。
「リアナ……こんなに上手になっていたんだな。美しくて、優しい音だ」
「私はお父さんの望みに応えたくて、今までヴァリンを練習してきた。自分の出す音が好きになれなくて、ずっと苦しかった。でも最近きっかけがあって、やっと自分の音を好きになれるようになってきたの。それでお父さんに聴いてもらうためにヴァリンを練習してて、気づいた」
 私はお父さんの手に自分の手を乗せた。お父さんが本当に私に求めていたのは、誰もが感動するようなヴァリンの音色なんかじゃない。
「お父さん、私はもう大丈夫だから。守ってもらわなくても、自分の足で立って歩いていける。安心して」
「リアナ……」
 お父さんが目指すべき未来図を示してくれなくても、私は自分で未来を選択して進んで行ける。その言葉を本当は一番欲しかったんじゃないかって、ヴァリンを練習して自分の心と向き合うことで気づいた。
「私はヴァリンの習い事をやめる。ヴァリンは趣味でいい。それよりももっと、これからの自分の人生にとって大切な人達と時間を過ごしたい。わがままな娘でごめんね」
「いや……いいんだ。リアナの気持ちを今までで一番聞けた気がするよ。話してくれてありがとう」
「こちらこそ、今までずっと守ってくれてありがとう」

 お父さんとの話し合いが終わって、私はあの場所へ向かった。足が勝手に走り出す。足音で気づいたのか、岩に座っていた彼が振り向く。
「ふっ……走ってきたのかよ」
 そう言って彼が笑う。
「それで、どうだった?」
「大成功」
「そうか。それはよかったな」
 私は彼の隣の岩に飛び乗った。彼は驚いたように私を見上げる。
「聴いて。今度はあなたのために弾くから」
 ヴァリンを構える。
 いつもあなたに会うのが楽しみだった。会って、あなたのヴァリンの音色を聴きたい。あなたの声が聞きたい。あなたの笑う顔が見たい。おかしいでしょう? こんなに誰かのことを求めるなんて今までなかった。
 ねえ……もしかして、これが恋なの?
 弾き終わると、私を見上げる彼と目が合う。顔が熱くて、鼓動も早い。いろんな感情が押し寄せてきて、上手く言葉にならない。
「なぁ……」
 彼が口を開く。その続きを聞くのが怖いと思った。
「こんな音聴かされたら、俺ももう我慢できないんだけど」
 そう言って彼は立ち上がった。私が岩から降りると、目線が近くなる。彼は私の目を見て言った。
「好きだ」
 その言葉に心臓が跳ねる。
 どうしよう。あなたへの想いは音に込めたから、私はこれ以上何を言えばいいんだろう。
 ……ああ、分かった。
「私も、愛してる」
 私の言葉に彼の顔は少し赤くなった。そして顔を逸らす。
「愛してるって……あんたはいつもそうやって簡単に飛び越えてくるよな」
 彼を見ていると胸がふわふわする。このむず痒い心地も悪くない。
「ふふっ……可愛いひと」
 彼と出会って生まれたこの鮮やかな音色が、この先もずっと私の心を豊かに彩ってくれるといい。
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