世界防衛クラブ

亜瑠真白

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初めてのチーム

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「ここに座って」
 促された椅子に座ると立っている朔の目線と近くなった。
「まずはマナンについてだな。マナンが最初に現れたのは約三年前。どこから出現しているのかはうちの研究チームが調べているがまだ分からないらしい。マナンが水分とタンパク質を主成分とした非生物っていうことは前に話したよな。そしてマナンには必ず朱色の球体があることが確認されている。コアと呼ばれるそれはタンパク質同士の構造の起点となっていて、破壊することで構造を保てなくなりマナン自体が崩壊する。ここまではいいな」
「うん」
 なんとなくは。
「そこでマナンが世界の滅亡とどう関係するかという話だ。マナンは、人の弱さにつけこんで暴走を誘導するんだ」
 全身に悪寒が走った。
「具体的には心に不満や後悔を抱えた人を認識して融合する。そして脳に直接作用して不満や後悔を増大させ、『すべてはこの世界のせいだ。自分が世界を滅ぼさなければならない』という気持ちにさせるらしい。そうなった人間は実際に破壊行動を始める」
「その……破壊行動っていうのは?」
 恐る恐る質問してみる。
「まあ、心の弱さの程度によるけど、町レベルの強盗、傷害、器物損壊から国家を揺るがすようなものまで様々だ」
 その話を聞いて一つの事件を思い出した。
「もしかして、三年くらい前の警視庁爆破事件もマナンが関係してたり……?」
「……よく覚えているな。DAMが動いたおかげで爆破は未遂に終わったけどな」
「そうだったんだ……」
 その事件は当時かなり報道されていたので覚えていた。
「そんな危険性の高いマナンに対抗するためにつくられたのがこのDAMだ。多くの人にマナンは見えないんだが、現在DAMのトップである神谷蘭を中心として当時からマナンを認識できた数人で創設したらしい。DAMは主に三つの部門で構成されている。一つ目は僕が所属する指令部だ。ここはマナンとの戦いで戦闘員が存分に力を発揮できるように指揮を執ることが主な任務だ。二つ目は戦闘員としてコアの破壊以外の任務をこなす執行部。そして三つ目はいまだ謎の多いマナンについて調べる研究部だ。」
「なるほど……」
 一度に流れ込む膨大な情報を理解しようと必死にかみ砕く。

「そして一つ重要なことがある。それは、マナンを生み出している人物が日本にいるかもしれないということだ。」
 そんな……
「マナンの発生が日本に限定されていることからそう仮説立てられている。また、この三年でマナンの構造が精巧になってきていることから、地球外からの出現ではなく人の手によって作り出されているのではないかと考えられている。そういうこともあって、犯人に情報を渡さないようにマナンやDAMの存在は秘密にされている。それにマナンが見えない人にとっては、『目に見えない物体に自分が操作される可能性がある』なんて知ったら混乱を招いてしまうからな」
 確かに、大騒ぎになってしまうのは明らかだ。
「到着しました」
 突然知らない女の子が現れた。
「うわぁ! もう、びっくりした……」
 ここの関係者はみんな突然現れるのか……

 女の子は私と同じくらいの年だろうか、黒いセーラー服を着ている。髪はショートで肌は色白。明らかな美形。
 黙っていれば美形の朔と並ぶ姿は絵になるなぁと素直に思った。
 朔はその女の子に声をかける。
「つるぎ、休みなのに呼び出して悪かったな。」
「いえ、朔……大月一等指令官の命令ですから。」
 今、名前で呼んだよね。二人は何か特別な関係なのか……?
「真希、紹介するよ。こちらは二等執行官の武藤つるぎだ」
「初めまして、武藤つるぎです。よろしくお願いいたします」
 そう言ってつるぎはお辞儀した。やけに礼儀正しい子だな。
 でも、せっかく同い年くらいの子だし仲良くしたいから、ここはフレンドリーな感じでいってみようかな。
「私は南條真希! 私たち同い年くらいだしそんなに堅苦しくなくていいよ。よろしくね、つるぎちゃん!」
「あなたのことは存じ上げています。私のことはつるぎで結構です。あと、私はあなたより一つ年上です」
「そうですか……」
 これだけ冷たくあしらわれるともはや笑えてくるわ……
「朔とつるぎは似ているね……」
 つれないところが。
「そ、そうでしょうか……!」
 両手を頬にあてて顔を赤らめるつるぎ。
 いやなんでそこで照れる!? というか可愛いな! おい!
「やっとチームがそろったな」
 朔が珍しく嬉しそうだ。ところで、
「チームって?」
「ああ、真希にはまだ説明していなかったな。マナンとの戦闘においてDAMでは三人のチームで動くことになっているんだ。指令官と執行官とガーディアンで一つのチームだ。」
 ん? 朔は一等指令官でつるぎは二等執行官って言ってたから……
「私は、ガーディアン……?」
「そうだ。ガーディアンの最大の任務はマナンのコアを破壊することだ。コアの破壊はどれだけ鍛錬しても僕やつるぎにはできない。選ばれし『ガーディアン』にしかできないんだ」
 朔の言葉には強い思いが乗っているように感じた。
「うん。私にできることを全力でやってみるよ」
 ガーディアン。守護者か。格好いい響きだ。
 その時つるぎから強い視線を感じた。
『ヴーヴー』
 DAM本部にサイレンが鳴り響き、赤いランプが点灯した。
「マナン出現のサイレンだ」
 朔は近くにあったマイク(暗くて気が付かなかった)を手に取った。
『大月班、マナン出現地点に向かいます』
 朔の言葉が本部に響く。
「さあ、僕らの初仕事だ!」
 またあれと戦うのか。不安か興奮か、鼓動が高まった。

 例の出入り口を通ってデパートの外まで出た。そして外側を回って従業員入り口の近くに行くと、黒いワンボックスカーが止められていた。
「大月一等指令官、こちらです」
 運転席に乗っていた人が降りて、朔に声をかけた。
 私たち三人はその車に乗り込み、マナン出現地点に向けて出発した。
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